◆ 誓いの言霊 紡ぐ契歌:11

 

 

そう思っている内に、李潤が茶と毛布を持って戻ってきた

司馬師は、李潤からそれらを受け取ると、毛布を彼女にかぶせ、熱い茶を差し出した

 

「飲め」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

言わんとする事は分かるので、琳琅がその茶を受け取ろうと手を伸ばすが―――

かしゃん・・・・と、杯が彼女の手から落ちる

零れる寸前の所で、司馬師がそれを受け止めた

 

「おい、落とすな」

 

そう注意するが、琳琅は小さく首を振った

 

「ごめん・・・・・・手が悴んで持てそうにない・・・・・・・・・」

 

「それでもいいから、飲め」

 

そう言って、無理矢理彼女の手に持たそうとするが―――

やはり、掴みきれないのか

するっと、手から零れ落ちた

 

司馬師はそれを受け止めると、はぁ・・・・と盛大な溜息を付いた

 

「飲まなければ、いつまで経っても暖まらぬであろうが」

 

「・・・・そんな事、言われても・・・・・・・・」

 

無理なものは無理なのだ

無茶を言わないで欲しい

 

司馬師は、琳琅と茶を見た後

 

「仕方ない」

 

そう言って、ぐいっと杯の中の茶を自身の口に含ませた

 

「・・・・・・・・・・? しげ・・・」

 

「こっちを向け。 口を開けろ」

 

それだけ言うと、突然彼女の腰を引き寄せる

それで、何をされるのか察したのか、琳琅が慌てて身体を離そうとするが・・・・・・

それを許す司馬師では無かった

 

素早く琳琅の顎を掴むと、そのまま上を向かせて自身の唇を重ねた

 

「・・・・・・んっ」

 

突然の、口付けに狼狽する琳琅だったが

抵抗しようにも、寒さで力が入らない

 

それでも、出せる精一杯の力で司馬師を押しのけようとするが

そうする事で、更に腰に回された司馬師の腕の力が強まった

 

そのままなし崩しに、口の中に何かを流し込まれる

 

「んっ・・・・あ・・・・・・・・・」

 

ごくり・・・・・

と、喉を温かい物が通り抜けて行く

 

不意に、司馬師が唇を離した

開放されたと安堵するが、それだけでは収まらなかった

 

司馬師は、再度口の中に茶を含むと、再び琳琅の唇に自身のそれを合わせて茶を流し込んできた

 

「っ・・・・あ・・・・・けほっ、けほっ・・・・・・・・・」

 

無理矢理飲まされているので上手く飲めず、咽る

 

「李潤、淹れろ」

 

司馬師が空になった杯を李潤に差し出す

李潤は言われた通り、その杯の中に茶を淹れた

 

「も、もう、平気・・・だから、いい・・・・・・・・・」

 

琳琅は、慌てて首を振りながら必死に言葉を紡いだ

だが、それであっさり納得する司馬師では無かった

 

「つまらぬ嘘を付くな。 こんなに冷えていて何が“平気”だ」

 

そう言うと、そのまま口の中に茶を含ませると、琳琅を更に引き寄せた

 

「子元・・・・・・っ!」

 

「黙れ」

 

そう言われるのと同時に、また唇を塞がれた

 

「んんっ・・・はっ・・・・・・」

 

喉を、温かい茶が通って行く

 

三杯目を飲みきった所で、やっとそれをするのを止めてくれた

 

司馬師は、空になった杯を机に置くと、ぐいっと琳琅の顎を掴んで自身の方に向けさせた

 

先程よりも、若干頬に赤みが射し、唇の色も少しだが戻っている

 

「先程よりマシか」

 

淡々とそうぼやく司馬師に、琳琅が涙目になりながらじっと司馬師を睨みつけた

 

「酷いよ・・・子元・・・・・・あんな飲ませ方しなくてもいいじゃない・・・・」

 

「何を言っている。 ああしなければ、飲めなかったのだから仕方あるまい。 恨むんだったら、自力で飲めなかった自身を恨むんだな」

 

それを言われてしまったら、ぐうの音も出ない

 

「ああ、李潤。 茶を淹れ終えたら下がっていい。 私も、休憩を入れる」

 

司馬師のその言葉に、李潤が「分かりました」と言って、空いた杯に茶を注いだ後、そのまま退出していく

 

ぱたん・・・・と扉が閉まる音を確認した後、ふとある事に気付いた

 

「おい、髪がほどけ掛かっている」

 

「え?」

 

言われて、琳琅が自身の髪に触れる

触れると、確かに結い紐がほどけ掛かっていた

 

