群青-蒼嘩月影-

 

 我は欲す 闇夜の瞳を 2

 

 

 

 

「ん・・・うん・・・・・」

 

何故だろう・・・・・・

気持ちが良い・・・・・・

ふわふわする

 

まるで、いつもの寝台とは違う様な

不思議な感覚—————・・・・・・

 

おぼろげな頭のまま、朔夜はゆっくりとその翡翠色の瞳を開けた

 

「・・・・・・・・・・?」

 

妙な”違和感”を感じ、首を傾げる

なんだろうか・・・・・なにか、いつもの部屋と違う様な————・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

そこまで考えて、はっと我に返る

慌てて起き上がり、辺りを見渡した

 

見慣れない調度品

見慣れない装飾

寝台はふかふかで今まで朔夜が寝た事の無い程の柔らかさだった

 

「・・・・・・私・・・」

 

そうだ、昨夜 魏軍のとの闘いで、関平が捕まり――――・・・・・・

その時の、人質交換の指名で自分が魏軍に捕まったのだった

 

あの時―――曹丕に砦に連れ込まれて・・・・・そのまま軍を引くのに付いて来たのは覚えている

夜だったのもあり、何処に連れて来られたのか分からなかったけれど

この部屋に問答無用で押し込まれたのは、覚えている

 

迂闊にも、そのまま疲れて眠ってしまった己の失態を悔やむ

もしかしたら、逃げ出せたかもしれないのに―――・・・・・・

 

今更悔やんでも、もはや遅いのだが・・・・・・

仕方なく、寝台から起き上がる

 

放り込まれた時は気付かなかったが、全体的に蒼紫色で統一された綺麗な部屋だった

てっきり牢にでも放り込まれると思っていたのに・・・・・・

予想外過ぎて、逆に反応に困る

 

その部屋の角に、飾られる白い花が一層際立っていた

 

サァ・・・・・・

 

開いたままの開扉から風が吹き込んで、朔夜の髪を揺らした

 

「・・・・・・・・・」

 

仮にも朔夜は”捕虜”として捕らわれたはずだ・・・・・・

のはずなのだが・・・・・・思いっきり露台へ続く開扉が開いている

 

まるで、「逃げられるものなら逃げてみろ」と言わんばかりだ

それとも、「逃げることなど不可能」と高を括られているのだろうか?

それはそれで、腹立だしい

 

朔夜は、一応周りを見た

見る限り、見張りも誰もいない

 

今なら・・・・・・

 

そう思い、ゆっくりとした足取りで、音を立てずに開扉に近づく

そのまま露台に出た瞬間―――――・・・・・・

 

「―――わぁっ!」

 

朔夜は目を見開いた

思わず声が漏れる

 

視界に入ったのは、活気溢れる美しい青色の屋根が連なる街並み

そして、人々の溢れんばかりの声だった

 

——————圧倒された

 

それは、成都には無いものだった

いや、成都の街並みも活気に溢れ美しいが、”ここ”はそれ以上だった

到底及びそうも無い

 

逃げるつもりで、開扉に近づいた事すら思考の隅に追いやられた

それぐらい”ここ“街並みは凄かった

 

その時だった

 

「美しいだろう」

 

不意に後から声が聞こえてきた

朔夜が、はっとして声のした方を見る

 

いつの間に入ってきたのか・・・・・・

扉に寄りかかり、声の主は腕を組んだまま立っていた

 

「あんた………」

 

そうだ————この男が、曹操の嫡子であり、曹魏の次期後継者・・・・・・

曹 子桓・・・・・・

 

そして――――・・・・・・昨夜の戦いで、朔夜を指名し”ここ”に連れてきた男だ

 

「・・・・・・・・・・・」

 

朔夜は警戒した様に、目の前の男を睨みつけた

だが、曹丕は全く気にした様子もなく、朔夜の方に無言で歩いて来ると露台の欄干に手を掛け街並みを眺めた

 

「ここから見える街は美しい。 そう思わないか?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

朔夜は警戒したまま無言でいると、曹丕は一度だけこちらを見た後

 

「どうした? 口も利けないのか?」

 

そう言って、曹丕の手が伸びてきたかと思うと、その指が朔夜の顎を絡めとった

 

「――――っ!!」

 

曹丕のまさかの行動に、思わず身体が強張る

知らず、かぁっと頬が朱に染まる

 

それを見た曹丕が、微かにその口元に笑みを浮かべた

まるで、その反応を予想していたかのように・・・・・・

なんだか、それが無性に腹立だしくて、朔夜はふいっとそっぽを向いた

 

「・・・・・・・・・・」

 

声を発するのも、相手に踊らされているようで

あえて、無言で通す

 

すると、突然 曹丕の手が朔夜の腰に回された

そして、そのまま抱き寄せられる

 

ぎょっとしたのは朔夜だ

まさかの曹丕のその行動に、抗議したくとも

その為には声を出さなければいけなくて————・・・・・・

言いたいのに、言えば屈したようで言えない

 

朔夜が顔を真っ赤にして、抗議の目で曹丕を睨むが―――

曹丕には、まったく通用していないのか・・・・・・

 

その口元に笑みを浮かべると、そのまま朔夜の腰を更にかき抱いた

 

「・・・・・・・・・・・・っ」

 

流石にそれには、身の危険を感じたのか・・・・・・

朔夜が思わず手で抵抗するように両手で曹丕を押し返そうとする

が・・・・・・

それも、お見通しだったのか・・・・・・

曹丕はにやりと笑みを浮かべると、そのまま朔夜が抵抗する間を与えず、ぐいっと欄干に抑え付けた

 

