華ノ嘔戀 ~神漣奇譚~

 

 弐ノ章 出陣 3

 

 

夢を見ていた

懐かしい、懐かしい……ゆめ

 

「大包平……」

 

優しく、自分を呼ぶ声が聴こえる――――…

 

ああ…聴き間違える訳がない

この声は…懐かしい、あの人の声――

 

「大包平…すまない……お前たちを残して去る私を許してくれ」

 

泣かないでください「主」

俺は、「主」に会えて、「主」に使っていただけて、幸せでした

 

「主」は、かけがえのないものを沢山見せてくれた

楽しいことも、嬉しいことも、悲しいことも、すべて貴方に教わったんです

 

四季が美しいということも、人というものが、どういうものなのかも、全部全部

「主」…貴方が教えたくれたんです

 

そんな貴方だからこそ、俺は……

 

俺の「主」は貴方だけです

「主」以外の人間には仕えたくないです

 

「他の者たちは皆、新しい本丸に向かったよ…大包平、お前もこれ以上ここに居てはいけないよ…」

 

「お前は、優秀な子だ…剣の腕も、内面も…このまま刀解されるには惜しい刀だよ…」

 

「主」と、離れ離れになるなら、生きている意味はない

刀解されたとしても―――……

 

俺は「主」だけの刀でありたい

それは、いけないことなのか……

 

 

「太刀 銘備前国包平作、時間だ」

 

 

背後から聴こえる政府の人間の声

 

いやだ!! 俺は――――!!!

 

目の前の「主」が、担架に乗せられて運ばれていく

 

いやだ

やめてくれ!!

 

 

連れて行かないでくれ

あるじっ!!!

 

 

「さぁ、行くよ。 たった今の時間をもって、この本丸への道は封鎖する」

 

 

やめてくれ

俺の…俺達の「主」と過ごした場所を取らないでくれ!!

 

いやだ

いやだいやだいやだいやだ

 

 

「次は、優しい人に使ってもらいなさい」

 

 

通り過ぎる間際

「主」の手が優しく俺の頭を撫でた

 

「……………っ」

 

「主」…貴方以上に優しい人なんて、この世にはいない…

俺には、「主」だけだ

「主」―― だけなんだ―――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――政府・歴史修正主義者対策機関

 

「なに? 大包平が言うことを聞かない?」

 

訝しげに、机に肘を付いた中年層の男が葉巻をふかしながらぼやいた

 

「はい、他の本丸には絶対に行かない―――と、その一点張りで……」

 

報告に来たであろう官僚の1人は少し困ったようにそう答えた

 

「はぁ……」

 

中年層の男は、大きく溜息を洩らし、鋭い目つきで報告に来た官僚を見た

そして―――……

 

「所詮は刀のなれ果てだ。 こちらの指示に従わないなら刀解しろ」

 

「し、しかし―――!!!」

 

瞬間、中年層の男がばんっ!!と、勢い良く机を叩いた

 

「使えなくなった“審神者”も“刀剣男士”も、要らないんだよ。 くだらない情は捨てろと言っておけ、それが嫌なら、刀解するとな!」

 

話はそれだけだと言わんばかりに、中年層の男は目の前の官僚を部屋から追い出やった

 

そう―――

仕えない刀は付喪神だろうと、必要ない

“代わり”はいくらでもいるからな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「刀解……?」

 

「はい。 上層部は命令に従わないのなら、貴方を刀解する―――と」

 

目の前で話す官僚の言葉がまるで他人事のように聞こえた

 

それから、少しして

ああ、自分のことか…と認識する

 

だが、大包平にはもうどうでも良かった

 

大包平の「主」には、もう会えない

噂では心を患って、病院に居ると聞いている

見舞いに行きたいが、許可は出なかった

会うことも叶わない

これでは、生きていても死んでいるのと同じだ

 

そう―――自分の「主」は、もういないのだ

だったら、別にひとがたで生きている意味はない

ならは、いっそのこと――――……

 

そう思った時だった

 

「おいおい、“刀解”とはまた物騒な話をしてるじゃないか!」

 

ふいに、柱の影から一人の青年が現れた

綺麗な銀髪に金の瞳

なにより、真っ白な装飾に身を包んだ男は、こちらに近づくと、まじまじと大包平を見てきた

 

誰だ?

