華ノ嘔戀 ~神漣奇譚~

 

 弐ノ章 出陣 13

 

 

 

――――本丸

 

鶴丸は部屋で端末を立ち上げ、先に送った二部隊の状況を確認していた

 

この時期、長崎にはイエズス会のアレッサンドロ・ヴァリニャーノ氏が宣教師として来日している

この男は、後に織田信長や大友宗麟・高山右近の元を訪れている

織田信長に至っては、狩野永徳作の安土城を描いた屏風を送っており

加えて、ヴァリニャーノが従者として連れていた黒人を信長が召抱えたいと所望したためこれを献上し、弥助と名づけられて信長の直臣としている

 

少なくとも、信長は珍しもの好きで、ヴァリニャーノの話はさぞ興味を示しただろう

後に、キリシタン大名も多く存在した時代だ

 

そして――――有名なのは、明智玉子

後のガラシャだ

 

鶴丸にはどうも、このガラシャが引っかかった

少なくとも、この年 明智光秀が信長の指示で丹波平定を成している

なぜ、政府はこの時代に干渉をキャッチしたのか

これが、数年後の天正十年の「本能寺の変」の時期なら分かる

しかし、政府が指示したのは、数年前の天正七年

しかも“丹波”ときたら、間違いなく明智光秀の“丹波平定”に関わることに他ならない

 

なんだ・・・・・・?

この時代に何が起きている・・・・・・?

 

時間遡行軍の目的は“なんだ”?

それによっては、動き方を変えなければならない

 

国広と三日月からは―――――

 

ちらりと、端末の履歴を見た

特に、二人からの連絡はなかった

 

一応、部隊長の二人には端末を渡してある

定期的に連絡を頼んでいたのだが・・・・・・

その気配はまるでない

 

果たして、それは単に忘れられているだけなのか、操作がわからないのか――――

もしくは、“連絡できない状況”なのか――――だ

 

こんな事なら、時間を決めておくべきだったと後悔する

 

まぁ、時間なんて転移先とこの本丸がリンクはしていないが・・・・・・

それでも、こうして待っている時間が勿体ない

 

加えて、沙紀の問題もある

上手く、どちらかが合流してくれていればいいが―――――

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

先ほどから何度か試しているが――――

沙紀の端末にコールしても、反応がない

普通ならば、“あり得ない”事だった

 

自分たちに支給されているこの“端末”は普通の端末とは違う

研究者達が、何度も試行を行って作りあげた

“時間軸に干渉しない”端末なのだ

 

つまり、“どの時間軸”にいようと、解除コードを入れれば繋がるのだ

 

だが――――この事を恐らく沙紀は知らない

山姥切国広と三日月には、渡す時説明したが・・・・・・

使い方がわかっていない可能性もある

 

もしくは、“干渉できない時間軸――――”

 

「はっ・・・・・・まさか、な」

 

そんな事、普通なら“あり得ない”

だが、政府にいる時耳にした事がる

 

―――――――「放棄された世界」

 

そういうもの・・・・・・が、“存在する”と

時間遡行軍の攻撃を阻止出来ず、異なる歴史に進んでしまった世界―――――

 

このことは、政府でも上層部しか知らない機密事項だ

もし、固定されていたという転送装置の行き先がそうだったら?

 

沙紀へのコールが繋がらないのも納得いく

「あの世界」へ干渉するには、閉じている時間軸への扉を開かなくてはならない

 

それが出来るのは、政府の中でも限られた「権利」を持つ者だけだ

そう――――「三老」の様な

 

「・・・・・・・・・・」

 

今回の「任務」は三老あいつらに“仕組まれたもの”だ

それは、間違いない

 

ならば・・・・・・

 

「“可能性”は、捨てきれない・・・・・・か」

 

ただ、政府に長く身を置いていた鶴丸でも、「放棄された世界の」情報は持っていない

どんな「歴史」が「放棄」されているのか

どのくらいの数が「放棄」されているのか

 

皆目、見当も付かない

 

いっその事、政府のデータバンクにハッキングするか?

