華ノ嘔戀 ~神漣奇譚~

 

 弐ノ章 出陣 19

 

 

「は、・・・・・・お出ましだぜ」

 

 

 

 

ずずずずずずずずず・・・・・

 

何かを引きずる様な音と共に、三つの“何か”が、空間を無理やり割いてその姿を現した

それこそが、政府の最高権力者―――——“三老”

 

「うっ・・・・・・」

 

死臭の様な、何かの酷い悪臭が辺り一帯を包む

思わず、長谷部が口元を抑えた

 

だが、鶴丸はそれを気にも止めずに、“三老”の方を睨んでいた

すると、三つの影がけたけたと笑い出す

 

『我らをここまで、引っ張り出すとは・・・・・・』

 

『いやはや・・・・・・まこと、愚かよのう』

 

『まこと! 愚かじゃ!! 鶴丸国永!! 余程、我らに殺されたいらしい!!』

 

挑発的な言葉

高圧的な態度

 

見ているだけで、虫唾が走りそうだった

だが、鶴丸は至極冷静だった

 

その金の瞳が冷たく光る

 

 

 

「・・・・・・・・・あいにくと、“本丸ここ”はお前らには不可侵領域だ。 出て行ってもらおうか」

 

 

 

淡々とそう返した

 

すると、“三老”がまた けたけたと笑い出した

 

『たかが、“刀”の分際で、よう言いよるわ!』

 

『まこと、愚かな“刀”じゃ!』

 

『やはり、こやつはもう不要。 “刀解”じゃな』

 

『それがよい! “刀解”じゃ!!』

 

『我らの手で“刀解”してやろうぞ!!』

 

 

そう言って、悪臭を放つ手が鶴丸の方に向けられる

 

 

「鶴丸っ!!!」

 

 

長谷部が咄嗟に、刀を抜こうとするが―――――

さっと、それを鶴丸が手で制した

 

瞬間、長谷部がはっとした

鶴丸のまとう“霊圧”とも呼べる“それ”が異常なまでに高くなっていたからだ

 

だが、それに気づいていないのか

“三老”は、けたけた笑いながら怪しげな“呪”を唱え始めた

 

その口もとが、にやりと笑う

“三老”が“呪”を唱えるごとに、何かの紋様の様なものが床にずずずずず・・・・・・と、伸びていった

 

“それ”が“よくないもの”であるのは、火を見るより明らかだった

だが、鶴丸は動かなかった

 

物凄い速度で、その“呪”が鶴丸の身体を這い上がっていく

まるで―――――締め付けるかのように

 

鶴丸の真っ白な衣が徐々に黒く変色していく――――・・・・・・

 

 

 

 

 

『――――― 終わりじゃ、鶴丸国永』

 

 

 

 

 

にたぁっと、“三老”が笑った

 

 

 

 

―――――瞬間

 

 

 

 

 

 

   ぱりいいいいいん

 

 

 

 

突如、何かが割れる音が“鍛刀部屋”に響き渡った

それと同時に、まばゆい光が辺り一帯を支配する

 

 

 

 

 

 

『ひゃははははははは!!! 壊れろ!! 壊れろおおおおお!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

“三老”が、何か確信めいた様にそう笑い出す

 

それを見た、長谷部は大きく目を見開いた

 

 

 

 

 

「鶴丸? おい、鶴丸―――――――!!!!!」

 

 

 

 

 

長谷部の声だけが響く

 

 

嘘だろ・・・・・・

 まさか、本当に・・・・・・?

 

 

 

 

 

    ――――“刀解”され、た―――——――!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――沙紀――――・・・・・・

 

 

「・・・・・・え?」

 

一瞬、誰かに名前を呼ばれた様な気がして、沙紀がはっと顔を上げた

知らず、心臓が早鐘の様に鳴り響く

 

な、に・・・・・・?

 

何故かは分からない

分からないが――――――・・・・・・

 

「おい、どうした?」

 

「沙紀殿? 顔が真っ青ですよ?」

 

心配した様に、大包平と一期一振が沙紀を見た

 

「あ・・・・・・・・・」

 

沙紀がそれに気づき、慌てて顔を逸らす

 

「あ、いえ、なんでも・・・・・・」

 

いけない

動揺しているのが、伝わってしまう

 

「どうかなさいましたか?」

 

前を歩く侍女が振り返る

沙紀は慌てて取り繕う様に

 

「いえ、大丈夫です。 行きましょう」

 

そう言って、なんとか笑って見せる

一期一振が心配そうに、沙紀を見た

 

だが、沙紀は小さく首を横に振ると小さな声で「大丈夫です」とだけ答えた

 

そう―――――気を引き締めなければ

今から、“この時代の”明智光秀に会うのだから―――――・・・・・・

 

本当ならば、歴史的人物の当事者に合うのはよくない事は分かっている

沙紀も出来る事ならば、避けたかった

 

しかし

 

これ以上は、面会を引き延ばせそうになかった

向こうは、何が何でもこちらに会いたいようだったからだ

 

何故?

