華ノ嘔戀 外界ノ章
    大侵寇「八雲」

 

第六話 共同戦線

 

 

―――月齢29.4:朔月 “本丸・竜胆” 大鳥居前の外壁 ――――

 

 

沙紀が“本丸”の大鳥居前に向かうと、既に目の前に大きな時空の穴があった

そこから嫌な瘴気が辺りへ充満していた

 

どうやら、政府は既に他のルートを封鎖

このルートのみ解放している様だった

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

沙紀は、端末処理を素早く済ませると、いくつものパネルを開いた

瞬間――――

そこへ幾つもの通信が入ってくる

 

『“竜胆”さん、私たちはどうしたらいい?』

 

『“竜胆”さん、すごくかっこよかった!! 絶対に止めてやりましょう!!』

 

『そうそう、高ランクだからって威張り散らしてる“睡蓮”さんの鼻をへし折ってやりましょ!』

 

幾つもの激励の言葉に、沙紀がにこりと微笑んだ

 

「はい、敵はこの最前線ですべて止めるつもりでいてください。 討ち洩らしは中央防衛ラインで必ず止める事。 最終防衛ラインへは行かせません」

 

そう――――最終防衛ラインには、特SSランクが待機しているが―――・・・・・・

彼女達に活躍の場は与えない――――

万が一、最終防衛ラインに敵が行った場合、彼女達が絶対にこの“本丸”を守ろうとするとは思えないからだ

それは、先ほどの大会議場での出来事で明白だった

 

他の4人はしらないが――――

少なくと“睡蓮の審神者”はわざと、討ち洩らしをする可能性がある

そして、その責任を沙紀に押し付けるだろう――――・・・・・・

 

悪いが、彼女の思い通りにさせる気は、更々ない

 

「時間が無ので、作戦をお伝えします。 まず、各“本丸”で精鋭部隊を4部隊編成してください。 防衛ラインを更に4つに分けます。 第一陣が崩れる前に第二陣に変更、第二陣が崩れる前に第三陣、第三陣が崩れる前に第四陣――――と、順番に回していきます。 順番を待っている間に手入れや、休息をお願いします。 無理をする必要はありません。 自分が出来きる範囲でお願いします。 それから、戦況は逐一報告をお願いします。 指示はすべてこちらから出します」

 

「それから―――――」

 

そこまでで言葉を切って、長谷部を見る

 

「長谷部さんは、笙さんを連れて最終防衛ラインにけん制に行ってもらいます。 彼女達が勝手な行動・・・・・をしないように見張っていてください。 これは、長谷部さんにしか出来ません」

 

長谷部にしか出来ないという沙紀の言葉に、長谷部が目を輝かせて

 

「はっ! 必ずお役目を全うしてきます。 彼女達には、少々痛い目を見てもらいましょうか――――うちの主を侮辱したのですから・・・・・・」

 

後半、なんだか聞いてはいけない言葉を聞いた気がしたが

沙紀は、あえて聞き流し「宜しくお願いします」と言った

 

「中央防衛ラインには、一期さんと、フォローに碧さんお願いします。 万が一討ち洩らしが出た場合は、必ず・・そこで止めてください」

 

「畏まりました。 ―――――必ず、止めてみせます」

 

「中央防衛ラインは、3層にして下さい。 第三部隊まで編成をお願いします。 戦法は最前線防衛ラインと同じです。 ただし、無理はなさりませんように――――」

 

「はっ」

 

そう言って、一期一振が頭を下げる

 

長谷部と一期一振が向かったのを見届けた後、沙紀は自身の“本丸”の部隊を素早く編成した

 

第一部隊:鶴丸国永

第二部隊:髭切・膝丸

第三部隊:山姥切国広・薬研藤四郎

題四部隊:燭台切光忠・大倶利伽羅

 

そこまで考えて、頭を抱えた

 

これでは、りんさんの負担が大きすぎる――――でも、他に方法が・・・・・・

 

鶴丸は他のものたちよりも“経験”という武器がある

だから、こうするしか方法がないのだ

だが・・・・・・

 

「せめて、もう1人いれば・・・・・・」

 

沙紀がそう呟いた時だった

 

「ほぅ、困っているようだな、沙紀」

 

「え・・・・・・?」

 

