◆ 黎明の雫 永久の詠吟:4

 

 

 

「ああ、もう!信じられません!!今回ほど、貴方がここまで馬鹿だとは思っていませんでした!!!」

 

陳羣がそう叫びながら、郭嘉の前を右へ左へと行ったり来たりしていた

 

「大体、女性ならもっと他にいたでしょう!!それを何故わざわざ面倒な方にするのです!!」

 

ああ、煩い……

 

郭嘉は、はぁ~~~と大きく溜息を付くと、肘を付いたままぱらりと手元の書物をめくった

至って普通の仕事用の資料なのだが…正直、頭に全く入ってこない

 

「貴方が声を掛ければ、それでこそよりどりみどりなのではないのですか!?いつも、無駄に愛想を振りまいているのですから!!」

 

「……別に、愛想は振りまいてはいないけどなぁ~」

 

美しい女性には、皆平等に接している

彼女達は、それに応えてくれているだけだ

 

「何言ってるんですか!!綺麗な方を見るなり、声を掛けまくっているくせに!!」

 

別に、それはある意味挨拶だ

深い意味など無い

 

それよりも、今は彼女の―――玲琳の事だけが気になる

逆に言えば、彼女以外は欲しくない

 

「なのに貴方ときたら!!よりによってあのお方の想い人に言い寄るなど…っ、なんと恐れ多い事を!!相手を選んでください!相手を!!」

 

「誰の事かな?」

 

ここ最近は、誰にも声を掛けた覚えはない

彼女以外は

 

だが、そんな彼女とですら最早会話どころか、挨拶すらろくに出来てない状況だった

あれで、“言い寄っている”としたら、一声掛けただけで全世界の女性に言い寄った事になる

流石の郭嘉もそこまで節操なしになった覚えは無い

 

だが、陳羣はますますご立腹状態になり、いきなり郭嘉の机をバンッと思いっきり叩いた

 

「すっとぼけないで下さい!!玲琳殿の事ですよ!!!」

 

“玲琳”という名に、郭嘉がぴくりと反応する

 

「貴方が、人目もはばからずに玲琳殿を追い掛けていたと城中の噂ですよ!!ご存じじゃないんですか!!?」

 

「ああ……」

 

あれか……

と、郭嘉はさもどうでも良さそうにそうぼやいた

 

だが、その反応が陳羣の怒りをますますかった

 

「“ああ…”じゃありません!!貴方は状況が分かっていないのですか!?その頭の中は藁ですか!!」

 

なんとも酷い言われ様だ

流石に、“藁”とは言われたのは初めてである

陳羣は、郭嘉に言い聞かす様にビシッと指を立てた

 

「いいですか?玲琳殿と言えば、あの曹丕様の寵愛を一身に受けられていて、いずれ奥方となられるお方なのですよ! つまりは、貴方の未来の上司のご細君になられるのです!! いくら、郭嘉殿好みのお美しい方だからと言って、安易にお声をお掛けして、ましてや言い寄るなどもっての外!!」

 

どうやら、先日 玲琳を追い掛けた時の件が噂になっているらしい

まぁ、確かに あの時は周りなど気にしている余裕も無かったので、見ていた者も大勢いただろう

はたから見れば、郭嘉が玲琳を追い掛け回している様にも見えたかもしれない

いや、事実追い掛けていたのだが…

陳羣が言う様な、そんな甘い睦言などは欠片もなかった

なのに、それを勝手に想像して怒られるというのは何とも不愉快だ

 

「…………はぁ」

 

やっぱり、煩い……

 

郭嘉は、面倒くさそうにまた溜息を付いた

 

「なのに貴方ときたら……!!人目も気にせず追い掛けるなど、言語道断!!もし、この話が曹操様や曹丕様に知られたらどうなります!?ご不興を買えば、貴方にも不利に働くのですよ!!そこの所を理解しているのですか!?」

 

「……いやー主公は知ったら面白がられるんじゃないかな?」

 

恐らく、ここまで噂が広がっているなら知れている

曹操にも曹丕にも

だが、これと言って音沙汰はない

 

曹操の性格を考えれば、逆に嬉々としてこの話を楽しんでいる可能性が高い

曹丕は―――今は動かなくとも、いずれは動くかもしれない

 

まぁ、実際 荀彧あたりからは軽い事情聴取でもあるかもしれないが……

それも、時間の問題だろう

 

