華ノ嘔戀 外界ノ章
    大侵寇「八雲」

 

◆ 第七話 「月」へのいざない

 

 

 

―――――月齢1.9:三日月 “本丸・竜胆” 大鳥居前――――

 

 

各所に的確に指示を出している中で、沙紀はある異変・・に気付いた

 

おかしいわ・・・・・・

時間遡行軍の流れが・・・・・・変わった?

 

少し前までは、この“本丸”に攻撃が集中していた

そう仕向けたのだから、それでいいのだが―――――・・・・・・

 

いつからだろう

この“本丸”へ来る時間遡行軍の数が減った

 

普通に考えれば、優勢になっている――――とも取れなくはない、が・・・・・・

何かがおかしいと、沙紀の中の“神凪”の血が騒いだ

 

優勢・・・・・・

確かに、優勢ではあるが・・・・・・

 

何か違う気がしてならなかった

そう――――もっと、別の要因が発生している気がしたのだ

 

中央防衛ラインも、最終防衛ラインもチェックしたが、時間遡行軍が向かった形跡はない

では、何故?

 

「・・・・・・・・・」

 

そこで索敵範囲を広げた

そしたら、その“違和感”の元となる場所が1か所だけあったのだ

 

それは―――――

 

 

 

「京都の椿寺・・・・・・?」

 

 

 

京都の椿寺と言ったら、ひとつの木に5色の椿が咲くという――――五色八重散椿で有名な所だ

今の時期ならば、椿よりも八重紅しだれ桜が見頃だろう

 

でも、なぜここへ時間遡行軍が・・・・・・?

この“本丸”以外ルートは遮断している筈である

 

なのに――――――

 

誰かが、椿寺へのルートを解いた・・・・・・?

でも、何のために?

 

その時だった

 

「沙紀様」

 

不意に、先ほど現状を調べに行った紺が、こんのすけも連れて戻ってきた

 

「紺さん、お戻りになったのですね。 何か分かりましたか?」

 

沙紀がそう尋ねると、紺は小さく頷き連れてきたこんのすけを見た

すると、こんのすけがててて・・・と、沙紀の方に走ってきて

 

「主さま!! 調べたと事時間遡行軍が次々とあるポイントに時間跳躍しています!」

 

こんのすけの言葉に、沙紀が小さく頷く

 

「京都の椿寺ですよね? あそこは遮断されていた筈なのに――――何が起きているのですか?」

 

「それが―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――月齢1.9:三日月

 

―――― 大鳥居前・最前線防衛ライン

 

 

「・・・・・・っ、ふ!」

 

大倶利伽羅が龍の刺青の入っている手で、大きく刀を横に凪った

瞬間、迫ってきていた時間遡行軍が「グアアアアアア」と、声を上げて消滅する

 

完全に消滅するのを確認した後、大倶利伽羅は穢れを払うかのように、持っていた刀を払い、鞘に収める

 

どうやら、ここら一帯の時間遡行軍は全滅した様だった

周りの他の“本丸”の刀剣男士達も、疲れたのか木に縁りかかったり、座り込んだりしている

 

そんな中で、大倶利伽羅は平然としたま、辺りを見渡した

と、その時だった

 

「あ、伽羅ちゃん。 お疲れ――――」

 

と、向こうの方から燭台切が走ってきた

 

「光忠、敵はどうした?」

 

そう尋ねると、燭台切もよくわかっていないのか、首を傾げながら

 

「それが、僕もよくわからないんだよね。 なんか、急に勢いがなくなった感じがする」

 

そうなのだ

少し前までは、倒しても倒しても襲って来ていた時間遡行軍の増援がぴたっと止んだのだ

あまりにも不自然に

 

何か、あったのか・・・・・・?