「・・・・だって、子元がさっき頭も抑えるから・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・ああ」

 

先程の口移しの最中に、無意識的に彼女の頭を押さえたらしい

どうやら、それが原因でほどけかかってしまったようだ

 

司馬師は小さく息を吐くと、すっと琳琅の髪に手を伸ばした

触れると、やはりひんやりとしている

 

「結び直してやろう」

 

司馬師からの申し出に、琳琅がぎょっとして慌てて頭を振った

 

「え? い、いいよ! 自分でやるから―――」

 

「自分で? 満足に一人で茶も飲めぬお前がか?」

 

「うっ・・・・そ、それは・・・・・・・・・・」

 

痛い所を付かれて、琳琅が口籠る

 

「大体、お前にやらせたらどれだけ時間が掛かるか分からぬ。 私は、無駄は嫌いだ」

 

反論する余地すら与えず、司馬師はそのまま碧色の結い紐を引っ張った

しゅるっと音がして、結っていた髪がほどける

さらりと零れ落ちた艶やかな黒髪が、司馬師の手を掠めた

 

綺麗な髪だった

結ってしまうのが勿体ないぐらいに―――

 

そっと、ひと房手に取り指を絡ませる

絹糸の様なそれが、さらさらと零れ落ちていく

 

「子元?」

 

いつまでたっても結い始めない司馬師を疑問に思ったのか、琳琅が名を呼んできた

 

「・・・・・・・・・・腹ただしい」

 

ぽつりとそう呟くと、瞬間、司馬師がぐいっと琳琅の髪を引っ張った

 

「痛っ・・・・・! ちょっ・・・・何するのよ!?」

 

突然の仕打ちに抗議の声を上げると、司馬師がすくっと立ち上がった

そして、そのまま普段執務を行っている机の方に歩いて行く

 

「・・・・・・・・・・・・?」

 

琳琅が、意味が分からず首を捻っていると、程なくして、司馬師が何かを持って戻ってきた

 

「どうかしたの?」

 

「何でもない」

 

琳琅の問いに、司馬師がそっけなくそう答えると、ぐいっと後ろを向かされた

そして、手早く髪を結い始める

 

琳琅の髪を手に取ると、そのまま結い紐と絡めて結っていく

程なくして結い終わると、その手を離した

 

「出来たの?」

 

「ああ」

 

流石に、執務室には鏡は置いていないらしく、それを確認する事は出来なかったが、

どうなっているのかを知りたくて、琳琅はそっと自身の髪に触れてみた

不意に、いつもと違う感触に当たる

 

「・・・・・・・・・・・・?」

 

不思議に思い、それをそのまま手繰った

目の前の伸びてきたのは、美しい青色の結い紐

そして、その結い紐の先には白地に金の模様の入った蜻蛉玉が付いていた

 

「え・・・・・・? これ・・・・・・・・・・」

 

それは、今まで琳琅が身に付けていた結い紐とは似て非なる物だった

 

驚いて司馬師を見ると、司馬師は欠片も表情を変えずに茶を飲んでいる

 

「気に入らぬか?」

 

琳琅が、慌てて首を左右に振る

 

「そ、そんな事ないけれど・・・・、でも・・・・・・どうして?」

 

こういう事をされる理由が分からない

 

嫌われる事はあっても、好かれている事は無い筈だ

少なくとも、そう仕向けているのだから・・・・・・・・・・

 

「・・・・・・たまたま、お前の髪に飾る色は、瞳と同じ青色の方がいいと思った時に、たまたまそれが手に入っただけだ。 偶然の産物だな」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

何とも苦しい言い訳だと、司馬師は自分で思った

街に出た時、偶然視界に入り、つい買ってしまったなどとは、死んでも言いたくなかったので、仕方ない

 

ふと、彼女を横目で見ると、琳琅は何やらきらきらした瞳で結い紐をじっと見ていた

 

「・・・・・・気に入ったのか?」

 

そう問うと、琳琅がかぁ・・・・と頬を赤らめた

それから、視線を泳がせて、恥ずかしそうに頷いた

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

予想外の反応に、司馬師も少し驚いた

不覚にも、琳琅が可愛く見えた

 

だが―――悪い気はしない

 

そっと、彼女が握り締めている青い結い紐に触れる

 

「あんまり引っ張ると、またほどけるぞ」

 

言われて気付いたのか、琳琅が慌てて手を離した

その仕草がまた可愛くて、思わず口元に笑みが浮かぶ

 

「気に入ったのなら、やろう」

 

淡く微笑みながらそう言うと、彼女の髪をひと房掬った

 

「え? い、いいの?」

 

琳琅がぱっと顔を上げる

 

