華ノ嘔戀 ~神漣奇譚~

 

 壱ノ章 刻の狭間 7

 

 

『凄いじゃないか!! いきなり、初めて行った鍛刀で顕現させたのが国宝級とはね!!』

 

いきなり、通信が入ったので何事かと思いきや…

繋げた先に待っていたのは案の定小野瀬で

繋げるなり、いきなり褒められた

 

褒められる理由がいまいち分からないので返答に困ってしまう

 

「えっと…長谷部さんではいけなかったのでしょうか?」

 

思わず、そう尋ねてしまうと 小野瀬は「まさか!」と声を上げ

 

『僕は、褒めてるんだよ? 流石は“神凪”殿だと思ってね!! ただ、まぁ…うーん…』

 

そこまで言い掛けた後、小野瀬が考え込んでしまった

やはり、長谷部ではいけなかったのだろうかと思ってしまう

 

『いやね、ここの“本丸”はちょっと“刀種”が偏り過ぎてるなぁ…と思ってね』

 

「刀種……ですか……?」

 

言われてみれば……

太刀と打刀しかいない

 

『普通、審神者に就任したての子は大概、慣れてないせいもあって 初めは短刀とか、出来ても脇差ぐらいが関の山なんだよね…鍛刀しても。 それが、いきなり国宝級の打刀とか……うん、やっぱり貴女は他とは違うね!』

 

「………………」

 

他と違うと言われても 正直、嬉しくは無かった

むしろ、自分だけなんだか世界と切り離されている様で……虚しい

それは、今に始まった事ではないが……

 

それでも、別格扱いされて 嬉しく思った事はなかった

 

『ただ、困ったなぁ……』

 

突然、小野瀬がうーんと唸りだした

何が“困った”なのか分からず、沙紀が首を傾げる

 

すると、小野瀬は

 

『太刀は持っておくに越した事ないよ? 主戦力だからね。 ただ今後、夜戦や室内戦が来た時、太刀だけでは立ち回れないよ。 彼らはまず夜目が利かない上に小回りも苦手だ。 夜戦や室内戦で力を発揮するのは短刀や脇差達だよ。 つまり“短刀”を入手するのも必須事項って事だよ!』

 

「……………」

 

『他に…そうだなぁ… 大太刀や槍もいるといいね! 色々役に立つし』

 

「……………」

 

『刀種は多いに越した事ないよ。 色々戦略の幅が広がるしね! ――――って、“審神者”殿?聞いてる?』

 

「え………?」

 

いきなり話を振られ、沙紀がはっとする

慌てて居住まいを直す

 

「すみません…聞いています。 その……色々と考えてしまって…」

 

戦略的な事も、刀種の件も、何もかも自分は勉強不足だ

このままでは皆の足を引っ張ってしまう……

 

「あの、小野瀬様……」

 

『ん? なんだい…?』

 

「お願いがあるのですが――――……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「沙紀?」

 

「おーい、沙紀―――?」

 

何度か名前を呼ばれ、沙紀がはっとする

 

「え……? あ……」

 

気が付くと、直ぐ真横にいる鶴丸が手を振っている

 

「あ……り、ん、さん……」

 

「凄い集中力だな。 俺が声かけても全然反応しなかったぞ?」

 

そう言って、周りに散らばっている本を取る

 

「“孫子”に“六韜”…また難しい本読んでるな……」

 

「……見ただけで分かるのですか?」

 

沙紀が不思議そうにそう尋ねると、鶴丸は「まぁな」と答えた

そして、ぱらぱらと頁をめくりながら

 

「ほら、前に言っただろう? 小野瀬に馬鹿にされたくなくて、色々本読みまくったって」

 

そういえば、以前 鶴丸の現代の部屋に行ったとき、彼の部屋には大量の本が本棚に並んでいた

あの頃が、酷く昔の様に思えてくる

 

ほんの少しの前の事なのに……

 

「でも、何でまた兵法書なんて読み始めたんだ?」

 

「……それは、私、この手の本は読んだ事なかったので」

 

「だからって、いきなり“六韜”とか難しくないか?」

 

「それは――――……」

 

昼間の小野瀬とのやり取りを説明する

すると、鶴丸は「成程な」と納得した様に、ぱらぱらと頁をめくりながら

 

「ああ…まぁ、確かにこの先 戦場に出るなら、ある程度の戦術なんかも必須になるし、刀について詳しくなる分には、丁度いいかもしれないな」

 

そう言って、本を閉じると沙紀に差し出した

差し出された本を受け取る

 

