華ノ嘔戀 ~神漣奇譚~

 

 弐ノ章 出陣 22

 

 

―――――天正7年7月・丹波 山姥切国広部隊

 

 

夢を―――――見ていた

初めて沙紀に出逢った時―――――彼女の周りには沢山の敵がいた

 

何故か、“護らなければ―――――” と、思った

それから、鶴丸が去り・・・・・・沙紀はずっと泣いていた

 

どうにかしてやりたかったが、写しの自分に出来る事など何もなかった

鶴丸を説得する事も、沙紀を慰める事も、出来なかった

 

自分に出来たことはただ一つだけ

沙紀の――――彼女の傍に居る事だけだった

 

もし・・・・・・あの時、俺でなければ、もっと別の方法があったのかもしれない

でも、俺には何も浮かばなかった

 

何故なら、俺は本物ではない―――――単なる“写し”だから

山姥切長義を元に、作られた“写し”――――――

 

俺は、“山姥切”の“写し”であり、“山姥切”ではない―――――

 

そんな俺に、何が出来るというのだろうか

彼女の・・・・・・沙紀の為に一体何が――――――・・・・・・

 

辛い

彼女の役に立てない事が―――――苦しい

 

この感情は、何なのか・・・・・・

俺は、彼女が・・・・・・沙紀が――――――・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぱちぱち・・・・・・

 

 ぱちぱちぱち・・・・・・

 

 

遠くで、焚火の音が聴こえてくる

山姥切国広は、何度目か分からない瞼をゆっくりと開けた

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

瞬間、ずきりっと全身が痛んだ

 

「・・・・・・・・・・・・っ」

 

声にならない、声が上がる

全身が痛い

 

「うっ・・・・・・・・・」

 

頭がぼんやりする

明らかに、普通でない自分の状態に、山姥切国広は戸惑いすら覚えた

 

山姥切国広は、どさっと寄り掛かっている樹にもたれかかった

天を仰ぐと、満天の星空が目に入った

 

彼女は――――沙紀は無事だろうか・・・・・・

 

そんな事を考えていた時だった

 

「山姥切の旦那」

 

不意に、焚火の傍に居たであろう薬研に話しかけられた

彼は山姥切国広の傍までやってくると、すっと何かを指しだした

 

それは、どす黒い謎の液体だった

 

「・・・・・・これは・・・・?」

 

なんとなく、予想は付いたが一応聞いてみる

すると、薬研な何でもない事の様に

 

「痛み止めと、解熱効果のある薬湯だ。 飲めるか?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

受け取ると、何とも言えない独特の匂いがした

これを、飲めというのだろうか

 

出来る事ならば遠慮したいが――――・・・・・・

 

今はそんな事を言っている場合ではないのは、分かっていた

一刻も早く、せめて身体が動く様にしなければ――――・・・・・・

 

そう思い、山姥切国広は一気にその薬湯を煽った

瞬間、喉が焼けるような、気持ちの悪い様な、何とも言い難い感覚に捕らわれた

 

「げほっ・・・・・・、げほげほっ・・・・・・」

 

思わず、咽る

 

「一気に飲まずに、ゆっくり飲んだ方がいい」

 

薬研にそういわれたものの、これを味わいながら飲む勇気は、流石の山姥切国広にはなかった

ので、残りも一気に飲み干す

 

「うっ・・・・・・」

 

口と胃の中が、気持ち悪すぎる

それでも、何とか飲み干し空となった器を薬研に返す

 

「ゆっくり飲めって言ったのに・・・・・・、まぁ、飲んだならいいさ。 時期に痛みも引くだろう。 傷の方はどうだ?」

 

そう言って、山姥切国広の傷を見る

 

致命傷になる傷は幸いなかった

 

「今、旦那が感じてる熱は、傷からきているものだ。 今の薬湯には解熱効果もあるから、その内熱も下がるだろう。 ああ、そうだ」

 

そう言って、薬研が一度焚火に方に戻ったかと思うと、何かを持って戻ってきた

 

「食事が出来そうなら、食べてくれ。 回復が早くなる」

 

渡されたのは、串に刺された肉と、汁物だった

 

「これは・・・・・・?」

 

山姥切国広がそう尋ねると、薬研は「ああ・・・・・・」と声を洩らしながら

 

「兎だ、良質な高たんぱく質が含まれてるし、体力回復に丁度いいんだ。 まぁ、本当ならヒグマでも狩ってきた方が滋養にはいいんだが・・・・・・」

 

「ヒグマ・・・・・・」

 