しかし、その郭嘉のあっけらかんとした答えに陳羣がぷちーんと切れた

 

「郭嘉殿!!!」

 

陳羣が、更に大きな音を立てて郭嘉の机を思いっきり叩いた

そして、ずいっと顔をを近づけてきて

 

「貴方は!!!反省しているんですかぁ!!!!」

 

「……近いよ、長文」

 

郭嘉が、若干うんざり顔で陳羣の顔をぐいっと押しのけた

 

「反省って言われてもね…別に、反省しなければいけない事は何もしていないしな……」

 

「は!?追い回しておいて何言ってるんですか!!?」

 

更に近づいてくる顔に、郭嘉が椅子ごと後退る

 

「えーと…だから、あれは…そう、忘れ物を届けただけだし、第一会話らしい会話すらしていないよ?」

 

「……“そう”!? 今、“そう”と言いました!!? その “そう”は何ですか!?」

 

「……今日はやけに突っかかるんだね…長文」

 

「ご・ま・か・さ・な・い・で・く・だ・さ・い!!」

 

益々近づいてくる陳羣の顔に、郭嘉の顔が思わす引き攣る

 

「ごめん、長文。言い寄られるなら男よりも、美しい女性の方が好きなんだ。君の気持には答えられない」

 

きっぱりそう言い切ると、陳羣が今度こそ般若の様に怒り狂いだした

 

 

 

 

 

 

 

「かーくーかーどーのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

その時だった

 

「あのぉ……」

 

扉の向こうから、そっと顔を覗かせた一人の文官がいた

どうやら、声を掛けたがあまりにも返事がなかった(のに中から声はする)ので、そっと覗いてみたらしい

キシャー!と、襲って来そうな陳羣を、苦笑いで受け流しながら郭嘉はその文官を招き入れた

 

「ほら、長文。誰かが来たみたいだよ?」

 

「は!?誰ですか!?今、取り込み中です!!!」

 

いきなり般若顔の陳羣が振り向いたものだから、入って来た文官はびくりっと肩を震わせた

文官が、ぷるぷると震えながら「あ…うう……」と声を洩らしている

 

郭嘉は、苦笑いを浮かべながら、ぽんぽんっと陳羣の肩を叩いた

 

「ほらほら、長文のせいで怯えさせてしまったじゃないか。すまないね、君」

 

そう言って、にっこりと文官に向けて微笑むが

陳羣が心外だ!と言わんばかりに吠えた

 

「誰のせいですか!誰の!!!」

 

「あー、後ろで騒いでいる長文は無視していいよ。それで、何の用かな?」

 

やっと陳羣のお小言から解放されるので、これ幸いと郭嘉はその文官に話し掛けた

後ろで「郭嘉殿!!!」と、叫んでいるが、この際無視だ

 

文官は、少しおろおろしならが持って来た書簡を差し出した

 

「これは?」

 

郭嘉が尋ねると、後ろで仁王立ちしている陳羣に恐れているのか…

文官は、慌てて頭を下げると そのまま室を出て行ってしまった

 

「おや…長文が怖い顔しているから、逃げてしまった様だね」

 

郭嘉がため息交じりにそうぼやくと、また陳羣が「郭嘉殿!!」と叫んだ

 

「大体貴方は――――!!」

 

「あ、うん、その話、もう六回目だから聞き飽きたよ」

 

そう言って陳羣の話を打ち切ろうとするが…

どうやら逆効果だったようだ

陳羣は、ますます鬼の様に顔を真っ赤にして

 

「その内、五回を聞き流していたのは何処の誰ですかね!?」

 

「うん?それは、私かな?」

 

「貴方以外に、誰が要るんですかぁ!!!」

 

陳羣が更に吠えるが…

郭嘉はさらっと聞き流すと、届けられた書簡を確認しだした

そして、それを見た瞬間、小さく溜息を洩らした

 

「ごめん長文」

 

突然出てきた初めての郭嘉からの謝罪の言葉に、一瞬陳羣がぎょっとする

まさか、あの郭嘉から「ごめん」という言葉が出てくるとは思いも寄らなかったのだろう

不意打ちの謝罪に、陳羣は「う…」と言葉を詰まらすと、ぼそぼそと少し照れた様に

 

