華ノ嘔戀 ~神漣奇譚~

 

 壱ノ章 刻の狭間 3

 

 

 

 

『あ—――――――!!! やっとでたぁぁぁぁぁ!!!! 遅いよ!!!』

 

 

 

 

キーンという音がしそうな位大きな声で叫ばれて、思わず耳を塞ぎたくなる

……塞いだ者もいたが……

 

モニターに映っていたのは、むぅっと頬を膨らませた小野瀬の姿だった

それを見た鶴丸は、半ば呆れた様に…

 

「小野瀬…お前、少しは“遠慮“って言葉覚えた方がいいぜ?」

 

鶴丸のその言葉に、皆が頷いたのは言うまでもない

唯一、鶴丸がそう突っ込む意味が分からなかった沙紀だけがきょとん…としていた

 

すると、モニターの向こうの小野瀬は心外だと言わんばかりに

 

『相変わらず、鶴丸君は酷いなぁ~。 僕は、審神者殿がちゃんと使えるかどうか知る為に掛けたんだよ? それを――――』

 

「阿保か。 着いた早々、一度も端末を使った事のない沙紀がいきなり使えるわけないだろうが! 掛けるんなら、俺のにしとけよな」

 

すかさず突っ込んだ鶴丸に、小野瀬は面白くなさそうに

 

『それだといつもと変わらないじゃないか~面白くないよ』

 

定期連絡に面白さを求めるな!!

と、誰もが思った

 

二人のやり取りをおろおろしながら見ていた沙紀に、鶴丸は小さく息を吐くと

微かに笑みを浮かべて、ぽんぽんと頭を撫でてきた

 

「……………?」

 

いきなり頭を撫でられて、沙紀が首を傾げる

だが、鶴丸はさほど気にした様子もなく

 

「で? 用件はそれだけか? それなら切るぞ―――――」

 

そう言って沙紀の持つ端末に表示されている“end call”のボタンを押そうとした

瞬間、慌てて小野瀬が叫ぶ

 

『あ――――――――!!! ちょっとちょっと!! まだ切らないでくれよ!!!』

 

思いっきりモニターの向こうで手をブンブン振る小野瀬に、鶴丸が顔を顰める

 

「なんだ? まだ何かあるのか?」

 

『あるよ!! 大事な話が!!!』

 

心外だと言わんばかりに、小野瀬はふんっと鼻息を荒くした

その様子に、鶴丸が益々顔を顰める

 

すると、苦笑いを浮かべた燭台切が「まぁまぁ」と鶴丸を制する様に声を掛けてきた

 

「鶴さんも落ち着いて。 一応、あの人の話も聞いてみようじゃないか」

 

「そうですよ。 小野瀬殿も何か重要な話があるのかも…」

 

と、口添えしてくれる一期一振の言葉に、モニターの向こうの小野瀬がうんうんと頷く

 

『いやぁ~燭台切君も、一期君も話が分かる()で助かるよ~』

 

「……ただし、くだらない話だったら容赦はしませんがね」

 

にっこりと微笑みながらそう言う一期一振に、小野瀬が顔を引き攣らせた

ある意味、この中で一番怖い存在かもしれない

と、そこにいる全員が思ったのは言うまでもない

 

はぁーと、鶴丸は頭をかきながら

 

「で? 用件ってのはなんなんだ?」

 

鶴丸が観念した様にそう尋ねると、小野瀬は何かをごそごそとしながら

 

『うん、説明してなかった事がいくつかあったなぁって思ってね』

 

そう言って、モニターの向こうで何かパネルを取り出すと

 

『まず、“本丸”で出来る事だけど…“鍛刀部屋”と“手入部屋”はあらかじめいくつか用意しておいたから』

 

そう言って、“鍛刀部屋”と“手入部屋”の説明をしてくれた

 

“鍛刀部屋”とは文字通り、新たな刀を鍛刀する部屋だそうで

資源もいくつも用意されているらしい

だが、ある資源には限りがあるので、今後は自分達で遠征に行くなどして資源を集めなければならないという

 

そして、“手入部屋”は戦場に傷付いた刀剣男士を手入れする部屋だそうだ

人で言うと、病院の様なものだろうか…

 

その時だった、小野瀬がふと真面目な顔になり沙紀に告げた

 

『審神者殿、気を付けて欲しい』

 

「え……?」

 

一瞬、何を? と思う

だが、その理由は直ぐに分かった

 

『彼らは“刀”だ。 戦場での傷が酷い――――……そう…敵に“破壊”された場合、もう元には戻せないよ』

 

「…………え…」

 

思考が停止する

今、小野瀬は何と言ったか……

 

 

 

“ハカイ”されれば、“モウモトニハモドセナイ”よ

 

 

 

「………………」

 

 

それは――――……どういう…い、み……?