「ああ、滋養強壮にはヒグマの肉が一番いい。 でも、まぁ、処理が大変だからやめておいた」

 

「そ、そうか・・・・・・」

 

薬研なら、普通に狩ってきそうで怖い

想像しただけで、身震いがした

 

「とにかく、まずは体力の回復に専念してくれ。 勿論、傷の治療もだが・・・・・・体力が回復すれば、時期に傷も体内の自己再生機能が活発に動く様になる」

 

「・・・・・・ああ、わかった」

 

薬研の言う事は正しい

ひとの身体には、刀にはない「自己再生能力」がある

軽い傷程度なら、数日で直る

でも、それは体力や生命力が正常であるときの話だ

 

今の山姥切国広では、時間がかかる

だから、滋養の付くものを食し少しでも、回復に専念しなくてはならない

 

時間遡行軍はまたいつ来るかは分からない

彼らに、こちらの都合など関係ないのだから

 

ならば、なおさら早く動けるようにならなければならない

 

と、その時だった

 

「あの・・・・・・」

 

不意に、見知らぬ女から声を掛けられた

声からして年配風の女性は、頭からすっぽりかぶっていた外套を脱ぐと、山姥切国広に頭を下げてきた

 

「・・・・・先ほどは、お嬢様をお助け頂き、ありがとうございました」

 

そう言って、深々と頭を下げる

 

「・・・・・・?」

 

山姥切国広が一瞬、少しだけ首を傾げた

 

「お嬢様・・・・・・?」

 

山姥切国広がそう尋ねると、女性は「はい」と答え、少しだけ後ろを見た

彼女の視線の先を見ると――――そこには、深く外套をかぶった1人の少女がいた

 

どうやら、この女性の言う「お嬢様」らしい

そちらを見ると、少女が少し顔を赤らめ小さくぺこりと頭を下げた

 

「ああ・・・・・・怪我はなかったのか?」

 

そう尋ねると、少女はこくこくと頷いた

まるでそれが小栗鼠の様で、山姥切国広がふっと微かに笑みを浮かべると

 

「そうか、それならよかった」

 

そう言って、特に気にした様子もなく、持っていた兎の肉を口に含む

まるで鶏肉の様な味わいのある感じだった

 

これから、どうする?

まずは、身体を動かせる状態にしなければならない

それから、沙紀を探して・・・・・・

ああ、そういえば、鶴丸に定期報告しなければならい事を忘れていた

 

ガラシャの問題もある

一度、報告を先に――――――・・・・・・

 

と、考えていた時だった

 

「あ、あの!!」

 

突然、その少女が声を上げた

大きな声だったので、山姥切国広以外も少女を見た

 

流石に、注目が自分に集まったが分かったのか

少女がかぁ…っと、頬を赤く染めた

 

「あ、あ、あの・・・・・・」

 

それでも、何かを言おうと必死に口を開く

 

なんだ?

 

山姥切国広が首を傾げていると

ふと、少女の後ろから若い女性の声が聴こえてきた

 

「玉? はっきり言わないと分からないわよ?」

 

そう言って、玉と呼んだ少女の肩をぽんぽんっと叩いた

 

「あ・・・・・・市姉様」

 

少女がそう言うと、その女性はにっこりと微笑んで

 

「初めまして。 この度は彼女を助けて下さってありがとございました。 申し遅れました。 私は市、彼女は玉子と申します。 差し障りが無ければお名前をお伺いしても?」

 

市と名乗った女性は、礼儀正しく頭を下げると、名を訪ねてきた

 

「俺たちは・・・・・・」

 

そこまで言いかけて、ちらっと薬研達の方を見る

薬研がそれに気づき、少し考えた後こちらにやってきた

 

「悪いな、お嬢さん方。 こいつは、今怪我で安静にしてなきゃいけないんだ。 話なら俺っちが聞くよ」

 

薬研のその言葉に、市が「まぁ・・・・・・」と声を上げて

 

「それでしたら、私が今お世話になっている場所で養生されては如何ですか? その方が怪我も早く治りますでしょう?」

 

そう言って、にっこりと微笑んだ

 

「そいつは、ありがたい。 お言葉に甘えても問題ないかい?」

 

薬研のまさかの返しに山姥切国広が慌てて、薬研の腕を引っ張る

 

「(おい! 何考えて――――――)」

 

「(・・・・・・今は、旦那の回復が最優先だ。 ここより、屋根のある所の方がずっといい)」

 

「(だが――――)」

 

「(いいから、ここは俺っちに任せてくれ)」

 

「あの・・・・・、どうかなさいました?」

 

