華ノ嘔戀 ~神漣奇譚~

 

 弐ノ章 出陣 2

 

 

「あの…皆様、この度は大変ご迷惑と、ご心配をお掛けして申し訳ございませんでした」

 

鶴丸を伴って、広間に訪れた沙紀が最初にしたのは、謝罪だった

勿論、沙紀の性格を思えば、彼女ならこうするのは容易に想像ついた

が……

 

想像と、実際されるのは大きな違いで…

 

最初に声を上げたのは、長谷部だった

 

「主!!  顔を上げてください!!」

 

見ていられなかったのだろう

「主」と自分が認めた「沙紀」が頭を下げるのを

 

だが、沙紀は頭を上げることをしなかった

それよりも、深く深く頭を下げた

 

「本当に…ご迷惑ばかり掛けて……言葉ではもう、どう言い表して良いのか…」

 

じわりと、躑躅色の瞳に涙が浮かぶ

 

泣いてはいけない

余計に皆に心配を掛けてしまう

 

そう思うも、”審神者”としての不甲斐なさで、情けなくて、苦しくなる

口では、皆を自分が守ると言っておきながら、守られてばかりだ

それが、酷く辛く、哀しい…

 

その時だった

ふいに、後ろから手が伸びてきたかと思うと、そっと視界を塞がれた

鶴丸だ

 

「りん、さ……」

 

名を呼びかけて、言葉に詰まる

だが、鶴丸は怒るでもなく、涙を拭うでもなく

ただ、静かに沙紀を抱きしめた

 

「あ……」

 

ふと感じる温もりがひどく暖かく、鶴丸の優しさが身にしみてくる

 

「りんさ、ん…私……」

 

なんとか、声を出そうとするが、言葉にならない

すると、鶴丸は優しげな声音で

 

「いい、無理はするな」

 

なぜだろう

鶴丸にそう言われると、強張った身体から自然と力が抜けていく

この人の言葉に偽りはない

そう、思える

 

「主」

 

そう呼ばれ、ぴくっと肩を震わす

こんなにも迷惑かけたのに…まだ「主」として認めてくれるのだろうか…

そんな沙紀の不安をよそに、長谷部が一歩 沙紀に近づいた

 

そして、片膝を付き胸元に手を当て、頭を下げたのだった

すると、周りの他の皆も片膝を付くと頭を下げた

 

驚いたのは他ならぬ沙紀だ

 

ぎょっとして、慌てて皆に駆け寄る

 

「やっ…、やめてください!!  皆様が頭を下げる理由なんてありません!!  どうか…お願い…」

 

懇願するようにそう言うと、山姥切国広がまるで皆の意見と言わんばかりに

 

「謝らなければいけないのは俺達の方だ。  あんたが、苦しんでいるのをわかっていたのに何もしてやれなかった…」

 

山姥切国広の言葉に、沙紀が首を振った

 

「そんな…っ、そんな事ありません!  皆様にご迷惑かけてばかりなのは、私の方で――――!!」

 

 

 

「そんなことはない!!」

 

 

 

瞬間、山姥切国広の声が居間に響いた

 

「あんたは、よくやってる。  最初からあんたを見てきた俺が言うんだ。  あんたは、どんなに辛い事があっても、諦めなかった。  だから、俺達は今 あんたの為に何も出来なかった自分が悔しいんだ」

 

「そうだよ、沙紀君が一番苦しいときに、何も役に立てなかった自分が情けないよ…」

 

山姥切国広に続いて、燭台切もそう呟いた

 

「山姥切さん…、燭台切さん……そんなこと…」

 

言わないで欲しい

 

「そうです、沙紀殿はよくやっていると思いますよ。  何も、恥じることはないです」

 

一期一振の言葉に、沙紀が「でも…」と、つぶやく

すると、一期一振は くすっと笑い

 

「今回、私は沙紀殿に感謝しているのです」

 

「か、んしゃ…?」

 

「はい」

 

そう言って、一期一振は にっこりと微笑むと後ろの方を手招きした

すると、一期一振の後ろから1人の少年が姿を現した

 

「貴方、は…?」

 

鍛刀部屋でのことは覚えてないのか…沙紀が少年を見て首を傾げる

すると、少年はニッと微笑み

 

「改めて挨拶するのも少しこっ恥ずかしいが…覚えてるか? 昨夜あんたが顕現させてくれた刀の一振。 粟田口の短刀・薬研藤四郎だ。 いち兄が世話になってたみたいだな。 ま、よろしく頼むよ、大将」