元々、彼女へと買った物だ

 

「私が持っていても不要だからな。 お前がそれを気に入ったなら、くれてやる」

 

だが、それは言わない

 

司馬師がそう言うと、琳琅が嬉しそうに顔を綻ばせた

 

「―――嬉しい」

 

その笑顔を見た瞬間、司馬師は驚いた

何故なら、それは“本物”だったからだ

 

最初見た時、“笑わない”女だと思った

だが、よく見るとそれだけでは無かった

彼女の一挙一動すべてが“偽物”だと気付いたのは、いつだったか

司馬師に見せる全て“偽物”だった

 

“本物”の彼女は、“偽物”の影に隠れて、形も見えなかった

だから、苛々した

 

不愉快で仕方なかった

 

だが、この笑顔は違った

いつもの“作った表情”ではなく、

 

今、「嬉しい」と言って顔を綻ばせているこの笑顔は“本物”だった

 

なんだ、笑えるではないか・・・・・・

 

ふと、そんな事を思った

 

それと同時に思った

欲しいな・・・・・・と

 

そんな事は露聊かも知らない琳琅は、嬉しそうに蜻蛉玉に触れながら

 

「私、誰かに何かを貰うの初めて・・・・・・」

 

そう言って、また嬉しそうに微笑んだ

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

正直・・・・・・

この程度で、ここまで喜ばれると困る

 

もっと簪や、髪留など、まともな物を用意すべきだったかと思ってしまう

 

だが、今更返してくれと言う訳にもいかず

司馬師は、小さく溜息を付いた

 

「それで? お前の要件とはなんだ?」

 

早く話を変えたくて、話を切り出した

 

「あ・・・・・・・・・・」

 

その言葉に、琳琅がはっとした様に声を洩らす

瞬間、あの笑顔は消えてしまった

勿体ない気もし方が、こうでもしなければいつまで経っても話が進まないので仕方ない

 

「そうそう、届け物を持って来たの」

 

そう言って、琳琅はごそごそと袖の中を探りだした

 

「あ、こっちじゃない・・・・ええと・・・・・・あ! こっちこっち」

 

そうぼやきながら、袖から一通の書簡を取り出した

 

「はい、これ」

 

「書簡? 誰からだ?」

 

渡された書簡を眺めながら、司馬師はそう問うた

 

「昭からです」

 

「昭だと? 何故、お前が持ってくる? 大体、わざわざ持って来ずとも、邸に戻った時に直接私に言えばよかろう」

 

「あーそれはね、最近は子元が城に詰めがちで、邸に戻って来ても顔を合わせられないからだって。 凄く急ぎって訳じゃないけれど、あまりゆっくりもしていられないって言ってた。 私が持って来たのは、適当な誰かに預けて中身を見られたら困るから。 ちなみに、私は見られても害は無いから問題なしだって」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

その話を聞きながら、司馬師は書簡をざっと読んだ

 

確かに、琳琅が見た所で大した意味は無いだろう

 

「ねぇ? 何が書いてあったの?」

 

「・・・・・・見たのではないのか?」

 

司馬師のその言葉に、心外だと言わんばかりに琳琅が頬を膨らませた

 

「あ! 流石の私だって、他人様宛の書簡を盗み見したりしないわよー。 敵の伝令兵とかならまだしも」

 

似た様なものではないだろうか・・・・・・?

 

「お前には、関係のない事だ」

 

そう答えると、司馬師はその書簡を懐に仕舞った

 

「では、出せ」

 

そう言って、突然司馬師が右手を琳琅の前に差し出した

差し出された当人は、意味が分からなかったのか首を傾げた

 

「えっと・・・・・・何を?」

 

「何を、だと・・・・・・? もう一つの用件・・・・・・・とやらをだ」

 

決まっているだろうという風に右手を突き出され、琳琅はぎくっと顔を強張らせた

 

「な、何を根拠に――——――」

 

「先程、“こっちではない”と言っていた方だ」

 

「ええ!?」

 

的確に指摘され、琳琅が更に顔を引き攣らせた

 

「あ、あ~いや、でも・・・・もう、冷えてしまってるし・・・・・・・・・・」

 

「いいから、早く出せ」

 

有無を言わさぬ威圧感に、琳琅がううう・・・・・と言葉を詰まらせながら、観念したかの様に袖からある包みを取り出した

そして、それを司馬師の手に乗せる

 

「何だ、これは?」

 

「杏仁酥」

 

「杏仁酥・・・・・・だと?」

 

何故、そんな物を持ってこようと思ったのか…

理解に苦しむ

 

