華ノ嘔戀 ~神漣奇譚~

 

 壱ノ章 刻の狭間 1

 

 

大きな桜の木には、満開の薄紅色の桜の花

はらはらと舞う桜の花びらの中に、しんしんと降る真っ白な雪

 

そして―――――……

 

「三日月さん……」

 

大きな桜の樹の下にいる……美しい面持ちの青年――――三日月宗近

三日月はふっと微かに寂しそうに笑みを浮かべると

 

「…………あれほど、“ならぬ”と申したのに……そなたはやはり来てしまったのだな」

 

そう言って一度だけその三日月色の瞳を閉じると、ゆっくりと沙紀に近づいていた

そして、そっと沙紀の黒い艶やかな髪に触れると

 

「…ようこそ、歓迎しよう。 主」

 

そう言って、優しげに微笑んだ

その顔が余りにも美しく、沙紀は言葉を失ってしまった

 

こんなにも、“男の人”を“綺麗”だと思った事はない――――…

そう思わせる程、三日月は美しかった

 

放心した様に自分を見つめる沙紀に気付き、三日月はくすりと笑みを浮かべ

 

「どうした、主? 俺の顔に何か付いているか?」

 

「え……あ、いえ……」

 

知らず、沙紀の頬が朱に染まる

はっと我に返り、慌てて視線を反らす

 

お、男の方をまじまじと見てしまうなんて……

 

今思い返しただけでも、自分の行動が恥ずかしい

真っ赤に染まった頬を両の手で押さえながら俯いていてしまった沙紀に、三日月はまたくすりと笑みを浮かべると、ゆっくりとした動作で

 

「ん? 主…どうしてそんなに顔を赤くしておる」

 

そう言って、美しい所作で沙紀の頬に触れると

そのままくいっと 自身の方に向かせた

 

「あ……」

 

瞬間、三日月の美しい瞳と目が合う

知らず、頬が熱くなっていくのが分かった

 

「あ、の……」

 

溜まらず沙紀が声を上げると、三日月は微笑みながら

 

「もっと、主の顔を俺に見せてくれ」

 

そう言って、ゆっくりと顔を近づけてきた

目が――――放せなかった

三日月の美しい顔が目の前にあるその現実から、逃れられる気がしなかった

 

まるで、何かの術に掛けられた様に沙紀の身体は動かなかった

徐々に近づいてくる三日月の唇が触れるか触れないかの距離まで近づいた時――――それは起きた

 

突然、沙紀の身体がぐいっと後方へ引っ張られた

 

 

「きゃっ…」

 

 

突如起きたその現象に、沙紀が思わず声を上げる

瞬間、ぐいっと力強い腕で肩を抱かれたかと思うと―――……

 

 

「それ以上沙紀に近づくな、三日月!!」

 

 

怒声が響き渡った

はっとして顔を上げると、険しい表情の鶴丸が沙紀の肩を抱いたまま目の前の三日月を睨んでいた

 

「り、りんさん…」

 

思わず沙紀がそう声を洩らすと、鶴丸の抱く手に更に力が籠った

鶴丸は真っ直ぐに三日月を睨んだまま

 

「なんで、お前がここにいる? “ここ”は“沙紀の本丸”だぜ?」

 

そうだ

何故、三日月はここにいるのだろうか…

 

言われてみればそうだった

鶴丸達と一緒に“現代”から来たのならば理解出来る

だが、転送時 三日月はいなかった

 

いや、むしろ

何故、沙紀の夢の中と“同じ風景”の場所に三日月がいるのか…

どうして、夢の中で語りかけて来たのか……

 

まさか、あれはここで三日月と“再会”するという“神託”だったのだろうか

だが、三日月は「ならぬ」と言っていた、それはどういう意味だろうか……

 

思わず三日月を見る

すると、三日月はくすっと笑みを浮かべ

 

「久しいな鶴よ。 そう目くじらを立てる事もあるまい? 何を怒っておる」

 

そう言って、読めない笑みを浮かべたまま鶴丸を見た

その言葉に、鶴丸がますます険しい顔をする

 

「質問の答えになってないぜ? 三日月。 俺は“何故、お前がここにいる” と聞いているんだ」

 

「……ああ、それは俺も聞きたいと思っていた。 お主ら、なにゆえ主と共におる? “ここ”は“彼女の本丸”。 招かれた者しか来られぬ場所だ」

 

