華ノ嘔戀 ~神漣奇譚~

 

 弐ノ章 出陣 24

 

 

――――― 丹波・亀山城

 

 

最初から仕組まれていた・・・・・・・・・・・

 

“華号”の授与式がなかったのも

転送装置がロックされていた事も

こうして、この“封鎖されているであろう時間軸”に飛ばされたのも

初任務に“特Aランク”と呼ばれる高ランクの任務が宛がわれたのも

 

 

すべて――――――

 

 

「・・・・・・すみ、ま、せん・・・・・・」

 

声が震える

言葉が上手く紡げない

 

知らず、涙が零れ落ちた

 

「沙紀?」

 

沙紀の異変に気付いた大包平が、そっと沙紀の肩に触れる

その肩は震えていた

 

「・・・・・・なんで、お前が泣いてるんだ」

 

そう大包平が問うも、沙紀は小さくかぶりを振り

 

「わた・・・・・・が、・・・・・か、ら・・・・・・」

 

私が彼らの“審神者”にならなければ―――――

こんな事に、巻き込まなかったかもしれない―――――――・・・・・・

 

「・・・・・・っ、ごめ・・・・・・さ・・・・・・っ」

 

しゃくりを上げて泣き出した沙紀に、大包平が「はぁ・・・・・・」と溜息を洩らした

瞬間、沙紀がびくりと肩を震わせる

まるで、怒られている幼子の様に

 

それを見た大包平が、突然ふわりと沙紀を抱きしめてきた

大包平のその行動に、沙紀がまたびくりと肩を震わせた

 

だが、大包平は沙紀を安心させる様に、背中を優しく撫でると

 

「誰も、お前のせいだなんて思ってはいない。 だから、・・・・・・なんだ、泣かれると―――その、対処に・・・・困る」

 

それでも、沙紀は首を振る

沙紀のその反応に、大包平が

 

「なんだ? 俺の言う事が信じられないのか? だったら、何度だって言ってやる――――お前のせいだなんて誰も思ってはいない」

 

「で、も・・・・・・」

 

もし、私以外の“審神者”だったら?

もし、私が“神凪”ではなかったら?

 

こんな結果にはなっていない

 

「沙紀殿。 私も大包平殿の意見と同じです。 貴女のせいじゃありません」

 

そう言って、一期一振も沙紀の背中をさすってくれる

 

誰も沙紀を責めない

そう――――二人とも、沙紀を責めない

きっと、鶴丸や山姥切国広、三日月達も沙紀を責めないだろう

 

いっその事、お前のせいだと責められ、なじられた方がどんなに楽か・・・・・・

でも、それすらも許されないのだ

 

結局のところ、自分はお荷物にしかなっていなのだと痛感させられる

 

私は、無力だわ

 

こんな状況下にあっても、何をしたらいいのか 何をすればいいのかすら分からない

こうして涙を流していても何も解決などしないと分かっているのに―――――・・・・・・

 

「・・・・・・・・・っ」

 

一度関を切った涙は止まらず――――

沙紀は、大包平の腕の中で泣き続けたのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――― 本丸

 

 

 

「で? 結局どういうことなんだ?」

 

長谷部が腕を組んだまま、難しそうな顔をする

 

先ほど鶴丸は、笙達の“隷属の紋への盟約を断った”と言っていた

だが、実際笙達を守っていた結界を解いたが、彼らには口を開こうとすると何かに阻まれたように喋れなかった

 

それはつまり、まだ何かある――――という事に他ならない

すると、鶴丸は先ほど“三老”から斬り落とした“あるもの”を神台になっている場所にある折敷の神具の白皿の上に置いた

それは―――――・・・・・・

 

「お、お前、それ・・・・・・っ」

 

長谷部が見てはいけないものを見た様な顔をして、視線を逸らした

その白皿の上には斬り落とされた小指があったのだ

その斬った部分からどくどくと血が流れ出ている

 

それはまぎれもなく“三老”の指だった

 

「そんな汚い物、一体何に―――――」

 

