華ノ嘔戀 ~神漣奇譚~

 

 弐ノ章 出陣 17

 

 

 

――――― 本丸

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

俺は・・・・・・どうしてしまったのだろうか・・・・・・?

 

頭がぼんやりしていて、なにも思い出せない

身体がずきずきと痛む

 

こんな事、いままで感じたことなど一度としてなかったのに―――――・・・・・・

 

俺は、主君の命となり、盾となり、刃となって

今まで、ずっと・・・・・・

そう、ずっとそうしてきた

 

たとえこの身が欠けようとも・・・・・・、痛みなど感じたことはなかった

なのに、何故・・・・・・

 

まるで“人”であるかの様に痛むのか・・・・・・

 

「・・・・・・・あ、るじ・・・・・・」

 

ああ、そうだ

俺は―――――

 

ぼんやりと浮かぶ

長い艶やかな漆黒の髪

そして、紫がかった鮮やかな赤い躑躅色の大きな瞳―――――

 

雪の様に白い四肢が朱の衣から生え、こちらへと手を伸ばしてくる

俺を見て、彼女のその薄桜色の唇が言葉を紡ぐ――――――

 

 

“長谷部さん――――”

 

 

ああ・・・・・・そうだ

俺は、彼女に、彼女の為に現世に呼びだされた

 

“人の形”をして

 

そう―――――彼女の命となり、盾となり、刃となる為に―――――

 

 

 

 

「―――――――——・・・・・・っ!」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・?

 

気のせいか、遠くで誰かが呼んでいる

 

 

「――――べ・・・・・・」

 

 

主・・・・・・?

 

 

「・・・・・・・・・・・・は・・・べ・・・・・・き・・・・・・」

 

 

主だ

主が呼んでいる

 

目を―――――

目を開け―――――――・・・・・・

 

そう思って、おぼろげな意識の中ゆっくりとその瞳を開いた

 

そして、自分に呼びかける声の―――――

 

 

「長谷部!! 起きたか!?」

 

 

「ある――・・・・・・・・」

 

 

「ん?」

 

視界にはいたのは、銀の髪に銀の瞳の真っ白な雪のような――――――

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

どうやら、起きる場所を間違えたようだ

長谷部が再び瞳を閉じて、くるっと背を向ける

 

瞬間

 

「おい!!」

 

怒気の混じった声と共に、ぐいっと引っ張られた

 

「いたっ! 痛い痛い! 痛いと言っているだろうが!!!!」

 

狙ったかの様に、痛みのあるところ引っ張られて、長谷部は がばっと起き上がり――――

 

 

 

 

 

「――――鶴丸!!!!!!」

 

 

 

 

 

言われた当の本人は、けろっとした様に両手を上げて

 

「なんだ、思ったより元気じゃないか。 長谷部」

 

そう言って、にやっと笑みを浮かべた

鶴丸のそれが、余計に長谷部を苛立たせた

 

「・・・・・・お前、わざと傷口を抑えただろう!」

 

「まさか! 誤解だぜ。 でも、まぁ、思ったよりは無事だったみたいだな」

 

「は・・・・・・・・・・・・?」

 

鶴丸の言葉に、長谷部が素っ頓狂な声を上げた後

はっと鶴丸の後ろにいる暗部の連中を見て

 

「あああああああああ!!!! お前たち――――――!!!!」

 

「お、おっと! 落ち着け、長谷部」

 

慌てて、鶴丸が間に割って入るが

長谷部は今にもその暗部たちに掴みかかろうと、身を乗り出し

 

「邪魔だ! 鶴丸!! こいつら、手当してやったというのに、突然後ろから俺を――――!!!」

 

「だから、それは」

 

「ええい! どけ、鶴丸!! へし切る!!!!」

 

今にも斬りかかりそうな剣幕で、持っていた刀に手を掛けた

瞬間―――――

 

 

「申し訳ございません!!!」

 

 

腹に包帯をした暗部の隊長格風の男が、頭を下げてきた

それに続く様に、後ろの二人も頭を下げる

 

「????????」

 

事態が読み込めなくて、長谷部が困惑した様に顔を顰める

 

「鶴丸?」

 

説明しろと言わんばかりに、長谷部が鶴丸を睨みつけた

すると、鶴丸は何でもない事の様に

 

「ああ、こいつらはもうこっちの味方・・・・・・だ。 安心しろ」

 

「まったく、意味がわからん」

 

