華ノ嘔戀 ~神漣奇譚~

 

 弐ノ章 出陣 20

 

 

 

『――――どうか、沙紀殿には当家の“姫”として、

 

       細川家に嫁いで頂きたい―――――・・・・・・・・・・・』

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

一瞬、何を言われたのか、理解出来なかった

 

嫁ぐ・・・・・・?

わたし、が・・・・・・?

あまりにも予想外の申し出に、頭が追い付かない

 

「あ、あの・・・・・・それは、どういう―――――」

 

そう沙紀が言い掛けた時だった

 

 

 

「――――ふざけるな!!!! 何故こいつをお前らの都合で、どこの輩とも分からない連中に嫁がせなきゃならない!!! こいつは、俺の婚約者・・・・・だぞ!!?」

 

 

 

大包平の怒声が響き渡った

それに続く様に一期一振も怒りを露にする

 

「彼の言う通りです!!! 何故、うちの妹を貴方がたの都合で、細川家に嫁がせなければならないのですか!!? 日向守殿にご息女がおありでしょうに!」

 

一期一振の言う事はもっともだった

明智光秀には複数の“姫”いる筈である

しかも・・・・・・

 

細川家ならば、嫁ぐのは玉子の筈だ

だが、ここに存在する“玉子”は――――・・・・・・

 

十にも満たない少女が、自分の駆け寄ってきたのを思い出す

嫁ぐには、幼過ぎる

 

すると、光秀は申し訳なさそうに

 

「焔殿や御兄君が、お怒りになるのは、もっともな事だとは重々承知しております。 しかし! 我が家にはもう、娘は十にも満たない玉子しかおりません。 そんな彼女を細川家に嫁がすなど――――――」

 

親としては、そんな非道な仕打ちしたくないのだろう

だから、年頃の替え玉となってくれる“少女”を探していたのかもしれない

 

「勿論、ずっとという訳では御座いません。 少しの間だけで良いのです。 細川家と話し合って、玉子が年頃になれば嫁がせるという事になっております。 ですから、その間だけでも―――――」

 

「――――その間? それは何年後の話だ!! 入れ替えるまで沙紀に玉子の振りをしろというのか!!? そんなの納得行くわけないだろう!!?」

 

ばんっと、大包平が激しく床を叩いた

 

「・・・・・・少なくとも、玉子殿が適齢期になるまで、五年・・・・・・下手すれば、十年かかるのではないのですか? それを分かった上で彼女に身代わりとなり嫁いでほしいと? ――――まさか、本気で言っているわけではないですよね?」

 

そう言って、一期一振が にっこりと微笑む

が、目が笑っていない

 

「それは――――・・・・・・」

 

流石の、光秀も言葉を濁らせた

しかし、一期一振の攻撃という名の言葉は それだけではなかった

 

「万が一 ――――――、その細川家の方が彼女に本気になったらどう責任を取るおつもりですか? 身内贔屓ではなく、うちの妹はもう誰が見ても、可憐で可愛く美しいですから、勿論、器量もよし、性格もよし、非の打ち所がないとはまさにこの事でしょう。 細川家の方が彼女を見て、惚れない訳がありません。 いいえ、十中八九 惚れるでしょう!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

流石の、沙紀も一期一振の言葉に顔を真っ赤にさせて俯く

恥ずかしすぎる・・・・・・

 

光秀が、困ったように沙紀を見た

まさか、沙紀からではなく、周りからこうも反対されるとは思わなかったのだろう

 

何故なら、この話を受ければ “明智家の姫” としての身分が手に入るのだ

今この国で明智家の姫という身分は大きな意味を成す

何故ならば――――光秀は主である、織田信長の一番の出世頭だからだ

 

もしや、沙紀たちはどこかの大名の姫なのだろうか?

身分を隠しているのだろうか?

