華ノ嘔戀 ~神漣奇譚~

 

 弐ノ章 出陣 4

 

 

 

  ピ―――――

 

     ピ―――――……

 

机に置いておいた、端末からけたたましげな音が部屋中に響き渡る

小野瀬は、煩わしそうに端末に手を伸ばすと、その着信主を見て大きくため息を洩らした

 

やっぱりきたか……

 

予感はしていた

あの“辞令”を見て、“彼”が気づかない筈がない

絶対に、こちらに連絡が来るとは思っていた

 

予想通り、と言えばマシに聞こえるかもしれないが…

 

さてと……

 

どう言い訳しようかと、考えあぐねている時だった

不意に、音が止んだ

 

珍しい、諦めたのか?

と、思った時だった

 

突然、目の前のPCがブブブ…と、音を鳴らしプツンっと切れた

 

「ん?」

 

なんだ? と、思い首を傾げた瞬間だった

触ってもいないのに、突然モニターがいくつも現れたのだ

 

あ………やられたなぁー

 

と、思う間もなく、そのモニターに見覚えのある青年が姿を現せた

 

『おい、無視とはいい度胸してるじゃないか。 小野瀬』

 

ああ…やっぱり……

 

そこに現れたのは、紛れもなく予想した“彼”―――鶴丸国永だった

どうやら、無理やり通信をねじ込ませたようだ

一体、どこでこんなやり方覚えてきたんだか……

違法まではいかないが、政府の端末にハッキングに近い所業をするなど…

上にばれた日には、どうなることやら……

 

そんな事を考えながら、はぁ…と、諦めにも似た溜息を洩らす

それを見た鶴丸が苛々したような強い口調で、無理やりテキストを送り付けてきた

 

『これは、どういうことだ!!』

 

強い口調でそう叫んだ

鶴丸の言わんとすることは分かっている

今回、沙紀の本丸に委任された“任務”についてだろう

 

他の刀剣男士は初めて見るだろうから気付かないと思ってはいたが、鶴丸は直ぐに気づくと思った

 

だから、こんのすけには“微弱”と、送った

だが、やはりと言うか…鶴丸までは騙せなかったらしい

 

『微弱? どこが、微弱な干渉だって?』

 

「…………」

 

『これが、“微弱”なら、殆どの時間遡行軍の干渉は“微弱”だな? おい』

 

冗談に聞こえない冗談に、もはや苦笑いしか浮かばない

 

そう―――この干渉は“微弱”で片付けられるレベルではない

下手に介入すればただでは済まない

本来なら、それなりに経験を積み、ランクもSクラスの“審神者”の本丸に委任されるべき案件だった

 

「……仕方ないだろう、三老の意向なんだ」

 

そう――これは、決して小野瀬が出した指令ではない

政府の中でも全ての権力を持つ、“三老”が出してきたのだ

小野瀬ごときが、意見しても取り合って貰えなかった

 

“三老”という、言葉に鶴丸の眉間に皺が寄る

 

『ちっ、あのじじいども…一度ぶちのめしてやろうか』

 

などと、物騒なことを言うものだから、笑えない

 

「……言い訳じゃないけど、一応僕も進言したんだよ!? でも、“三老”には取り合っても貰えなかったよ……」

 

その言葉に、鶴丸が溜息を洩らす

 

『ったく、あのくそじじいども、何考えてやがる。 沙紀にもしもの事が、あったら“三老”だろうと、ただじゃおかないからな!!』

 

「ちょっ…鶴丸くん、声が大きい!」

 

誰がどこで聞いているかわからない、迂闊なことは口走らない方が利口なのだ

 

『……で? あのじじどもの目論見はなんだ?  華号すら与える気もなさそうだが?』

 

鋭い突っ込みに、小野瀬が苦虫を潰したような顔になる

 

「仕方ないだろう? 僕程度の力じゃ“三老”の意向を変えることは出来なかったんだ……一応、努力はしたんだよ?  駄目だったけどね」

 

『実らない努力は、努力に入らないな』

 

ぐぅの音も出ない、鶴丸からのきつい一言に、小野瀬が口篭る

 

『華号も与えない、初任務は特Aランク―――』

 

「うっ………」

 

