華ノ嘔戀 ~神漣奇譚~

 

 弐ノ章 出陣 26

 

 

―――――― 丹波・亀山城 地下

 

 

「よって、君たちは邪魔だ。 ―――――この場で死んでもらう」

 

そう言って、光秀がにやりと笑みを浮かべる

 

 

「・・・・・・は?」

 

 

だが、大包平は違った

呆れた様に、その顔をしかめた

 

「“死んでもらう”? お前こそ誰に向かって言っているのか理解出来てない様だな」

 

挑発的にそう言うと、大包平はふんっと鼻息を荒くした

だが、光秀はその赤い瞳で大包平を見ると、くっと喉の奥で笑った

 

「お前たちの獲物はこちらの手中にある。 丸腰の貴様らに何ができる――――?」

 

そう言って、光秀が手にしていた刀を見せる

それは、間違いなく「大包平」と「一期一振」だった

 

今、刀を呼べばおそらく本体は手元に戻す事は可能だ

しかし・・・・・・

 

――――今、それをこの「光秀」に知られるのはまずい

 

大包平が押し黙ったのを見ると、光秀はくくく・・・・・と、渇いた笑みを浮かべると、後ろにも控えていた兵士たちに「始末しろ」とだけ命令して、その場を去って行った

 

残ったのは、こちらから見れば雑魚ばかりだ

だが、丸腰な分おそらく向こうからは、こちらは直ぐに始末出来るだろうと考えているだろう

 

「・・・・・・どうするのですか? 大包平殿」

 

小声で一期一振が大包平に語りかける

すると、大包平は面白いものでも見ているかのように

 

「そんなもの、決まてるだろ――――が!!!」

 

そう叫ぶな否や、大包平が思いっきり目の前の牢の柵を蹴り飛ばした

瞬間――――ずうううん、という音と共に、柵が前に倒れた

 

「・・・・・・・え・・・・・」

 

一期一振が唖然と言葉を失った様に、間抜けにも ぽかん・・・・・・としてしまう

だが、大包平は素早く牢から出ると目の前の兵士に向かってその拳を振り下ろした

 

兵士も兵士で、まさかこんなあっけなく牢破りをされるとは思わなかったのだろう

大包平の素早い動きに対応しきれていないのか――――

あれだけいた兵士達は、成す術もなくあっけなく全員打ちのめされてしまった

 

「この程度か。 大したことはないな」

 

ぱんぱんと手を叩きながら、大包平は兵士が持っていた槍ではなく、刀を手に取った

 

「まぁ、ないよりかは、ましだろう」

 

そう言うと、もうひと振を一期一振に投げた

 

「ほら、とりあえず、取り返すまではそれ使え」

 

そのまま大包平がすたすたと歩いて地下から出ようとする

一期一振は慌てて大包平を追いかけた

 

「これから、どうするのですか?」

 

「あ? 決まってるだろう。 沙紀と取り戻すんだ」

 

「で、ですが、一体どうやって――――」

 

一期一振の問いに、大包平がふっと笑みを浮かべ

 

「勿論――――正面突破だ!!!」

 

その言葉に、一期一振が頭を抱えたのは言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――― 本丸

 

 

鶴丸は一度頭をはっきりさせる為に、軽く水浴びをした後、タオルで髪を拭きながら自室に戻ろうとしていた

 

ふと、視界に沙紀の部屋の戸が微かに空いていることに気付いた

 

「・・・・・・・・・・・?」

 

昨日、沙紀が開けて出てしまったのだろうか・・・・・・?

いや、あの沙紀がそのような迂闊な事をするとは思えなかった

 

誰だ・・・・・・?

 

鶴丸は息を殺すと、そのまま沙紀の部屋に近づいた

そっと、開いている隙間から中の様子を窺うと―――――

 

「う、ううう・・・・・・主、さま・・・・・・」

 

「・・・・・・こんのすけ?」

 

そこにいたのは、こんのすけだった

こんのすけは、ぽろぽろと涙を流しながら、尻尾も耳も垂れたまま沙紀の部屋の真ん中で泣いていた

 

鶴丸は小さく息を吐きながら

 

「まったく、なにやってんだお前は・・・・・・」

 

そう言って、こんのすけの頭をぽんっと撫でる

すると、こんのすけは まるで懇願する様に

 

