桜散る頃-紅櫻花- 

 

 月と桜の理 2

 

 

キィン

キィィン・・・・

 

激しく刃物のぶつかり合う音が木霊する

木々もそれに呼応するかの様にザワザワとざわめきだす

にわかに風が吹き抜けていった

 

 

キィン・・・

 

 

鳴り止まない音が辺り一面に響き渡る

 

周りにいた兵達は唖然としながらその光景を眺めていた

その視線の中心にいるのは2人の青年

 

刹那、青年の1人が持っていた槍を逆に持ち直したかと思うと、そのまま斜め下から一気にもう1人の青年の手を打ち上げ

 

「はぁぁ・・・っ!!」

 

「ぅわっ・・・!?」

 

 

 

ガキィィ・・・・・ン

 

 

 

 

一本の槍が宙を舞う

勢いよく回転したかと思うと、そのまま打ち上げた青年の後ろの方に音をたてて突き刺さった

 

「・・・・ってぇ」

 

そう言いながら打ち上げられた反動で尻を着いてしまった青年が痛そうに手首をぶらぶらとさせる

そして、自分の目の前に立っている青い鎧の青年を睨み付け

 

「趙~~雲・・・おまえなぁ~~」

 

趙雲と呼ばれた青年は はっ と我に返り

 

「すまん馬超!! つい・・・っ」

 

そう言いながら、慌てて自分の目の前に尻を着けている青年に駆け寄った

そして、すまなさそうに手を差し伸べる

馬超と呼ばれた派手な顔をした青年は一度ため息を付き、照れたように頭をかきながらその手を取った

 

趙雲によって打ち上げられてしまった自分の愛用の槍を引っこ抜き趙雲の方に向き直る

趙雲は少し申し訳なさそうな顔をしたまま馬超が槍を拾う姿を見ていた

馬超は はぁ・・・ と少し重いため息を付き

 

「なんだ?何かあったのか? 今日はお前らしくない戦い方だったぞ?」

 

「・・・・すまん」

 

趙雲がぽつりとつぶやく

 

確かに普段の趙雲ならこんな無理な戦い方はしなかった

本当の戦場ならいざ知らず、ここは蜀・成都の城の一角にある鍛錬所だ

今は鍛錬の真っ最中で、兵達の模範として馬超と打ち合っていたのだ

 

「本当にすまなかった」

 

再び趙雲が謝る

 

「だ ――――っ!! 謝んなって!! アレは俺が油断しただけなんだからよ」

 

謝られるのが苦手なせいか

それを隠すかの様に馬超は頭をがしがしと掻いた

 

 

取り合えず、このままでは兵達の鍛錬の邪魔になると判断したのか

馬超は側にいた兵に指示し、趙雲を引き連れてその場を後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、さっさと行けよ」

 

鍛錬所から出た後、いきなり馬超に背中を押され趙雲は一瞬たじろぎを見せた

彼が自分に何をさせたいかがよく分からず、躊躇してしまう

 

馬超はため息を付き

 

「お前なぁ・・・早く屋敷に戻りたいんじゃないのか? だからあんな先を急ぐような戦い方したんだろ?」

 

“いいからさっさと行け”と言わんばかりに馬超は手をひらひらさせる

図星を指されたかの様に趙雲の表情が変わったのが分かった

だがそれは一瞬の出来事で、すぐにその表情は元に戻ってしまった

 

趙雲は少しバツが悪そうに目線をそらし

 

「いや・・・別にそういうわけでは・・・・・・」

 

「いいって いいって 気にすんな!!」

 

そう言いながら馬超は趙雲の背中をばしっ と叩いた

 

「しかし・・・まだ執務が終わって・・・・・・」

 

「気にすんなって言ってんだろうが!!」

 

今度は趙雲が言い終わらない内に、馬超は彼の頭をがしっ と掴む

 

「馬・・・・・・」

 

一瞬自分が何をされたのかワケが分からず、問いただそうとするがそれは叶わなかった

馬超は何かを悟ったかの様にうんうんと頷きながら

 

「あれだろ? 例の姫さんの事が気になって気になって仕方ないって事だろ?」

 

「馬ちょ・・・」

 

「まぁソレは分かる。 はっきりと顔を見たわけじゃないから何だけど・・・アレはかなりの美人だろうしなぁ~~」

 

