華ノ嘔戀 ~神漣奇譚~

 

 壱ノ章 刻の狭間 2

 

 

 

「その先は、しりません!!!」

 

こんのすけのドヤ顔に突っ込む事も出来ず、沙紀は息を飲んだ

てっきり、この先も教えてもらえると思っていたのに、まさかの展開に愕然とする

 

ど、どうしたら……

 

手の中の端末は未だに「ピピ… ピピ…」と鳴り続けている

いっその事諦めてくれたらいいのに、止まる気配すらない

 

頭の中が混乱して、何も浮かばない

その時だった

 

「うん? 主、どうかしたのか?」

 

不意に、手に茶を持って通りかかった三日月が不思議そうに声を掛けてきた

 

「あっ……」

 

思わず、助け船とばかりに沙紀が声を上げる

 

「三日月さんっ!!」

 

突然駆け寄ってきた沙紀に、三日月の方がその瞳を丸くさせる

が、沙紀はそんな三日月を気にしている余裕もなかったのか…

突然、ばっと手に持っていた端末を三日月に見せた

 

「こ、これをどうしたらいいのか分からなくて……っ」

 

後から考えれば、聞く相手を間違っていたのかもしれない

だが、今の沙紀にはそんな事を考える余裕がなかった

 

手の中の端末を見せられた三日月は、まじまじとそれを見つめ…

 

「ふむ……鳴っておるな……」

 

「は、はい」

 

ごくりと 沙紀が息を飲む

三日月は、じーとその端末を見つめた

 

端末は相変わらず「ピピ…ピピ…」と鳴り続けている

 

微動だにしない三日月に、流石の沙紀も不安を感じ始めた

 

「あ、あの…? 三日月…さん……?」

 

ピピ…ピピ……

 

端末は鳴り続けている

 

するとその時だった、三日月が不意にその端末に手を伸ばした

一瞬、三日月が端末を操作してくれるのかと思ったが……三日月は何するでもなく、そっと端末を持つ沙紀の手に自身の手を重ねた

 

「…………?」

 

沙紀が三日月の行動の意味が分からず首を傾げる

やはり、端末は「ピピ…ピピ……」と鳴り続けていた

 

「ふむ……」

 

三日月が少し難しそうな顔をしながら

 

「やはり、これでは音は止まらぬか……」

 

「え……? あ……」

 

そこで三日月の行動の意味に気付いた

三日月は手で“蓋”をしたのだ

だが、それで音が止まる筈もなく……

 

「あの……三日月さん、それでは止まらないかと……」

 

思うのだが……

 

沙紀が申し訳なさそうにそう言うと、三日月はにっこりと微笑み

 

「うむ、そのようだな。 ……して、主」

 

「え……あ、はい」

 

“主”と呼ばれる事に慣れていないせいか、反応が一瞬遅れる

しかし、三日月はさほど気にした様子もなく

 

「この様な時、”誰か“に教わると良いと聞いてはおらぬのか?」

 

「え………?」

 

“この様な時”………?

言われて端末を見る

 

そうだ……

端末を渡すとき、小野瀬は何と言ったか……

 

『まぁ、その点は鶴丸君なら分かるから、彼に操作方法は教わって?』

『鶴丸君は詳しいよ~マンションにも自分専用に端末持ってたぐらいだしね。 最低でもメール送受信と基本操作なんかは教わって。 基本連絡は全部メールか通信で行うから。 最低でもそれが出来ないとお話にならないよ』

 

「りんさん……っ」

 

そう言っていなかっただろうか……

そうだ、小野瀬は鶴丸に聞くと良いと言っていた

 

咄嗟に脳裏に鶴丸の姿が浮かぶ

そうだった

すっかり突然の通信に動揺して失念していた

鶴丸に聞けばいいのだ

 

なんだか、ぱっと希望が見えてきた

 

「三日月さん! 小野瀬様はりんさんに聞けと――――……」

 

沙紀のその言葉に、三日月は一度だけその瞳を瞬かせると、にっこりと微笑んだ

 

「では、行くとするか」

 