鶴丸からの鋭い言葉が、ぐさぐさっと小野瀬に刺さる

 

『あのじじいどもは何を考えてやがる…?  沙紀になにをさせたいんだ……』

 

「それは、わらかないよ…。 少なくとも、“期待”ではないと思う」

 

小野瀬のその言葉に、鶴丸が溜息を洩らす

 

『だろうな……そんな、殊勝な理由だったら驚きだぜ』

 

さしずめ、沙紀本人の力量というよりも、“神凪”としての力を見計らうとしているのだろう

過去の例を取っても、日本最上位の姫巫女である“神凪”が“審神者”の任を任されたことはない

それは、“神凪”自体が“神”と同意語であり、それだけの力を持つからである

そして、“神凪”自身、石上神宮の御神体であり、最大の秘密だからだ

故に、表立ってその姿を見たものは少ない

 

特に、沙紀は今まで“代理”で務めてきて巫女たちとは違う

“本物”の“神凪”だった

この日の本が望んだ“本物の神凪”だった

そして――――……

 

この、鶴丸国永を華号も受けていないにも関わらず、わずか十歳でひとがたとして顕現させた

それは、本来なら“ありえないこと”であり、それと同時に沙紀が“本物”である証となった

 

その話はすぐさま、“三老”の耳に入ったであろう

と、同時に沙紀が十七の歳になったら招集することが政府の中でほぼ確定事項になっていた

 

元来、“審神者”は華号を与えられて、初めて力を発揮させられる

だが、沙紀は違った

華号もなく、まだ“神凪”に就任する前に、その力を発揮させたのだ

刀を形代に、ひとがたに付喪神を顕現させる――――……

それは、“神”の所業だった

 

だからこそ、“三老”は沙紀を欲した

これから激化していくであろう、時間遡行軍との戦いの“切り札”となるように―――

それを見極めるために、あえて初任務で華号も与えず

難易度も高い特Aランクを宛がってきたのだ

 

これだけの、最悪の状態で彼女がどう乗り切るか―――

それを、見極めようとしている

 

そんなのは、明白だった

 

このまま、“三老”の思惑に乗るのも癪だが、一度受任した任務は変更が効かない

おそらく、沙紀はこの事実を知らない

華号のことも、“三老”の思惑も――――……

 

いや、知っていたとしても、きっと受けていただろう

このぐらいで、引き下がる女ではない

 

それは、鶴丸が一番よく知っていた

神代 沙紀 とは、そういう女だ

 

「とりあえず、できる範囲は限られてるけど、バックアップはするよ。 保険も送っておいたし」

 

小野瀬の言葉に、鶴丸が『は?』と、声を洩らした

 

『保険??』

 

なんのことだ? と、いう風に鶴丸が首を傾げる

すると、小野瀬がにんまりと笑って

 

「きっと、鶴丸くんは驚くと思うなー」

 

と、意味ありげに言うが、その言い方が妙に引っかかる

きっと、ろくな事ではないなと鶴丸は思った

だが、そんな訳の分からないものを沙紀の傍に置いておく訳には行かない

 

『とりあえず、その“保険”が何なのかってのもあるが……小野瀬は華号をどうにかもぎ取ってこい!』

 

「ええー無理だよ。 “三老”が許可ださないよ?」

 

そんな事、鶴丸にだって分かっている

あの胡散臭いじじいどもが素直に言うことを聞くはずがない

だが、“する”のと“しない”のでは大きな違いだ

 

『いいから、やれ!! 頼んだからな!!』

 

それだけ言うと、ぷつん…と、通信が切れた

なんいう無茶振りをしていくのだろうか、彼は

鶴丸だって無理だと分かっていて言っているのは明らかだった

 

はぁ…と、 小野瀬は大きな溜息を洩らした

 

この時は、思いもよらなかった

数時間も経たない間に、あんな“こと”が起きるなどとは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ◆          ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――……

 

鳥の囀りが聞こえてくる

 

「……殿、……沙紀殿!」

 

誰かが、自分の名を呼んでいるのが聴こえてくる

頭がくらくらする

思考が上手くまとまらない

 

沙紀が、なんとか覚醒しようとしたその時だった

 

 

「おい!! さっさっと、起きろ!!」

 

 