「馬超」

 

「しっかし、あン時は驚いたよなぁ~~ まさかあの趙雲が戦の真っ只中に女を陣営に連れてくるんだもんなぁ」

 

「馬超!」

 

「雨が降り出しても帰ってこないと皆心配してた所に突然現れたと思たら、あんな美人抱きかかえて帰ってくるしよ」

 

「馬超 !!」

 

 

趙雲が一生懸命何かを訴えようとするも、馬超には通じていなかった

それ所か、まったく聞く耳すら持っていない

にやにやと笑いながら頭を押え付けていた手をさらにぐりぐりとやる

 

そうなのだ

あの日、魏軍と交戦中に伝令を受け、味方陣営に戻っていた矢先に見つけてしまった一人の少女

森の中に1人倒れ込んでいて、こっちが声を掛けても ぴくり とも動かなかった

最初は死んでしまっているのかとも思ったか、生きていた事に安堵した事を今でも覚えている

雨も降っていたし、場所も場所だっただけにそこに置いておくわけにも行かず、味方陣営に連れ帰ったのだ

 

正直な所、一瞬だが迷ったのは事実だった

自分の屋敷ならいざ知らず

敵か味方かも分からない者を殿の居られる我が陣に連れて行って良いものなのか・・・・と

 

だが、それ以前にその少女の事が心配だった

おそらく長時間この雨にうたれていたのだろう

唇は変色していて顔も真っ青だった

抱き上げた時に気づいたが、身体もにわかに震えていた

 

だから連れ帰ったのだ

たとえ敵だったとしても放っておける状態ではなかった

 

そう

本当はこっそり自分の天幕に連れていって、後で諸葛亮殿にでも報告するつもりだったのだ

が・・それは叶わなかった

 

 

少女を抱えていた自分を見つけるや否や

 

「あの、趙雲が女を・・・・・!?」

 

「まさか・・・将軍が・・・・!?」

 

などと陣内中大騒ぎ

特に張飛殿と馬超などは面白がってからかってきて

殿にいたっては

 

「ようやく趙雲にも・・・・」

 

と嬉しそうに顔を綻ばす始末だ

 

何となく騒ぎになる事が予測できたので事を穏便に運びたかったのだ

それに、騒げば少女の体調にも良くは無いとも思った

 

だが世の中そうそう上手くはいかないものなのだ

 

取り合えず、その場は諸葛亮殿に事情を話して収まったものの・・・・

 

 

 

 

はぁ・・・・・

 

趙雲は大きくため息を付いた

馬超のほうは相変わらずにやにやと笑っている

 

「で?その後、姫さんとは進展あったのか?」

 

面白がって馬超が聞いてくる

趙雲は再びため息をつき

 

「・・・・自分と彼女は馬超が想像する様な関係じゃないし・・・第一、それは彼女に対して失礼だ」

 

そう言いながら、馬超の手から逃れる

 

「それに・・・・」

 

そこまで言いかけて趙雲は口を閉じた

少し遠くを見るかの様に寂しそうな目線を向けている

 

「何だよ?」

馬超は何を言いたいのか分からず訝しげに趙雲の方を見た

趙雲は一度目を伏せ

 

「・・・・私は、まだ彼女の名前すら知らないんだ・・・・」

 

「はぁ!?」

 

あまりにも意外な言葉に馬超は素っ頓狂な声を上げしまっ

 

おいおい・・・何やってたんだ今まで・・・!?

 

あれから成都に戻ってきて5日は経ってるだろうが!!

 

思わずそう突っ込んでやりたくなったが、馬超は言いかけてその言葉をのんだ

自分の目の前に立っている趙雲に目をやる

 

趙雲は少し辛そうな顔をして立っていた

その姿は、まるで何かを気に掛けているかの様に・・・

 

 

「・・・・お前、まさか ―――・・・・」

 

 

そこまで言って馬超はふと言葉を止めた

 

 

いや・・・でも、もう3日だぞ・・・?