「鶴丸殿ぉ~主さまは、主さまはご無事・・・・・・です、よ・・・・ね?」

 

そう言って、鶴丸の足下にこんのすけがしがみ付いて来る

その言葉に、一瞬だけ鶴丸が大きくその金の瞳を見開くが――――

次の瞬間、ふっと笑って こんのすけの頭をまた撫でた

 

「大丈夫だ。 沙紀は必ず助ける。 だから、安心しろ、な?」

 

「・・・・・・っ、はい」

 

鶴丸の言葉に、こんのすけがまた涙ぐみながらこくこくと頷いた

 

「ああ・・・・・・」

 

鶴丸がふと何かを思いだしたように声を洩らした

 

「この後、沙紀の所へ行く気だが・・・・・・お前も来るか?」

 

「よ、よろしいのですか!!?」

 

鶴丸からの、まさかのお誘いに こんのすけがピーンと耳と尻尾を立てる

すると、鶴丸はくすっと笑みを浮かべて

 

「もちろんだ。 一緒に沙紀の元へ行こう」

 

「はい!!」

 

鶴丸の言葉に、こんのすけは力いっぱい頷いたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鶴丸」

 

戦装束に着替えていると、長谷部が声をかけてきた

 

「行くのか?」

 

「・・・・・・ああ、そろそろ行ってやらねえと」

 

そう言いながら、その手に「鶴丸国永」を取る

すると、こんのすけが ててててと鶴丸の方に駆けって来て

 

「鶴丸殿~。お忘れ物です~~~」

 

そう言いながら、何かくわえてきた

 

「お、悪いな、こんのすけ」

 

鶴丸が、こんのすけの加えてきた飾りを受け取る

それは、いつも鶴丸が首に付けている金のチェーンで出来たチョーカーだった

 

「・・・・・・お前が、それ外しているのは珍しいな」

 

寝る時も湯あみを使う時も、いつも付けっぱなしだというのに・・・・・・

すると、鶴丸は「ああ・・・・・・」と声を洩らし

 

「“三老”とやり合った時に、あいつらの“呪”の欠片が付いてたからな、今の今まで“浄化”の祝詞が描かれた札で“呪”を消してたんだ」

 

「あ、ああ・・・・・・?」

 

分かる様な、分からない様な鶴丸の説明に首を傾げつつ長谷部が頷く

それを見た鶴丸が一瞬、くつくつと笑った

 

「そんな難しく考える必要はないぜ? 要は汚れたから綺麗にしただけだ」

 

そう言って、なんでもない事の様にその金のチェーンを首に付ける

 

「そうだ、笙達の事頼むな」

 

長谷部にそう言うとその手に端末と簡易転移装置を持つ

 

「じゃぁ、行ってくるからな。 後は、頼んだ」

 

「・・・・・・無茶するなよ。 後、主を必ず連れ帰ってこい」

 

長谷場がそう言うと、鶴丸はふっと笑みを浮かべ

 

「当たり前だろ」

 

そう言って、送り出す長谷部に向かって振り向かずに「鶴丸国永」を持つ手を上に挙げる

そしてそのまま“本丸”の外に位置する転送装置に向かった

 

外は相変わらず、雪と桜が舞う幻想的な景色だった

 

「この任務が無事終わったら、皆で花見でもしたい景色だな・・・・・・」

 

ぽつりとそう呟いた鶴丸に、こんのすけがひょこっと乗っていた肩から顔を出し

 

「いいですね~お花見! 主さまたちとしたいです」

 

「だろ? きっと光忠がお稲荷さんとか作ってくれるぞ」

 

「おいなりさん! きっとおいしいでしょうね」

 

こんのすけがうっとりとしながら言う

その様子に、鶴丸がくすっと笑いながらこんのすけの頭を撫でた

 

「だから、無事戻って来ような、皆で」

 

「はい!」

 

そうして話している内に、転送装置に辿り着く

鶴丸は慣れた手つきで、パネルを操作して、年号や月などを合わせていく

 

『認証します。 西暦1579年 天正7年7月、場所“丹波”への時空を開きます』

 

瞬間、ぱあああっと、鶴丸の足下が蒼白く光った――――と思った瞬間、色が蒼から赤く変わる

 

『識別不能。 現在、この時空への経路・・・・・・・・は解放されていません』

 

