◆ 弐ノ章 出陣 12
――――――天正7年7月・丹波 山姥切国広部隊
きゃ――――――――――
“それ” は、突如起こった
夕暮れの丹波の町中に響く、人々叫び声――――――
人々が逃げまどう中――――山姥切国広が目にしたのは、以前、石上神宮で沙紀を襲ってきた“赤い目のバケモノ”
―――――――「時間遡行軍」
歴史修正主義者が放った刺客だった
人の波が、こちらに押し寄せてくる
だが、山姥切国広の目は、既に”敵“を捕らえていた
素早く腰の刀を抜くと、時間遡行軍に対して斬りかかった
ぎいいいいん
と、凄まじい剣戟の音が町中に響き渡る
「おいおい、まじかよ・・・・」
こんな人目のつくようなところで、時間遡行軍と戦うというのか
その時だった
「薬研!!!!」
山姥切国広の声が響いた
薬研がはっとしてそちらを見る
そこには、大太刀と思われる時間遡行軍を、一刀両断にする山姥切国広の姿があった
断末魔と共に、時間遡行軍が霧に用に消えてゆく――――
「大太刀を、ひと振りかよ・・・・」
驚いたようにそうぼやく、薬研とは裏腹に
山姥切国広は、次々と襲ってくる時間遡行軍をなぎ倒していった
こんなことをしている場合ではないというのに――――!!!!!
そんな考えだ、山姥切国広の脳裏に過る
だからと言って、こいつらを放置するわけにはないかない
「――――髭切と膝丸は、町民の避難を!! 薬研は俺の援護を頼む!!」
「わかった」
「じゃぁ、気を付けて~」
そう言って、髭切と膝丸が、町民の避難に回る
薬研も短刀を鞘から抜くと
「腕が鳴るぜ!」
そう言って、一気にこちらに向かってくる時間遡行軍をその短刀で素早く裁いてゆく―――
山姥切国広の傍までやってくると
「旦那、どうすればいい?」
「出来るだけ 日が暮れる前に、片づけるぞ。 日が暮れると―――夜目の利かない髭切と膝丸には不利だ」
「わかった!」
幸い、あの兄弟のお陰で、先ほどまでいた人々はもうここにはいない
奴らが他に行くと面倒なので、全部ここの仕留めてしまわねば――――――
そう思った時だった
「だ、誰かっ・・・・・・」
どこから、人の声が聴こえた――――気がした
山姥切国広が、はっとしてそちらの方を見ると――――そこには若い、女が二人
逃げ遅れたのか・・・・その内の一人は、もう一人を庇うかのようにしていた
ギラギラした赤い目が“獲物”を捕らえたかのように光る
オオオオオオオオオ!!!!!
何処から出しているのか、その時間遡行軍が叫んだ
瞬間、他の時間遡行軍がその動きを止める
なんだ?
と、思った刹那
それは起きた
それまで、無差別と思えた時間遡行軍が、一斉にその女二人に向かって襲い掛かったのだ
「・・・・・・ちっ」
山姥切国広は、それで瞬時に察した
この不可解な時間遡行軍の動き
無差別とも呼べる、住人が一番往来る時間帯への干渉
すべては、あの目の前の女を見つけ出すためだったのだ
「薬研!!!」
「わかってる!!!!」
山姥切国広がそう叫ぶよりも素早く、薬研が目の前の女と時間遡行軍との間に割って入る
それと同時に、山姥切国広が目の前の大太刀の時間遡行軍の攻撃を寸前の所で防いだ
グルアアアアアア!!!
大太刀が、そう叫んだ否や、攻撃がずんっと一気に山姥切国広に圧し掛かる
「くっ・・・・・・」
受け流せば簡単なのはわかっている
だが―――――
今それをすれば、後ろにいる薬研や女達が無事では済まない
「薬研!! 早く、そいつらを連れて離脱しろ!!」
ガチガチガチ・・・・と、刀と刀がぶつかり合う音が響く
重い・・・・っ
このままでは防ぎきれない
「・・・・・・・・っ、薬研! 急げ!!」
「――――わかってるって!」
それだけ言うと、女の方に向かって
「立てるか? ここを離れるぞ」
薬研のその言葉に、庇っていた方の女が こくこくと頷くと
「姫様、行きましょう」
そう言って、もう一人の女を支える様に立ち上がらせる
一瞬その言葉に、薬研が違和感を覚えるが、今はここを離れる事が先決だった
「じゃぁ、山姥切の旦那! 無茶するなよ!!」
そう言って、薬研がその場を離れようとした時だった
それまで山姥切国広に斬りかかっていた大太刀が、ギラリと薬研の方を見た
いや、薬研の庇っている女を見ているのだ
オオオオオオオオ!!!!
