華ノ嘔戀 ~神漣奇譚~

 

 序ノ章 ”審神者” 16 

 

 

沙紀は荷物を整えながら、小さく溜息を洩らした

今夜――――小野瀬の言う“本丸”と言う場所に拠点を移す

 

そこから、各時代へ飛ぶのだ

 

不安がないと言えば嘘になる

本当は、逃げ出したいくらいだ

だが――――自分からこの“審神者”の任を引き受けると決めたのだ

もう……後戻りは出来ない

 

それに……

 

ちらりと縁側の方を見る

そこには、ぼんやりと雪を眺める鶴丸の姿があった

 

私は一人ではない

皆や…鶴丸がいる

 

そう思うと、少し気持ちが楽になった

 

沙紀は、荷物の整理もそこそこにすっと立ち上がると、縁側で雪を眺めている鶴丸の傍に近づいた

 

「りんさん……?」

 

そっと話し掛ける

だが、いつもなら返事の返ってくる鶴丸からの反応はなかった

 

「……………?」

 

不思議に思い、そっと鶴丸を覗き込む

すると、鶴丸はその美しい金色の瞳を閉じていた

 

もしかして……

 

「…………眠ってらしゃるのですか…?」

 

そう問うが、鶴丸からの反応はない

どうやら本気で寝入っているようだった

 

「………………」

 

沙紀は少し考えると、ゆっくりと立ち上がり部屋に戻った

そして、衣桁に掛けてあった出来上がったばかりの打掛を取ると、そっと鶴丸の肩に掛けた

 

白を基調に、波紋と鈴蘭が描かれている

春をイメージした打掛だ

 

まだ春には早いが…それでも、白い鈴蘭は沙紀の目を引いた

だから、この紋様に決めたのだ

 

鶴丸に掛けた打掛と鶴丸をまじまじと眺め、知らず微笑んでしまう

やはり、彼には“白”が似合う

 

金色の優しい瞳も好きだが、彼の美しい銀糸の髪も好きだった

 

沙紀は、寝入る鶴丸を見て優しく微笑むと、ちょこんと隣に座った

そして、少し躊躇いがちにゆっくりとその肩に自身の頭を預ける

だが、やはり鶴丸は起きる気配はなかった

 

「…………りんさん…」

 

少しだけ…

少しだけだからいいわ…よね……?

 

そう自分に言い聞かせると、ゆっくりとその躑躅色の瞳を閉じた

 

そして、誰にも聴こえないぐらい小さな声で

 

「りんさん……大好き……」

 

誰にも言えない

沙紀だけの秘密……

 

きっとずっと打ち明けられない…秘密――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ◆          ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕はね、呆れてるんだよ!!?」

 

昼餉の時間

皆が食卓を囲む中、燭台切だけがぷりぷりと怒っていた

怒っているが、ちゃんとご飯をよそってくれる

 

ぽんぽんとしゃもじで米を叩きながら

 

「あのまま僕が見つけなかったら、君達 出発の時間まであの場所で寝てたでしょ!」

 

怒られているのは、鶴丸と沙紀だった

 

それはそうだ

この雪の降る季節に、縁側ですやすやと気持ち良さそうに寝ていた二人を見つけた時は、燭台切は卒倒しそうになった

場所と時期を考えて欲しい

 

「すみません……」

 

沙紀が小さくうな垂れる

まさかあのまま本当に自分も寝てしまうとは……

少しの間、肩を借りるだけのつもりだったのに…とんだ計算違いだ

 

すると鶴丸は全く反省の色ひとつ見せずにおどけた様に

 

「まぁ、光忠。 あんまり怒らないでやってくれよ。 沙紀が落ち込んじまってるじゃないか」

 

そう言って、沙紀の頭をぽんぽんと撫でる

それを聞いた燭台切は半分鬼の形相でにっこりと微笑むと

 

「鶴さん? 僕が一番怒っているのは鶴さんになんだけど!!?」

 

笑顔が無駄に怖い

 

「そもそも、鶴さんがあんな所で寝てなければこんな事にならなかったよね?」

 

「そりゃぁ、最もな話だ!」

 

鶴丸がそう言って笑う

だが、案の定悪気の無さそうに

 

「だが、間違っちゃいけないぜ? 俺は“寝てた”んじゃない、目を瞑って休んでいただけだ」

 

え………

 

その言葉に、沙紀がどきりとする

“目を瞑って休んでいただけ”

鶴丸は今確かにそう言った

 

まさか……

 

「沙紀はそんな俺に着物を掛けてくれたんだ。 優しい奴だろう? …ああ、そう言う事か!」

 

突然、鶴丸がぽんっと手を叩いた

そして―――――……

 

「光忠も沙紀に一緒に居て欲しかったんだな? そうならそう言えばいいのに――――」

 

鶴丸がそう言い掛けた瞬間、ぎちぎちと燭台切の手が鶴丸の襟元を掴んで締め上げた

 

「鶴さ~~ん? 今、そういう事言える立場だと思ってる訳?」

 

「ギブ! ギブギブ!! 締まってる!!!」

 

「締めてるんだよ!!」

 

