華ノ嘔戀 外界ノ章
    大侵寇「八雲」

 

◆ 第四話 月籠り

 

 

―――月齢27.4:晦――――

 

 

「・・・・・・の」

 

 

 

どうして・・・・・・

 

 

 

「・・・・・・・・・っ! ・・・・・・・・ど、の!」

 

 

 

どうして一人で――――――・・・・・・

 

 

 

「―――― 沙紀殿!!!」

 

 

びくんっと、沙紀が誰かの声に反応する

 

「あ・・・・・・」

 

顔を上げると、心配そうにこちらを見る一期一振の姿があった

 

「い、ちご・・・・・・さん・・・・・?」

 

一瞬、目の前にいる一期一振が別の誰か・・・・に見えた

青い衣に、三日月色の瞳をした――――――彼に

 

違う

三日月さんは・・・・・・

 

「一期さん・・・・・三日月さんが・・・・・・」

 

そこで言いかけて、沙紀は言葉を切った

いや、違う彼は自分から―――――・・・・・

 

ぐっと、息を呑み

今すべきことは・・・・・・

 

「直ぐに、出陣の準備を―――――時間遡行軍がそこまで迫ってきています」

 

「それは、先ほどの外部結界の音の事ですか?」

 

一期一振がそう尋ねると、沙紀は小さく頷いた

 

「まだ、結界は破れていません――――おそらく、転送装置の外にある外の大鳥居門の所に―――――」

 

結界内の転送装置からの侵入は阻止してある

となると、考えられるのは――――その外にある大鳥居門だけだ

 

沙紀が幾重にも張っている結界は単なる時間遡行軍に破く事は不可能だろう――――

この結界を超えられたら、必ず沙紀に何らから影響が出るからだ

 

しかし、今の所何もない

つまり、第一層の結界すら破られていない事になる

 

だが―――――

 

結界の外にある大鳥居門は別である

あそこは、外部と接触するための門だ

結界を張る事は出来ないのだ

 

おそらく、政府がフェーズを閉じる前に歴史修正主義者達は、一部の本丸の座標をハッキングしていたのだろう

 

それで、目星を付けた場所へ時間遡行軍が来ていると考えるのが妥当である

 

今だ、あの入電後政府からの連絡はない

ならばやる事は一つだけだ

 

「直ぐに、大鳥居門に向かいます」

 

そう言って、立ち上がった沙紀を見て一期一振が慌てて口を開いた

 

「お一人で行くつもりですか!? 容認出来ません!!」

 

「・・・・・・部隊を編成している時間はありません。 事は急を要するのです」

 

「ですが――――・・・・・・」

 

そう―――今から編成など悠長な事はしていられない

一刻も早く、大鳥居門に向かわなくては―――――・・・・・・

 

何故そう思ったのか

だが、それを考える余裕はなさそうだった

 

 

りりりり―――――――ん・・・・・・

 

 

再び、大きく鈴の警戒音響いた

 

時間はない

とにかく、大鳥居門に向かわなくては―――――・・・・・・

 

「でしたら、一期さんは私に同行してください。 ――――それなら構いませんか?」

 

「ちょっ・・・・・、お待ちください!! とにかく、行くにしてもどなたかに伝言を――――」

 

一期一振が言いたい事は理解している

万が一、沙紀と一期一振まで居なくなったら、周りが混乱するからだ

 

だが―――――

時間が惜しい

 

「後程、私が式を飛ばします。 とにかく、大鳥居門に行きましょう」

 

そう言って、沙紀は一期一振の腕に触れた

 

「沙紀殿!? 何を―――――」

 

「このまま、飛びます――――場所は、本丸へ続く大鳥居門です」

 

それだけ言うと、一気に沙紀の霊力が一期一振に流れ込んできた

瞬間―――――

二人の姿が、その場から消えたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

―――月齢27.4:晦 大鳥居門前――――

 

 

左右に大きな緑色の森林が並ぶ

鳥の囀りは聞こえず、辺り一帯静かだった

 

真ん中の長い石段の奥に“本丸”へと繋がる大鳥居門と呼ばれる大きな門がある

 

三日月宗近は、一人そこに立っていた

真っ直ぐにその瞳で、前方の“敵”を捕らえる

 

そこには、この場には似つかわしくない者たちがいた

時間遡行軍である

 

 

「ここは任せてもらおう」

 

 

誰に言うでもなく、三日月はそう呟くと

すらっと、持っていた三日月宗近を抜いた

 

そして、ゆっくりとした動作で構える

 

「本丸を守れ、そして――――主を頼むぞ」

 

まるで、誰かに告げる様にそう呟くと、その鋭い眼光で目の前の時間遡行軍を見た

そして、持っていた三日月宗近を彼らに向け――――

 

 

 

 

「――――俺の名は、三日月宗近。 お前達に、物語を与えてやろう。 さぁ、ついてこい」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――― しゅん・・・・・・

 

という音と共に、大鳥居門前に沙紀と一期一振が現れる

 

「・・・・・・・・・っ」

 

「沙紀殿!!」

 

一瞬、グラッと視界が揺れたが

すかさす、伸びてきた一期一振の手に支えられた

 

「あ、ありがとうございます・・・・・・」

 

沙紀はそう一期一振に礼を言うと、辺りを見渡した

 

大鳥居門の前は静かで、敵の姿ひとつなかった

一期一振も辺りを見渡して、首を傾げる

 

「時間遡行軍は――――いなさそうですね」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「では、あの警報の鈴の音は一体・・・・・・」

 

一期一振が、沙紀を支えたままもう一度辺りを見渡す

何度見ても、それらしい敵は見当たらなかった

 