三日月のその言葉に、鶴丸が「へぇ…」と声を洩らす

 

「よく分かってるじゃないか、“俺達は沙紀と一緒”に“ここ”に来たんだ。 招かれざる者はお前じゃないのか? 三日月」

 

「勘違いしてもらっては困る。 “俺は初めからここにいる”。 お主らが“後から来た者”である事を忘れるな」

 

その言葉に、鶴丸の表情が益々険しくなる

 

「…何が言いたい」

 

一段低くなった声音でそう言い放つ

すると、三日月はそれをゆっくりとかわす様に

 

「うん? それは主に聞けばよかろう?」

 

と言い出した

ぎょっとしたのは沙紀だ

今まで二人のやり取りに はらはらしていたのに、いきなり矛先を振られ ぎくりとする

 

だが、三日月はそれに追い打ちを掛ける様に

微かにその美しい瞳を細め

 

「鶴よ、“ここ”には“彼女の許可”を受けた者しか入れぬ事をゆめゆめ忘れるな」

 

「……………っ」

 

そう―――ここは“沙紀の本丸“

沙紀が“許した者”しか立ち入ることが出来ない場所――――

それはつまり……

 

思わず三日月を見る

そう…“彼”も“沙紀が許した者”に入るという事他ならない

 

ぐっと、沙紀を抱く手に力が籠った

 

三日月の言う事は正しい

三日月も鶴丸達も“許された者”だからこそ、この本丸に立ち入ることが出来ている

それは今の現実が物語っている

 

反論する事も、否定する事も出来ず、鶴丸はぐっと唇を噛み締めた

 

りんさん……

 

思わず、自分を抱きしめる鶴丸を見る

いっその事、「どういうことだ!?」と自分を責めてくれれば楽なのに――――

鶴丸は沙紀を責める事などしなかった

 

するとその時だった

何かに気付いた様に三日月が突然「ん?」と声を洩らし

 

「…成程な、そう言う事か…」

 

そう言って、うんうんと一人納得してしまった

そして、鶴丸の方を袖で払う様な仕草を見せると

 

「鶴よ、そなた主に懸想しておるのか」

 

「なっ……!!」

 

気付いても誰も突っ込まなかったことに、あえて三日月が突っ込んできた

三日月のまさかの発言に、鶴丸が突拍子もない声を上げた瞬間、その頬を赤く染めた

 

え………?

 

驚いたのは鶴丸だけでは無かった

沙紀も、大きくその躑躅色の瞳を瞬かせる

 

りんさんが……わた、し、を……??

 

瞬間、顔がどんどん高陽していくのが分かった

心の臓が皆に聴こえるのではないかという位、煩く鳴り響く

 

そ、そんな事……

 

ある筈ない

鶴丸が自分を好いてくれているなんて――――…

きっと、自分に都合の良い解釈をしているだけだわ……っ

 

そう自分に言い聞かす

だが、一度早くなった鼓動は止まらなかった

 

鶴丸も、顔を真っ赤にして口をぱくぱくとさせていた

言葉が出てこないのだ

 

それを見た三日月は、「ふむ…」と声を洩らすと

まるで何かに釘を刺す様に

 

「だがな、鶴よ…主は俺のものと決まっておる。 俺も主を好ましく想う。 そなたにだけは渡せんなぁ…」

 

「はぁ!!?」

 

今度こそ鶴丸は素っ頓狂な声を上げた

いや、鶴丸だけでは無かった

後で鶴丸と三日月のやり取りを唖然として見ていた、燭台切や一期一振達も驚いた様に声を上げた

 

「ちょ、ちょっとちょっと! 一体、君達はさっきから何の話をしているんだい!? 沙紀くんが困ってるだろう!!」

 

口を挟んだのは燭台切だった

慌てた様に三日月と鶴丸の間に割って入る

 

燭台切のその言葉に、鶴丸が はっとすると一度だけ息を吐き 頭を抱えた

自身を落ちつかせようというのだ

 

「悪い、沙紀……」

 

そう言って、鶴丸が沙紀に申し訳なさそうに謝ってきた

鶴丸のその言葉に、沙紀は小さくかぶりを振ると

 

「いえ…私は全然……それよりも、りんさんが……」

 

「心配で――――……」という言葉は音にはならなかった

何故だか、言ってはならない気がしたからだ

 