 

そう考えるのが、妥当だろう

 

「・・・・・・光忠。 戻るぞ」

 

「え? 戻るって・・・・・・何処に――――――」

 

燭台切の問いも空しく、大倶利伽羅は答える事無くすたすたと歩き始めた

 

「ちょっ、待って! 伽羅ちゃん!! 一人で行っちゃ駄目だよ」

 

そう言って、燭台切が慌てて大倶利伽羅追いかけた

 

 

 

本陣に向かう際中――――

 

「光忠! 大倶利伽羅!!」

 

前方から、鶴丸と大包平が走ってきた

一瞬、前衛の交代に来たのかと思うが――――

 

鶴丸から出た言葉は、違うものだった

 

「前衛に、一部隊だけ残して他は全員、最前線の本陣に戻ってくれ!!」

 

鶴丸の言葉に、大倶利伽羅と燭台切が顔を見合わせる

 

「なにか―――あったのかな?」

 

燭台切はそう尋ねると、鶴丸は早口で

 

「詳しい事は、本陣に戻ってからだ!」

 

そう言って、大包平と鶴丸が足早に何処かへ行ってしまう

 

とりあえず、何が起きているのか分からないが・・・・・・

良い事ではないだろう事は、容易に想像付いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――月齢1.9:三日月

 

―――― 大鳥居前・最前線防衛ライン・本陣

 

 

本陣に戻ると、沙紀と山姥切国広が神妙な顔で話をしていた

その横には、薬研もいる

 

どうやら、戻る様に指示だされたのは、自分たちだけではないらしい

少しもしない内に、鶴丸と大包平も戻ってきた

 

「りんさん、大包平さん、お疲れ様です。 髭切さん達は――――」

 

「ああ、今は第二部隊が最前線の防衛に付いている」

 

「わかりました、ありがとうございます」

 

それだけいうと、沙紀が皆を呼んだ

 

「皆様、こちらへ―――――」

 

そう言って、奥の部屋へと案内された

そこには、大きな電子パネルが設置してあった

 

「これは・・・・・・?」

 

燭台切がそう尋ねると、沙紀はにこっと微笑み

 

「これは、この“本丸”を中心とした防衛フィールドの時間遡行軍の浸食度合いを示すものです。 時間遡行軍が多くいる場所ほど赤くなります。 今、私たちが守っている最前線がこちらです」

 

そう言って、沙紀が指したところは綺麗な緑色になっていた

 

「現在、全防衛ライン オールグリーンです」

 

と、こんのすけが言う

 

オールグリーンという事は、現段階では時間遡行軍は跳躍ルートに浸食していないという事だ

それはこの戦いで、守り切ったということになる

 

喜ばしい事の筈だ

そのはずなのに――――沙紀の表情は曇っていた

 

「・・・・・・何か問題があるのか?」

 

大倶利伽羅がそう尋ねると、沙紀は複雑な面持ちでもう一枚パネルを出した

そのパネルではとある1か所が赤く染まっていた

 

「これは―――――・・・・・・」

 

それを見て、燭台切が息を呑む

 

「・・・・・・こちらのパネルは、防衛フィールドより外の時間遡行軍の浸食度合いです」

 

「どういうことだ?」

 

大倶利伽羅の問いに、沙紀は言い辛そうに

 

「場所は――――京都・椿寺。 今、こちらの“本丸”に向かっていた筈の時間遡行軍が全てこの椿寺に跳躍を始めています」

 

「なんだって?」

 

大倶利伽羅が訝しげに顔を顰める

すると、鶴丸が

 

「理由ははっきりとはしていないが、ここに“何か”があるのは間違いない。 どうやら、こんのすけの話によると、今、時間遡行軍はこの椿寺を“本丸”と認識しているらしい」

 

「・・・・・・ 一体、どういうことなんだ?」

 

薬研が痺れを切らしたようにそうぼやいた

すると、こんのすけがくりくりっと首の鈴を鳴らすと

 

ぱっと小さなパネルが幾つも出てきた

 

「これは、各本丸の識別番号です。 主さまの“本丸・竜胆”は本来こちらの識別番号になります。 時間遡行軍はこれを目印にきていたのでが―――――」

 