「わ、分かってくださったんならいいんですよ……。というか、そういう謙虚な気持ちがあるなら最初から―――」

 

「荀彧殿からのお呼び出しだから、もうお前に構ってやれないよ。本当にすまないね」

 

と、ぴらっと今確認していたであろう書簡を見せた

 

「え……」

 

一瞬、陳羣が固まる

 

 

…………………

…………………

…………………

 

 

「って!!そっちの“ごめん”ですかぁ―――――!!!」

 

「あー、うん、他にも すまないね。長文」

 

と、付け加えられたように言われた謝罪に…

 

「そんな、ついでの謝罪などいりませ―――ん!!!」

 

陳羣がそう叫んだのは言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてと……

陳羣からの小言から解放されたのは良い

が……

 

荀彧殿からの呼び出しか…

 

十中八九、玲琳とのあの噂の件だろう

 

確かに、周りも気にせずに思わず追い掛けてしまったのは郭嘉の落ち度だ

普段の郭嘉ならば、あの様な軽率な真似はしない

 

だが、あの時は仕方なかった

ああする以外、彼女に話し掛ける事など出来なかったのだから

 

と言っても、殆ど会話もままならなかったんだけどね……

 

そう―――会話どころか、会話をする前に逃げられたのだ

正直、あそこでああ逃げられるとは思いも寄らなかった

 

あれは、話すのも嫌なほど嫌われているのだと決定付けるには十分だった

正直、あれはあれでかなり堪えた

 

結局、あれから数日

玲琳には会えていない

 

当然と言えば当然なのかもしれないが……

 

嫌がる女性に、あの様な振る舞いをすべきではなかった……

 

今では、後悔しか残っていない

だが、ああしなければきっと彼女とは言葉すら交わせなかった

 

結局は、どちらが正しかったのか分からない

 

ただ、得られたものなどなかった

それだけだった

 

おかしな話だ

いつもの郭嘉なら、もっと上手く立ち回る

自分にあまり興味が無かった女性ですら振り向かせる自信すらあった

 

しかし、彼女の事となると別だ

どうしていいのか分からくなる

今まで一体どうしていたのか―――それすらも、分からなくなる

 

「………か」

 

情けない

我ながら、自分が情けない

 

「………孝」

 

いっその事、彼女に出逢わなければ――――

 

「……か、奉孝」

 

いや、その考えはないな

彼女に逢わなければなどとは思わない

彼女に出逢わなければ、私はきっと一生誰かをこんなに想うことなどなかった

私は――――

 

 

「聞いているのか?奉孝!」

 

「え……?」

 

一瞬はっとし、我に返る

すると、目の前に難しい顔をした荀彧が座っていた

 

「“え?”ではない。聞いているのかと聞いているのだよ」

 

「あ……」

 

聴いていなかった……

とは言えず、郭嘉は曖昧に笑みを浮かべた

 

「すみません、荀彧殿。何のお話だったでしょうか?」

 

郭嘉がそう尋ねると、荀彧は半ば分かっていたのか、それとも呆れたのか

はぁ…と、小さく溜息を付いた後

 

「まったく…お前は、近頃ぼーっとしている事が多いようだね?何か、気になる事でもあるのかい?」

 

「え……っ、あ、いえ…そういう訳では…」

 

ある

とは言えず、郭嘉は口籠った

 

荀彧は、「まぁ、いいだろう」とだけ言うと、ちらりと扉の方を見た

 

「……?誰か来るのですか?」

 

疑問に思ってそう尋ねると、荀彧はにっこりと微笑んだ

 

「ああ、お前が一番逢いたい相手だよ」

 

ふふふと、笑みを浮かべてそう言う

 

「え……」

 

一瞬、心を読まれたのかと思い、どきりとする

と、その時だった

 

「失礼致します」

 

侍女と思しき女性が現れ、荀彧に何かを言付ける

それを聞いた荀彧は小さく頷くと

 

「入ってきなさい」

 

荀彧がそう言うと、しゃらん…と簪が鳴る音が聴こえた

そして、しゅるっ…と布の擦れる音と共に、彼女が―――荀 玲琳が姿を現した

 

「…………っ」

 

まさかの玲琳の登場に、郭嘉が驚いた様に大きく目を見開く

そして、玲琳もまた郭嘉の存在に驚き、その蒼銀の瞳を大きく見開いた

 