言えばきっと、鶴丸に気を遣わせてしまう――――…

そんな気がして、言葉にする事は出来なかった

 

それを見た燭台切は、小さく溜息を洩らすと

 

「まったく、鶴さんらしくないよ? 沙紀くんの事となると直ぐ熱くなるんだから!」

 

「…言うなよ、光忠」

 

燭台切の言葉に、ばつ が悪そうに鶴丸が頭をかく

するとそれまで黙っていた一期一振が

 

「それで、鶴丸殿。 あちらのお方とお知り合いとお見受けしますが…どなたなのですか? 先程から、沙紀殿は“三日月さん”と呼ばれていますが…もしや…」

 

そう尋ねてきた

 

その言葉に、鶴丸が辺りを見回す

誰もが思っていた事だった

 

鶴丸は「はぁ…」と溜息を洩らすと

 

「…… 一期の思ってる通りの奴だよ」

 

そうぼやく

その言葉に、一期一振が はっとした

 

「では、あちらのお方は―――――……」

 

そう言って、三日月の方を見る

すると、三日月はにっこりと微笑み

 

 

「三日月宗近だ。 よろしく頼む」

 

 

そう答えたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ◆          ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本丸は不思議な所だった

現実とは離れた“異空間”と呼ぶべきか…

 

外壁の向こうは、雪と桜が舞う世界

中は、四季折々の風景が楽しめる内庭を中心に、東西南北に建物が広がっている――――……

なんと大きな屋敷だろうか

 

こんのすけの話によると、基本どこの転送装置を使っても“本丸”に飛ばされる場合の場所は必ず外壁の外らしく

どうやら、これは“もしもの場合” 敵の侵入を未然に防ぐ為らしいが……

あの雪と桜にも何かの意味があるらしい

だが、そこまではこんのすけも知らない様だった

 

一通り、“本丸”の中を案内された後、沙紀は自分に宛がわれた部屋にやってきた

腰を下ろして、ほっと一息つく

 

なんとも落ち着く部屋だった

雪と清流の紋の襖と障子がなんとも心を落ち着かせてくれる

 

障子戸を開けたまま、ぼんやりと内庭の風景を見る

季節は現代に合わせてあるのか…冬

 

でも、外窓を開けると満開の桜とはらはらと舞う白い雪が見える

なんとも、不思議な光景だった

 

ああ、自分は本当に“現代”とは違う“時“にいるのだと思い知らされる

 

こんのすけは言っていた

この“本丸”のある時空自体、不可視な所にあると

 

過去とも現代とも未来とも呼べない場所にある

遠征や出陣の折には、審神者である沙紀が時空を開かない限りここからは基本出られないらしい

 

だからと言って、沙紀は皆を隔離する気はないし、自由にして欲しいと思っていた

自分がそうだったからか、余計にそう思ったのだ

 

沙紀は手の中にある、小さな端末を見た

基本、小野瀬との連絡はこの端末を使うらしい

だが、沙紀には使い方がさっぱり分からなかった

 

こんな手の中に納まる小さな物で本当に連絡が取れるのか不安になる

 

「あ……」

 

そういえば……

小野瀬は言っていた

 

『まぁ、その点は鶴丸君なら分かるから、彼に操作方法は教わって?』

 

と――――……

 

どうやら、鶴丸はこの手の機器に強いらしい

自身の端末を持っているぐらいだ

連絡が来る前に習っておいた方がいいかもしれない――――……

 

そう思った時だった

 

ピピ… ピピ… ピピ…

 

「え……」

 

何処からか、不思議な音が聴こえた

思わず辺りを見渡す

だが、皆各々の部屋にいるのか…誰もいない

 

ピピ… ピピ… ピピ…

 

また、音が聴こえた

何の音なの……?