市がそう尋ねてくる

すると、薬研は何でもない事の様に

 

「いや、なんでもないさ。 それよりも――――俺たちは男四人いるんだが、お嬢さん方の屋敷に入れても問題にはならないのかい?」

 

薬研がそう尋ねると、市はくすっと笑みを浮かべ

 

「大丈夫ですよ。 この子の旦那様もいらっしゃいますし。 私の娘たちもいます。 それに、家人も何人もいますから四人増えても、さして問題にはなりませんわ」

 

「・・・・・・そうか、それなら安心だ。 案内してもらっても構わないかい? 後ろの旦那を早く休ませたいんだ」

 

そう言って、薬研が山姥切国広の方を見る

それを見た市も、納得いくようで

 

「そうですね、薬師も手配いたします。 では、参りましょうか。 えっと・・・・・・」

 

そこで、はたっと名乗らなかった事に気付く

さりげなく、話を逸らしたのだが・・・・・・

流石に、名乗らないといけなさそうだ

 

薬研は一度だけ山姥切国広の方を見ると

 

「俺っちは、藤四郎。 あっちの怪我してるのは国広。 それから――――」

 

と、髭切は「友切」 膝丸は「薄緑」と伝えた

 

市はそれを聞くと、にっこりと微笑んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――― 丹波・亀山城

 

 

「・・・・・・どうするのですか?」

 

部屋に戻った沙紀が開口一番に言ったのはそれだった

とりあえず、先ほどの「細川家へ当家の姫として嫁いでほしい」という案件は、一期一振が少し時間をくれと言って下がってきたのだが・・・・・・

 

「どうもこうもないだろう。 あんなの却下だ! 却下!!」

 

大包平が、ふんっと息を荒くしながらそう言い切った

 

「私も、大包平殿の意見に賛成です。 沙紀殿を嫁がせるわけにはいきません」

 

「それは―――そうですが・・・・・・。 どうも、腑に落ちないのです」

 

「腑に落ちない、とは?」

 

「何というか、こう・・・・・・“違和感”を感じるのです」

 

「“違和感” ですか?」

 

一期一振が、沙紀を見る

沙紀は小さく頷くと、持っていた端末から地図を出した

その地図は、こんのすけから受けたもので、日本地図の真ん中より下のあたりが少しだけ点滅している

 

「これは、任務を受任した折にこんのすけから頂いたデータです。 ですが――――・・・・・・」

 

沙紀はすっと、その点滅している所を指した

 

「この位置―――――ここは、“丹波”と呼ばれる地域だと思います。 そして私たちがいるのも“丹波”。 なのに、微弱な干渉を察知とこんのすけは言っておりましたが・・・・・・そもそも、それは正しかったのですか? “隔離された歴史”に干渉ではなく、“本来の歴史”に干渉なら微弱だったのですか? 私は、最初このお話を聞いた時、何か嫌な予感がしていたのです。 ・・・・・・口でどう言い表せばよいのかわかりませんが・・・・・・。 何かが“違う”と囁くのです。 これは“微弱”な干渉などではなく――――――」

 

「ふ、はは、ははははは!」

 

突然、大包平が笑い出した

あまりにも、唐突だった為、沙紀と一期一振が顔を見合わす

 

「大包平さん? 何か――――知っているのですか?」

 

沙紀がそう問うと、大包平は自分の端末を持ち、沙紀と同じパネルの地図開いた

そこには―――――

 

 

「これは――――――・・・・・・」

 

 

“丹波”の付近が真っ赤に大きく染まっていた

しかも、何やらノイズの様なものがジリジリ・・・・・と走っている

 

「やはり、お前は噂の石上神宮の“神凪”のようだな、沙紀」

 

「え・・・・・・?」

 

大包平にはその事は話していない

それなのに、何故――――・・・・・・

 

大包平は、さも当然の様に

 

「この際だから、はっきり言っておく。 お前らに宛がわれた任務は、新任の“審神者”が宛がわれる様なランクの任務ではない。 これは特Aランクの任務だ――――最低でも、特Aランク以上の“審神者”が担うべき内容だ」

 

「なっ――――」

 

「え、それでは・・・・・・」

 

 

「お前たちは、政府の上層部に嵌められたんだよ。 ――――本来、“審神者”就任と同時に行われる“華号”すら与えずに、どこまでやれるのかと――――な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さあさあさ! まんばチームのターンでっす!!

新たに登場しました、まんばのいる時間軸の玉子と市

っで、思ったんですけど・・・・・・

これ、任務のまとめ的なのいる???

ややこしくなってるからなぁ~💦

 

 

2022.04.03