二人とも、お互いに見つめあったままその動きを止めてしまった

 

「……………」

 

「……………」

 

言葉を交わす事も出来ず、ただただ じっとお互いを見ていた

それを見ていた荀彧が、くすくすと笑い出した

 

「どうした?二人とも。固まっているようだが?」

 

「え……っあ、あの!これは……一体どういう……っ!」

 

先に声を発したのは郭嘉だった

郭嘉はどもりつつも、荀彧を見た

すると、荀彧はにっこりと微笑み

 

「ほら、奉孝の一番逢いたかった相手であろう?」

 

と、勝ち誇った様に笑みを浮かべる

瞬間、郭嘉の頬がサッと赤くなった

慌てて、荀彧と玲琳を見ると、玲琳もほのかに頬を朱色に染めて俯いている

 

「なっ……!何を仰っているのですか、荀彧殿!!じょっ、冗談が過ぎます!!」

 

郭嘉が慌てて弁解の言葉を発すると、荀彧は「おや?」と、とぼけた様な声を上げた

 

「私は間違った事を言っただろうか?それとも、奉孝は玲琳に逢いたくなかったのかい?」

 

真逆の事を聞かれ、郭嘉がますます慌てた様に口走る

 

「そ、そんな事を言っているのではありません!!玲琳殿に失礼だと言っているのです!!」

 

言い訳がましくそう言うと、荀彧は面白いものでも見た様にくつくつよ笑い出した

 

「そんな事は無いよ。玲琳も喜んでいるじゃないか。ねぇ?玲琳」

 

 

え………?

 

一瞬、聴き間違いかと思われる様な荀彧の言葉に、郭嘉が目を瞬かせる

ちらりと玲琳の方を見ると、彼女の頬が真っ赤に染まっていた

 

「ご、ご冗談は止めて下さい!文若兄様!!」

 

玲琳が必死になってそう言い募ると、荀彧はまたもやとぼけた様に首を傾げた

 

「おや、玲琳は嫌なのかい?」

 

「そ、そうではなく……っ!か、郭嘉様に失礼です!!」

 

「では、本当は逢えて嬉しいのだと素直になったらどうだい?」

 

すると、玲琳がかーとますます頬を赤く染めた

そして、ぱっと袖で顔を隠す

 

「お、お願いです……っ、もう、本当に止めて下さい……っ!」

 

今にも泣きそうな声を上げる彼女に、郭嘉は慌てて止めに入った

 

「荀彧殿!彼女が困っています!!もう、そのぐらいにして下さい!」

 

その言葉に、荀彧は面食らった様にきょとんとした後、またくつくつと笑い出した

その態度に、流石に郭嘉もむっとする

 

「何がおかしいのですか」

 

荀彧は、笑いながら軽く手を振った

 

「いや、お前たち二人は反応が一緒だなっと思ってね。何だか、これでは私が悪者みたいだね」

 

「は?」

 

言われた意味が分からず首を傾げると、ふと袖を何かに引っ張られた

何かと思い、引っ張られたであろう袖をみると、いつの間にか彼女の小さな手が郭嘉の袖を掴んでいた

 

あ……

 

その手は、微かに震えていた

不思議と、心の中に何か温かい物が生まれる

 

郭嘉は、無意識的にそっと玲琳のその手に自分の手を重ねた

 

「大丈夫ですよ、玲琳殿」

 

優しくそう囁くと、玲琳が微かにぴくりっと反応した

瞬間、何かに気付いたかの様に、バッと袖を掴んでいた手を離し慌てて後退った

そして、彼女はパッと顔を背けると、そのまま袖で隠し

 

「あの……っ、すみませんっ」

 

あ………

 

生まれた温かいものは、一瞬にしてしぼんでしまった

行き場を無くした手が、虚しく宙を切る

 

そんな二人のやり取りを見ていた荀彧が、はぁ……と、何故か盛大な溜息を付いた

 

「まったく、お前達は……」

 

そうぼやいた後に、「まぁいい」と言って話を打ち切った

 

「とりあえず、こうしていても仕方ない。本題に入ろうか」

 

言われて郭嘉も、はっと本来の目的を思い出す

そういえば、自分達は荀彧に呼ばれてここに来たのだ

 

荀彧は、何かの書類をひらりとさせながら

 