長谷部がそう言い掛けた時、鶴丸が血を出し切った指をぽいっと白皿の置いてある折敷の方に避けた

白皿の中に、赤黒い“血”だけが残る

 

「指はたまたま、その方が手っ取り早いと思ったから、それにしただけで、別段他でもよかったんだよな。 ま、理想は心臓に近い血が一番なんだが・・・・・・」

 

と、物騒な事を淡々という鶴丸とは裏腹に、長谷部は今にも吐きそうな顔をしていた

 

鶴丸は、その血の入った白皿を取ると、笙達の所へ歩いて来た

そして、彼らの目の前でしゃがむと

 

「お前ら、胸元出せ」

 

思わず、笙達顔を見合わせる

 

「ああ、痛いのは一瞬だから、安心しろ」

 

「鶴丸? 一体何をするつもりなんだ?」

 

視線を逸らしながら、長谷部がそう問うと、鶴丸は至極真面目な顔で

 

「こいつらに掛けられている血の盟約の紋を消す」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・は?」

 

 

 

一瞬、何を言っているのか分からず、長谷根が素っ頓狂な声を上げてしまう

 

「さっきは、俺が妨害したから助かっただけだ。 まだ紋がある限りこいつらは、それに縛られたままだ。 自由もなく、発言権もない。 人形と同じだな」

 

「いや、だが・・・・・・」

 

相手は、政府の人間で

しかも、諜報機関の“暗部”だ

鶴丸の言い方だと、そこから解放する―――――という風に聞こえた

 

そんな事を勝手にして、大丈夫なのか・・・・・・?

 

そんな疑問が浮かぶ

だが、鶴丸はそんな長谷部とは裏腹に、笙達に尋ねた

 

「お前たちはどうしたい? 自由を得るか―――、それともこのままいつ殺されてもおかしくない政府へ戻るか――――好きな方を選べ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「もし、自由を選ぶなら、今から俺が解放してやる」

 

鶴丸の言葉に、笙達が大きく目を見開いた

 

“自由―――――”

という言葉に心が揺れているのか、それとも信じきれないのか

笙達の反応は「困惑」だった

 

それはそうだろう

今まで誰一人として“暗部”だった者が“暗部”で無くなるのは“死んだときのみ”だった

だが、目の前の鶴丸は、“生きたまま”で“暗部”という束縛から解放するというのだ

それも、一度自分に刃を向けた相手に向かって―――――・・・・・・

 

信じろという方が無理な話だった

しかし・・・・・・

 

事実、鶴丸はあやうく“三老”に殺される筈だった自分達を助けてくれた

それは、まぎれもない事実だった

 

笙が、焼けるような痛みを我慢して口を開く

 

「そ、・・・・・は、信じ、と・・・・・・?」

 

それで、鶴丸には伝わったのか、小さな声で「ああ」と答えた

 

「必ず解いてやるから安心しろ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

笙達が今一度、顔を見合わす

そして、鶴丸の方を見ると、小さく頷いた

 

それを答えと判断したのか―――――

鶴丸は、持っていた血の入った白皿に人差し指と中指を漬けた

そして、その血の付いた指で笙達の胸元に謎の紋を描いて行く

 

すると、胸が痛んだのか・・・・・・

笙達が「うっ・・・・・・」と、顔を顰めた

 

「少し我慢しろ」

 

鶴丸がそう言う

3人の胸元にその紋を描くと、鶴丸はその白皿を床に置いた

 

そして、依り代に同じような紋を描く

 

すると、それは起きた

ずすすすす・・・・・・と、笙達の心臓に刻まれていた紋が浮き上がってきたのだ

そして、それぞれの依り代の左胸にその紋が移る

 

「こんのすけ」

 

鶴丸がそう呼ぶと、こんのすけは、たたっと走ると、その依り代を神台の篝火にくべた

瞬間――――――――――

 

 

 

 

ギャギャギャギャギャ・・・・・・!!!!