 

「………」

 

顕現ということは……

 

思わず後ろの鶴丸を見る

鶴丸は「だから、大丈夫って言っただろう?」と、いう風に微笑んだ

 

すると、薬研の隣の一期一振が

 

「こんなに早く、弟と出会えるとは思ってもいませんでした。 これも全て、沙紀殿のおかけです。 ありがとうございます」

 

そう言って、微笑んだ

すると、今度は後ろの方から今が今かとうずうずしていた髭切が沙紀に近づいてきた

 

「一応、お初にお目にかかる…でいいのかな? 今生の主殿。 僕は源氏の宝刀・髭切だよ。 よろしくね」

 

そう言って、髭切と名乗った線の細い青年はにっこりと、微笑んだ

 

ふと、「あ」と髭切が声を洩らす

何かと思うと、髭切の後ろに控えていた青年をちょいちょいっと呼んだ

 

「こっちは、僕の弟だよ。 名前は…ええっと、………なんだっけ?」

 

「膝丸だ!! 兄者!!」

 

「そうそう、膝…武者?だよ。 弟も、よろしくね」

 

「えっ…あ、あの……」

 

綺麗な顔で微笑まれて、言葉を発するのを躊躇ってしまったが…

名前が違うような…と、言いたいのだが…

髭切の後ろの膝丸が今にも泣きそうになっていて、訂正出来ない

 

でも…

 

三振とも、無事だ

その事が、何よりも嬉しい

 

あのまま、バラバラになった刀の破片のままにしたくはなかった

たとえ、それがどんなに困難で危険であろうとも、復元させたかった

 

「よかった…です」

 

少し

ほんの少しだが、気持ちが楽になっていく――――

 

「よかったな」

 

それまで、黙っていた大倶利伽羅がそう呟いた

その言葉に、沙紀は小さな声で「はい…」と、答えた

 

その時だった

皆を見守るように見ていた三日月が、口を開いた

 

「こんのすけ、例の話をしても良いのではないかな? こうして、主も元気になったことだしな」

 

三日月の言葉に、半分涙目で感動していたこんのすけが、はっと我にかえる

 

「そうでした!! 主さま!! 政府からの入電があったのです!!」

 

「え……?」

 

予想だにしていなかったこんのすけの言葉に、沙紀が驚いたようにその躑躅色の瞳を大きく見開く

 

「本当なの?」

 

「はい、今モニター開きますね!!」

 

そう言って、先ほどと同じように首に下げている鈴がリリ…と音を鳴らす

その瞬間、視界いっぱいにいくつものパネルが展開した

 

「これは……」

 

その中の内、一際大きなパネルには日本地図が表示されていた

そして、その中で一点が赤く光っている

 

「先程、例外的に皆様には一足早くお見せしているのですが…主さまと、鶴丸殿はいらっしゃらなかったので、もう一度説明しますね」

 

そう言って、こんのすけが小さな手でパネルを操作していく

 

「政府からの伝言は、”歴史修正主義者の微弱な干渉を感知。 当本丸はこれを阻止し、歴史を守れ” とのことです」

 

「………」

 

沙紀がマップ上の赤く点滅している場所をじっと見る

その様子が、あまりにも不自然に見えたのか…こんのすけが、首を傾げながら

 

「主さま?  どうされました?」

 

「え……っ、あ……ごめんなさい、続けて」

 

「??、はい。 政府は編成も今回は指示してきました」

 

なんだか腑に落ちないが、こんのすけは続けて話した

先程名を上げた6振をもう一度言う

 

その間も、沙紀はじっとマップを見つめていた

明らかに、何か思うところがありそうな雰囲気だった

 

「基本編成は、”審神者”である主さまがお決めになられます。 今回は初任務なので指定が入っているだけですのでご安心を!!」

 

沙紀が編成まで決まっていることに、疑問を抱いていると思ったのか…

こんのすけが、「だから、安心してくたさい!」と、言わんばかりに沙紀の膝に手を乗せた

自分を心配してくれているのがわかり、沙紀はくすっと笑みを浮かべて、こんのすけの頭を撫でた

撫でられたこんのすけが、嬉しそうに尻尾を振る

 

だが、沙紀が気にしているのはそのことではなかった

ただ、初めて見るものでもあるのでなんとも言えないというのが、沙紀の見解だった

こういうものかもしれないし、もしかしたら沙紀の思い過ごしかもしれない

杞憂で終わるならそれでもいい

でも、何かが引っかかる…

何か、良くないことが起きそうな…嫌な感覚

 