 

見たこと無い男だった

だが、この男が纏っている空気は人間の“それ”とは違っていた

 

まさか、この男―――……

 

そう思った時だった

 

「竜胆殿!!  任務から戻られたのなら、先に報告に行ってください!!  いつもいつも、寄り道して――――!!」

 

なんだか、説教が始まりそうな気配を感じ取ったのか…

竜胆と呼ばれた青年は「おっと!」と、声を洩らすと、官僚の手からひらりと、かわすように後ろに飛び退く

 

「相変わらず お固いな、君は」

 

飄々と返す青年に、目の前の官僚がイライラし始めるのが感じ取れた

 

だが、竜胆と呼ばれて青年は気にした様子もなく

 

「刀解するぐらいなら、俺の仕事の助手にするのはどうだい?」

 

「は!!?」

 

素っ頓狂な声を上げたのは、大包平ではなく、官僚の方だった

 

「な、何を勝手に――――!!」

 

竜胆と呼ばれた男はまじまじと大包平を見ると

 

「君、名前は?」

 

「……大包平」

 

今思うと、なぜこの時答えたのだろう

だが、何故かこの青年からは同じ何かを感じた

 

すると、青年はにっと笑うと

 

「大包平か! よろしくな!!」

 

そう言うが早いか

ぐいっと、竜胆と呼ばれた青年に腕を引っ張られた

 

「お、おい……!」

 

一瞬抗議しようとしたが、青年が小声でぼそりと呟いた

 

「今は、俺について来い。 悪いようにはしない。 このままここに居たら、刀解されちまうぞ?  お前の主さんにも、会わせてやるよ」

 

「…………っ」

 

一瞬、大包平の脳裏に“刀解”の文字が鮮明に浮かんだ

 

刀解されれば、「主」には、二度と会えない

さっきまでは、別に構わないと思っていたのに…

 

この男についていけば、「主」に会える……?

 

そう思うと、自然と身体が動いた

 

「あ!!  ちょっ、困ります!!  竜胆殿!!」

 

官僚が慌てたように叫ぶが、竜胆と呼ばれた青年は、笑いながら

 

「上層部への報告と、後処理よろしくなー!」

 

と、無茶振りをふっかけて、大包平を伴ってその場を去ったのだった

 

それが――――……

 

政府が抱える最大の「秘密」

石上神宮の巫覡の娘が たった10歳でひとがたへと、顕現させた刀――――

御物・山城国国永御太刀

 

鶴丸国永との出会いだった―――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ◆          ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは―――……」

 

大包平がゆっくりと瞳を開けると、目の前に広がったのは一面の桜の花だった

天には夜空が広がり、中央に見えるのは三日月か

そして、その奥には神殿様式で建てられたであろう武家屋敷があった

 

ここの本丸はあれか?

 

それにしても、なんという幻想的な光景だろうか

思わずここが、別空間ということを忘れてしまいそうだ

 

そんなことをぼんやり考えていた時だった

 

「あの……」

 

ふいに、凛として透き通るような声音が聴こえてきた

はっとして、大包平が声のした方を見る

そこに居たのは―――……

 

透き通るような白い肌

大きな躑躅色の瞳

腰まである長く艷やかな黒髪を緋色の結い紐で束ねた 巫女装束の美しい少女が立っていた

 

「………っ」

 

少女のあまりにも神秘的な雰囲気に思わず見惚れてしまう

まるで、現世のものでは無いような

そんな雰囲気をかもしだしていた

 

一瞬、「女神」でも、見ているのかと錯覚しそうになる

 

「貴様は………」

 

思わず洩れた声に、少女が「あ…」と声を出す

そして、丁寧に深々とお辞儀をし

 

「大変申し遅れました。 私は、当本丸の“審神者”を任されております。 神代 沙紀と申します」

 

そう言って、沙紀と名乗った少女が微笑んだ

 

「…………っ」

 

あまりにも、その美しい仕草に大包平の頬が次第に赤くなる

 

「差し障りなければ、お名前をお伺いしても……?」

 

「お、大包平……だ」

 

なんとか、名前を絞り出す

すると、沙紀はふわりと、優しく微笑み

 

「大包平さんですね、よろしくお願いいたします。 それで――――、この度の来訪は何かのご用事でしょうか?」

 

そう言われて、大包平は「は?」と、素っ頓狂な声を上げてしまった

 

なんだ?