 

 

 

 

何処からともなく、おぞましい鳴き声が聞こえてきた

そう――――先ほど鶴丸が刀の刃を和紙で拭いて、その和紙を用意してきた角盥の水の中に漬けた後に出てきた、あの不気味な鴉が3匹

 

篝火の中で悶え苦しんでいる

最初は抵抗する様に暴れていて、篝火が倒れるんじゃないかと思う程だったが、

それは次第に収まり、そのまま静かになった

 

それと同時に、依り代が跡形もなく消えていく―――――

 

それを見届けた後、鶴丸は小さく息を吐き

 

「もういいぞ、喋れるだろ?」

 

そう言って、笙達を見た

言われて、喋るとあれだけ傷んだ喉の焼けるような痛みが消えていた

 

「一体何を―――――」

 

笙が鶴丸を見てそう呟いた

すると、鶴丸はさも当然の様に

 

「血の盟約は、同じ血でしか消せない――――。 お前らの盟約主は“三老”だった。 だからそれを解くには、“三老”の血が必要だった。 そして、今それを解放したって訳だ」

 

さも、当然の様にそういう鶴丸に、笙達は信じられないものを見た様に放心していた

だが、それは笙達だけではなかった

 

「鶴丸・・・・・・、お前なんでそんなことまで知ってるんだ?」

 

そうだ

普通の刀剣男士が知るはずのない事を鶴丸は知り過ぎている・・・・・・・

すると、鶴丸は一瞬だけその金の瞳を瞬かせる

が、次の瞬間、ふっといつもの様に笑みを浮かべ

 

「まぁ、俺は7年も政府にいたからな。 色々と・・・知ってるってだけだ」

 

「・・・・・・それ、だけなのか?」

 

「ああ、それだけ・・・・だな」

 

言いたくないのか

それとも言えないのか―――――・・・・・・

 

鶴丸は何かを隠している

そんな気がしてならなかった

 

だが、今鶴丸はそれを話す気はなさそうだった

 

鶴丸・・・・・・お前は、一体・・・・・・

 

そう思うも、今の長谷部にはそれを聞くことは出来なかった―――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――天正7年7月・丹波 山姥切国広部隊

 

 

 

ふと、目が覚めて 山姥切国広はゆっくりと起き上がった

 

「・・・・・・っ」

 

瞬間、身体のあちらこちらが軋む様に痛かった

その痛みを我慢しつつ辺りの様子を見る

 

そこは、見知らぬ屋敷の中の一室だった

外はまだ夜が明けておらず、暗いままだ

 

俺は・・・・・・どのくらい眠っていたんだ・・・・・・?

 

そう思って、薬研などを探すが姿が見当たらない

そもそも

 

「ここは、どこだ・・・・・・」

 

先ほどまで、外にいた筈だ

それも街から離れた郊外に

 

それなのに、ここは見るからに誰か所有の屋敷の様だった

山姥切国広は、痛む身を引きずりながら壁つたいに立ち上がると、外の廊下に出た

 

視界に立派な庭が入る

それは、初めて見る庭だった

 

「・・・・・・・・・・・・?」

 

いまいち事態がつかめない

 

「薬研? 膝丸、髭切!」

 

仲間の名を呼んでみるが・・・・・・

反応はない

 

一体、何処へいったんだ・・・・・・?

そう思い、辺りを見渡すが―――――・・・・・・

 

見覚えのない屋敷のせいで、どこをどう歩いたらいいのか分からない

それに歩くたびに、全身に痛みが走る

 

だが、一応歩けるまでは復活した・・・・・・と言っていいのかは分からないが

先ほどよりかは、マシな気がした

 

問題は―――――・・・・・・

 

もう一度、辺りをくまなく見る

が、誰一人いない

 

一体・・・・・・

ここはどこなんだ!!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大侵寇終わって、初の刀剣なんですが・・・・・・

最初、鶴が何をする予定だったかすっぽ抜けてて大変でした(^◇^;)

だって約2カ月、大侵寇だけ書いてましたからね!!!

謎の、後遺症が残るとはwww

 

 

2022.06.23