けたたましい不気味な声と共に、その大太刀が跳躍した
一気に、薬研の方に距離を縮める――――――が
「させるものか!!!」
そう叫ぶや否や、後ろから山姥切国広がその大太刀を一刀両断にした
だが、浅かったのか・・・・・・大太刀が、「グ、ガァァァァアアアア」と叫ぶと、そのまま大きくその手にあるボロボロの刃の刀を振り切ってきた
だが、それを見越していたのか、山姥切国広が素早くその重い刀を避ける
瞬間、頭から被っていた布がはだけて、山姥切国広の美しい金髪が揺れた
と―――――ドシュ・・・という音と共に、大太刀の喉元を貫いた
それを最後に、その大太刀は断末魔と共に霧となって消えた
が――――その時だった
空に無数の時空の歪みが現れたのだ
「――――くっ」
まだ来るというのか!?
あの歪みは間違いなく、時間遡行軍が現れる前兆だった
「旦那!!」
思わず薬研が叫んだ
だが、山姥切国広は振り返ることなく
「薬研は、そいつらを早く安全な所へ連れて行くんだ!!」
もう――――間違いなかった
時間遡行軍の目的はあの女達だ
薬研もそれを理解しているのか――――
一度だけ、山姥切国広の方を振り向くと
「髭切と膝丸の旦那を呼んでくる!!」
そう言って、その女を連れて走り出した
「――――頼むぞ、薬研」
そう呟くと、山姥切国広は刀を構えた
◆ ◆
――――丹波 亀山城
「沙紀さま、沙紀さま!!」
不意に、廊下の先から、先ほどの少女――――玉子が走ってきた
沙紀が部屋の中から顔を出すと、玉子が嬉しそうに顔を綻ばせて、沙紀に抱き付いてきた
「玉子様? どうかなされたのですか?」
沙紀がそう尋ねると、玉子は満面の笑みで
「あのね、あのねっ!!」
息を切らせながらそう言いう玉子を見て、沙紀がくすっと笑みを浮かべる
「ゆっくりで大丈夫ですよ?」
そう言った時だった
「こら、玉! お客人に失礼だろう? 離れるんだ」
そう言って後ろの方から現れたのは、玉子の兄の十五郎だった
だが肝心の玉子は沙紀から離れるどころか、ぎゅ~~~と、さらにしがみ付いてきた
その様子が余りにも不自然に感じ、沙紀が首を傾げる
なにかあったのだろうか・・・・?
そんな考えが脳裏を過る
すると、十五郎は少し困った様に
「実は・・・・父上がお三方にお会いしたいと―――――」
「え・・・・・・」
それは即ち、明智光秀が沙紀達に面会を求めているという事に他ならなかった
思わず、後ろにいる一期一振と大包平を見る
まさか、歴史に関与する重要人物に干渉することになるとは露にも思わなかったからだ
一期一振も困った様に、大包平を見た
二人の視線で、納得いったのか・・・・・大包平が頭をかいて「はぁ~~~」と大きな溜息を洩らす
「おい、十五郎・・・・だったか? お前の父と俺たちは面識はないはずだが?」
大包平がそう尋ねると、十五郎は不思議そうに首を傾げ
「はい、ですから尚の事父がお礼を言いたいと申していました」
「礼・・・・・・ね」
そう呟き、大包平が考え込む
とても“お礼”だけでは済まなさそうな感じだった
何か厄介ごとに巻き込まれそうな――――そんな予感がしたからだ
だが、城主の申し出を断れは、それこそ処罰を与えられかもしれない――――
行くしか、ないか・・・・・・
そう思っていた時だった
十五郎がふと、一期一振と大包平の二人を見て
「そういえば、お助けいただいたのに、お二方のお名前を聞いていませんでした。 ――――宜しければ、名を教えて頂けますか?」
その言葉に、一期一振はにっくりと微笑み
「申し遅れました。 私は一期――もごっ」
名乗ろうとした一期一振の口を大包平が慌てて手で塞ぐ
「(な、なにをなさるのですか!? 大包平殿!!)」
「(馬鹿はお前だ!! 本当の名を名乗ってどうする!!? 俺たちは”刀剣“なんだぞ!!?)」
「(で、ですが・・・・)」
「(いいから、ここは俺に任せろ!!)」
「あ、あの・・・・・?」
十五郎が少し困惑した様に、二人を見る
すると、大包平は「ごほん・・・・・」と一度だけ、咳払いをして
「俺の名は“焔”だ。 こいつは――――・・・・・・」
そこまで考えて一期一振の偽名とも呼べる名前が浮かばない事に気付く
が、ここで不振がられるわけにはいかない