それぐらいなら、可能だ

 

だが、万が一 気づかれた場合、沙紀の立場が危ぶまれる

それだけは、避けねばならない

 

「さて、どうしたものかな・・・・・・」

 

そう言って、端末を見た

 

時間は――――ない

もし、この「仮説」が正しければ

沙紀は「放棄された世界」に飛ばされた可能性がある

そして、「放棄された世界」はあくまでも一時的に道を開かれたということだ

 

それは、長くはもたない

 

下手をすれば、道は閉ざされ

そのまま、その「放棄された世界」に閉じ込められる事となる

 

それだけは、何があっても阻止しなくてはならない

 

問題は、恐らくそれだけではない

「本来の歴史」の道筋にしか示さない、こんのすけが見せたデータ

あれには、間違いなく時間遡行軍の干渉があった

 

それも、かなり面倒な・・・・・・

 

となると、今回の任務はその「二つの時間軸」への時間遡行軍の攻撃を阻止しなくてはならない

ということになる

 

“審神者”である沙紀には、本来任務前に授与される“華号”も与えず、本人を「放棄された世界」へ閉じ込めた上で、こちらの動きを見ているということか・・・・・・

 

「あの、くそじじいども・・・・・・やってくれるじゃねぇか」

 

おそらく――――“これ”を、“監視している者”がいる

 

そうなると、今 小野瀬を問い詰めるのはまずい

“この本丸”も“監視”されている、可能性がある

つまり、鶴丸の動きも全て、三老あのじじいどもに伝わる可能性が高い

 

全て、最初から仕組まれていた・・・・・・・ということだ

 

どう動く?

迂闊に、動けば沙紀を追い詰める形になりかねない

 

その時だった

 

ジジジ・・・・・・と、音がしたかと思うと、突如 鶴丸の目の前に謎のモニターが開かれた

何処かからの、「受電」だ

 

鶴丸がはっとしてそのモニターの方を見た瞬間―――――・・・・・・

 

『こ・・・・・・で、あって・・・・・・かい?』

 

この声は――――

 

「光忠!?」

 

それは、京へ送った燭台切光忠の声だった

 

すると、砂嵐に近かったモニターにブーン・・・・・という音と共に、燭台切の姿が映し出された

 

『鶴さん? 聴こえる?』

 

燭台切のその言葉に、一瞬、鶴丸が庭先を見る

 

「・・・・・・・・・・」

 

気のせい、か?

今、そこに“何か”が――――・・・・・・

 

『鶴さん?』

 

「―――――しっ」

 

『え・・・・・・?』

 

鶴丸が、すっと刀に手を掛けて、立ち上がる

そのまま、気配を消して障子戸に近づいた

 

2体・・・・、いや 3体か・・・・・・?

 

ここ・・は、“沙紀の本丸”だ

あの時の様に、時間遡行軍は容易には入ってこれない―――――

 

なら、可能性は――――・・・・・・

 

鶴丸は、刀を抜くと 思いっきり障子戸を開け放った

瞬間、鞘をある一方へ投げる

 

ザザ・・・・・・! と、何かが動いた

 

 

 

「―――――ばればれ なんだよ!!」

 

 

 

それを見越していたのか

鶴丸が素早く、動いた“それ”に斬りかかった

 

「――――!!!?」

 

ギイイイン! という、剣戟の音が辺り一帯に響き渡る

 

「へぇ・・・・・・」

 

鶴丸は、一撃をかろうじて受け止めた“それ”を見て にやりと笑みを浮かべた

 

「・・・・・・まさか、俺と対等に・・・やりあおうと思ってるんなら・・・・・・お門違いだぜ? 政府の犬が!!!」

 

そう叫ぶなり、鶴丸は“それ”を思いっきり蹴り飛ばした

 

「―――――っ」

 

まさか、蹴られるとは思っていなかったのか・・・・・・

“それ”が思いっきり後方へ吹き飛ぶ

 