と、思う

 

確かに、彼の子供たちを助けたのは紛れもない事実だが

別に、明智光秀の子だから助けたという訳ではない

そこに、時間遡行軍がいたから―――――・・・・・・

 

いや、時間遡行軍は関係ない

幼い子供が襲われているのを、黙って見過せるはずがない

 

侍女は、「礼」をされたいと言っていると言っていたが・・・・・・

それだけではない様な気がした

 

明らかに、沙紀達に用がある様だった

 

既に明智光秀が歴史改変主義者の手に落ちていて、沙紀達を狙っている―――――

とも、取れるが・・・・・・

 

真相は、直接本人に会ってみない事には分からない

結局、会うしかないのだ

 

そうこうしている内に、大広間に辿り着いたのか

侍女が、すっと足を止めた

 

一度だけ、こちらを見た後

待っていたのであろうもう一人の侍女が深々と頭を下げた

 

そして、二人して膝を折る

 

「お客様をお連れしました」

 

そう言って、大広間の奥に座っているであろう者に声を掛けた

数分もしない淵に、上座の方から低い男の人の声が響いてきた

 

「ご苦労――――」

 

男からのその言葉に、侍女がすっと頭を垂れる

そして、そのまま沙紀たちに道を開ける様に、両側に避けた

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

思わず三人が顔を見合わす

 

本来であればこの三人の中で一番上の序列になる沙紀から入り、挨拶をすべきだ

しかし、それでは万が一に沙紀を守れないと、一期一振が反対した

そして、それに呼応する様に大包平も頷いた

 

沙紀を背に庇う様に、一期一振と大包平がすっと前に出た

部屋の中を目線だけで様子を見る

 

大広間には数人の警備であろう兵が数人と、家臣であろう年配の男性が四人座っていた

そして上座に坐するのが――――――

 

この城主の主・明智十兵衛光秀

 

切れ長の目の、男が座っていた

 

この人が・・・・・・

 

沙紀が、ごくりと息を飲む

一期一振は沙紀を一度見た後、すっと、光秀の前に出て膝を折り

 

「日向守殿に、拝謁いたします。 私は、・・・・苺と申します。 この度は、我らに一夜の屋根をお貸しくださりまことにありがとうございます」

 

そう言って、一期一振が深々と頭を下げる

瞬間、家臣らが不思議そうな顔をして

 

「苺・・・・・・????」

 

「苺とは、また何と申しますか・・・・・・」

 

と、なにやら言いたそうにしていた

ぷっと大包平が沙紀の横で、吹き出しそうになっている

 

見ると、一期一振がぎろりと大包平を睨んだ

まるで、誰のせいですか!!!!?

と、言わんばかりに

 

すると、光秀は笑みを浮かべながら

 

「苺殿か、この度、我が息子・十五郎と玉子を助けてくれたそうだな、礼を言う」

 

「いえ、幼き命を散らす訳にはいきませんから。 出来ることをしたまでの事――――」

 

一期一振のその言葉に、光秀が深く頷いた

 

「思っていても、そう簡単に出来る事ではない。 して、その方の後ろの二人を紹介してはくれぬか?」

 

「・・・・・・はい」

 

やはり、私だけでは無理か・・・・・・

出来る事なら、このまま二人を連れて立ち去りたかった

大包平は、どうとでもなるが・・・・・・

出来る事なら、沙紀はあえて遠ざけておきたかったが―――――

 

そうもいかない様だった

 

一期一振は小さく息を吐くと、少しだけ後ろを向き

 

「私の妹と、こ、こ、ここここ・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・にわとりか?」

 

大包平がぼやいた

瞬間、ぎんっと一期一振が満面の笑みで大包平を睨みつける

その後ろには、般若が見える気がした

 

だが、大包平はさほど気にした様子もなく

 

「俺は焔という。 彼女は、俺の婚約者だ」

 

恐れ多くも、光秀相手にそう堂々と名乗った

・・・・・・偽名だが

 

妙に“婚約者”の部分が強調されていたが・・・・・・気のせいだろうか

沙紀が少し困った様に、頬を赤く染める

 

だが、光秀は違った

一瞬だけ、その目が鋭くなる

 

それから、すっと手を上げた

すると、それを見た家臣らはどよめきだした

 

しかし、それは家臣らだけではなかった

 

そう―――――あの合図は人払いの合図だった

 

どうやら、本当に“内密”な話をされそうな予感がひしひしと伝わってくる

 

やっかいだな・・・・・・

大包平が、そう思いながらその目を鋭くさせるが、家臣と護衛兵らはそのまま大広間を出て行ってしまった

 

し―――――ん、と静まり返った大広間に、光秀と沙紀たち四人だけになる

 

不意に光秀が、全員出ていくのを見届けた後、すっと立ち上がった

瞬間、ばっと一期一振と大包平が沙紀を背に庇う

 