出ているパネルがどんどん赤くなり“Error”へと変わっていく――――・・・・・・

それを見たこんのすけが、心配そうに鶴丸を見た

だが、鶴丸は平然としたまま、ぐいっと先ほど身に付けていた金色のチョーカーを外すと、装置の一角に置いた

瞬間―――――・・・・・・

 

『解析コード“00000001” 認証いたしました。 識別コードT1579.07E。 一時的に隔離されたポイントEへの経路を開きます』

 

システムが認証した途端、先程まで赤く“Error”を出していたパネルがどんどん元の色に変わっていく―――――

 

『システム、オールグリーン。 ようこそ。 西暦1579年 天正7年7月、場所“丹波”への時空を開きます』

 

瞬間―――――ぱぁあああああと、足元が光ったかと思うと、鶴丸とこんのすけの姿がその場から消えたのだった―――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――― 丹波・亀山城

 

 

「さ、姫様。 こちらのお召し物をどうぞ」

 

やっと湯殿から上がったと思うと、待ち構えていた侍女に囲まれた

あっという間に着替えさせられ、化粧を施される

 

「あの・・・・・・」

 

流石に、沙紀が声を上げた

すると、侍女は何でもない事の様に、にっこりと微笑み

 

「とてもお似合いです。 これならばきっと殿も、細川様もきっと喜ばれますわ」

 

「細川様・・・・・・?」

 

沙紀が首を傾げると、侍女は「はい」と頷き

 

「姫様の許嫁であらせられます、細川忠興様ですわ」

 

「え・・・・・・?」

 

待って

この人たちは何を言っているのだろうか・・・・・・?

 

まさか・・・・・・

朝、感じた嫌な気配 あれは――――・・・・・・

 

「・・・・・・私の連れが二人いた筈です。 今、何処にいるのですか?」

 

「連れ? 姫様、どうかなされたのですか?」

 

「そうですわ。 姫様は幼い頃からずっとここにいたではありませんか」

 

そう言ってくる侍女に絶望すら感じた

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

駄目だわ、この人たちでは話にならない

沙紀は立ち上がると、すぐさま部屋を出ようとした

が・・・・・・

 

不意に後ろから伸びてきた手が彼女の腕を引き寄せた

 

「きゃっ・・・・・・」

 

突然の事に、思わず声が出る

慌てて振り返ると、そこには見知らぬ青年がいた

 

誰・・・・・・?

 

淡い栗色の髪に、優しげな琥珀色の瞳

それは、初めて見る顔だった

 

すると、周りにいた侍女たちがざっと頭を床に擦り付ける様にして頭を垂れた

 

え・・・・・・!?

 

突然、平伏した侍女たちに、沙紀が動揺の色を示す

 

何? 一体何を―――――・・・・・・

 

「・・・・・・どうかなされましたか、姫」

 

「姫」と呼ばれて、沙紀がびくっと肩を震わせた

沙紀の腕を掴んでいる青年は、不思議そうにこちらを見ていた

 

「・・・・・・・誰・・・・」

 

見知らぬ青年

聞き慣れない呼ばれ方

 

そして―――――・・・・・・

 

「・・・・・・っ、お放し、くださ、い」

 

なんとかそのひと声を絞り出す

すると、青年は「ああ・・・・・・」と、いまだ沙紀の腕を掴んでいることに気付いたのか、慌ててその手を離した

 

「これは、失礼をしました」

 

そう言って、丁寧に頭を下げてくる

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・姫が、あまりにも美しすぎて、どこかへ飛んで行って消えてしまいそうな気がして、つい・・・」

 

沙紀は、ごくりと息を呑んだ

 

どくん、どくん と次第に鼓動が早くなる

 

「・・・・・・ど、なた、です・・・・か・・・・・・・・・?」

 

聞いてはいけない様な・・・・・・

 

 

・・・・・・どくん・・・・・・

 

 

聞かなければいけない様な・・・・・・

 

 

・・・・・どくん・・・・・・

 

 

「僕の名ですか?」

 

 

・・・どくん・・・・・・・・

 

 

「僕の名は―――――・・・・・・」

 

 

聞けば、きっともう元に戻せない―――――・・・・・・

 

 

 

 

  —―――りんさん―――――—―・・・・・・っ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっと、鶴が出発ですwww

ここまで無駄に長かったなあ~笑

 

2022.08.14