華ノ嘔戀 ~神漣奇譚~

 

 弐ノ章 出陣 15

 

 

――――――― 本丸

 

 

なに・・・・・・?

 

鶴丸は耳を疑った

今、三日月は何と言ったか

 

 

 

『―――ここ・・には主はおらぬ。 ――――が、主の気配を感じる』

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

見定める様に、モニター越しに三日月を見る

一件、何も考えていない様に見えるが――――――・・・・・・

 

その三日月色の瞳を奥に何かを隠しているのが、バレバレなんだよ!

 

「へぇ・・・・・・、それは、どういう意味だ? 三日月」

 

鶴丸がそう返すと、三日月は少しだけ目を細め、口もとを袖で隠すと

 

『どうした、鶴? 俺を警戒しているのか?』

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

一瞬、三日月のその言葉にかちんと来るが・・・・・・

ここでそんな薄っぺらな挑発に乗るほど、馬鹿ではない

 

鶴丸の表情がすっと消える

その金色の瞳が獣を狙う目に変わる

 

 

 

 

「―――――三日月」

 

 

 

 

今、大事なのは―――――・・・・・・

 

 

 

「沙紀は、どこだ」

 

 

 

一等低い声で、鶴丸がその言葉を発した瞬間、微かに三日月の目が笑った

だが、三日月はそんな鶴丸の言葉に、問いかける様に

 

『先ほども申したが? ここ・・には、おらぬ―――と』

 

それだけ答えると、微かにその三日月の瞳を横へ送り

 

『だが・・・・・・こ、の、先の――――・・・・・・』

 

瞬間、ジジジ・・・・と、ノイズが入った

 

『俺、た、・・・・・・は、・・・・・・く・・・・』

 

「ちっ!」

 

間違いない、このノイズの干渉は――――――・・・・・・

 

「おい! “視て”いるのは、分かってんだよ!! 姿を現しやがれ―――――”三老くそじじい” ども!!!」

 

そう叫ぶな否や、鶴丸は即座に端末の電源を切った

そして、その手に刀身・鶴丸国永を持つ

 

部屋の中は、し――――ん と、静まり返っていた

 

鶴丸の金色の瞳が、辺りを警戒する様に左右に動く

少しだけ息を吐くと、鶴丸はその口元に笑みを浮かべた

 

「ああ・・・・・・お前らは、人様の前に出られる様な姿じゃぁなかったんだったよな。 “覗き視” とは、大層なご趣味だなぁ? そうは思わいなか? 政府の古狸が」

 

すると、「ふ・・・・・・」と、誰かが笑う声が聴こえてきた

鶴丸がすっと目を細めてそちらを見やると―――――

 

そこには、先ほど捕らえた“暗部”の連中が立っていた

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

鶴丸が、無表情のまま彼らを見る

すると、その内の一人がくつくつと笑い出した

 

「ほぅ・・・・・・、刀の分際で、“ひと”になったつもりか・・・・・・? 鶴丸国永」

 

その声は――――先ほどの彼らの声ではなかった

その声は間違いなく――――――

 

 

 

  “三老”

 

 

 

何度も聞いた事のある

あのいけ好かないじじいどもの声だった

 

「鶴丸国永が、ひとに? 単なる刀であるのにか? これは、またおかしな話よのう」

 

「まこと、まことに、笑いが止まらぬわ!!」

 

そうって、ケタケタと笑う様は、さながら見ていて苛立ちしか感じさせなかった

だが、そう簡単に挑発に乗るつもりは毛頭ない

 

丁度いい――――

 

「・・・・・・・・・長谷部はどうした」

 

“三老”がここに、いるのならば―――――

 

「・・・・・・長谷部? はて、どやつのことかのう?」

 

「ああ、わしらに触れようとした、あの愚かな刀剣男士のことか・・・・・・?」

 

「どこに捨てたかのぅ」

 

 

 

直接聞きだしてやる―――――――!!!!

