華ノ嘔戀 ~神漣奇譚~

 

 弐ノ章 出陣 21

 

 

 

――――― 本丸

 

 

 

 

 

 

『ひゃははははははは!!! 壊れろ!! 壊れろおおおおお!!!!』

 

 

 

 

 

 

“おぞましい”

 

きっと、その言葉が一番しっくりくるだろう

それぐらい、“三老”の叫びは、不気味だった

 

だが、長谷部はそれどころではなかった

 

 

 

 

「鶴丸―――――――!!!」

 

 

 

 

名を呼ぶが、返事はない

あの時の、禍々しい“呪”が鶴丸の身体を這い上がっていっていたのが、脳裏を離れない

 

まさか、本当に刀解されたとか言わないよな・・・・・・?

お前に限って、そんな事はないよな?

 

そう、思うのに

不安な気持ちが後を絶たない

 

 

 

『ひゃはははははは! 愚か!! 愚かよのう!!!』

 

 

『まこと愚かじゃ!!!  期待するだけ無駄ぞ!! へし切長谷部! 鶴丸国永はたった今我らの手によって粉々に壊してやったわ!!!』

 

 

『我らに逆らうとどうなるか・・・・・・、その身で思い知るがよい!!』

 

 

薄気味悪い影が、そう叫ぶ

“三老”――――――政府の最高権力者

 

ぎりっと、長谷部が奥歯を噛みしめた

刀を持つ手に力が籠る

 

「なにが・・・・・・“三老”だ。 ・・・・・・なにが、政府だ・・・・。 貴様ら何ぞに・・・・鶴丸がやられるものかあああ!!!!」

 

そう叫ぶな否や、持っていたへし切長谷部を抜き切った

 

「いけません!!! 長谷部殿!!」

 

こんのすけが止めるが、もう長谷部には聴こえてなかった

抜き切ったへし切長谷部を持ったまま、“三老”に斬りかかる

 

それをみた“三老”がにたぁっと笑った

 

 

『――――愚かなり、へし切長谷部よ』

 

 

そう言って、すっと先ほどと同じ“呪”が、ずずずずず・・・・・・と長谷部の方へ伸びて行こうとした瞬間――――――・・・・・・

 

 

 

 

 

「――――ったく、勝手に死なれちゃぁ困るんだけどな。 驚きも何もあったもんじゃない」

 

 

 

 

どこからともなく、聴き覚えのある緊張感のない声が聴こえてきた

 

 

刹那

 

 

 

 

ぱきいいいいいいいん

 

 

 

 

 

何かを弾くような音が、鍛刀部屋一帯に響き渡った

 

「・・・・・・はっ、この程度か。 所詮は腐ったじじどもだな」

 

そう言うなり、長谷部の前にどこからともなく鶴丸が姿を現した

 

「―――――鶴丸!!!」

 

長谷部が、はっとしてそちらを見る

鶴丸の身体には、先ほどの“三老”の“呪”が禍々しく纏わりついていた

彼の纏う衣も黒いままだ

 

「・・・・・・おま、え。 ぶじ、な、のか・・・・・・?」

 

半信半疑にならざる得ない、鶴丸のその姿に長谷部が大きく目を見ひらく

すると、鶴丸は何でもない事の様のに

 

「――――まぁ、ちょっとばかし、痛みはあったかな」

 

と、あっけらかんとした言葉を返してきた

 

「だが、お前―——その姿は・・・・・・」

 

白かった衣も、銀色の髪も―――金の瞳以外、全て黒く染まっている

とても正常な状態とは思えなかった

 

すると、鶴丸は「ああ・・・・・・」と声を洩らし

自身の前髪をちょいちょいっと触った

その中で変わらなかった金色の瞳・・・・・・・・・・・が、“三老”を見る

 

“三老”が、目の前に現れた鶴丸を見て、わなわなと震えあがる

 

 

『なぜ、まだ人形ひとがたを保っているのだ・・・・・・っ!? 鶴丸国永!!!』

 

『我らの“呪”は、“完璧”だった筈!!!』

 

『そうじゃ!! 我らの“呪”は、“完璧”なのだ! 故に、貴様はここにいる筈がない!!!!』

 

 

“三老”の叫びに、鶴丸が「はっ・・・・」と、乾いた笑みを浮かべた

そして、ゆっくりとした動作で、持っている真っ白・・・な“鶴丸国永”をすぅ・・・・・・と、抜き

 

 

「なぁ、どうして俺がここを選んだ・・・・・・と思う?」

 

「は?」

 

一瞬、何を問われているのか分からず、長谷部がいぶかし気に眉を寄せる

 

「それはなぁ・・・・・・」

 

ニッと、鶴丸がその口元に笑みを浮かべたかと思うと―――――・・・・・・

 

 

 

 

 

「―――――こうするためだよ!!!!」

 

 

 

 

 

そう叫ぶな否や、鶴丸が思いっきり持っていた鶴丸国永を床に突き刺した

瞬間―――――――・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

どん!!!!