「あーつまりだな・・・・・・昼間 言った事、覚えてるか?」

 

「”三老”とかいう、じじい共の話か?」

 

「そう、それだ」

 

「今回の“任務”には“初任務”に与えられるクラスの“任務”ではなく、本来であればもっと上のランクの“審神者”が対応する“任務”で、それには “三老” とかいう政府で、絶対的な権力を握るじじい達が関わっているという話だろう」

 

「でだ、こいつら――― “暗部”ってのは、要は政府お抱えの隠密で、主に“三老”の指示で動く調査部隊なんだよ。 当然、その存在は闇に包まれてて、詳細を知るものは政府上層部でも一握りだけだ

 

最初、鶴丸の話を聞いた時、長谷部は卒倒するかと思った

頭を抱えて、こちらを見る

 

「・・・・・・なんだそれは、”三老”の次は”暗部”だと? 次から次へと・・・」

 

聞いただけで、怒りがこみ上げてくる

 

「それで、こいつら――――元“暗部”の連中は、さっき“三老”に切り捨てられて、行き場も帰る場所もない状態なんだよ」

 

「・・・・・・は? お前、まさかうちの“本丸”でかくまう気か? 相手は政府の人間だぞ!!? 信用できるか!!!」

 

長谷部の言い分は最もだった

だが、“処分”されると分かっていて、政府に帰らせるのはあまりにも酷というものだ

 

「ま、最終決定権は、沙紀に任せる。 だが、その前に沙紀を取り戻さなくてはならない? それはわかるよな?」

 

「・・・・・・主の居場所がわかったのか?」

 

長谷部の言葉に、鶴丸がにやりと笑みを浮かべた

 

「ああ、おおよその・・・・・・いや、十中八九“あそこ”だとみて間違いないだろう」

 

「それは、どこだ?」

 

 

 

 

 

「―——――天正7年7月の“京”ではなく“丹波”。 それも、“隔離された天正7年7月の丹波”だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――― 丹波・亀山城

 

一期一振は、沙紀が連れていかれたであろう湯殿に急いで向かおうとしていた

だが、“人の形”になって初めて歩く城内というものは、入り組んだ迷路の用で、

一体どこに、問題の湯殿があるのかすら、皆目見当も付かない

 

かといって、通りすがりの女中に尋ねようとすると

何故か、黄色い叫び声を上げて逃げられてしまう

 

自分はそんなに、怖い形相をしているのか?

と、疑問に思う程だ

 

しかし、騒ぎを大きくするわけにもいかない

では、護衛の衛兵に聞けばいいかとも思ったが、逆に警戒されそうで聞きづらい

どうしたものかと、考えあぐねている時だった

 

 

 

 

 

 

 「いやあああああああああああ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

「――――――!!? この声は・・・・・・っ」

 

突然、聴こえてきた叫び声

それは、間違いなく沙紀のものだった

 

まさか、沙紀殿の身に何か起きたのでは!?

そう思った、一期一振は慌てて声のする方に駆けっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ばしゃん!!!

湯が跳ねる

 

「はなっ、離してくださいっ!!」

 

沙紀が大包平の腕から逃れようとじたばたしていた

が、そんな沙紀の力では、大包平に勝つことなど叶うはずもなく―――――

 

寸前の所で、腕で桶を防いだ大包平は

面白いと言わんばかりに、更に抱いている沙紀の身体に力を込めた

 

「なんだ? 生娘でもあるまいし・・・・・・たかだが、胸に触れた程度でそこまで過敏に反応する事はないだろうが」

 

そう言って、沙紀の耳元で囁く

 

びくんっと、沙紀が肩を震わせた

 

「あ・・・・・・、や、め・・・・・・」

 

その反応に、大包平がにやりと笑みを浮かべた

 

「ほぅ、ここが弱いと見える・・・・・・」

 

そう言うなり、突然 沙紀の耳を甘噛みした

 

「あっ・・・・・んん」

 

「ほら、もっといい声で啼いてみろ」

 

「なに、を・・・・・・っ、ぁ・・・・・・」

 

大包平の手が、沙紀の首筋をなぞる様に触れてきた

 

「・・・・・・っ、・・・・・っ、・・・・・・っ、もう、やめて下さいっ!!!」

 

そう叫ぶなり、沙紀がボロボロと涙を流した

流石にその反応に、大包平が少し驚いたように、手を緩める

 

からかいすぎたか?