 

そう思った時だった、手の中の端末が振動している事に気付いた

 

「え……!?」

 

まさか、これが鳴っているのだろうか

いや、そうとしか考えられなかった

 

だが、たった今習わないと――――と、思った矢先の出来事だ

鳴っている事が分かっても、操作方法の分からない今、どうしてよいのか見当もつかない

 

「ど、どうしよう……」

 

ピピ… ピピ… ピピ…

 

と、端末は鳴り続けている

きっと、応答するまでこれは止まらない気がした

 

だが、ボタンらしきものは何もないし、音を止める術も知らない

沙紀がおろおろと困った様にしている時だった

 

「主さま、主さま~」

 

こんのすけが、どこから持って来たのか黄色い包みを咥えて 尻尾をパタつかせながらやってきた

 

「見て下さい~~燭台切殿がこんなに、お稲荷さんを~って、主さま!!」

 

嬉しそうに部屋に入ってきた途端、沙紀の手の中で鳴り響く端末を見てお稲荷さんの入った黄色い包みを落とした

そして、慌てて沙紀に駆け寄ると

 

「マスターからの通信です!! 出て下さい!!」

 

「え……で、でも」

 

出ろと言われてもどうしていいのか分からない

尚も困ったような仕草を見せる沙紀に、こんのすけは とととと…と駆け寄るとひょいっと手の中を覗いた

 

「まだ声紋認証していないんですね。 分かりました、こんのすけにお任せください!!」

 

そう言って、ぺいっと端末の上段右端をその小さな手で叩いた

瞬間―――――それは起きた

 

突然、ブ―――――ン…… と音がすると、幾つものモニターが姿を現したのだ

 

「え……!?」

 

驚いたのは沙紀だ

それもそうだろう

今までこういった類には一切触れて来てないのだ

転送装置が初めてである

それを立て続けに見せられているのだ 驚かない筈がない

 

だが、こんのすけは気にした様子もなく ポチポチっと目の前に現れたパネルを操作していく

その時だった

 

 

『声紋認証を行います』

 

何処からともなく声が聴こえてきた

沙紀が驚いた様にその躑躅色の目を見開く

だが、こんのすけは「さっ」と言いながら

 

「今から声紋認証を登録します。 これをする事によって、この端末は主さま以外の者は基本操作出来なくなりますのでご安心下さい! さ、この端末に向かって名乗ってください」

 

そういって、端末を差し出した

意味が全く分からない

が……

 

「な、名前を言えばいいの……?」

 

沙紀がそう尋ねると、こんのすけは「はい」と答えた

機械に向かって名乗るのも変な感じだが…

 

多分、これを登録しないと何もできない――――の、よね……?

 

そう思い、そっと端末を持つと

 

「か、…神代 沙紀…です」

 

小さな声でそう名乗った

瞬間、目の前のモニターが何かを解読し始めた

 

 

『……“神代 沙紀”……認証確認』

 

 

そう言って、次々と謎の言語を印字しだす

それが何語なのか、沙紀には分からなかった

そして、数分もしない内に…

 

『声紋登録完了。 操作移行します』

 

そう聴こえた瞬間、ブン… と、モニターもパネルも消えてしまった

 

「こ、こんのすけ? 全部消えてしまったけれど……」

 

訳が分からず、沙紀がそう尋ねると

こんのすけは、「だいじょうぶです!!」と自信満々に答え

 

「声紋認証が完了したので、一度シャットダウンしただけです。 さぁ! これで操作可能です。 マスターからの通信に応答して下さい!」

 

そう言って、端末を小さな手で指した

端末は相変わらず、ピピ… ピピ…と鳴っている

 

が―――――………

操作って……

 

どうすればいいのだろうか……?

 

「あの…こんのすけ……?」

 

「はい!」

 

こんな事を聞くのもあれだが…仕方ない

 

「操作って…どう、するのかしら……?」

 

「……………」

 

ピピ… ピピ… ピピ……

 

音は鳴り続けている

 

ピピ… ピピ… ピピ……

 

「……………」

 

「あの…こんのすけ……?」

 

「……………」

 

無言のこんのすけに、沙紀が不安そうに声を掛ける

こんのすけは、その小さな目をぱちくりさせた後、にぱっと笑い

 

 

 

 

「その先は、しりません!!!」

 

 

 

 

 

と、誇らしげに胸を張って答えた

 

「え……」

 

え………?

 

 

「………………」

 

 

 

          えええええええええええええええ!!!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

序章終わってねぇやんヾ(°∇°*) オイオイ

は、気のせいですぅ~~~笑

とりま、序章の後の話・・・・・・
これ書いた時、刀ステとかなくて、あっても確か1回目とかで

ぶっちゃけ虚伝しかみてなかったんですが…

なんか、じじいの設定が被ってそうでいやぁああああああ~~~!!!

狙った訳じゃないのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。・゚((T◇T゚)゚・。オロオロ。・゚(゚T◇T))゚・。

 

2016/08/10