「!?」

 

両の手を塞がれて、流石の朔夜もこれには焦った

朔夜も一介の武人だ

なのに、こうもあっさり両手を封じられるとは誰が思っただろうか

 

すると、曹丕はくっと喉の奥で笑い

 

「どうした? まだ口を開く気にならぬのか?」

 

そう言って、曹丕がぐいっと朔夜の顎を持ち上げた

 

「――――・・・・・・っ」

 

その先に続く行為が何か瞬時に理解する

このままじゃ———・・・・・・

 

朔夜が、どう抵抗すればいいのか考えあぐねるが

曹丕はそんな暇を与えてはくれなかった

 

朔夜の耳元でそっと囁く様に

 

「・・・・・・知っているか? 女を吐かせるの一番の方法を———・・・・・・」

 

そう言ったかと思うと、そのまま自身の唇を朔夜のそれに重ねてきたのだ

 

「――――――っ、ぁ・・・・」

 

曹丕からのまさかの口づけに、朔夜が抵抗するように身体を捩ったが

がっちり抑え込まれていて、びくともしない

 

「・・・・・・どうした? もっとして欲しいという事か?」

 

そう言って曹丕の方手が朔夜の露になっている足に触れた

その手が、ゆっくりと太ももの方へ上がってくる

 

「—————っ!!!」

 

流石の朔夜もこれには、耐えられなかったのか

 

「やっ・・・・・・やだ、やめ————んんっ」

 

咄嗟に、言葉を発した

それなのに、曹丕の行為は収まってくれなかった

その手がどんどん上にゆっくりと、朔夜の反応を堪能するように上がってくる

 

「や、ん・・・・・・やだっ・・・・・・や、めっ・・・・・ぁ」

 

思わず洩れた声音に、曹丕がにやりと笑みを浮かべる

 

「ふ・・・・・・いい声で啼けるではないか」

 

そう言って、もう片方の手で朔夜の顎を引き上げた

瞬間、口づけが深くなる

まるで————貪るがごとく曹丕の口づけが激しくなった

 

「ぁ・・・・・ん、や・・・・・・はぁ・・・・・・あぅ、ん・・・・・・」

 

舌が絡まってきて、うまく息が出来ない

 

次第に、頭がぼぅっとしてくる

今、自分が何をされて、何を受けているのか――――

それすらも、判断できなくなってくる

 

身体の奥がどんどん熱くなっていく————・・・・・・

思考がうまく働かない

 

「そ、ひ・・・・・・や、ん・・・ぁ」

 

なんとか、そう声を引き出すので精一杯だった

 

立って————いられ、な・・・・・・・・

 

瞬間、朔夜の膝ががくっと崩れ落ちそうになった

が、それは曹丕にあっさり受け止められた

 

あ・・・・・・・

 

気が付けば、曹丕の腕の中にいた

はっとして、慌てて離れようとするが、身体が動かなかった

 

すると、曹丕が不意に、朔夜の艶やかな漆黒の髪を撫でた

そして満足げにその口元に笑みを浮かべ———

 

「————ようやく、私の手の中にきたか」

 

「・・・・・・・・・・・・?」

 

曹丕の言う意味が理解できず、朔夜がその翡翠色の瞳を瞬かせる

 

思考が追い付かない

彼は何を言っているのだろうか・・・・・・?

 

そんな朔夜とは対照的に、曹丕はその口元で微かに笑い

 

「待っていた・・・・・・ずっと・・・・この時だけを———・・・・・・」

 

曹丕の手が朔夜の髪をまた撫でる

 

「この瞬間だけを————私の———・・・・・・」

 

 

 

 

 

  ”朔夜”

 

 

 

 

 

そう―――呼ばれたような、気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———蜀・成都城

 

 

 

「諸葛亮殿!!」

 

 

 

広間に趙雲の声が響いた

ふと、諸葛亮が趙雲を見る

要件はわかっていた 朔夜の事だ

 

趙雲は険しい顔で

 

「私に、ご命令ください!!! 朔夜を救出して来い———と」

 

「・・・・・・・趙将軍、あの状況下で最善の策はなんだたのか・・・・・聡い貴方なら十分理解していると思っておりますが」

 

諸葛亮が冷静にそう尋ねるが、趙雲は収まらなかった

 

「それでも———!!! 私は、納得できません!! 朔夜を犠牲にするなど———」

 

趙雲のその言葉に、諸葛亮が小さく息を吐いた

そして、羽扇で口元隠し

 

「無駄に犠牲にするつもりはありませんよ。 だからと言って、貴方一人敵の真っただ中に行かせるわけにはいきません。 少なくとも、趙将軍はもう少しご自身の立場をご理解いただきたい」

 

「・・・・・・・・っ、それは————」

 

分かっている

自分がどれだけ無茶な事を言っているかという事は

それでも、彼女だけは———朔夜だけは失えない

 

ずっと、彼女がこの城に上がった時から、教え子として趙雲自らが育ててきたのだ

それもこれも、全てこの国の為———ひいては、劉備の為

次代が育っていなくては、国は続かない

 

少なくとも、こんなところで敵に————曹丕に渡すために育てたのではない

それは、諸葛亮とてわかっていることだ

 

ぎりっと趙雲が、奥歯を噛みしめた

 

朔夜—————・・・・・・

 

無事で、いてくれ——————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※Rewrite版です

・・・安定の、原型どこ行ったwwww

状態です笑

わかってた こうなることは分かってたよwww

緋色Rewrite版で経験済

前:2008/07/24

※改:2020/09/06