そう言って、もう一枚パネルを出した

そこは、八重紅しだれ桜が咲き乱れる美しい庭園だった

 

「こちらは椿寺の映像です、見ていただきたいのは――――この識別番号です」

 

そこには、本来沙紀達の“本丸”である識別番号が記されていた

 

「・・・・・・つまり、今敵は椿寺をこの“本丸”と思って、向こうに時間跳躍している――――という事か?」

 

山姥切国広の問いに、こんのすけ「はい」と答えた

 

「政府もこの事に気付いているみたいなのです。 それで――――上から先ほど指示がきました」

 

「政府は何と言っていたんだ?」

 

山姥切国広がそう問いかけると、沙紀は一度だけ彼を見た後、小さく項垂れて

 

「・・・・・・時間遡行軍ごと、この椿寺への空間を閉じる――――と」

 

「つまり、敵を全て入れ込んだ状態で、なかったものにしてしまうという事か。 確かに、その方が最も簡単で犠牲もなく済む方法だな」

 

大包平の言葉に、一瞬沙紀の表情が曇った

まるで、そうされたら困る――――という風に

 

「―――――1時間後、政府上層部は椿寺への全ルートを閉じることを決めたそうです。 ですので、時間がありません」

 

「・・・・・・時間?」

 

「はい・・・・・・」

 

沙紀が何を言いたいのか分からず、大倶利伽羅は顔を顰めた

 

「・・・・・・なにか、問題でもあるのか? 何が、あんたの心に引っかかってるんだ?」

 

「それは――――・・・・・・」

 

沙紀は少し躊躇いがちに、あるパネルの映像を出してきた

 

「これは―――少し前の椿寺の映像です・・・・・・。 そして、私の見間違えでなければ・・・・・・」

 

そこには、顔こそ見えないが 蒼い着物に三日月の紋様の描かれた衣を纏った男の後ろ姿が一瞬だけ映っていた

そう―――瞬きするほどのほんの一瞬だ

だが、見間違う筈がない あれは―――――・・・・・・

 

 

「三日月?」

 

 

最初に反応したのは、山姥切国広だった

山姥切国広のその言葉に沙紀が小さく頷く

 

そう――――

そこに映っていたのは、三日月宗近だった

 

だが、この三日月がここの“本丸”の三日月という保証はない

そう思いたかったが・・・・・・

 

「皆様には、これを見て頂きたいのです」

 

そう言って、沙紀が懐から取り出したのは、以前三日月がいなくなった場所に落ちていた彼の髪飾りの一部だった

そして、もう一度、スローモーションで先ほどの映像を見せる

 

「ここです」

 

沙紀がそう言って、画面を止めた

そして、ある一か所をピックアップさせる――――それは、髪飾りの一部が欠けている三日月だった

 

「この飾りの持ち主と、この映像の三日月さんは、同じ方だと思うのです。 このままにしていたら、政府は三日月さんごとこの空間を閉じるでしょう」

 

「まじかよ・・・・・・」

 

薬研が思わず口元を抑える

 

沙紀はぐっと、その髪飾りを握りしめ

 

「私たちに残された時間は1時間です。 無謀だと思います。 もしかしたら会えないかもしれない――――でも! このままにしておくなんて――――――っ」

 

出来ません・・・・・・

 

最後の方は言葉にならなかった

だが、誰しもが気付いた

沙紀が何を言おうとしたのかという事に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どのくらい、そうしていただろう

誰もが、口を閉ざしたまま 時間だけが過ぎていった

 

 

「・・・・・・行くのか?」

 

 

ふと、山姥切国広がそう尋ねてきた

その言葉に、沙紀が小さく頷く

 

それだけで分かった

きっともう彼女の中では決めているのだ―――――迎えに行くと

 

すると、ぽんっと沙紀の頭の上に鶴丸の手が乗せられた

 