突然、怒鳴り声が聴こえてきて、瞬間的に覚醒する

 

「あ……」

 

慌てて身を起こそうとした瞬間、ぐらりと視界が揺れて

すかさず、誰かの手が伸びてきて沙紀の身体を支えてくれた

 

「大丈夫ですか?」

 

そう問われて、その手の持ち主を見る

 

「一期……さん?」

 

「はい」

 

名を呼ばれて、一期一振がにっこりと微笑む

 

一体何が起きたのか…

未だに把握仕切れてない沙紀を一括するようにある男の声が響いた

 

「おい、いつまで寝ぼけている。 しゃきっとしろ!!」

 

「え…あ、……」

 

言われて声のする方を見ると、先程会ったばかりの青年が立っていた

そう―――確か、名前は……

 

「大包平さん……?」

 

瞬間、ずきりっと、頭に痛みが走った

視界がぼやける

頭がはっきりしない

 

その様子に気づいた一期一振が、沙紀をそっと木の根の所に座らせた

 

「無理はいけません」

 

そう注意を促されるが――――……

 

大包平がいる手前、素直に分かりましたとはとは言い難い

困ったように、大包平の方を見る

 

すると、大包平がはぁー…と、溜息を洩らすと

 

「単なる、時間跳躍の後遺症だ。 じきに慣れてくる」

 

「大包平殿……と、仰りましたか。 それはどういうことですか?」

 

そう返したのは、沙紀ではなく一期一振だった

すると、大包平は、やはり大きな溜息を洩らし

 

「俺たち、刀剣男士と違って審神者は生身の人間だ。 元々の作りが時空をねじ曲げる跳躍には向いていない。 だから、殆どの審神者は直接現地には赴かない。 心身に何が起きるか分からないからな」

 

その事実に驚いたのは、他ならぬ一期一振だった

 

「そんなこと、小野瀬殿は一言も……」

 

一期一振のその言葉に、大包平がふんっと鼻を鳴らし

 

「あのすっとぼけ男が言うと思うか? 言えば、間違いなく、お前達は審神者の同行を認めなかっただろう?」

 

それはそうだろう

沙紀自身の身に負荷が掛かることを知っていたならば止めていた

だが、これは沙紀の意思だ

 

一期一振なら止めた

でも、鶴丸ならどうしただろう?

 

沙紀の意思を尊重したのではないだろうか……

 

「すみません、大丈夫ですので……」

 

そう言って、沙紀が立ち上がろうとするが―――……

やはり、まだ身体が言うことをきかないのか…よろりと、倒れそうになる

 

「沙紀殿!!」

 

慌てて一期一振が手を伸ばすが……

それよりも早く、大包平の手が沙紀の腕を掴んだ

その手があまりにも雑だったので、思わず一期一振が叫ぶ

 

「大包平殿!! 手荒な真似は―――……」

 

そう、促すが……大包平はふんっと鼻を鳴らすと

 

「そうやって、お前たちが甘やかすから、“審神者”が成長しないんだ!」

 

鋭いその言葉に、一期一振が押し黙る

思わず、沙紀の方を見ると……

沙紀は、優しく微笑み

 

「一期さん、心配してくださってありがとうございます。 私は、私の意思で皆に付いていくと決めたのです。  全て、覚悟の上です。  それに―――……」

 

ふらりと、一人で立ち上がると

 

「私、そんなにやわではありませんから……」

 

そう言って、にっこりと微笑んだ

 

「……………」

 

そんな沙紀を見ていた大包平は、少しだけ驚いたようにその瞳を瞬かせた後、ふっと笑った

 

「大包平さん……?」

 

不思議に思った沙紀がその小首を傾げる

すると、大包平は「いや……」と、小さく声を洩らし

意味ありげに微笑んだのだった―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてさて、鶴にはばればれのようですwww

そりゃそうよね(;・∀・)

ずっと、政府で仕事してたんだから、うちの子は

 

端末も、任務の事も知ってるわな~~

 

そんな、鶴を余所にどこかに飛ばされた三人

大包平が、ツンツンなのは仕方ないのよ

やさぐれてるから…今’`,、 ‘`,、 (‘∀`) ‘`,、’`,、

 

で? ここはどこでしょう???

まて、次回!!

 

2019/03/19