 

 

 

 

 

 

けたたましい音が響くと同時に、それ・・に共鳴するかのように、部屋中の鈴が鳴り響きだした

 

 

刹那

 

 

それは、起きた

 

鶴丸国永の刀身を媒体に、鶴丸本人を黒く染め上げていた“三老”の“呪”が、逆流しだしたのだ

一気に、その“呪”が“三老”の方へ向かっていく

 

だが、“三老”はそれをあざ笑うかのように

 

 

 

『我らの“呪”を返したところで何も変わら―――――――』

 

 

 

「変わらぬ」と言い終わる前に、“三老”の一人がその“呪”に飲み込まれ、真っ黒く染め上がっていく―――――

そう――――まるで、腐って崩れ落ちるかのように

 

驚いたのは、残りの二人の“三老”だった

 

 

『か、は・・・・・・っ、なに、を―――――』

 

 

最後の言葉を言い終わることなく、その一人は“呪”に飲まれて――――果てた

長谷部には何が起きているのか、さっぱり分からなかった

 

分かっているのは、“三老”の一角が崩れ落ちたという事だけだった

 

『鶴丸国永!! 我らに何をした!!!?』

 

『単なる刀風情が、我らを本気にさせるとは・・・・・・愚かなり!!!』

 

“三老”がそう叫ぶが、鶴丸は はっとあざ笑うかのように、笑みを浮かべ――――

 

「本気? ああ、その程度・・・・でか? ―――――笑わせる」

 

そう吐き捨てると、床に突き刺していた鶴丸国永を抜いた

そして、すらっと“三老”の方に刀身を向ける

 

「お前らの“呪”を丁重に返しただけだぜ? 自分たちの“呪”がどの程度のものか・・・・・・自身の身で味わうんだなぁ!!!」

 

そう言うが早いか

鶴丸が一気に、床を蹴った

 

そしてそのまま、真っ黒な・・・・に染まった・・・・・鶴丸国永を“三老”めがけて振り下ろした

 

 

 

 

『ぎゃあああああああああ』

 

 

 

 

 

“三老”の断末魔の様な叫び声が部屋中に木霊する

鶴丸国永の刀身の“呪”が、全て“三老”に移っていく

 

おびただしい程の“呪”が残り二人の“三老”を絡め捕らえた

 

 

 

『いたい いたい いたい いたい いたい いたいいいいいいいいい!!!!』

 

 

 

 

 

おぞましい声と共に、“三老”がうごめく

その目は充血し、気持ちの悪い程のよれよれの手が鶴丸を指さす

 

 

 

『愚かなり! 鶴丸国永!!!』

 

 

『貴様だけは、許さぬ!! ゆるさぬ ゆるさぬ ゆるさぬ!!!!!』

 

 

 

だが、鶴丸は平然としたまま

鶴丸国永を横に凪いだ

 

すぅ・・・・・と、それまで黒く染まっていた刀身が白く変わっていく―――――・・・・・・

 

「なにをどうするって? いつでも相手になってやるぜ? じじいども。 ああ…」

 

ふと、鶴丸が何かを思い出したかのように、言葉を発したかと思うと――――

しゅっと、持っていた鶴丸国永の刀身を“三老”の手を斬った

 

 

 

『ぎゃああああああああああ』

 

 

 

耳障りなほどの声というべきなのか

“何か”が、叫んだ

 

「悪いが、こいつは貰うぜ」

 

そう言って、何でもない事の様に鶴丸が“何か”を拾う

 

それを見た“三老”は、わなわなと震えながら

 

 

 

『鶴丸国永・・・・・・この事は、忘れぬ!!!』

 

『いずれ、我らがその身を滅ぼしてやろうぞ!!!!』

 

 

 

そう吐き捨てると、そのままで出来た時と同じくずずずずず・・・・・・と、姿を亜空間へと消していった

 

ぶつ・・・・・・ん、とまるで“通信”でも切れたかのように、部屋中の鈴が鳴りやむ

 

完全に、“三老”が撤退したのを見届けた後、鶴丸は小さく息を吐くと、持っていた鶴丸国永に付いた穢れを払うかのように、刀身を横に凪いだ後、鞘に仕舞った

 

鶴丸の姿は、いつの間にか元の白い姿に戻っていた

 

「・・・・・・鶴丸・・・・」

 

「ん、ああ、どうした? はせ―――――「鶴丸!!!!」

 

鶴丸が「長谷部」という前に、長谷部が鶴丸の肩をぐわしっと掴んだ

 

「お前っ、無事なのか!!? ちゃんと、本物の鶴丸だよな!!!? というか、どーいう事だ説明しろ!!! 俺は、俺は―――――主になんと言って謝ろうかと―――――!!!!」

 

最早、長谷部が何を言っているのか、支離滅裂である

 