 

趙雲が連れ帰ってからゆうに5日は過ぎている

 

いくら何でも・・・・・

 

だが・・・

 

「・・・・まだ、目覚めないのか・・・・?」

 

「・・・・・・あぁ」

 

趙雲は弱々しく、ぽつりとつぶやいた

 

「・・・・マジか」

 

信じられんと言わんばかりの声を上げ、馬超は自分の手で顔を覆った

 

「あ ――――・・・・・・」

 

バツが悪そうに馬超が声を上げる

それに気づき、趙雲が止めようと口を開きかけたが

それを見越していたかの様に馬超が趙雲の目の前で手を合わせた

 

「悪かった!! 知らぬ事とはいえ、からかったりして!!」

 

「あ・・・・、いや・・・・・・馬超が悪いわけじゃない 事情を説明していなかった私が悪いわけだし・・・・・・」

 

そう言って少しすまなさそうに笑みを浮かべる

だが、それはいつも女官たちが騒いでいる様な笑みではなく

どことなく無理して笑っている という感じだった

 

「で? 現状としてどうなんだよ 侍医には見せたんだろ?」

 

「・・・ああ 熱の方はもう大分引いてるし、身体の方は回復の方向には向かってはいるらしいんだが ―――・・・・・ 」

 

趙雲が少し言葉につまる

 

「その…侍医の話だと、彼女自身が目覚めるのを望んでいないのではないかと ―――・・・・」

 

「望んでいない…?」

 

そう 彼女を看てくれた者はそう言っていた

『彼女が自身が目覚めを拒否しているのではないだろうか』と

『彼女からは”生きたい”という意思が感じられない ―――・・・・』と

確かにそう言ったのだ

 

にわかに趙雲の表情が重苦しくなる

今でも鮮明に蘇る…彼女を見つけた時の光景 ―――・・・・

それは明らかに”普通”とは異なる状態だった

長時間、雨に打たれていたとしても果たしてあそこまで生気を無くし、怯え、虚ろな状態になるものだろうか

まるで、全てが”虚”という魔物に支配されているかのように

それに、彼女が持っていた

 

 

あれ・・は ―――・・・・」

 

 

そこまで言いかけて言葉を濁らせた

一瞬の沈黙

そして、思わず馬超の方を見てしまった

 

「なんだよ?」

 

「……いや なんでもない。」

 

その瞬間、それは殆ど無意識に近かった

まるで、何かを拒絶するかの様に趙雲は思わず目を逸らしてしまった

馬超の表情がにわかに険しくなる

それはほんの一瞬だったが、趙雲の目にははっきりとその姿が見えた

 

あぁ……失敗したな…

 

そう思ったがもう、すでに遅かった

表情は元に戻っているものの、あきらかに馬超の周りには不機嫌オーラがにじみ出ている

 

「俺には言えない事か……?」

 

先ほどとは打って変った馬超の低い声が趙雲の耳に入ってくる

淡々とした話し方に、まるで何かを見透かすかの様に自分を凝視してくる目

そこに、”表情”というものは無かったかもしれない

 

趙雲から大きなため息が漏れる

 

自分は浅はかだ…と

どうして、今、この場で口走ろうとしてしまったのだろうか

何故、彼の方を見てしまったのか……

後悔の念が趙雲を襲った

 

 

「……言えないんだな?」

 

 

もう一度、低く、重い言葉が投げかけられた

趙雲は意を決したかの様に一度目を伏せ

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない」

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ一言

そう言った

 

長い沈黙

 

いや、実際にはほんの一瞬の出来事だったのかもしれない

だが、趙雲には随分長い間そうだった様に感じた

その沈黙を破ったのは馬超の方だった

はぁ~ とため息を付き、大きく背伸びをした

 

「しょうがねぇなぁ~」

 

そう言いながら趙雲の方に向き直る

その表情はいつもと変わらない といった感じだった

いや、そう見えるだけだったのかもしれない

趙雲もそれが分かっているのか、苦笑いになる

だが、馬超はそんな趙雲を気にも留める事無く、笑いながら

 

「よーし。なら、今晩の飯はお前の奢りで決まりな!!」

 

 

 

 

「……は?」

 

あまりにも突然の、しかも突拍子のない馬超からの要求に趙雲はあっけにとられてしまった

どう反応してよいのか分からず、思わず硬直してしまう

今、自分は真面目な話をしていたのではないだろうか…? と誰かに問いたくなる

今一 頭の整理がつかず困惑する趙雲をよそに、馬超は”今夜の飯代が浮いた~”とか、”腹一杯食ってやるか”とか言いながら上機嫌だ

つまりは…『言わない代わりに、食事を奢れ』という事か

趙雲は軽くため息を付き、その顔に笑みを浮かべた

 