「実は、近頃宮城で噂になっている件があってだね、どうやらそれがお前たちの事の様なのだよ。心当たりは…あるようだね」

 

郭嘉と玲琳の顔を見て、荀彧はまた小さく溜息を洩らした

 

「主公が、大層…ええ、もう無駄なくらい興味を示されてね……、一応、私が真相を聞いておくと言う事にしてその場を収めてきたのだよ」

 

ああ、やっぱり……

 

と、郭嘉は思った

この手の話で、曹操が面白がらない訳がない

しかも、今回の噂の的は 曹操自慢の軍師の郭嘉と、息子である曹丕が寵愛する荀家の姫だ

それはもう、これでもかというくらい楽しんでいるだろう

 

「まぁ、私としては真相なんて分かりきっているから、どうでもいいのだがね。一応、聞かせてくれるかな?」

 

若干、荀彧の言葉に引っ掛かりを覚えるが…

郭嘉は、ごくりと息を飲んだ

 

 

真相……

 

真相などはっきりしている

郭嘉が、玲琳と関わりを持ちたかった為に追い掛けたのだ

だが、それを言ってしまえば―――

 

「……それは…」

 

そこまで言い掛けた時だった

 

「あ、あのっ!私が、忘れ物をしてしまったのです!!」

 

え……?

 

まさかの彼女からの言葉に、一瞬郭嘉は驚いた様に玲琳を見た

玲琳は、真っ直ぐに荀彧を見たまま

 

「私が、程昱様の所に忘れ物をしてしまって…、それを郭嘉様が届けて下さったのです。疾しい事など、何もありません」

 

「……………」

 

玲琳の言葉に、荀彧がまじ…と二人を見比べた

 

「本当かね?奉孝」

 

荀彧の言葉に、一瞬どきっとする

だが、折角彼女が庇ってくれたのに、それを無下にしては彼女に向ける顔が無い

 

郭嘉は、小さく頷きながら

 

「ええ、玲琳殿の言う通りですよ」

 

静かにそう答えた

 

荀彧はもう一度二人を見た後、小さく息を吐き

 

「まぁ…仕方ないね。二人がそう言うなら、そういう事・・・・・にしておいてあげよう。もう、戻っても構わないよ。主公には、主公の楽しめそうな事は何も無かった…とお伝えしておくから」

 

そう言って、二人に退出を許した

 

郭嘉と玲琳はそれぞれ頭を下げると、そのまま室を出た

 

パタン…と、扉を閉めた所で、郭嘉は隣の玲琳を見た

玲琳は、相変わらず郭嘉の方は見ようとはせず、視線を下に向けたままだった

 

「あ、あの、玲琳殿」

 

勇気を出して話し掛けると

瞬間、玲琳がパッと顔を上げ 慌てて郭嘉から距離を取った

 

その対応に、少なからず衝撃を受けるが…

 

今、言わなければ、きっともう機会は無い

そう思って、優しく微笑むと

 

「庇っていただいた様で、ありがとうございます。助かりました」

 

郭嘉がそう言うと、玲琳は「あ……」とだけ小さく声を洩らすと

ぷるっと小さく首を振った

 

「あ、いえ……別に、郭嘉様は悪くないので……」

 

そこまで言い掛けると、きゅっと口を閉じ、サッと顔を背けた

そして、軽く頭を下げると「失礼します」とだけ言い残し、そのまま走り去ってしまった

 

「………………」

 

どうやら、やはり自分は彼女にとって見たくないものらしい

ある意味、あそこまで拒絶されると、別の意味ですっきりする

 

だが――――

 

ほんの一瞬触れた 彼女の小さな手

自分の袖を掴んでいた彼女が、堪らなく愛おしく そして守ってやりたいと思った

 

だが、それも叶わないのかもしれない……

 

郭嘉は、玲琳の手に触れた自身の手をじっと見つめた

そして、天を仰ぐ

 

「玲琳殿………」

 

 

そう呟いた言葉は、風に乗ってそのまま消えたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

関わり…と言っていいのかというレベルですが…

何やら、荀彧が含みのある言い方をしておりますなww

なんでしょうねぇ~?

どうやら、彼は夢主の避ける理由をご存じっぽいですな

 

さてはて、それはなんでしょうねー?

 

しかし…そろそろいい加減、郭嘉が可哀想だわwww

 

2012/06/30