ザザっと、何かが動いた

 

それまで隠れていた“それら”が鶴丸を取り囲むように姿を現す

それを見た、鶴丸は「はっ」と、呆れにも似た声を上げ

 

「これはこれは、まさか、本丸こんなところで“お前ら”みたいな奴を見かける事になるとはなぁ・・・・・・? そうは思わないか? ―――――政府の“暗部”どもよ!!!」

 

瞬間、それは起きた

鶴丸から“暗部”達を威圧するような、霊気が放たれたのだ

その圧力に、“暗部”達がぎょっとする

 

それは、普通・・の“刀剣男士”の持つ“力”ではなかった

もっと、別の―――――――

 

だが、鶴丸はそいつらに考える余地は与えなかった

 

素早く地を蹴ると、前方の一人に向かって斬りかかった

受ける隙すら与えず、そのまま刀を振り下ろす

 

「ぐあ・・・・・・っ!!」

 

斬られた一人が、血を流しながら鶴丸を見た

 

「な、ぜ・・・・・・、動け、る・・・・・・」

 

「何故? ああ、俺があいつらを時間移動させた所も見ていたのか? 残念だったな、俺はぴんぴんしてるぜ?」

 

「ばか、な・・・・・・」

 

ぜーぜーと、息をしながら、鶴丸を見る

それを見た、鶴丸が「ああ・・・・・・」と小さな声で

 

「情報と違ってたってか? 残念だったなぁ・・・・・それは、よぉ!!!」

 

そう叫ぶなり、後方から迫っていた暗部の一人を打ちのめす

そして、そのまま側面からも迫っていた暗部を斬り伏せた

 

時間としてはものの数秒―――― 一瞬の出来事だった

 

「さて、これで邪魔者はいなくなったわけだ」

 

鶴丸が、とんとんっと、刀の鞘で肩を叩きつつ

目の前の暗部に近づいた

 

「・・・・・・・・・・・・っ」

 

暗部がぎりっと奥歯を噛みしめる

だが、鶴丸にはそんな事どうでもいい事・・・・・・・だった

 

「飛んで火にいる、なんとやら・・・・・・、丁度良かったぜ」

 

「・・・・・・・・・っ われ、らに手をだせ、ば―――――」

 

瞬間、鶴丸がそいつの真横に刀を突きさした

 

「!!?」

 

「――――手を出せば・・・・・・なんだって?」

 

「・・・・・・っ、お、まえ――――っ」

 

どす・・・・という音と共に、その言葉を最後にその暗部がぐらっと倒れる

その時だった

 

「鶴丸?! 一体、さっきから何を騒いで――――なっ!!?」

 

庭先で見知らぬ男が三人倒れているのを見て、長谷部がぎょっとする

それを見た鶴丸は、丁度いいと言わんばかりに

 

「おー長谷部、こいつら縛り上げとけ」

 

「な、ななな、なんだ こいつらは!!?」

 

長谷部は訳が分からないという風に、声を荒げた

まぁ、普通の反応だった

 

だが、鶴丸は気にした様子もなく

 

「侵入者だよ。 死なすなよ? こいつらには聞きたいこと・・・・・・が山ほどあるからな」

 

――――と、燭台切から通信が入っていたのを思い出す

 

「悪い、長谷部。 こいつらの監視 頼めるか? 後、一応死なない程度に手当してやれ」

 

「お、おい! 鶴丸!!?」

 

それだけ、言い残すと長谷部と倒した暗部を残し、部屋に戻る

 

すると、辛うじてまだ通信は繋がったままだった

 

「悪い、待たせた」

 

そう言って、鶴丸がモニターの前に座る

 

『あ、鶴さん!! 三日月さーん、鶴さん戻ってきたよ――――・・・・・・』

 

と、燭台切がモニターの向こうで三日月を呼んでいた

すると、数分もしないうちに三日月がモニターの前に姿を現した

そして、鶴丸の様子を見て一言

 