「何か分からない事あったら、俺に聞けよ? 伊達に色々読んじゃいないからな」

 

鶴丸がそう言いながら、沙紀の頭をぽんっと撫でた

なんだが、くすぐったくて思わず笑みが浮かんでしまう

 

「りんさんなら、知らない事なさそうですね」

 

「そりゃぁ、まぁ…お前よりもずっと昔から生きてるからな……でも…」

 

瞬間、するり…と鶴丸の手が沙紀の髪を撫でる様に降りてくる

 

そしてそのまま、引き寄せられた

 

「あ………」

 

不意に、抱き寄せられて沙紀が一瞬戸惑いの色を見せる

だがそれすらも、予想していたのか…

鶴丸はくすっと笑みを浮かべて

 

「そういう所、昔から変わらないな。 そんなお前だから…俺は、ずっと傍に居てやりたいって思うんだ…」

 

「りんさん……?」

 

不思議に思い顔を上げると、ふいに瞼に口付けが落ちてきた

 

「………っ」

 

突然の事に、沙紀がぴくんっと反応する

すると、鶴丸はやはりくすっと笑みを浮かべ

 

「これからの刀生――――すべて、お前にやるよ」

 

そのまま、ゆっくりと唇を重ねられた

 

「あ………」

 

こうして唇を重ねられるのは、何度目だろうか……

何度重ねられても、初めての様に緊張してしまう

でも、嫌じゃない

なんだか、とても幸せな気持ちになる

 

これは、何かの暗示だろうか

 

「ん……り、ん…さん………」

 

堪らず沙紀が鶴丸の袖を掴む

それに気分を良くしたのか、鶴丸が「沙紀…」と囁く様に名前を呼んだ

 

不思議だ

名前を呼ばれただけなのに…こんなにどきどきしている

 

こんなこと……

こんな風に思うのはこの人だけ――――……

 

鶴丸の手が、優しく沙紀の髪を撫でる

それが酷く くすぐったい

 

このまま

このままずっと、傍に居られたらどんなに幸せだろう―――……

 

ああ…

やっぱり、私はこの人が――――……

 

そう思った時だった

 

 

 

 

 

「んん! あーごほん!!」

 

 

 

 

 

突然、廊下の方から妙な咳払いが聴こえた

ぎょっとして、そちらを見ると…

何とも、居たたまれない様な、怒った様な、しぶ~~い顔をした長谷部が座っていた

 

え…

え…………!?

 

驚いたのは他ならぬ沙紀だ

さっきまで誰もいなかった筈なのに…何故、ここに長谷部がいるのか

しかも……

 

「長谷部…お前、いつからそこに居たんだ?」

 

鶴丸が沙紀を抱きしめたまま そう問うと

長谷部は、「あー」と言葉を洩らし

 

「お前の“何か分からない事あったら、俺に聞けよ?” の、辺りからだな」

 

ということは……

まさか…まさか、全部見られ……

 

瞬間的に、沙紀が顔を真っ赤にして両手で押さえる

 

見られてた―――――――――!!!!!

 

その事実に、耐えられず

沙紀がそのまま俯いてしまう 耳まで真っ赤にして

 

その様子に、鶴丸は くつくつと笑いながら沙紀の頭を撫でた

 

「長谷部~? お前、少しは空気読めよな。 沙紀が恥ずかしがるだろう」

 

と…鶴丸自身は見られても平気なのか…

さほど、気にした様子もなく、沙紀の肩に手を置いたままだった

 

すると、長谷部はわざとらしく咳払いをしながら

 

「俺としては、精一杯空気は読んだ。 ……だが! これ以上の主への蛮行は許しがたき行為なのでな、声を掛けさせてもらった」

 

「なんだ、それは」

 

鶴丸が 意味が分からんという風に返すと、長谷部はキッと鶴丸を睨み

 

「言い逃れは見苦しいぞ! 鶴丸!! あのまま俺が声を掛けなければ、主に不埒な行為をしていただろう!!!」

 

「は……?」

 

「え………」

 

不埒………?

りんさんと、私…が……?