それが何なのか…その時の沙紀には分からなかった

 

だが、鶴丸は違った

マップを見るなり、その金色の瞳を大きく見開き、顔を顰めた

 

「こんのすけ」

 

「は、はい!  鶴丸殿、如何しました?」

 

ふいに、いつもより一等低い声で呼ばれて、こんのすけがビクッとする

すると、鶴丸はつかつかとマップに近づき、赤く光っている場所を指差した

 

「ここ、”丹波”だよな? いつの時代だ」

 

「あ、はい…天正7年の7月ですが…それが、どうかしましたか?」

 

なんだろう?と、こんのすけが首を傾げる

鶴丸が難しい顔をしたまま、「いや……」と、小さく答えると

 

「悪い、まだ出陣には時間あるんだよな?  少し席を外すぜ」

 

「え? りんさん……??」

 

鶴丸が何かを確認するように自身の端末を取り出すと、どこかに連絡するような仕草を見せて手を上げると、そのまま居間を去っていく

 

りんさん……??

 

なんだか、腑に落ちない鶴丸のその行動に沙紀が首を傾げた時だった

 

 

 

 

    リリ…リ―――――――ン……

 

 

 

 

何かの警告を示すような鈴の音が本丸内に響き渡った

こんのすけが、はっとする

 

「この音は――――!!」

 

沙紀も、一瞬にして顔が険しくなる

 

「この感じ……」

 

間違いない

外の結界に”誰か”が侵入した音だった

 

「主さま!!」

 

こんのすけか、慌てて沙紀の元へ駆け寄る

沙紀もこんのすけが言わんとすることが分かったのか、こくりと頷き

 

「皆様、任務前で申し訳ないのですが……」

 

沙紀がそこまで言ったところで、三日月が「ふむ…」と声を洩らした

 

「何やら、他所の者が参ったようだな」

 

そう言って、腰を上げると沙紀に近づいた

 

「主、場所はわかるか?」

 

三日月の言葉に、沙紀が「はい」と答えた

 

「おそらく、外の転移装置の場所かと……」

 

沙紀がそう答えると、三日月は「あい、わかった」と答え、皆の方を見た

 

「どうやら、侵入者のようだ。 皆、準備は良いか?」

 

三日月の言葉に、皆の表情が険しくなる

 

「敵か?」

 

大倶利伽羅がそう呟くと、立ち上がった

他の皆もそれに続くように、腰の刀に手を掛ける

 

「あんたは、ここにいろ。 危ない。  なんなら、鶴丸の所にでも――――……」

 

山姥切国広が、沙紀の肩に手を置きそう言うが、沙紀は小さく首を振った

 

「いえ、私も行きます」

 

「だが……」

 

尚も止めようとする山姥切国広に、沙紀はくすっと微笑んだ

 

「山姥切さんは、やっぱり お優しいですね。  気遣って頂き、ありがとうございます。  でも――――……」

 

そう言って、音のする結界の方を見る

 

「行かなればいけない―――……そんな気がするのです」

 

そう―――……まるで、沙紀を待っているような―――………

不思議な感覚

 

その正体が何なのかはわからない

わからないが―――……

行くべきだと、何かが沙紀の中で告げる

 

まるで、”神託”が降りた時の様に――――……

 

沙紀がこう言い出したら、梃子でも意見を変えないのは、一緒に居る内に山姥切国広にはわかっていた

変なところで、頑固だと思うが…それも、含めて”神代 沙紀”という一人の少女なのだ

 

はぁ…と、山姥切国広は溜息を洩らすと

 

「あんたは、どこに居ても相変わらずだな。 変わらない」

 

「?」

 

山姥切国広が言わんとすることが分からず沙紀が首を傾げると、山姥切国広は ふっ…と微かに笑みを浮かべ

 

「わかった。 ただし、絶対に俺達から離れるなよ?」

 

そう言って、ぽんっと沙紀の肩を叩いた

 

そして――――……

 

 

   「行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たいっっっっっへん、お待たせしました!!

約、1年放置www

いや、放置したくてしてたんじゃないんですけどね?

ま、理由はTOPページの連絡事項を見てください

 

とりあえず、(仮)再開ですが…(;・∀・)

これから、書くぞ―――――!!!d(^0^)b

 

2019/02/19