話は通っているのではないのか……?

 

そんな疑問が浮かんてくる

だが、沙紀を見る限り何も知らなさそうだ

 

その時だった

 

「主さま―――!!!」

 

こんのすけと思しき声と、バタバタと何人もの足音が聴こえてきたかと思うと、あっという間に、沙紀と大包平の間に割って入ってきた

 

「あんた、馬鹿か!! 勝手に一人で先走るな!!」

 

「そうだよ、沙紀君!! 君に何かあったら一大事なんだからね!!」

 

間伐入れずに、山姥切国広と燭台切に怒られて、沙紀が申し訳なさそうに、「すみません…」と、答えた

 

「ですが、悪しきたぐいでは無いのは分かっておりましたし、ご挨拶をしないわけには…」

 

沙紀がしどろもどろになりながら、必死に弁解するが……

 

「そうゆう問題じゃないんだよ、大将。 皆、あんたが心配なんだ」

 

と、まるで皆を代表するように薬研が苦笑いを浮かべでそう言った

 

言われて、沙紀も気づいたのか…

 

「皆様、ご心配おかけして申し訳ございません。  私が、先走ったはばかりに、皆様に要らぬ苦労を……」

 

そこまで、言いかけた時だった

ぽんっと、沙紀の頭に手が乗せられた

 

「主。 主が気に病むことではない。 皆が過保護なだけだからな」

 

はっはっは と、三日月が笑ってそう言った

 

「おい……」

 

それまで、やり取りを見ていた大包平が三日月を見た瞬間、声を出した

 

「手助けと言われたが、天下五剣がいるなら、必要ないんじゃないのか?」

 

「え……?」

 

一瞬、何の話かと沙紀が首を傾げる

 

「手助け……??」

 

沙紀の反応に、大包平が訝しげに顔を顰めた

 

「聞いてないのか?」

 

「えっと…あの、何のお話でしょうか……?」

 

「……………」

 

この反応、嘘を言ってるようにも見えない

先ほども思ったが、本当に何も知らないようだった

それに――――

 

大包平は、沙紀を囲む面々を見た

そこには、話に聞いてきた鶴丸の姿はなかった

 

転送先を間違われた??

そんな、疑問が頭を過る

 

仕方ないとばかりに、大包平が小さく溜息を洩らし、端末を開く

小野瀬に連絡しようと思ったからだ

だが―――………

 

ツ― ツ―

と、いう音が聴こえるだけで、一向に捕まる気配はなかった

どうやら、誰かと話中らしい

 

「………ちっ」

 

思わず、舌打ちが洩れる

荒々しく胸元に端末をしまうと、くるりと、沙紀たちに背を向けた

 

「大包平さん……?」

 

沙紀が不思議そうに首を傾げる

大包平は、ふんっと鼻を鳴らし

 

「俺は要らなさそうだからな、帰らせて――――って……ああああああ!!!

 

突然、大包平が叫んだ

驚いたのは他ならぬ沙紀たちだ

思わず顔を見合わす

 

だが、大包平にはそれどころではなかったのか… 「小野瀬のやつ―――!!」

と、叫んでいた

 

不思議に思った一期一振が転送装置を見る

と、「ああ……」と声を洩らし

 

「どうやら、行き先が固定されているようですね」

 

「固定?……ですか?」

 

思わず沙紀も覗き込む

すると、それは突然起きた

 

転送装置が、ぱあああ!!と、青白い光を放ちだしたのだ

 

「なっ……!!?」

 

大包平が慌てて声を発しようとする

 

 

 

“行き先を確認しました”

 

 

 

そう声が聴こえたと思った瞬間―――――………

 

 

「あ………っ」

 

 

「沙紀殿!!」

 

 

 

 

     3人のその声を最後に、3人の姿が転送装置から消えたのだった―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、大包平合流かと思いきや…大包平といち兄と夢主だけ飛ばされたというなwww

まさかの、展開ですwww

気が付いたら、こうなったwwww

 

さて、さて、気になるところで次回へ続く(;・∀・)

2019/02/19