そう言うなり、突然 沙紀の手をぎゅっと握りしめた

 

「え……、あ、ああの……っ」

 

三日月の突然の行動に沙紀が動揺の色を示す

だが、三日月は気にした様子見なく、そのまま沙紀の手を引っ張って歩き出した

 

「お待ちください、主さま!!」

 

こんのすけも、ととと…っと、後に続く

 

だが、今の沙紀にはこんのすけに構っている余裕がなかった

突然握られた手が熱くて、意識がそちらばかりにいってしまう

 

「あ、あの、何処へ……!?」

 

行き先も告げずに、三日月はどんどん廊下を進んでいった

よろめきながらも、なんとか三日月に付いて行く

強く握られた手が熱い

知らず、頬が高揚していくのが分かった

 

そして気が付けば、本丸の東側に位置する広間に辿り着いた

 

「鶴」

 

不意に、三日月が鶴丸を呼んだ

 

え………

沙紀が首を傾げる

鶴丸が広間にいるというのだろうか……?

 

だが、その疑問は直ぐに解消された

広間を見れば鶴丸だけではない
燭台切や一期一振、山姥切国広…そして大倶利伽羅までもいた

 

……皆さん、ここのいらっしゃったのね……

 

てっきり自室で休んでいるのかと思ったが…

どうやら皆、広間で寛いでいた様だった

 

沙紀がそっと広間を覗くと、それに気付いた鶴丸がくすっと笑みを浮かべ

 

「どうした、沙紀。 何かあったのか?」

 

そう言って、ゆっくりと立ち上がるとこちらに近づいてきたが…

次の瞬間、その表情を険しくさせた

 

「三日月………」

 

一瞬、え…と思ったが…

次の瞬間、それに気付いた

 

片手が三日月に握られたままだったのだ

沙紀がそれに気付き、慌てて手を引っ込めようとするが、三日月は力を緩めてくれずビクともしない

 

「あ、あの、三日月さん…手を……っ」

 

離して――――

という前に、鶴丸の手が伸びてきたかと思うと、あっという間に沙紀を自身の方に抱き寄せた

瞬間、するりと三日月の手が離れる

 

「三日月…俺に喧嘩売ってるのか?」

 

本気で怒っている訳ではない

だが、若干怒声の混じったその声に、三日月はおどけた様に両の手を上げた

 

「うん? 俺は困っていた主をここまで連れて来ただけだぞ?」

 

「そいつは、ありがとよ」

 

と、嫌味の様に鶴丸が返すが、三日月には通じていないらしく

にっこりと微笑むと「うむ」と答えた

 

沙紀が二人のやり取りを はらはらとして見ていると、見かねた燭台切が

 

「はいはーい、そこまでー」

 

と、三人の間に割って入って来た

 

「鶴さんも、三日月さんも仲良くね。 で? 沙紀君はどうかしたのかな? 僕達に何か用事でもあったんじゃないかい?」

 

燭台切のその言葉に、沙紀が はっ…と目的を思い出した

 

「あ、あの、これが……っ」

 

そう言って手の中で未だになり続ける端末を見せる

 

「ん? 誰かからの通信だな。 出ないのか?」

 

「そ、それがどう操作して良いのか分からなくて……」

 

その言葉に合点が言ったのか、鶴丸は沙紀をそのまま広間へ連れて行くと、自身の横に座らせた

 

「見せてみろ……ん、声紋認証は…終わってるな」

 

そう言って、端末を操作し始める

 

「ここまでは沙紀が一人でやったのか?」

 

「あ、いえ…こんのすけが……」

 

と言い掛けた時だった、やっと追いついたこんのすけが、ドヤ顔で

 

「わたくしめがお教えしたのであります!!!」

 

と、さも誇らしげに言うが……それを聞いた鶴丸は

 

「初期の初期設定しか出来てないじゃないか…まだまだだな」

 

とダメ出しされた

と、そこへ追い打ちを掛ける様に隅の方に居た大倶利伽羅が…

 

「ダメ狸…か」

 

「たぬきではありませぬ! きつねです!!!」

 