「えっと・・・・・今日のお茶に昭と元姫と食べようと思って焼いたの。 で、これが結構上手く焼けたから、子元もどうかなぁと思って・・・・・・」

 

「・・・・・・ほぅ? お前が作ったのか」

 

そう言いながら、包みを開けようとする司馬師の手を、琳琅が慌てて止めに入った

 

「あ~~~~~!! でも、駄目!! もう、廊下で散々冷たくなったし、絶対美味しくないから!!!」

 

止めに入ったが、あっさり司馬師に避けられた

 

「杏仁酥など、冷えても対して味など変わるまい」

 

「変わるよ!! 変わりまくるの!!! だから、食べちゃ駄目!!!」

 

と、必死になって止めに入るが、ことごとく避けられた挙句、司馬師はその包みを開けると、そのまま杏仁酥をつまみ、口に放り込んだ

 

「ああ~~~~、食べちゃ駄目だって言ってるのに・・・・・・・・・・」

 

止め損ねた琳琅が、がく・・・・とうな垂れる

 

「安心しろ、私は今日 何も食しておらぬからな。 今なら何を口にしても食べられる」

 

そう言いながら、もう一つ杏仁酥を口に運んだ

 

「何それ・・・・・全然、嬉しくないんですけど・・・・・・」

 

「・・・・・・まぁ、食えなくはない」

 

というより、むしろ美味い

朝から何も口にしていなかったからか、余計に美味しく感じる

 

そう思いながら、杏仁酥を食べていると・・・・・・

怒った琳琅がきっと睨んで、思いっきり身を乗り出してきた

 

「もー! 怒った!! そういう事しか言えない人にはあげません!! かーえーしーてー!!!!」

 

そう叫んで、思いっきり司馬師に圧し掛かりながら手を伸ばしてきたが

残念な事に、司馬師と琳琅では背に差があり過ぎる

 

勿論、背に差があるという事は、必然的に手の長さも比例しており・・・・・・

 

琳琅が必死に手を伸ばせど、司馬師の持つ杏仁酥の包みには手が届かなかった

悔しそうに必死に手を伸ばす琳琅が、不思議と可愛らしく思えて思わずふっと笑ってしまった

 

笑われた事に気付いた琳琅が、むっとして自分の下敷きになっている司馬師を睨んだ

 

「何が可笑しいのよ! そもそも、子元が無駄に大きいから――——―・・・・っ!」

 

琳琅は、そこまで悪態を付きながら、今の自分の体制にはっと気づき言葉を飲んだ

司馬師の整った顔が直ぐ傍にあった

 

瞬間、何かを思い出したのか、その頬を赤く染めた

 

「ご・・・ご、ごめんなさい・・・・・・!!」

 

そう叫びながら、慌てて飛び退こうとするが―――……

 

「あっ!?」

 

その瞬間、伸びてきた司馬師の腕にぐいっと強く引かれ、そのままよろめく様に覆いかぶさってしまった

気が付けば、呼吸出来ない程に近づいた司馬師の顔が間近にあった

 

「あ、の―――・・・・・・し、げん?」

 

真っ直ぐ視界に入ってくる司馬師の瞳が綺麗で、見惚れてしまった

 

少し切れ長の瞳は、近づいて見ると、思ったよりもずっと睫毛が長い

吸い込まれそうな褐色の瞳に、自分の姿が映っていた

 

不意に、琳琅の腕を掴んでいた司馬師の手が離れた

そして、そのままゆっくりと琳琅の髪に触れる

 

さらりと手で優しく梳かれ、琳琅は思わずびくっと肩を震わせた

その手が、ゆっくりと動き、頬に触れる

 

「あ・・・・・・」

 

驚いて瞳を閉じると、そっと頬を包まれた

そしてそのまま引き寄せられ――――

 

一瞬だけ唇が触れた

 

琳琅は驚いて身体を縮こませた

反射的に、身体を起こそうとすると

 

「逃げるな」

 

それを、司馬師の言葉によって止められた

 

命令された訳でも、脅された訳でもない

でも、身体が動かなかった

 

「嫌でないなら、逃げるな」

 

「・・・・・・・・・・・・っ」

 

その言葉に、頬が熱くなっていく

 

逃げる事も、拒絶する事も断たれて、成す術がなかった

 

卑怯だと

そう思った

 

一度唇を離した司馬師が再び顔を寄せてきた

彼は、そっと琳琅の頬を手で包んだ

 

正直、この時の琳琅は混乱していたのかもしれない

“嫌われる事はあっても、好かれている事は無い“

そう思っているのに、そう仕向けているのに、この状況は何なのだろうか・・・・・・と

 

また、唇が触れた

 

一度目は挑発

二度目は救命

なら、これは……?