そう言って、じゃれ合っているのか…そんな様子の鶴丸と燭台切を見て、沙紀は自分の思い違いだと必死に言い聞かせた

 

そう…よね……

まさか、りんさんがあの時”起きていた“なんて…考え過ぎ…よね……

 

あれは、沙紀だけの秘密だ

起きていないと思ったから言えたことで、起きていて聞かれていたならば……

 

「………………」

 

想像しただけで、顔から火が出そうだ

 

その時だった

 

「沙紀殿? どうかなさったのですが?」

 

不意に一期一振に話し掛けられ、沙紀がどきりとする

 

「え……!?」

 

突然の言葉に沙紀の顔がかぁーと赤くなる

それを見た一期一振は首を傾げ

 

「先程からお顔の色が青くなったり赤くなったりしておりますが…具合でも?」

 

「あ、いえ、そういうのではなくて……その……」

 

ああ、何と言ったら良いのだろう

お願いだから、そこをあまり突っ込まないで欲しい

 

こんな時、まだ人の形になって間もないのだと思い知らされる

人間の感情の起伏に疎いのだ

 

こういう時は、そっとしておいて欲しい

 

それに口を挟んだのは燭台切から解放された他ならぬ鶴丸だった

 

「一期、 そういう時は気付かない振りをしてやるのも処世術のひとつだぜ?」

 

そう言って、沙紀の頭を撫でる

 

一期一振はよく分からないのか…

「はぁ…」と言いながら首を傾げていたが…

当の沙紀は、恥ずかしさのあまり顔から火が出そうだった

 

その時だった

 

「やぁやぁ、美味しそうな匂いがするねぇ~」

 

どこからともなく、聞き覚えのある声が聴こえてきた

はっとしてそちらを見ると、何処から屋敷内に入ったのか…小野瀬が手をひらひらとさせながらこちらにやってきた

 

「小野瀬様……」

 

一瞬、沙紀がその顔に困惑の色を示す

すかさず、鶴丸と山姥切国広が沙紀を庇うように前に出た

それを見た小野瀬は心外だと言わんばかりに

 

「おっと、僕達はもう仲間だろ? なんで、そんなに警戒する訳」

 

そう言って降参のポーズを示す様に両の手を上げるが、鶴丸も山姥切国広もさも当然の様に

 

「お前は油断ならない男だからな」

 

「……なぜ、屋敷内にいる? 誰の許可を得て入った」

 

そう言いながら、沙紀を護る様に小野瀬の前に立ちはだかった

小野瀬は、一度だけ小さく溜息を洩らすと

 

「ったく……そう肩肘張りっぱなしだと疲れるよー? どっこいせっと、あ! 燭台切君、僕には大盛りで宜しくね」

 

そう言って、さも当然の様に皆と同じ食卓に座ると、マイ箸を取り出しご飯を要求してきた

 

「おい……」

 

「あ、汁物は熱めで宜しく~!!」

 

そう言って、目の前の膳に箸を付ける

 

「お前は何しに来たんだ…っ!? って、光忠も当たり前の様にご飯と汁物をよそうな! そして、それは俺の膳だ!!!」

 

鶴丸が抗議の声を上げる中、小野瀬はさして気にした様子もなくもぐもぐと口を動かしながら

 

「今夜の説明をしておこうと思って早めに来たんだよ」

 

そう言って、沙紀の目の前にある端末を差し出した

 

「これは……?」

 

「これは“本丸”における全刀剣男士のデータと解析をする端末だよ。 これを元に他の刀剣男士を顕現させる為の刀を探すなり、鍛刀するなりして欲しい。 勿論、データは常時更新されていくから、こまめにチェックしてね」

 

そう言って、小さな端末を沙紀に渡した

受け取った沙紀は、よく分かっていないのか…その端末をじっと眺めて首を傾げた

 

「あの……」

 

「んー? どうかした?」

 

「あ、いえ……これはどう使えばよいのでしょうか……?」

 

「………………え?」

 

沙紀からのまさかの反応に、一瞬小野瀬が固まるが…

次の瞬間、「あー」と声を洩らし

 

「“審神者”殿、PC端末なんて使った事…は……?」

 

「……ありません」

 

「だよねぇ~~~~~~~」

 

それは流石に、小野瀬も考えていなかった

沙紀位の年齢ならば、幼いころからPC端末に触れているのが今の時代当たり前で…使えるものだとばっかり思っていたが…

沙紀自身、閉鎖された生活をしていた訳で……勿論PC端末など触ったことがある筈もなく…

 

これはとんだ計算違いだった

 

小野瀬は「う~ん」と唸りながら頭をかき

 

「まぁ、その点は鶴丸君なら分かるから、彼に操作方法は教わって?」

 

「え……りんさんはご存じなのですか…?」

 

沙紀が驚いた様な顔をして鶴丸を見る

鶴丸は「んー」と声を洩らしながらなんだか居たたまれなさそうに頭をかいた

 

「鶴丸君は詳しいよ~マンションにも自分専用に端末持ってたぐらいだしね。 最低でもメール送受信と基本操作なんかは教わって。 基本連絡は全部メールか通信で行うから。 最低でもそれが出来ないとお話にならないよ」