ここにいる筈のない声が聞こえ、沙紀がばっと顔を上げる

そこには、以前任務で助けてくれた大包平がいた

 

「大包平さん・・・・・・? どうしてここに――――“睡蓮”様の部隊は最終防衛ラインに・・・・・・」

 

沙紀がそこまで言いかけた時だった

大包平は、ふんっと鼻息を荒くすると

 

「あんな女の元で戦う気も起きなくてな。 ――――沙紀、俺が必要だろう?」

 

それは、ありがたい申し出だが・・・・・・

 

「・・・・・・よいのですか? “睡蓮”様は何と?」

 

とても、彼女が進んで大包平を送ってきたとは到底思えなかった

すると、大包平はさも当然の様に

 

「あの女には何も話していない。 今は、そんな事どうでもいだろうが。 沙紀、指示を出せ」

 

どうやら勝手に出てきたようである

これは、後で“睡蓮の審神者”が激怒するのが目に見えた

でも―――――・・・・・・

 

「でしたら、第一部隊へ――――りんさんとお願いします」

 

「承知した」

 

沙紀は、先ほど皆に説明した戦法をざっくりと大包平に説明した

大包平は「なるほど」と頷きながら聞いた後、すっと持っていた刀を抜き

 

「安心しろ、必ず勝つ!!!」

 

そう言って、前線へ向かった

大包平を見送った時だった、ひょいっと後ろから鶴丸が現れた

 

「はは、こりゃあ、ライバルがまた増えたなぁ~」

 

「え? ライバル??」

 

何の? という風に、沙紀が首を傾げる

すると、鶴丸はぽんぽんと沙紀の頭を撫でた後

 

「何でもない、行ってくる」

 

「・・・・・・はい、無事をお祈りしております」

 

「ああ」

 

ひらひらと、手を振りながら鶴丸が大鳥居門の外へ出ていく

後は―――――・・・・・・

 

ざっと、広げたパネルに戦況が映し出される

あの大きな穴からどんどん時間遡行軍が押し寄せてきていた

 

つまり、“おとり”作戦としては成功している様だった

戦況は、未だ不利

でも―――――・・・・・・

 

充分覆せる範囲だ

 

各“本丸”の“審神者”からも通信が入ってくる

沙紀は各所全てに指示を的確に出していった

 

失敗は許されない―――――

 

それに、時間遡行軍を奥の防衛ラインまで行かせる気はなかった

皆には言っていなが、“本丸”に戻った時点で、“本丸”に張っている結界を反転したものを最前線防衛ラインに8重に張っているのだ

 

入ることは出来ても、出る事は不可能な結界を―――――・・・・・・

そして、その結界には攻撃系の術式も施していた

 

時間遡行軍が触れた場合――――焼かれる術式だ

つまり、討ち洩らし・・・・・があっても、そこで時間遡行軍は消える事となる

 

万が一、結界を突破された場合のも、中央防衛ラインが対応する

念には念を――――

 

 

 

めまぐるしく戦況が変わっていく―――――

何時間、こうしているだろうか・・・・・・

 

何度目か分からない時間遡行軍の大軍が来た時、不意に穴から来る時間遡行軍の数が減った

 

「・・・・・・・・・・・?」

 

沙紀は、素早くフォロー役に傍で控えていた紺に調べてくるように指示を出した

紺が、一礼した後 しゅっと姿を消す

 

紺が調べに行っている間に、沙紀は時間遡行軍の浸食度合いを調べた

あれだけ、赤かった浸食具合が緑色に変化している

 

数が、減った・・・・・・?

 

明らかに、浸食されていた筈のルートが、薄くなっている

 

どういうこと・・・・・・?

 

見る限り、時間遡行軍そのものが減った・・・・・・様ではない

まるで、どこか別の所に行っている様な―――――・・・・・・

 

そう、流れが変わっているのだ

 

今まで、ここ・・にすべて集中していたのが、他へ・・分散されている

一体何が―――――・・・・・・

 

まさか

と、思い中央防衛ラインと、最終防衛ラインもチェックするが

時間遡行軍が行った形跡はない

 

では、何処へ?