と、こんのすけが、負けじと言い返していた

が、鶴丸はさほど気にした様子もなく、手慣れた手つきで端末のパネルを呼びだす

 

それを見た沙紀は驚いた様に

 

「り、りんさん? 今、どうやったのですか……?」

 

どう操作したのか…沙紀にはさっぱりだった

だが、鶴丸はさも当然の様に

 

「今のままじゃぁ誰でも扱えるぜ? 声紋認証はあくまでも所有権を得る為だけのものだ。 他者が操作出来ないようにするにはパスコード登録か指紋登録…後、暗号を登録する必要がある」

 

そう言って、鶴丸は懐から自身の端末を取り出した

沙紀の持つ端末とは形状は少し違うようだが、同じ端末の様だった

 

「ほら、沙紀 見てみろ」

 

そう言って、鶴丸が自分の端末をササッと操作して管理画面を出す

そこには、鶴丸の暗号が記されていた

 

「これが俺の端末の暗号だ。 暗号は他者と連絡取る時に必要になる。 いわば昔の電話番号みたいなものだな。 基本、暗号を設定しないと受けられてもこちらから掛ける事は出来ない」

 

「はい……」

 

「後は、他の奴が操作出来ないように二重ロックを掛ける意味でも指紋・声紋・パスコード登録が必要になる。 沙紀は……もう声紋登録は済んでるから、後は指紋登録とパスコード登録だな」

 

そう言って、鶴丸は沙紀の端末を操作する

すると、ブゥ――――……ンという音と共に、沙紀の目の前に小さなパネルが現れた

 

「沙紀、ここに両手を置いて」

 

「は、はい」

 

言われるままに、沙紀がパネルの上に両の手を置く

瞬間、それは起きた

 

びりびりびりっとまるで電気が走った様に沙紀の手に振動が伝わってくる

 

「り、りんさん……っ」

 

何だか怖くなり、沙紀が声を上げると…

すっと、鶴丸が沙紀の後ろから自身の手を上に重ねてきた

 

「大丈夫だ。 今データと照合してる途中だから、安心しろ」

 

データ? 何のデータだろうか?

沙紀には、それが何を指すのか分からなかった

 

時間にしては数秒

でも沙紀には、もっとずっと長く感じた

 

重ねられた鶴丸の手が、背中が熱い……

次第に、顔が高揚していく

 

それに気付いた鶴丸がくすっと笑みを浮かべ

 

「沙紀、顔が赤いぞ?」

 

「そ……それは、だって……っ」

 

それ以上言葉に出来なくて、沙紀は口をぱくぱくさせた

と、その時だった

 

 

“認証確認しました。 登録3件完了。 次に移行します”

 

 

とメッセージが流れた

 

「ん?」

 

それを見た鶴丸が首を傾げた

 

「……………?」

 

沙紀は意味が分からず、その躑躅色の瞳を瞬かせる

 

「どうか…したのですか……?」

 

「あ、いや……あ――――……」

 

鶴丸が言いづらそうに言い淀む

何か問題でも起きたのだろうか……?

 

「鶴さん……? これ」

 

「おい、“3件登録”になってるぞ まさか……」

 

画面を見た燭台切と山姥切国広が突っ込んでくる

 

両手を登録した筈が3件

2つしかない手を登録した筈が3件

これでは沙紀の手が3つあるという事になる

だが、そんな事実はなく…手は2本しかない

とすれば――――……

 

思わず、皆の視線が鶴丸にあつまる

鶴丸は「あー」と声を洩らすと

 

「悪い、沙紀。 ……俺のも登録されちまった」

 

と苦笑いを浮かべて、鶴丸が頭をかいた

 

え……

……………

 

えええええ……!!?

 

事態が掴めず、頭が混乱する

鶴丸の指紋も登録されてしまった…という事は……?