「あ~“いちご”・・・・・・そう! “苺”というのだ」
「(ええええええええ!!!?)」
流石の一期一振が心の中で叫んだ
その名を聞いて、一瞬 十五郎が ぽかーんとするが、はっとして慌てて顔を引き締め
「焔殿と、えっと…苺殿ですね。 宜しくお願いします」
そう言って深々と頭をさげる
そして、沙紀の方を見て
「貴女様は確か――――」
十五郎の言葉に、沙紀はにっこりと微笑み
「沙紀と申します」
そう言って、ゆっくりと頭を下げた
余りにも美しいその所作に思わず、十五郎が言葉を失う
「あ、えっと・・・・・、その、沙紀・・・・殿、と、お呼びしても宜しいですか?」
その言葉に、沙紀が「はい」と微笑む
瞬間、ぱっと十五郎が頬を染めた
ここに、鶴丸がいなくてよかったと、一期一振は心底思った
いたら十五郎に斬りかかっていたに違いない
それぐらい、十五郎の反応は鈍い一期一振でもわかってしまった
「あ、あの、では後程迎えの者がきますので、それまでゆっくりとされてください。 ほら、行くぞ、玉」
そう言って、沙紀にしがみ付く玉子を呼ぶ
が、玉子は沙紀にぎゅ~~~~としがみ付いたまま離れようとはしなかった
「玉、離れるんだ!」
十五郎が少し強めにそういう
すると玉子は「いや!!」と、きっぱりはっきり言い切った
「その・・・・・・、沙紀殿が困っているだろう? 離れるんだ」
「い~~~や~~~~~~」
と、沙紀を挟んで攻防が繰り広げられる
それを見ていた沙紀が見兼ねて
「十五郎様、構いませんよ。 玉子様は、きっとお寂しいのでしょう」
そう言って、玉子の頭を撫でると、玉子が嬉しそうに笑った
それを見た十五郎は観念した様に
「・・・・・・わかりました。 では、玉をお願いします」
そう言って、そのまま後ろ髪引かれつつも部屋を後にしていった
残った玉子は、沙紀にしがみ付いたまま
「沙紀さま、あのね~」
と、なにやら話しだす
そんな玉子の言葉を嫌な顔一つせず、話を聞いていた
それを見ていた一期一振が
「玉子殿は、ずいぶんと沙紀殿に懐いてしまいましたね」
などとぼやくが、大包平はそれ所ではなかった
まさか、明智光秀の方から面会を申し出てくるとは―――――
これから、どう動く?
迂闊に、動けがこの“歴史”は「改変されたもの」という事が政府に伝わり時空事 閉ざされて脱出不可になってしまう
その前に、なんとか“この時間軸”から出なければ―――――
そんな事を考えている時だった
「そう言えば、大包平殿・・・・・・」
一期一振が、少し不機嫌そうに声をかけてきた
「なんだ」
「なぜ、私の名が“苺”なのですか!!?」
「・・・・・・? そんな事を気にしていたのか? 問題ないだろう? もともと“いちご”と呼ばれているのだし」
「大ありです!!! こんな事弟達に知られたら・・・・・ああ・・・・・・」
そう言ってがくっと項垂れる
それを見た、大包平は溜息を洩らし
「万が一を想定しての名だ。 慣れろ」
「・・・・・・なぜ、大包平殿は“焔”なのですか?」
ジト目でそう見てくる一期一振に大包平は、あっけらかんと
「ん? ああ、その名は俺が政府預かりになった時に使っていた名だ。 だから、嘘は言っていない」
「政府預かり・・・・・・?」
「まぁ、その事は、おいおい話してやる。 今は――――」
そう言って、沙紀の方を見た
問題は、この“審神者”が何処まで、対処出来るか――――だな
もし、本当に鶴丸の言う女だとしたら――――・・・・・・
彼女が石上神宮の・・・・・・
「――――失礼します」
不意に、廊下の方から侍女らしき女が一礼して現れた
「城主・明智十兵衛光秀様がお呼びでございます」
ついに、その瞬間が迫っていた――――・・・・・・・・・・・・
今回は鶴は名前だけでした~~~( *’∀’)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \
その代わり、まんば部隊と夢主の方が入っています
※大包平といち兄の「偽名」については・・・・・・
いち兄ファン方、スマヌ
かっこいい「偽名」浮かばなかったwww
大包平は、紋は「蝶」なんですが、流石に偽名に「蝶」は似合わなすぎるなぁ~と思い・・・・・・
イメージです(`・∀・´)
2020.12.30