 

しかし、光秀の知る限り彼女が何処の家の者かという情報は持ち合わせてなかった

だから、沙紀達に頼めば、了承してくれるのではないかと―――――

 

淡い、期待をしていたのだが・・・・・・

 

「・・・・・・仕方ないのです。 もし、細川家の方が沙紀殿を気に入り、沙紀殿も構わないのであれば、そのまま細川家にいてくださっても構いません。 ですから――――――」

 

 

 

 

 

 

「―――――は?」

 

 

 

 

 

 

 

大包平の鋭い声が部屋に響いた

 

「沙紀が気にいる? 貴様・・・・・ふざけるのもいい加減に――――!」

 

と、言うなり、持っていた刀に手を掛けた

それを見た、沙紀がぎょっとして慌てて大包平の刀を持つ手に手を伸ばす

 

「いけません! ここで、明智様を斬れば、後々の――――」

 

「こいつは、お前を利用しようとしてるんだぞ!!?」

 

「それは、分かっております。 とにかく、少し落ち着いてください」

 

「沙紀――――、お前は・・・・・・っ。 ・・・・・・・・・っ、・・・・・・・・・・・・っ」

 

大包平が、怒りを露にするが

沙紀の言葉が、正しいのも事実だ

ここで、明智光秀を斬れば、歴史が今以上に変わってしまうかもしれない――――・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・くそっ!!」

 

吐き捨てる様に、大包平がそう言うと、抜きかけた刀を収める

それを見て、少しだけ沙紀はほっとした後、ゆっくりと光秀の方を見た

 

「・・・・・・明智様。 まずは、御事情を話していただけないでしょうか?」

 

沙紀の静かな言葉に、光秀がごくりと息を飲むと、小さく頷いた

 

「・・・・・・この度の細川家嫡男・忠興様との婚儀は、我が主君であらせられます織田信長公の命によるものなのです。 本来であれば、昨年玉子は忠興様の元へ嫁ぐ話になっておりました。 しかし―――まだ、玉子は幼く・・・・、お相手の忠興様は御歳十五になられる、若き御仁。 なんとか、この一年間誤魔化してまいりましたが、これ以上は無理でして・・・・・・見知らぬ貴方方には迷惑な話かもしれませんが、もうこれしか方法がなく―――・・・・・・」

 

「いや、お待ちください」

 

そこまで事情を話していた光秀の言葉を遮ったのは、他ならぬ一期一振だった

 

「なぜ、御主君殿は、そのような無理難題を日向守殿にされたのですか? 玉子殿が幼い事を知っているのならば――――――」

 

そうだ

玉子がまだ婚姻するには、幼過ぎると判断されていないのが

そもそもおかしいのだ

 

確かに、この時代の女人の婚姻は早い

しかし、十にも満たない家臣の娘に婚姻話を持ってくる主がいるだろうか?

 

「それは――――・・・・・・」

 

光秀は一瞬、躊躇ったように言葉を閉ざした

 

彼にとっては言いにくい事なのか

それとも、何かを隠しているのか

 

光秀は、何度か口を開き、閉ざすという行為を繰り返した後

観念した様に、俯きながら

 

「今から、十六年前。 私は三女を賜りました――――名は“玉子”。 信長様も大層喜んで下さり、後々は―――というお話も受けていました。 しかし・・・・・・」

 

光秀が、その瞳に暗い影を落とす

 

「玉子は・・・・・・幼くして、亡くなったのです。 あの子が三つの頃だったでしょうか・・・・・・。 見つけた時はもう、息もなく、成すすべがありませんでした」

 

「そんな・・・・・・」

 

まさか、本当のガラシャとなる筈の“玉子”が十三年前に死んでいただなんで・・・・・・

歴史上では、死ぬはずのなかった玉子が死んでいる――――その事実が、既に沙紀達の知っている歴史とは異なっている・・・・・・・・・・・・・・・

 

「(おい)」

 

不意に、大包平が沙紀の腕をつついた

 

「・・・・・・・・・・・・?」

 

「(時間遡行軍が関与している可能性は?)」

 

「(・・・・・・わかりません。 調べてみない事には――――)」

 

可能性はゼロではないと思ったが

如何せん、これだけでは断定できない

かといって、ここで玉子が死んだときの様子を仔細尋ねるのは、逆にこちらを怪しまれかねない

 

「日向守殿、何故その事を信長公にお伝えしていないのですか? お伝えしていれば――――」

 

一期一振がそう尋ねる

もし、伝えていれば少なくとも、今の状況にはならなかった筈である

 

「何度か伝えようとしましたが、どうしても言えませんでした・・・・・・。 きっと、私の失態を知られて拒絶されるのが怖かったのです」

 

ぎゅっと、光秀が拳を握りしめた

 

「そうして、数年前―——。 私は再び女子を賜りました。 なので、その子に“玉子”と名付け、主君を欺こうとしていたのです。 ―――――いけない事だとは重々承知していました。 ですが――――・・・・・・間が差したのだと思います。 もしかしたら、と」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

確か、明智光秀の四女は、織田信長の甥にあたる織田信澄の妻になったはずだ

その四女が“玉子=ガラシャの役割”を担う場合、織田信澄の件おかしくなっていることとなる

 

元の原因は十三年前の“玉子”の死亡

 

もし、これを阻止出来れば、歴史は元通りになるのだろうか?