「安心しろ、沙紀だけ行かせるような真似はしない。 俺もついて行く」

 

「それなら、俺も―――――」

 

そう山姥切国広が切り出した時だった

沙紀は小さく横に首を振った

 

「戻れる保証もないのに、山姥切さんまで巻き込めません、 それに―――既に政府は既にこの椿寺の空間を放棄する為に遮断フェーズに入っています。 本当ならひとり送るのが限界なのです。 それを無理に、私とりんさんで通ります。 無事で済む保証もありません。 万が一の時は山姥切さんに全てを――――」

 

そこまで言いかけた時だった

ふいに、山姥切国広の手が沙紀の頬に触れた

 

「・・・・・・俺は・・・・、あんたの代わりはいないと持っているし、代わりをする気もない。 必ず戻ってこい―――3人で、だ」

 

「・・・・・・山姥切さん・・・・」

 

「そうだぜ、大将ならきっと見つけられる、自信持てよ」

 

そう言って、薬研がにっと笑った

 

「そうだね、沙紀君達が三日月さんと一緒に戻って来たとき、きっとお腹が空いてるだろうから、何か軽食作って待ってるよ。 伽羅ちゃんと一緒にね」

 

そう言って、燭台切が大倶利伽羅の肩を叩きながら言う

大倶利伽羅は、小さく息を吐くと、すっと沙紀を見つめ

 

「あんたなら、大丈夫だろ。 ・・・・・・無事に、戻って来い」

 

それだけ言うと、すたすたと歩いて行ってしまった

通り過ぎる間際に、軽く沙紀の肩を叩いて

 

「・・・・・・皆様・・・。 ありがとうございます」

 

今にも涙が零れそうなのをぐっとこらえる

泣いている時間はない

 

「時間が惜しい。 沙紀、行こう」

 

鶴丸の言葉に、沙紀が小さく頷く

ふと、通りすがりに大包平と目があった

 

すると、大包平は全て悟ったかのように、「また、後でな」

そう言って送り出してくれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――“本丸”・鍛刀部屋

 

正面には、最終防衛ラインのもの達がいるので、裏側から“本丸”内に入る

ここまでは誰にも見られていない

 

気付かれれば、必ず足止めをくらう

それだけは避けねばならなかった

 

そのまま沙紀は鶴丸と一緒に“鍛刀部屋”にきた

この部屋は、“本丸”内で一番術式を構築させやすい空間なのだ

だから、以前鶴丸が“三老”と対峙した時もあえてこの部屋で行っているのだ

 

そして――――

今から行うのは転送の術式の構築だ

外の転送装置は使えない

となれば―――――術式の構築に加えて簡易転送を使うのが一番早い

 

沙紀は素早く、床に転送の術式の構築紋を描いた

そして、その中央に鶴丸と一緒に立つ

 

ふと、こんのすけが、たたたっ~と走ってきて

 

「主さま! 無事のおかえりをおまちしております!」

 

瞬間、沙紀達の足下がぱあああああっと、光を放ちだした

 

「沙紀、しっかり俺の手を握っていろ。 転送中に離れ離れにならないように――――」

 

「はい・・・・・・」

 

そう言って、ぎゅっと鶴丸の手を握る

 

光がどんどん強くなっていく

そして―――――・・・・・・

 

 

 

 

「・・・・・・こんのすけ、行ってきますね」

 

 

 

 

その言葉と同時に、光の柱が大きく空へと伸びていった

 

「主さま・・・・・・」

 

きらきらきらと、光の粒が空から降ってくる

その光の粒の欠片を見ながら

 

 

「・・・・・・どうか、ご無事で・・・」

 

 

そう呟くと、こんのすけはその光の粒をじっと見つめ続けたのだった――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ・・・・・・?

じじい、お迎えに行くだけで終わりました~~www

お迎えに誰行かすか悩んだが、やっぱこの2人でしょう!!

となったwww まんば、スマンwww

 

 

2022.05.05