『ふむ・・・・・・そちら・・・にも、現れていたようだな? あ奴ら・・・が』

 

その言葉に、鶴丸が大きくその金の瞳を見開いた

 

「なんだって? どういうことだ」

 

まさか・・・・・・

嫌な考えが頭を過ぎる

 

だが、モニターの先の三日月は静かに頷くと

 

『鶴よ、殺してはいまいな?』

 

「・・・・・・殺してはいない。 殺せば糾弾する理由を向こうに与えるだけだ」

 

『わかっているならば、それでよい』

 

そう言って、三日月が笑う

が、笑い事ではなかった

 

「――――まさか、そっちにも あいつら・・・・が干渉してきたのか?」

 

あいつら―――暗部の連中は基本 直接干渉はしない

何故ならば、彼らは政府の隠れた存在だからだ

 

それを、三日月が知っている――――――

 

その事の方が、驚きだった

 

『びっくりしたよ~、突然 三日月さんが・・・・・・「誰かに視られてる」とか言い出すもんだからさー 』

 

燭台切が、ため息を付きながらそう言う

 

まぁ、これが普通の反応だろう

少なくとも、暗部の存在を知っているのは、政府上層部の一部だけだ

刀剣男士には伝えられていない・・・・・・・・

 

鶴丸は長く政府に身を置くうちに、知る所となったが・・・・・・

 

最初、“この本丸”にいた事といい、沙紀の事を知っていた事といい

本丸の刀帳に名前がなかったり、暗部の事もそうだ

 

この“三日月宗近”には、何かがある

それが“何か”はわからないが―――――・・・・・・

 

「光忠、その“視てた奴ら”は、どうしたんだ?」

 

鶴丸がそう返すと、燭台切がうーんと唸りながら

 

『逃げたよ。 姿は―――見えなかったけど・・・・。 伽羅ちゃんが一応、今周りを警戒してる』

 

「そうか・・・・・・」

 

とりあえず、燭台切や大倶利伽羅には、まだ暗部の話は言わないほうが良さそうだ

それを感じ取ったのか、三日月が「ふむ・・・・・・」と少し考え

 

『―――相分かった。 その方がよいだろう』

 

まるで、鶴丸の心を読んだかのように、三日月が頷く

だが、今はそれを追求する時ではなかった

むしろ、こちらとしては、ありがたい

 

それよりも、問題は―――――・・・・・・

 

「三日月、光忠。 ―――沙紀は見つかったか?」

 

今、一番重要な事を聞く

すると、燭台切が小さくかぶりを振り

 

『少なくとも、この時代の京には居なさそうだよ。 一応、都に降りて聞き込みしてみたけど・・・・・・今は、信長さんの安土城の事で噂はもちきりだね』

 

「安土城? ああ――そういえば、信長が安土城入りしたのは、この年だったな」

 

『後は―――京にある織田家の京屋敷を二条新御所として、誠仁親王に進上する動きがあるとかなんとか・・・・・・』

 

「へぇ・・・・・・」

 

『ただ、ちょっと気になる事が・・・・・・』

 

「気になる事?」

 

それだけ言うと、燭台切が「三日月さーん」と、三日月を呼んだ

少しした後、ゆったりした動作で三日月がモニターに姿を現した

 

そして―――

 

 

 

  『―――ここ・・には主はおらぬ。 ――――が、主の気配を感じる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだか、ややこしい話へ笑

いや、仕組んでるのは私ですけどね??

それにしても、また新たなオリジナル設定が来ましたよ~~~

いや、ふつーになんかあの時の政府怪しいからさ~こういうのもいてもおかしくないな!とね

実際、うちの設定には三老とか華号とか色々あるからね~( *’∀’)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \

 

あ、NARUTOから取ったんじゃないですよー?

”暗部”っていのうのは意味としては「暗い部分 / 隠された部分」という意味です

つまり、秘密組織!!笑

 

 

 

2021.01.24