「仕方ないな」

 

そうつぶやき、馬超に声をかけ様としたその時だった

 

 

「あ ――――――っ!! 居た居た。探しましたよ2人共 ―――――…って、なにやってるんですか?」

 

いきなり背後から聞こえた少年の声に思わずぴくっと反応する

 

「「姜維……?」」

 

2人がほぼ同時にその名を口にした

姜維と呼ばれた少年は傍にある廊下から手を振っている

そして、来い来い と手招きをしていた

馬超は不服そうな顔をし、「何だよ、お前が来いよな」とぶつくさと言いながら姜維の方に歩いてい

取り合えず、趙雲もその後に続いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?何だよ」

 

最初に口を開いたのは馬超だった

姜維はきょとんとしたかと思うと、じ ―― と馬超を見ている

 

「馬超殿…機嫌悪いんですか?」

 

いきなりサクっと図星をつかれたからか、反射的に馬超の手が姜維の頭にいい音を立てながら落とされる

 

「~~~って!! いきなり、何するんですかぁ!!馬超殿!?」

 

「やかましい!!」

 

頭を抑えつつ、訳も分からず自分に落とされた馬超からの鉄拳制裁に抗議する姜維にさらに追い討ちをかけるかの様に馬超の手刀が落ちた

 

「馬超殿~~っ!!」

 

「早く用件を言え!!」

 

姜維は納得いかない…という風な感じでぶつぶつ言いながら

 

「馬超殿に用はないですよ。 趙雲殿、丞相がお呼びです」

 

「え…?」

 

いきなり自分に話題が振られて一瞬、驚いた表情を見せるが、それはすぐに険しい顔になった

 

「諸葛亮殿が…ですか」

 

にわかに空気が重くなる

その瞬間、姜維が

 

「まったく、鍛錬場に居るって聞いて行ってみたら2人とも居ないし。探したんですよ? ま…何やら騒がしい声が聞こえたからすぐ分かりましたけど…?」

 

さっきの仕返しと言わんばかりに、嫌味たっぷりにそう言いながらちらっと馬超の方を見た

それに気づいたのか、馬超はふんっ といった感じでそっぽを向く

姜維は目で訴えるかの様に、そっぽを向いた馬超を下から覗き込もうとしたが、それを予測していたのか、

お約束のように馬超に小突かれる

 

それを見ていた趙雲は、2人のやりとりが可笑しかったのか、思わず吹き出してしまった

突然聞こえてくる笑い声に驚いたのか、馬超と姜維が趙雲の方を見た

が、当の本人は口を押さえて笑ったまま、”すまない”という仕草をしている

ツボにハマったのか、笑が止まらないらしい

 

2人のやり取りを見ていたら、一つ一つに反応している自分が馬鹿らしく思えてくる

趙雲は落ち着かせる様に、一つ 大きく息を吸った

 

「趙雲殿~!?」

 

姜維が不服そうに趙雲に目で訴える

趙雲はさっきとは打て変わった笑みを浮かべる

何かを振っ切った様なその顔は、いつもの趙雲だった

 

「いや…それはすまなかったな、姜維。分かった。すぐに行こう」

 

そう言いながら、趙雲は軽く手を上げる

突然何かを思い立ったように、あ…! と声を出すと、

 

「そういう訳だ。すまないが”奢り”の話はまた今度な」

 

”何~!?”と不服そうに叫ぶ馬超を見て、趙雲は笑い出す

そして

 

「感謝する。2人とも」

 

そう言うと、諸葛亮の執務室の方へ歩いていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しの間沈黙が流れる

その沈黙を破ったのは馬超だった

 

「…お前、わざとらし過ぎだっつーの。バレバレじゃねぇか」

 

「いいじゃないですか、結果的に良かったんだから」

 

姜維は平然とした顔でそう言った

諸葛亮の話をした途端、険しくなった趙雲の表情…

理由は何となく姜維には分かっていた

そして、趙雲が何故諸葛亮に呼ばれるかも

状況を変えようとちょっと言ってみたものの、趙雲には見破られていたらしい

 