 

 

 

「悪いが、俺はあんたらがいつも言いくるめている政府の犬どもと違って、賢くないんでね。 ここにいるなら、丁度いい――――沙紀は何処だ」

 

「沙紀? 沙紀とは、誰の事やら」

 

「あれではないですか? 最近、小野瀬が連れてきたという――――――」

 

「おお、あのなんとか神社の隠し巫女だったかいう、愚かなで可哀想な娘子のことか?」

 

 

 

―――――――ぷちん

 

 

 

鶴丸の中で、何かが切れた様な音が聴こえた気がした

彼の纏う気が、一瞬にして変わる

 

 

 

 

「――――――おい」

 

 

 

 

底冷えするのではないかという程、冷たい声が部屋中に響いた

流石の“三老”も、鶴丸のその反応に驚いたのか、ぎくりとその表情を強張らせた

 

「・・・・・・俺や、他の誰の事を、なんと言おうが興味はない。 だが――――」

 

すらっと、ゆっくりとした動作で鶴丸が手に持っていた刀身を抜く

 

「あいつの――――沙紀の事を、お前ら口にするんじゃねぇよ」

 

 

 

 

      「―――――死にたいのなら、殺してやる―――・・・・・・」

 

 

 

 

「――――・・・・・・!」

 

“三老”大きく目を見開く

が、次の瞬間、声を上げて笑いだした

 

「殺す? わしらを殺すと? 愚かな! なんと、愚かな刀よ!!」

 

「なにも理解してわかっておらぬ、愚かな傀儡がよう言うわ!!」

 

「まこと、愚かよのう!!!」

 

そう言って“三老”が笑うが、鶴丸には、もはやどうでもいい事だった

三老こいつら”は、沙紀を馬鹿にした

それがたとえ政府のトップだろうとどうでもいい――――・・・・・・

 

この腐りきった“三老くそじじい”を消し去らねば、気が収まらない

そして――――――

今後も、何かを仕掛けてくるのは、明白だ

ならば――――ここで、潰しておくべき存在だ

 

 

「お前らの意見なんてどうでもいいんだよ――――――」

 

 

―――――どす

 

 

鈍い音が、部屋に響いた

 

「あ、か・・・・・はっ・・・・・・」

 

まるで今、意識が戻ったかのように、“三老”の乗り移っていた“暗部”の一人が、震える手で自身のみぞおちを見た

そこには、抜き身の刀が刺さっていた

そして、冷え冷えした様な金色の瞳が自分を見ていた

 

「な・・・・・・に、を・・・・・・」

 

ぐらりと、その“暗部”の身体が横に倒れる

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

鶴丸は答えなかった

無言のまま、その“暗部”から、刀を抜くと、血しぶきを払う様に、横に凪った

 

瞬間―――――――

 

“やりおった!!!!”

 

“愚かなで浅はかな刀が、やりおった! 刀解じゃ!!!”

 

“それがいい、刀解じゃ!  刀解! 刀解!!”

 

あははははははは

と、笑う声と同時に、“三老”達の気配が消えゆく―――――

 

それと同時に、意識を取り戻した“暗部”の連中が、躊躇うことなく刺した鶴丸を見て、ガクガクと震えだす

 

「あ、ああ・・・・・・」

 

「隊長・・・・・・っ」

 

その瞳には、もはや“怯え”しかなかった

 

鶴丸がすっと、金の瞳を細めて辺りを窺うが―――――

もう、この“本丸”のどこにも、あの“三老じじいども”の気配はなかった

 

逃げたか・・・・・・

 

おそらく、思念体だけ送ってきたのだろう

だが、思念体とはいえ憑依した“身体”になにかあれば“殺せる”

 

少なくとも、その術を鶴丸は知っていた・・・・・

 

「・・・・・・・・・はぁ」

 

鶴丸が溜息を洩らすと、残りの二人の“暗部”がびくっとした

 

「・・・・・・・・・」

 

その様子に、鶴丸がまた溜息を洩らした

そして、その手に持っていた鶴丸国永を鞘に仕舞うと、すっとしゃがんで

たった今、自分が刺した“暗部”の男の首に手を当てる

 

微かにだが、まだ脈は打っていた

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

最後の最後で理性が走ったのか、急所はわずかに外れていた

 

「・・・・・・・・・ちっ」

 

面倒くさい

だが、このままここに放置するわけにもいかない

 

「おい」

 

「は、はい!!!!」

 

鶴丸の声に、過敏に反応する“暗部”の二人に、一瞬 鶴丸が驚いたようにその金の瞳を見開くが―――

次の瞬間、苦笑いを浮かべて

 

「・・・・・・こいつの治療を頼めるか? 部屋は貸してやる」

 

少なくとも“暗部”ならば“もしもの時”の為に医術の心得があるはずだ

鶴丸がそう言うと、残りの二人は大きく頷いた

 