 

それはつまり……

 

……………

………………

 

瞬間、かーと沙紀が今度こそ茹でタコの様に真っ赤になる

 

「は、ははは長谷部さん…っ、何を言って――――」

 

思わず耐えられなくなって抗議しようとした時だった

突然、鶴丸がぐいっと更に抱き寄せてきた

 

「え……!? あの……っ」

 

この状況下で更に抱き寄せる行為が理解出来ず、沙紀が戸惑っていると

鶴丸は、にやりと笑みを浮かべ

 

「なんだ、長谷部。 俺と沙紀が“そうなったら”なにか困る事でもあるのか?」

 

「な、何…い、って………」

 

突然何を言い出すのだ、この人は

 

長谷部が唖然としている中、鶴丸は気にした様子もなく沙紀に囁く様に

 

「沙紀は嫌か…? 俺にこうして触れられるのは……」

 

そう言って沙紀の瞼に口付けを落とす

 

「あ………」

 

「ん? 言葉にしなきゃ何も分からないぜ? 沙紀」

 

答えを促され沙紀が戸惑った様に、顔を真っ赤にさせる

 

「わ、私は……」

 

「ん?」

 

「りんさんに触れられるのは…その……嫌では……」

 

「はっきり言わないと分からないぜ?」

 

答えなど分かっているくせに

こうやって、いつも言わせようとする

 

「~~~~っ、もう、分かっていらっしゃるくせに…っ」

 

「お前の言葉で聞きたいんだよ」

 

「…………っ、そ、れは―――……」

 

ここで言わなければいけないのか

長谷部がいるのに……

 

でも、肝心の長谷部は未だ唖然と口をあけたまま呆けている

 

うう………

 

ちらりと、鶴丸を見ると優しく微笑まれた

 

「……………っ」

 

この笑顔には弱いのだ

 

「わ、私は…その……嫌じゃ…ない、です……」

 

そこまで言うのが限界だった

恥ずかしさのあまり、顔が上げられない

 

すると鶴丸は嬉しそうに笑うと

 

「俺も…沙紀に触れるのは好きだぜ」

 

そう言って、沙紀の頭を撫でるが…

沙紀はもう、それ所では無かった

 

顔が熱い

心臓の音が、聞こえてしまうのではないかというぐらい、煩く鳴り響いている

 

「そういう事だ、長谷部。 俺達の邪魔はほどほど(・・・・)にな?」

 

鶴丸が、勝ち誇った様にそう言うが…

当の長谷部には聞こえていないのか…未だに放心している

 

「おーい、長谷部~~~?」

 

鶴丸が、ぶんぶんと長谷部の前で手を振った瞬間―――

ぐわしっ!!! と、その手を掴まれた……長谷部に

 

突然の事に、流石に鶴丸もぎょっとする が

それよりも、長谷部が突然覚醒したように、その手の下から這い上がってくるな否や

その掴んでいる腕をギチギチギチと握り締めた

 

 

「つ~る~ま~る~~~~~」

 

 

「痛い痛い痛い!!!」

 

「痛くしてるんだ!!!」

 

長谷部の背後に般若が見える

 

「お前という奴は……主への数々の無礼…許すまじ!!!」

 

「…長谷部さん、顔が怖いです」

 

「やかましい!!!!」

 

鶴丸が突っ込むが、見事に一刀両断にされた

 

「主!!」

 

「は、はい…っ」

 

突然、こちらに話を振られ、沙紀がびくっとする

 

「主も、鶴丸を甘やかしすぎです!!」

 

「す、すみません……」

 

何だかわからないが、謝ってしまった

すると長谷部は、キッと鶴丸を睨み

 

「そもそも、お前は“ここ”に何しに来たのか忘れたのか? お前が戻ってこないと、燭台切が言うから俺が様子を見に来たんだぞ!!?」

 

言われて鶴丸がぽむっと手を叩く

 

「ああ、そうだった。 沙紀―? 光忠が呼んでるぜ? なんでも、聞きたい事があるとかで」

 

「え…? 燭台切さんですか?」

 

「お前は―――――!!! やっぱり言ってなかったんだな!!」

 

ギュギューと長谷部が鶴丸の首根っこを掴んで締めるものだから、鶴丸が「わーギブギブ!!」と叫んでいる

 

「主は、早く燭台切の所へ行ってやって下さい。 奴は今、厨で困ってます!!」

 

「は、はい……」

 

そこまで言われたら、行かない訳にはいかない

鶴丸も気になるが……

 

ごめんなさい、りんさん…

 

心の中で、合掌する

後で、何か持って行こうと心に誓って、沙紀はその場を後にした

 

その直後……

鶴丸の雄叫びが本丸中に響いたとかなんとか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久しぶり? に、鶴といちゃいちゃ…

と思いきや、長谷部に見られていたというwww

よくある話ですww

 

この後、長谷部に尋問される鶴が目に浮かびますなぁ~(;゚∀゚)

所で、大包平を早めに出したくてうずうずwww

あの俺様具合たまらんわ~(´∀`*)ウフフ

 

2017/03/16