 

あまりにも、沙紀の反応の可愛すぎて

ついつい、からかう様な事をしてしまったが―――・・・・・・

 

その姿は、大包平の知る“審神者”とは大違いだった

 

大包平の知る“あの女”は、毎夜大包平を寝所に呼び出し、駄々をこねた

自分を抱いて―――――と

 

相手はSSランクの“審神者”だ

下手に、逆らえばどうなるか―――――――・・・・・・

 

所詮、刀剣男士など“審神者”にとっては、替えの利く代替品

だが・・・・・・

 

『次は、優しい人に使ってもらいなさい』

 

最初の“主”の声が消えない

大包平が敬愛してやまなかった“主”

彼以外の他の“審神者”に従うなど、ごめんだった

 

そして――――

 

刀解されかけた自分を助けてくれた“鶴丸国永”

鶴丸は他の本丸の“審神者”から、何度声を掛けられても頷かなかった

それは、彼にはもう心に決めた存在がいたから

 

それが―――――・・・・・・

 

目の前で涙を流す少女を見る

 

 

 

彼女―――――神代 沙紀

 

 

 

二人がどういう関係で、どういった経緯でそういう風になったかなどは知らない

だが、分かる

鶴丸が彼女を信じて大切にしているのと同じぐらい

彼女も、鶴丸や他の刀剣男士達を大事に思ってくれていることが―――――・・・・・・

 

“あの女”とは違う

 

毎夜、寝屋のなかで大包平を何度も求めてくる“あの女”

大切に、大切に、まるで繊細なガラス細工の様に、優しく護られてきた“沙紀”

 

比べる事すら、不敬に思えた

 

「お前が、俺の“審神者”だったら―――――・・・・・・」

 

どんなによかっただろうか・・・・・・

 

彼女が、欲しいと―――――言えたら、どんなにいいだろうか

だが、彼女・・・・・・沙紀は――――・・・・・・

 

と、その時だった

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――見つけましたよ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すぱ――――――――ん!!!!

 

 

 

 

という、軽快な音と共に、突然一期一振が乱入してきた

 

湯殿に

 

驚いたのは、他でもない大包平だった

いや、彼だけではない、流石の沙紀も涙を流しつつびっくりした様にその躑躅色の瞳を瞬かせた

 

一期一振は、周囲と大包平と沙紀を見て全てを悟ったかのように

ばさっと、自身の肩に羽織っていた着物を外すと、つかつかと大包平達のいる湯殿へと近づいてきて

 

「沙紀殿、出ましょう」

 

そう言って、湯殿にそのまま足を突っ込むと沙紀の肩に自身の羽織っていた着物を掛けた

そして、ぎろっと大包平を睨みつけると、問答無用と言う感じにべりっと沙紀を大包平から引っぺがすと

 

「沙紀殿、失礼します」

 

そう言うなり、そのまま沙紀を横に抱き上げ湯殿を出る

 

驚いたのは、沙紀だ

突然の、一期一振の登場にも驚いたが

まさか、横抱きにされるとは思わず、顔を真っ赤にして

 

「あ、ああ、あの・・・・・・っ、一期さ・・・・・・」

 

「一期さん」と言おうとした口を、一期一振がしーと人差し指を立てた

そして、ぽかーんとしている大包平の方を見て

 

 

 

「うちの妹は“まだ”なんです!!!!! ですので、そういう行為は、まだ許しませんよ!!? わかりましたか!!? 婚約者殿!!」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

一期一振の言葉に、大包平が豆鉄砲をくらった様な顔をしていた

逆に、沙紀は顔を真っ赤にして、恥ずかしさのあまり顔を覆ってしまった

 

「さ、行きますよ。 沙紀殿」

 

そう言って、そのまま湯殿を出ていく

残された大包平は、茫然としていた

 

今、一期一振は何と言ったか・・・・・・

 

 

 

『うちの妹は“まだ”なんです!!!!!』

 

 

 

それはつまり・・・・・・

 

今更、自分のしていた事が恥ずかしくなり、大包平が顔を赤く染め口元を手で覆った

まさかとは思ったが・・・・・・

 

 

 

 

生娘だったのか・・・・・・っ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あっはっはっはっはwwww

なんか、前半(本丸)と、後半(亀山城)での雰囲気違いすぎるwwww

うけるwwww

いや、書いているのは私だがな?

まぁ、大包平は色々大変だったんだよ・・・・・・

という所が、大事です(*´艸`*)

 

 

2021.10.10