 

 

思考が追いつかない

彼は何を言っているのだろうか…

 

「あ、の………」

 

沙紀が思い詰めた様に、顔を上げる

目の前のモニター中の小野瀬は笑ってはいなかった

 

『もう一度言うよ。 “破壊”されれば、”彼らはもう二度と戻にはもどせない“よ』

 

「……………」

 

握り締めた手に、じわりと汗が滲み出る

“二度と元には戻せない”

その言葉が何を意味するのか……

 

それが分からない程、沙紀とて無知では無かった

 

思わず、“彼ら”を見る

燭台切も、一期一振も、山姥切国広も、大倶利伽羅も、三日月も…そして、鶴丸も―――…

誰も笑っていなかった

 

それで分かった

ああ、本当なのだ…と

そして、皆、それを知っているのだ――――――と

 

「………………」

 

言葉が見つからない

”彼ら“にとって”破壊“とは”死“と同じ

”二度と“―――――”蘇らない“――――………

 

沙紀がぎゅっと自身の手を握りしめる

 

“二度と”……”会えなくなる“……そんなの――――……

 

“彼ら”を“戦場”に送るという事は…そういう事なのだ

でも…………

 

ぎゅっと、沙紀は唇を噛み締めた

ゆっくりと、顔を上げる

そして、真っ直ぐに小野瀬を見据えると――――……

 

「……………せん」

 

『……ん?』

 

言葉にするのが怖い

本当に、出来るかなんてわからない

それでも―――――………

 

「――――“破壊”なんて、させません。 絶対に―――……私が…、彼らが私を護ってくれる様に、私も彼らを護ります。 ――――それが…それが、私の存在する意義だと思うから…」

 

そう言った沙紀の瞳には強い“意思“を感じられた

 

そうだ

護られるだけの存在じゃない

私は、彼らを”護る”存在なのだ

 

手が震える

本当は怖い

そんな大それた事を自分が出来るのか…

 

それでも…それでも―――――……

 

その時だった

不意に、ぽんっと誰かの手が沙紀の頭を撫でた

 

はっとして顔を上げると、鶴丸が少し困った様に苦笑いを浮かべながら

 

「安心しろ、沙紀。 俺は…いや、俺達はそんなに柔じゃないさ。 そう簡単に折れたりしない」

 

「そうですね。 私もまだ弟たちにも会っていませんし…折れる気はありませんよ」

 

「僕も、沙紀君を置いて折れる気はないよ。 それに、まだ貞ちゃんに会ってないしね」

 

そう言って、一期一振や燭台切も笑って見せた

 

「………………」

 

「ほら、山姥切君も伽羅ちゃんも何か言って!」

 

そう言って、燭台切がぐいっと山姥切国広を突っつく

 

「お、俺は――――……」

 

無理矢理、沙紀の前に押し出された山姥切国広は少し困った様に言葉を詰まらせると、ふいっとそっぽを向きながら

 

「………あんたを護るのは俺の役目だからな…俺が折れたら、あんたを護れない…だろ」

 

そう言って、頭の布をぐいっと引っ張った

 

「……山姥切さん」

 

その時だった

不意に、頭をぽんっとまた叩かれた

顔を上げると、大倶利伽羅がそのまま沙紀の後ろを通り過ぎて部屋を出て行く

 

「……大倶利伽羅さん…」

 

皆の気持ちが伝わってくる

とくん…とくん…と、心が温かくなる

“嬉しい”と……そう思わずにはいられなかった

 

知らず、涙が零れた

沙紀は、ぐいっと涙を拭うと 今できる精一杯に笑顔を見せた

そして――――……

 

 

「ありがとう…ござい、ます」

 

 

そう言って、深く頭を下げたのだった

 

 

その様子を三日月だけが ただ静かに見ていた―――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ◆          ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜――――……

 

縁側に腰を下ろし、三日月は静かに空を眺めていた

空には美しい三日月が昇っていた

その月に掛かる様に、はらはらと雪と桜が舞っている

 

何度見ても、不思議な光景だった

 

相容れぬモノ―――――

 

そう思っていたのに…“ここ”には“それ”が存在する

まるで、自分と沙紀の様だと思う

 

彼女は太陽

そして、自分は月――――……

 

相反する存在

 

それが同じ場所にいる

それだけで不可視な事だった

 

三日月はじっと自身の手を見た

“人のかたち”を手にして初めて感じる

 

これが“心”というものか……

 

“刀”の時はなかった“感情”

 

何かが囁く

“彼女”の――――“沙紀の心”が欲しい…と

他の誰でもない

彼女の心が  欲しいのだ

 

今まで何かに執着した事はなかった

ずっとずっと ”永劫“とも呼べる長い時間を過ごしてきた中で

一度として抱いた事のない “感情”

 

求められても、求める事は一度としてなかった

 

天下五剣の中で最も美しいと呼ばれた刀―――――三条宗近の太刀・三日月宗近

 

それが自分であり

三日月宗近という刀だ

 

あの日――――

あの夜より、”彼女“によって”人としての生“を受けた

 

今でも忘れない

泣きじゃくる彼女が、自分にしがみ付いて来たのを――――……

 

その時、三日月は全てを悟った

ああ…俺は、彼女を残して“一人いってしまった”のだと――――……

 

だから、誓った

もう二度と、彼女を―――沙紀を一人にはしないと…

 

故に、今“ここ”にいるのだ

全ては、彼女の為

 

 

 

           沙紀の為に―――――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回は、尺の関係で短めです…すみません~~~

キリが悪かったんだよぉ~~~~

 

ここで、話を切らないとおかしくてね…(-_-;)

文字数的にはかなり少ないんだけれど…仕方ないので、これだけにしました

 

さてさて、んん? じじいは何は訳ありっぽいですね~(´∀`*)ウフフ

まだ、秘密ですけどね~~~

 

2016/11/13