ちらっと馬超の方を見る

そして、は~と大きなため息を付いた

 

「…なんだ、それは」

 

馬超がすごく嫌そうな顔をしながら姜維の方を見る

姜維はまるで馬超を哀れむかのように

 

「いえ…馬超殿ってかわいそうだな~て 思ってね」

 

「は?」

 

「大丈夫ですよ。別に、趙雲殿は馬超殿を信用していないから話してくれなかった訳じゃないと思いますから」

 

さらっと爆弾発言

一瞬、何の話だ…?とも思ったが、次の瞬間、馬超は はっ とした

 

「…ちょっと待て、お前……」

 

いつから聞いていたんだ こいつは……

 

だが、そんな馬超とは裏腹に、姜維はまるで何事も無かったかの様に”そろそろ戻らないといけないので”と言い放って去っていった

馬超は一人取り残され、は ――― とため息をつく

 

 

『趙雲殿は馬超殿を信用していないから話してくれなかった訳じゃないと思いますから』

 

 

姜維が言い放った言葉が脳裏に浮かぶ

そして、ははっ と笑いながら空を見上げた

ゆっくりと雲がただよっていく…暖かな春の日差し

 

 

「分かってるさ 言われなくてもな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピチャ ―――― ン……

 

水の音がする…

 

水滴が葉から落ち、水面に波紋がゆっくりと広がっていく…

そして、そこにあった月がその形を崩していった

ゆらゆらと揺れ、どんどん崩れていく…

まるで、二度と元には戻れないような気がするかの様に ――――――――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですか、では彼女はまだ目を覚ましていない ―――…… と」

 

手に持っていた竹簡を置きながら、その男 ―― 諸葛亮孔明はつぶやいた

そして、扉の傍に立っていた、趙雲に目をやる

趙雲はちいさくうなずいた

諸葛亮は軽くため息を付き

 

「仕方ありませんね もう少し様子を見ましょう。」

 

そう言って、再び竹簡に目を向ける

 

「所で、趙雲。結局の所、馬超には言ったのですか?」

 

「……は?」

 

突然、馬超の話を出され、驚いた趙雲は間の抜けた声を出してしまった

それはつい先刻の話で、今、ここにいる諸葛亮が知るはずのないものだった

それ以前に、どこからそんな話を聞いたのだ…? という疑問ばかりが頭に浮かぶ

それを察したかの様に諸葛亮はふふ と笑い

 

「趙将軍。貴方は……いえ、正確にはあなた方・・・・は目立つ存在なのですから、そろそろ自覚しなければなりませんよ」

 

「は?……はあ…」

 

なんとも意欲の無い返事だ と思いつつも、彼の場合仕方ないですね と納得しつつ、諸葛亮は目を細めた

言われた本人は諸葛亮が言った意味が分からず、困惑した顔をしている

どう対応してよいのか分からない といった感じである

諸葛亮は笑いそうになる口元をこらえ、もう一度趙雲の方に向きな直った

 

「それで?言ったのですか?」

 

「え…? あ、いえ。……私の独断ですが、まだ言わない方が良いかと ―――……」

 

少し、ためらいがちに趙雲はそう答えた

諸葛亮は一度目を伏せ

 

「そうですか。懸命な判断ですね」

 

そう言いながら、ゆっくりと開いていた窓の方を見る

連れて趙雲もそちらの方を見た

心地よい風が部屋の中に流れ込んでくる

 

「…今はまだ時期尚早でしょうからね。 ですが、いずれは話さなければならない時期ときがくるでしょう」

 

「……………」

 

趙雲は何も言わなかった

軽く一礼し、そのまま退出して行く

 

諸葛亮はふ… と少し目を細める

 

おそらく彼自身も分かってはいるのであろう…

いつまでも隠し通せるものではない

それは”いずれ話さなければならない事柄”だという事に ―――……

 

だが、今だけ

 

 

 

 

今しばらく…安息を ――――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続けてUPです

まだ趙雲との絡みがありませんけど(-_-;)

夢主寝ちゃってますからねぇ

起きるのは次回ぐらいかなぁ

 

中々、イイ感じに槍族3人が絡んでくれて私的に良かった(笑)

 

2008/04/11