鶴丸は、はは・・・・と、苦笑いを浮かべながら

 

「と、とりあえず落ち着け、長谷部」

 

そう言って、自分の肩を掴む長谷部の手を叩いた

 

「なにが落ち着けだ―――――!!! これが、落ち着いてられるかああああああ!!!!」

 

長谷部がそう叫んだのは、言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――― 同時刻・天正7年7月・京 三日月宗近部隊

 

 

ふと、三日月がその足を止めた

それに気づいた、燭台切と大倶利伽羅が振り返る

 

「三日月さん? どうかし――――」

 

燭台切がそう言い掛けた時だった

ふと、三日月が人差し指を口元に当てて「静かに・・・・・・」と、呟いた

 

瞬間――――――

 

 

 

『ぎゃああああああああああ』

 

 

 

気持ちの悪い“声”と言うべきか

何かが、空間を割いて聴こえてきた

 

驚いたのは、他でもない燭台切と大倶利伽羅だ

素早く、臨界体制に入るが―――――

 

すっと、三日月がそれを手で制した

 

「案ずる必要はない。 ここ・・ではない」

 

「ここじゃない?」

 

大倶利伽羅がいぶかし気に、三日月の言葉に眉を寄せる

だが、燭台切は何かに気付いたかのように――――・・・・・・

 

「まさか、沙紀君達の身に何か―――――・・・・・・」

 

「いや、そちら・・・でもないな。 これは、恐らく・・・・・・」

 

 

座標の位置から察するに―――――おそらく“本丸”

 

 

「ふむ・・・・・・あれほど言っておいたのに。 鶴め、やらかしおったな」

 

「え? 鶴さん?」

 

突然出てきた鶴丸の名に、燭台切が首を傾げる

すると、抜きかけた刀から手を離した大倶利伽羅が、三日月を見た

 

「・・・・・・国永が、何かしたんだろ」

 

そう言って、小さく息を吐く

すると、三日月は「はっはっは」と笑いながら

 

「うむ、まぁ、過程はどうであれ、“結果良ければすべて良し” という所かの。 ・・・・・・まぁ、鶴には少しばかり、灸をすえねばならぬがな」

 

「え? あの、一体なにが・・・・・・???」

 

三日月に灸をすえられなければならないほどの、“何か”をしたのだろうか・・・・・・?

いまいち、三日月の言わんとすることが分からず、燭台切が首を傾げる

 

「あの、鶴さんは無事、なんですよね?」

 

一応、安否を確認する

すると、三日月はさも当然の様に

 

「ああ、まぁ、今頃は長谷部のお説教を受けているかもしれんがな」

 

はっはっはと、笑いながら鶴丸から受け取った端末を取り出す

 

「まぁ、鶴の与太話は置いておいて、我らはそろそろ“あちら”へ移動するぞ」

 

幸い、座標軸は変わっていない

これならば―――――端末を使って簡易転送で沙紀達の居る“天正七年七月の丹波”に行けそうだ

 

なにもなければ―――――だが

 

そう――――なにもなければそれがい一番早い が・・・・・・

 

「ふむ・・・・・・」

 

気のせいか

微かだが、妨害電波を感じる

 

“何か”が、この時間軸へ“これ以上の干渉をさせないように”しているような

思い当たるのは一つ――――歴史への抑止力だ

 

この場所は、あくまでも“改変された天正七年七月の丹波”――――つまりは、沙紀達の居る丹波に繋がっている京

 

上手い具合に移動出来れば、恐らく沙紀達と合流出来るだろう

だが―――――・・・・・・

 

もし、ここで転送時に抑止力が働くと――――・・・・・・

 

「ふむ、ちと厄介だな」

 

すっと、袖の袂に仕舞っている、自身の端末を手に取る

こちらならば、ある程度干渉を抑えられるかもしれない―――――・・・・・・

 

だが、簡易装置はそうもいかない

三日月の持つ端末だけでは移動は不可能なのだ

 

数日時間は掛かるが、装置を使わずに行くのが一番確実だ

だが、それでは――――――・・・・・・

 

この時空軸も、いつまで・・・・開いているかは分からない

おそらく、本丸の件が片づけは鶴丸が沙紀の元へ行くだろう

 

本丸からならば、おそらく―――――沙紀達が飛ばされた時間軸の干渉はここからよりは、ましな筈だ

 

鶴丸に花を持たすようで少々癪だが・・・・・・

 

 

 

俺は彼女を――――沙紀を二度と失わない為に

 

 

 

          “ここ”来たのだから―――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回は、鶴丸とじじいチームでーす

といっても、メインは本丸ですけどね!!

この後、きっと長谷部のお説教タイムが始まるのかな・・・・ははは

頑張れ、鶴丸!!

 

じじの方は、何やら含みのある終わり方で・・・・・・ふふふ😇😇😇

なんでしょうかねえええええ?

 

 

2022.03.16