流石に、“人間”の治療方法など、鶴丸は知らない――――・・・・・・

軽傷程度ならば話は別だが・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

沙紀の事を出されて、頭がカッとなった

気が付いたら、依り代にされていた“暗部”の一人を刺していた

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

俺もまだまだ、だな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は、少し前に遡る

 

―――――天正7年7月・京 三日月宗近部隊

 

突然切れた通信に、燭台切が首を傾げる

 

「なんか、電波干渉でもあったんでしょうか?」

 

なんとなく、だが

切り方が不自然だった

 

三日月は消えた、モニターの先をじっと見た後、「ふむ・・・・・・」と、少し考えると

 

「杞憂であればよいがな」

 

「三日月さん?」

 

三日月の言わんとする事がわからず、燭台切が首を傾げる

すると、三日月はにっこりと微笑み

 

「うむ、では、向かうとしようかの」

 

そう言って、端末を袖に仕舞う

 

「え? 向かうって何処に――――――」

 

燭台切がそう尋ねると、三日月はくすりと笑みを浮かべ

 

 

 

「決まっておろう? 我が主殿のお迎えにだ」

 

 

 

そう言って、にっこりと微笑んだのだった

 

「すぐに発つ。 燭台切は、大倶利伽羅を呼んできてもらえるか?」

 

「あ、分かりました! 伽羅ちゃん探してきます」

 

そう言って、辺りを警戒している大倶利伽羅を探しに駆けっていった

燭台切が完全に見えなくなった後、三日月の瞳が微かに細められた

 

あれは――――――・・・・・・

 

微かに感じた

あの“三老”と呼ばれる輩の気配を――――――・・・・・・

 

「・・・・・・早まるではないぞ、鶴」

 

取り返しが利かなくなる前に―――――

この“連鎖”を断ち切らなければ・・・・・・・・

 

そうしなければ―――――彼女の・・・・沙紀の“命運”は――――・・・・・・

 

ぐっと、握る拳に力が入る

 

あってはならない

起きてはならない―――――

 

 

 

それがたとえ“運命”だと言われようとも―――――・・・・・・

 

 

 

その為に・・・・、俺は彼らの側ここにいるのだから―――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――― 丹波・亀山城

 

「あ、あの・・・・・・大包平さん・・・・・・」

 

沙紀が困惑した様に、顔を真っ赤にして俯いていた

それも、そのはず

 

案内されたのは、立派な湯殿だったが・・・・・・

何故か、大包平もここにいた

 

しかも、入る気満々なのか、既に腰に布を巻いただけの姿で、仁王立ちして

沙紀が脱ぐのを今か今かと待っていた

 

ど、どうしてこんなことに・・・・・・っ

 

沙紀は、混乱していた

鶴丸とですら一緒に湯殿に入ったこともないのに・・・・・・

 

ただ、ここで入らないと、扉の向こうで控えている侍女に怪しまれる

あくまでも、今は大包平の“婚約者”らしいので

 

「・・・・・・・・・大包平さん・・・・」

 

「なんだ?」

 

大包平が、わくわくしながら沙紀からの言葉を待っていた

なぜ、そんなにこの人はテンションが高いのか・・・・・・

全く持って謎であるが

 

とりあえずは・・・・・・

 

「あの、その姿は少し抵抗が・・・・・・、せめて湯帷子を着てください」

 

そう言って、精一杯の抵抗をする

すると、大包平は「ん?」と、首を傾げ

 

「現代の風呂は裸体で入るのであろう?」

 

まるで、それに何か問題があるのか? という感じだ

 

沙紀は赤面しながら

 

「こ、ここは、戦国の世ですので・・・・・・」

 

なんとか、そう言い返す

すると、大包平は少し考えた後

 

「ふむ、まぁお前の言うことにも一理ある。 仕方ないな、俺様の肉体美を見せてやろうというのに・・・・・・拒むとは」

 

「そ、そう言う問題では・・・・・・」

 

 

 

 

お願いだから、何か着て~~~~~~~~!!!!

 

 

 

 

それは、まぎれもなく

沙紀の心からの叫びだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本丸の方が、殺伐としている( ;・∀・)

この人(鶴丸)いつまで、本丸の処理してるんだろう・・・・・・

とか、思ったりwww

そして、可哀想な”暗部”の子 笑

 

それとは、裏腹に、夢主ピーンチ

大包平が無駄にテンション高いのは、デフォですね( ・`ω・´)キリッ

 

 

2021.04.19