 

沙紀は、素早く索敵範囲を広げた

この本丸へルート以外も調べる

 

「え・・・・・・」

 

“それ”を見つけた瞬間、沙紀の表情が強張った

 

ついさきほどまで、確かに時間遡行軍がこの“本丸”に向かって時間跳躍をしてきていた

なのに―――――・・・・・・

 

こちらへ向かっていた時間遡行軍がある一か所に向かって時間跳躍を始めているのだ

その場所は――――――

 

 

 

 

「京都の椿寺・・・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――――月齢0.9:二日月

 

 

―――――最終防衛ライン―――

 

 

“睡蓮の審神者”は苛々しながら、腕を組み、右へ左へと歩いていた

 

「ちょっと、なんで私の・・大包平があの女の所に行ってんのよ!!!!」

 

ばんっと、傍の木の幹を叩く

そして、見張っている様にこちらを見ている長谷部をギロッと睨み付け

 

「大体、何なのあんた!!! なんで、あたしたちが刀剣男士如きに見張られなきゃならないのよ!!! あたしを誰だと思ってんの!!?」

 

そう言って、長谷部に詰め寄るが―――――

長谷部は冷ややかな目線で淡々と

 

「我が主からの主命だ。 ここで大人しくしていてもらおうか」

 

さも、そんな事どうでもいいという風に、答える

その態度が“睡蓮の審神者”の苛立ちを更に加速させた

 

「ふん! 勝手に言ってなさいよ! あたしは、あの女に文句言って―――――」

 

そこまで言いかけた時だった

“睡蓮の審神者”はぎくりと顔を顔話ばらせた

 

長谷部が、刀を抜いて自分に向けていたからだ

 

「なっ・・・・・・!!!」

 

「ここで大人しくしていろ・・・・・・・・と言ったはずだ。 勝手に持ち場を離れるとは――――それでも、貴様は“審神者”か? 自ら最終防衛ラインを志願したんだ。 ならば、そこを大人しく守っていろ」

 

「ふ、ふざけんじゃないわよ!!!! あたしに刀向けたらどうなるかわかってんでしょうね!!!」

 

ざわりと、“睡蓮の審神者”の周りの空気が振動する

だが、やはり長谷部は淡々した声で

 

「我が主の主命に従ってもらう――――それが、たとえ“審神者”だとしてもだ」

 

だが、“睡蓮の審神者”は引き下がらなかった

 

「はっ!! 出来るもんならやって見なさいよ!! その前に、あたしがあんたを―――――っ」

 

そこまで言いかけた瞬間、“睡蓮の審神者”の顔が強張った

いつの間に動いたのか―――――

 

笙の持つ小太刀が“睡蓮の審神者”の喉元に突き付けられていたからだ

 

「な、な・・・・・・っ、なん・・・・・・っ!!」

 

長谷部は、冷ややかな目背を向けたまま

 

「“あたしがあんたを―――――” なんだって? 今の自分の状況が全く把握出来ていないようだな。 理解に苦しむ。 その程度で特SSランクなのか? ―――――大したことないな」

 

 

 

 

 

「ふ・・・・ふ・・・・・、ふざけんじゃないわよ―――――――!!!!!!!」

 

 

 

 

 

“睡蓮の審神者”が激怒すると、後ろに控えさせていた自分の所の刀剣男士に向かって叫んだ

 

 

 

「あんたたち!! あのくそ生意気な刀をへし折りなさい!!!! 今すぐに!!!!」

 

 

 

言われた刀剣男士達が、動揺の色を示す

今まで、時間遡行軍とだけ戦って来ていたのに――――

ここにきて、他の“本丸”の刀剣男士を折れと命令されたのだ

 

命令に逆らえばどうなるか―――――

それは、火を見るより明らかだった

 

命令違反をしてきた刀はことごとく、この“睡蓮の審神者”によって刀解されてきていたからだ

もし、ここでこのへし切長谷部を折らなければ――――

その火の粉は自分たちに降りかかるのだ

 

だが、今まで仲間だと思っていた他の“本丸”の刀剣男士などに演練以外で刃を向けたことはない――――

しかも、彼はあの“竜胆”の“本丸”の者だ

 

噂では“竜胆の審神者”はあの石上神宮の“神凪”だという

“神凪”の名を冠するのはこの日ノ本中探しても一人しかいない―――――

 

神降すらも可能とするという、この日ノ本最高位の巫女姫に付けられる名だ

 