 

今までとは違う、もっと別の―――

 

最初は軽くだった

だが、それは次第に深くなっていく

 

「んっ・・・・・・」

 

求められる様な、愛撫の様な口付けに、思わず身体が震えた

 

「あ、の・・・・まっ・・・・・しげっ・・・・・・・・」

 

堪えきれず声を洩らすと、司馬師が琳琅の唇に歯を立てながら囁いた

 

「逃げるな・・・・・・と言った筈だ」

 

確かにそう言われた

言われたが―――

 

「で、も―――・・・・・・・あっ・・・ん・・・・」

 

徐々に深くなっていく口付けに、琳琅が困惑する

司馬師の手が琳琅の後ろ頭に回って、更に引き寄せられた

 

「んっ・・・・・・あ・・・し、げん・・・・・・・・っ」

 

退路も断たれ、逃げ場もない

だが、求められても、応える術を知らない

 

こんな口付けは知らない

 

思わず司馬師の腕を掴むと、まるであやすかの様に彼の手が琳琅のそれを包んだ

 

ひるんだ刹那、口付けが更に深くなる

 

息が苦しい

呼吸すら、どうやってしていたのか思い出せない

それと同時に、今までに感じた事のない何かを揺さぶり起こされる

 

口付けに翻弄され、自分が何の為にここの来たのかという事も意識の外へ追いやられた

身の奥に宿る炎が快楽だと気付く直前、ふっ・・・・と司馬師の力が緩んで重なった唇にわずかな空間が出来た

 

「子元・・・・・・?」

 

呼び掛けが、甘くかすれる

吐息が触れ合う距離で視線を絡めると、司馬師が微かに優しく微笑んだ

 

「今度は、逃げなかったな」

 

そう言われて、反射的に琳琅は顔を赤らめた

困惑した様に、視線を泳がせた後、そのまま目を伏せた

 

「どう、して・・・・・・?」

 

どうして、自分にこんな口付けをしてくるのか―――

 

前の二回とはまるで違う

これではまるで―――・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

その先は、怖くて考えられなかった

否、考えてはいけなかった

 

「どうして―――か」

 

司馬師が身体を起こしながら、そう呟いた

髪をかき上げ、椅子に座り直した

 

「したいから、した。 今は、それ以外は言いようがないな」

 

そして、ゆっくりと琳琅の方を見て

 

「・・・・・・どうやら、私は今、欲しい物があるらしい」

 

「欲しい・・・・もの・・・・・・・・・?」

 

「私は望むものはこの手で必ず手に入れる主義なのだ。 そして、今最も欲しいもの―――それは、極上の“美しい青い宝石”だ。 だが、今その宝石は陰っていて本物が隠れている。 まずはそれを探し出してやらねばならぬ」

 

「・・・・・・それと、今のことと何の関係が・・・?」

 

司馬師の言わんとする事がまったく理解出来なかったのか、琳琅は首を傾げながらそう問うてきた

 

「では、問うが・・・・・・お前は、今何故逃げなかった?」

 

「えっ・・・・・・!?」

 

問いを問いで返されるとは思わす、琳琅が口籠る

しかも、痛い所を指摘され、反論する余地すらない

 

「そ、それは――――・・・・・・」

 

頬を赤く染めながら俯く琳琅を見て、司馬師がくっと喉の奥で笑った

 

「普段のお前なら、“口付けなど減るものでもない”ぐらい言ってそうだがな。 そういう反応を返されると、実はそうは思ってはいないのではないかと疑いたくなる」

 

また、痛い所を突かれて、琳琅がうう・・・と口籠る

 

「あ、頭では理解していても・・・・・、その・・・心は付いて来ないのよ・・・・・・」

 

そんな事をぶつぶつと言いながら、顔を赤くしたままぷいっとそっぽを向いた

 

それでまた気付いた

ああ、これも“本物”なのだ・・・・・・と

 

司馬師は口元に微かな笑みを浮かべた

 

やはり、“欲しい”な

 

 

彼女が―――――琉 琳琅が“欲しい”と

たとえ彼女が、誰の物であろうと関係ない・・・・・・・・・・・・

 

私は、“欲しい”と思ったものは、必ず手に入れる

 

 

 

  ――――――たとえ、それがなんであろうとも――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・流石、中編

展開早いな!おいwww

とか言ってる内に、気が付いたら2桁に超えたやんwww

1話目で「10話越えるか分からないけど…越えても中編な!」

とか、のたまっていたのが事実に……( ;・∀・)

 

 

 

新:2022.02.03

旧:2011.03.15