そもそも、ここは既に改変された歴史であり、それ自体を修正する事は可能なのだろうか?

 

りんさん・・・・・・

 

今傍にいない、鶴丸の名を呼ぶ

もし、彼がいれば何か糸口が見つかったかもしれない―――

 

けれど

 

今ここに、鶴丸はいない

 

どうしたらいいのか

どうすればいいのか

 

沙紀には分からなかった

 

大包平の話だと、ここの時空が開いている内に脱出する必要があると言っていた

閉じたら、一生出られない――――と

 

脱出を第一優先に考えるべきなのかもしれない

が・・・・・・

どうすれば、脱出出来るのか――――――

 

今の沙紀には、その答えを持ち合わせていなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――天正7年7月・丹波 山姥切国広部隊

 

 

「山姥切の旦那は?」

 

戻ってきた薬研が、そう尋ねると

髭切も膝丸も、小さく首を振った

 

木にもたれかかって眠っている山姥切国広を見る

顔色は青白く、血の気がない

 

本当なら、直ぐ本丸に戻って沙紀に治療してもらうのが一番いいが―――――

戻ったところで沙紀はいない

 

薬研はとりあえず、出来ることをするしかないと思った

 

「まずは、俺っちは血止めの薬と、痛み止め作るから。 それと、こいつ狩ってきたから二人のどっちかで捌いてくれるか?」

 

そう言って、薬研が差し出したのは野うさぎだった

それも三匹

 

それを見た、髭切が

 

「あ、じゃあ僕が~」

 

と名乗りを上げようとした瞬間―――――

ばっと、膝丸が野うさぎを取り上げて

 

「兄者!! 俺がやる!! 俺にやらせてくれ!!!!

 

血気迫る勢いで、膝丸が叫んだ

すると、髭切が少しだけその瞳を瞬かせた後、にっこりと微笑み

 

「ん? うん、いいよ~」

 

と、素直に頷いた

その言葉に、膝丸がほっと肩を撫でおろす

 

「兄者に任せたら、ミンチになってしまう・・・・・・」

 

ぼそりと、膝丸が呟いた

膝丸は気付いていなかったが、薬研はしっかり聞いてしまった

 

「まじかよ・・・・・・」

 

「ああ、兄者は超ド級の不器用だ。 きっと、食べるとこなど少しも残らなくなる」

 

「・・・・・・・・・・・・まぁ、なんとかく、想像は付くが」

 

想像つくだけに、否定できない事実が悲しい

 

「じゃぁ、よろしくな。 山姥切の旦那には早く回復してもらう為に滋養のある食事も必要だ」

 

「わかった、任せてくれ」

 

そう言って、膝丸が野うさぎを持って何処かへ消えていく

手持無沙汰になった膝丸が「う~ん」と少し唸りながら

 

「薬研くん、何か手伝おうか?」

 

と、言ってきたが

先ほどの、膝丸の言葉が脳裏を過り

 

「いや! 大丈夫だ!! 髭切の旦那は薪でも拾って来てくれ!!」

 

と、全力でお断りしたのは言うまでもない

 

薬と毒は紙一重だ

調合を間違えれば、薬も毒になりかねない

 

うっかり、膝丸に手伝わせて、毒にでもなったら一大事だ

山姥切国広が死んでしまう

 

だが、そんな事を知らない膝丸は

 

「じゃぁ、薪拾ってくるよ~」

 

と言って、手をひらひらさせながら森の中へ入って行った

その後ろ姿を確認した後、薬研はほっとした

 

薬を調合しながら

 

この部隊・・・・・・山姥切の旦那いなかったらやばいんじゃないのか?

などと、思ってしまった

 

 

 

頼む!! 俺達の為に・・・・早く、元気になってくれ山姥切の旦那!!!!

 

 

 

と、心の中で叫んだのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、光秀の懺悔中

大包平、マジ切れwwww

まぁ、鶴がいても多分似た様な反応するだろう・・・・・・いや、もっと酷いかもwww

 

ところ変わって、まんばチーム

薬研がいい仕事してますwww

私的髭切イメージは、超ぶきっちょさんです

はやく、まんば回復してええええ

 

余談:じじいチームは何してるんですかね笑

 

 

2022.02.25