それを見た、光秀はふっと微かに笑って

 

「そんなに警戒しなくとも、そなたたちの姫には手出しはせぬ。 ・・・・・・話がしたいだけだ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「苺と焔と申したか、少し席を外してもらえぬか? 彼女に折り入って話があるのだ」

 

光秀がそう言うも

万が一光秀に歴史修正主義者の手が回っていた場合、それは危険すぎた

 

 

 

「お断――――――「断る!!!!」

 

 

 

一期一振が言い終わる前に、大包平がそう叫んだ

 

 

「ちょっ・・・・・・・おおか――――「貴様は、まだ信用ならんからな!! 俺の女・・・に手を出そうとは、いい度胸してるじゃないか!!」

 

 

二度も台詞を遮られて、一期一振が半分切れかかり

 

 

 

「う、うちの妹はまだ嫁には出しません!!!!!」

 

 

 

「あ、あの・・・・・・」

 

沙紀が流石に困った様に口を開いた

このままでは本気で言い合いをしそうだった

 

「えっと、お兄様も焔様も少し落ち着いてください。 ・・・・・・失礼いたしました、明智様。 お話は・・・・・・彼らがいては出来ない内容なのでしょうか?」

 

「・・・・・・いえ、絶対にと言う訳ではありませんが。  あの・・・・・後ろの、御兄君が・・・大丈夫ですか?」

 

「え?」

 

一瞬、何の話かと、沙紀が首を傾げる

そして、光秀の言う後ろを見ると――――――

 

何故か、一期一振が胸を押さえて悶えていた

 

「いち――――お兄様? どうかなされたのですか・・・・・・?」

 

沙紀がそう尋ねると、一期一振は ぜーぜーと肩で息をしながら

 

「“お兄様”・・・・・・っ、くっ、なんという破壊力っ」

 

えっと・・・・・・

 

どこからどう突っ込んでよいのか

 

すると大包平が面白いものを見たという風に にやりと笑みを浮かべ

 

「沙紀。 もう一回“お兄様”って呼んでやれ」

 

「え・・・・・・?」

 

もう一回????

 

「・・・・・・お兄様?」

 

 

 

―――――ぐはぁっ!!!

 

 

 

ばたーんと、一期一振が倒れた

 

ええええええええ!!?

ど、どうして・・・・・・!?

 

沙紀が、一期一振が胸を押さえて倒れた理由が分からずおろおろしていると

大包平には全てお見通しなのか・・・・・・

 

「ふん、義兄とは言え所詮は男・・・・・・、お前の“お兄様”攻撃には耐えられなかったようだな」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

どこから突っ込むべきか悩むところである

こんな事をしている場合ではないと思うのだけれど・・・・・・

 

と、思うも、どう口にしてよいのか分からない

 

沙紀が困った様に、一期一振と大包平を見た後、小さく息を吐いて光秀を見た

 

「・・・・・・申し遅れました。 私は沙紀と申します。 ――――お話とはなんでしょうか?」

 

そう言って、本題を切り出した

 

沙紀のその言葉に、光秀はふっと微笑み

 

「沙紀殿と申されるのか、良い名だ。 ――――今から、私が話す内容は貴方方にとっては“良い”話ではないかもしれない。 沙紀殿はこのような立派な婚約者殿がおられるようだし・・・・・・しかし、我々も、もう手段がないのだ」

 

「明智様・・・・・・?」

 

「・・・・・・そう、もう、他に手が無いのだ。 このような愚案しか出せぬ私を恨んでくれて構わない。 憎んでくれても構わない。 しかし―――他に頼める者がいないのだ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

彼は何を悔いているのだろうか?
一方的に向けられる罪悪感に、耐えかねて沙紀が口を開いた

 

「・・・・・・なぜ、その様に・・・、まるで懺悔の様に仰るのですか? 何が貴方を苦しめているのですか?」

 

「それは――――」

 

そこまで言いかけて、光秀がぐっと唇を噛む

何かを言おうとしては、口を閉じ

また言おうとしては、口を閉じた

 

光秀の煮え切らない態度に大包平が苛々した様に、眉間に皺を寄せる

復活した(?)一期一振も、じっと光秀の言葉を待っていた

 

もしや、歴史修正主義者に関係あるのだろうか?

もしそうだとしたら、放っておくわけにはいかない

 

「明智様、仰ってください」

 

沙紀がそう促すと、光秀が観念したかのように、一度だけ目を閉じた

そして――――・・・・・・

 

「無礼を承知で、申し上げます」

 

そう言って、沙紀に向かって深々と頭を下げ――――

 

 

 

 

  「――――どうか、沙紀殿には当家の“姫”として、

 

 

 

          細川家に嫁いで頂きたい―――――・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

は~~~~~~

やっと、ここまできたwwww

無駄に時間食ったぜwwww

 

ここからが、本番よ~~~~(え?)

 

 

2022.02.10