 

その疑問を代弁する様に、それまで静かに聞いていた一期一振が尋ねてきた

 

「つまり、沙紀殿の端末に鶴丸殿のも登録されてしまったのですよね? ……支障はないのですか?」

 

「ん? ん――まぁ、簡単に言うと俺が沙紀のパスコードさえ知ってしまえば操作可能になっちまったってことぐらいかな…」

 

「…それは問題大有りじゃないのか…?」

 

山姥切国広の言葉に、鶴丸は「ん?」と首を傾げ

 

「俺は自分のを持ってるからな、基本的に沙紀のを使えたとしても使う事はないと思うが…?」

 

「……そういう問題ではないと思うのだが…」

 

尚を突っ込んでくる山姥切国広に、鶴丸はにやりと笑みを浮かべ

 

「なんだぁ? 国広。 焼きもちか?」

 

と、からかい口調でそう言うと、かぁっと珍しく山姥切国広が顔を赤らめた

それを見た燭台切と一期一振は余りの珍しさに、驚きの顔をする

 

当の、本人は口をぱくぱくさせながら

 

「なっ……ち、ちが……っ!!」

 

と、反論するのが更に鶴丸を煽った

 

「ムキになって反論する所が怪しいなぁ~? なぁ? 光忠、一期」

 

いきなり話を振られた二人は、うう~んと唸りながら

 

「僕は、山姥切君の意外な面が見れて嬉しいけど…」

 

「そうですね…貴重な物を拝見しました」

 

そう言って、にこにこと笑っている

怒るに怒れなくなった山姥切国広は「う…」と声を洩らすと、ぐいっと布を深く被り

 

「…それより、それをどうするのか考えたらどうなんだ…」

 

そう言ってぷいっとそっぽを向いてしまった

からかいが過ぎたのか…どうやら、拗ねてしまった様である

 

やれやれという風に、鶴丸は溜息を洩らすと、沙紀の端末を指さし

 

「どうする? 沙紀。 消す事は可能だが、完全に初期化しなきゃいけないから、一からやり直しになるが……沙紀がその方がいいって言うなら、俺がやってやる

 

「え……?」

 

一からやり直す? 今までの過程を……?

 

「……………」

 

敵ならまだしも、鶴丸は味方だ

それも一番信用出来る人だ

 

「…別に、私はりんさんでしたならば……このままでも……」

 

構わない

本気でそう思えた

 

それを聞いて安心したのか、鶴丸は「そっか、ありがとうな」と答えた

 

「じゃぁ、パスコードも一緒にするか」

 

そう言って、鶴丸が手招きする

呼ばれて傍によると、鶴丸は自身のパスコードを見せてくれた

 

「これが俺のだ。 同じでいいか?」

 

「はい…」

 

そう頷くと、鶴丸は手慣れた手つきで沙紀の端末にパスコードを打ち込んだ

 

 

“セットアップ完了。 起動します”

 

 

そう言うなり、大きなパネルが開いたかと思うと、“an incoming call”というボタンがチカチカと光っていた

どうやら、音の原因はこれのようだ

 

それを見た瞬間、鶴丸が「あー」と声を洩らした

 

「小野瀬だな……」

 

「……そう、なのですか?」

 

「ああ、この暗号は小野瀬のだ。 後で登録してやるよ。 そしたら名前で表記される様になる」

 

「はい……」

 

少しだけ残念そうにした沙紀に、鶴丸はくすっと笑みを浮かべると小声で

 

「安心しろ。 後で俺のも教えてやるよ」

 

「……………っ」

 

その声が余りに甘く囁かれ、沙紀の顔が知らず高揚して行った

と、とにかくこの通信にでなければ……

 

なんとか、頭を切り替えて“an incoming call”の赤く光るパネルと押す

すると、ブゥ――――……ン という音と共に、見覚えのある男が姿を現したかと思うと…

 

 

 

 

 

『あ—――――――!!! やっとでたぁぁぁぁぁ!!!! 遅いよ!!!』

 

 

 

 

 

キーンという音がしそうな位大きな声で叫ばれて、思わず耳を塞ぎたくなる

……塞いだ者もいたが……

 

 

モニターに映っていたのは、むぅっと頬を膨らませた小野瀬の姿だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっと、通信が出来る様になりましたwww

2話も使ってしまった(((;°▽°))

 

未来の通信切って面倒くさいのね~~~笑

 

2016/11/07