そんな神掛かった力を持つ“審神者”が顕現させたというこのへし切長谷部

どんな力を持っているかすら見当がつかない

 

下手をすれば、折られるのは此方の方だ

 

だが・・・・・・

逆らえば、どちらにせよ―――――

 

ごくりと息を呑み、長谷部を見る

だが、長谷気は淡々としたまま

 

「やめておけ、我が主は無駄な殺生は好まぬ。 それとも――――貴様ら全員この俺にへし斬られるのが望みならば――――相手になってやるが・・・・・・?」

 

そう言って、持っていた刀を鞘からすらっと抜き切り、彼らにその刃を向ける

 

「どうした? かかってこないのか?」

 

長谷部がそう言うが、彼らは足踏みをしてしまう

既に、百戦錬磨の様な霊力が長谷部から漂っていたからだ

 

それを見た、“睡蓮の審神者”は苛々しながら

 

 

 

 

 

「なにやってんおよおおおお!! さっさと殺しなさいよぉ! そんな刀!!!」

 

 

 

 

 

 

「し、しかし―――――」

 

「ああ、ひとつ言い忘れていた」

 

不意に、長谷部がにやりと笑って呟く

 

「お前たちが一歩でも動けば――――この女の喉を貫く。 それでもよければ、来いよ」

 

 

「な、ん・・・・・・!!?」

 

 

“睡蓮の審神者”が青ざめるのが分かった

 

 

 

「こ、こ、この・・・・・・くそ刀の分際でえええええ!!!!」

 

 

 

今にも、“睡蓮の審神者”がぶち切れそうになった時だった

 

「ちょっ・・・・・・待ってください!!!」

 

他の、特SSランクの“審神者”の一人が叫んだ

 

「彼女には抑える様に言いますから、双方刃物は下げてください!」

 

「ちょっ、あんた、何勝手な事を―――――」

 

「いいから!! “睡蓮”さんは黙ってて!!!」

 

その“審神者”は長谷部と“睡蓮の審神者”達の間に割って入ると長谷部に向かって

 

「えっと、“竜胆”の長谷部さん、ここは争っている場合ではないと思うんです。 だから――――」

 

「――――言っておくが、我が主は、お前たちがここで大人しく・・・・・・・している事を望まれている。 それ以上も無ければ以下もない。 第一、先に動いたのはあの女の方だ。 この俺に指図するな」

 

長谷部の鋭い言葉に、ぐっとその“審神者”が息を呑む

嫌な汗が流れ落ちる

だが、ここで争っている場合ではないのは事実なのだ

 

彼女と“竜胆の審神者”の間に何があったかは知らないが、とばっちりはごめんだった

 

「大人しく待機しておくわ、彼女にもそう言い聞かせる! だから、刃物を下げて頂戴」

 

「ちょっと!!」

 

尚も“睡蓮の審神者”が何か言い募ろうとしたが、すぐさまその“審神者”が“睡蓮の審神者”に

 

「いいから、お願いだから我慢して」

 

そう言って言い聞かす

 

「(あの長谷部、普通じゃないわ。 従ったほうがいいわよ)」

 

小声でそう囁かれ、“睡蓮の審神者”がぎりっと奥歯を噛みしめるのは同時だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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―――――月齢1.9:三日月

 

 

 

 

辺りは暗く、人ひとりいなかった

三日月宗近は、刀を鞘から抜いたままその庭園の中にたっていた

 

夜の闇の中に咲く八重紅しだれ桜が三日月の美しさを一層際立たせていた

 

 

 

 

「そうだ・・・・・・」

 

 

 

 

ぽつりと、三日月が囁く

 

 

 

 

「こちらだ――――・・・・・・」

 

 

 

 

 

“何か”に向かって――――

 

 

 

 

 

お前たち・・・・の求める場所はここ・・だ―――――来い」

 

 

 

 

 

 

さらさらと、桜の花弁が舞う―――――

その桜は、恐ろしいぐらい、美しかった―――――・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついに、みかちの所に行けそうです!!

次回だがな!!

戦闘シーンはざっくばらんに終わらせましたwww

え? だって、真面目に書いてたら3ぺーしじゃ終わんねーよ笑

 

 

2022.05.04