 

「は、はい…」

 

沙紀が神妙な顔をして頷く

そして、じっと手の中にある小さな端末を見た

果たして、自分に扱えるのだろうか…

 

自信なさ気に端末を見つめる沙紀を見て、鶴丸は苦笑いを浮かべた

 

「あー俺が言うのもなんだがな、そんなに難しくないぞ? 沙紀は頭いいから直ぐ覚えるさ」

 

「……そうだと良いのですが…」

 

そう言ってやはり心配そうに端末を見つめる沙紀に、鶴丸はぽんぽんと頭を撫でた

 

「大丈夫だ、俺がいる」

 

「……は、はい」

 

不思議だ

鶴丸にそう言われると、出来る気がしてくる

 

なにはともあれ、まずはこれが第一関門の様な気がした

 

「さて、今夜の事だけど…本当は宮内庁内に転送装置の座標は合わせてあるんだけど、特別に君達の場合はこの石上神宮にも座標を合わせられる様にしてあるから、今夜はここから飛ぶよ」

 

「飛ぶ…ですか?」

 

聴き慣れない言葉に、沙紀がその躑躅色の瞳を瞬かせる

 

「そ、特別に“審神者”殿の御父君に助力願って転送装置準備したから…って、簡易的なものだけどね、そこから今日は“本丸”のある空間に飛ぶよ。 流石に今から宮内庁まで行くのは骨が折れるでしょ?」

 

確かに

以前、鶴丸に逢う為に都内に赴いた時も時間が掛かった

それを考えるならば、ここから飛べるのはありがたい

 

「ちなみに、もう一つ。 君達の”本丸“に通じるには”審神者“殿自身が認証を行う必要があるから! もしくは、”審神者”殿の許可認証の入った手形が必要。 それ以外では強制的に宮内庁にしか飛べません」

 

「えっと…」

 

それはどういうことだろうか…?

 

沙紀が首を傾げていると

小野瀬は「ああ…」と思い出した様に

 

「言ってなかったと思うけど、“審神者”って他にもいるんだよね」

 

「え…!?」

 

まさかの小野瀬からの爆弾発言に、沙紀が驚いた様に声を洩らす

沙紀だけではない

他の皆も互いに顔を見合わせた

 

「流石に、貴女一人では荷が重いでしょう? 勿論、他の”審神者“も現在活動中。 言ってなかったっけ?」

 

「……初めて聞きました…」

 

だが、事実それほど歴史修正主義者の横暴は放っておけないものになっているのだろう

そう考えると、“審神者”が他に居てもおかしくない

 

「ちなみに、月一ぐらいで“審神者”同士の会合あるから出席してね? その時は必ず宮内庁経由でよろしく」

 

「はい……」

 

話しがどんどん飛躍し過ぎていて半分付いていけない

 

つまり、沙紀の他にも”審神者“が存在し

その数だけ、刀剣男士も存在する事となる

 

おそらく、“審神者”自身の認証が必要と言うのは、他の“本丸”に勝手に立ち入れない様にする為の防壁の様なものだろ

話しから察するに、石上神宮の転送装置は別として、宮内庁の転送装置は他の”審神者“も使うのだろう…もしかしたら、そこでかち合う可能性もある…

 

大丈夫…かしら………

果たして、自分は上手くやっていけるのだろうか……

 

そんな不安が顔に出ていたのだろう

ふと、気が付くと皆に囲まれていた

 

「あ、あの…?」

 

突然の皆の行動に、沙紀が戸惑いの色を示す

すると、さも当然の様に鶴丸が

 

「安心しろ、沙紀なら大丈夫だ。 なんたって俺が付いてるんだからな!」

 

そう言って、沙紀の頭をぽんぽんと撫でた

するとそれに反応する様に燭台切と一期一振が

 

「いるのは鶴さんだけじゃないでしょ? 僕達もいるって事を忘れないで」

 

「そうですよ。 鶴丸殿ばかりに格好いい思いはさせられません。 そう思いませんか? 山姥切殿」

 

突然話を振られた山姥切国広は、ただ静かに

 

「俺は……こいつを護る役目を全うするだけだ…」

 

山姥切国広のその言葉に、鶴丸が ははっと笑った

 

「相変わらず、国広はブレないな! まぁ、そこがお前にいい所なのかもしれないな」

 

そう言って、ぐりぐりと山姥切国広の頭を撫で繰り回した

突然の鶴丸からの横暴な行為に、山姥切国広が「…っ、やめろ」と抗議の声を洩らす

が、止めそうになかった

それどころか、遠巻きに淡々と食事をして話しの輪に入ろうとしない大倶利伽羅を引っ張ると二人の肩を がしっと掴み

 

「大倶利伽羅も、国広も頑張ろうな!」

 

そう言ってにかっと笑ったのだった

 

ちなみに、この点について大倶利伽羅が抗議していたが華麗にスルーされたのは言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次ぐらいかな?

多分、次で本丸に移送=序章終わり ですかねぇ~~~

やっとかwww

 

2016/03/08