だが、沙紀は違った

今はもう薄れて分かり辛いが、微かに感じる時間遡行軍の気配

そしてもう一つ――――――

 

「・・・・・・遅かったようですね」

 

「沙紀殿?」

 

沙紀は静かに、ふと足下に落ちている“それ”を見た

ゆっくりと“それ”を拾う

 

それは、三日月がいつも身に付けている髪飾りの一部だった

それに微かに感じる 時間跳躍の気配

 

やはり、三日月さんは・・・・・・

 

もう、間違いなかった

三日月がここにいたのだ

そして、時間遡行軍も――――――・・・・・・

 

「・・・・・・どうして、一人で・・・」

 

沙紀がぽつりとそう呟く

 

その時だった

 

「沙紀!!!」

 

不意に、背後から鶴丸の声が聞こえてきた

はっとして顔を上げると、肩にこんのすけを乗せた鶴丸がこちらに向かって走ってきていた

 

「りんさん? どうかし――――――」

 

「どうかしたのですか?」と、問う前に、こんのすけがぴょんっと鶴丸の肩から降りると

ててて・・・・・・と、沙紀の方に走ってきた

 

「こんのすけ?」

 

沙紀が、首を傾げると

 

「主さま、政府から入電が来てます!!!」

 

「え・・・・・・?」

 

政府から?

三日月の失踪とあまりにもタイミングが良すぎる

 

しかも、政府は緊急防衛体制に入っている筈だ

それなのに、あえて危険を冒して通信を送ってきたという事は・・・・・・

 

「・・・・・・・わかりました。 “本丸”の大広間に全員を集めてください」

 

そう言うと、こんのすけは、一人たたたっと“本丸”の方へ戻っていった

沙紀は、ぐっと持っていた三日月の髪飾りを強く握りしめと

 

「一期さん、りんさん、戻りましょう」

 

今は、迷っている時間はない

瞬間、また視界がぐらっと揺れた

 

「・・・・・・・・・っ」

 

「おっと」

 

すかさず伸びてきた鶴丸の腕が沙紀の肩を抱く様に支える

 

「す、すみません、だいじょ――――」

 

「大丈夫」と言おうとした瞬間、ひょいっと横抱きに鶴丸に抱き上げられた

 

「り、りんさん!!!」

 

沙紀が慌てて、抗議しようとするが―――――

鶴丸は、小さく息を洩らし

 

「馬鹿、無理し過ぎだ。 すこしは、自分の身も大切にしてくれ。 見てるこっちは気が気じゃない」

 

あ・・・・・・・・・

 

「それから――――」

 

こつん・・・・と、額を合わせられ

 

「一人で全部抱え込もうとするな」

 

「・・・・・・りんさん・・・」

 

じわりと胸の奥が熱くなるのを感じた

心配・・・・・・してくれているのだ

 

それだけなのに、不謹慎だと思うが嬉しさが込み上げてきた

次第に、かぁ・・・・・っと、頬が朱を帯びてくる

 

なんだか恥ずかしくなり、沙紀は思わず鶴丸の肩に顔を埋めた

そんな様子の沙紀を見て、鶴丸がくすりと笑い、ぽんぽんと頭を撫でてくれた

 

それが余計に恥ずかしくて、今度こそ本当に顔が上げられなくなった

 

そんな二人の横で、一期一振が苦笑いを浮かべて

 

「あの、お二人とも急いだほうが宜しいかと・・・・・・」

 

と、言うと それに気づいた鶴丸がにやりと笑みを浮かべて

 

「なんだ、一期も頭撫でて欲しいのか?」

 

そう言って沙紀を抱きかかえたままの鶴丸が、器用に空いている手で一期一振の頭を撫でた

恥ずかしさのあまり、一期一振が赤面しながら

 

「ち、違います!!!」

 

と言ったのは、言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――月齢27.4:晦 大広間――――

 

大広間に戻ると、全員揃っていた――――三日月以外が

もしかしたら・・・・・・

そんな淡い期待を抱いていたが、やはり三日月は現れなかった

 

その事に気付いた髭切が

 

「あれ? 一人足りないみたいだけど?」

 

と、ずばっと皆が思っていることを聞いてきた

 

流石に、行方をくらませてどこにいるか分かりません・・・・・・

と、答えるわけにもいかず

 

「あ、それは・・・・・・」

 

そこまで言い掛けて、逆に不自然に言葉が止まってしまった

これでは、怪しんでくださいと言っている様なものだ

 

な、何か言わなければ―――――・・・・・・

 

そう思った時だった

 

「・・・・・・とりあえず、三日月の事は置いておけ、どこかで茶でも吞んでるんだろう」

 

と、その場を誤魔化すかのように山姥切国広がそう言った

すると、髭切が「ふぅん?」と、声を洩らし

 

「・・・・・・お茶なら、ここでも呑めるし―――やっぱ、呼んできた方が――――・・・・・・」

 

そこまで言いかけた時だった

不意に、こんのすけが

 

「主さま、お時間です」

 

そう言って、くりくりっと首の鈴を鳴らした

瞬間――――――

 

ざぁ―――・・・・・・と、景色が変わった

いや、違う、別の空間に移動したのだ

 

「ここは――――」

 

そこには見覚えがあった

以前、“審神者”の会合で使われた異空間と同じだった

真っ暗な中、中央に立つ監察官が3人――――

 

そこを中心の縦長のタワーの様に伸びたボックス席式の部屋

上に行けば行くほど、高ランクの“審神者”がいるという

 

「主さま、これを――――」

 

そう言って、こんのすけから渡されたのは顔を隠す雑面だった

各本丸の“華号”の刺繍が施されたものだ

沙紀の雑面には「竜胆」の“華号”が刺繍されている

 

これは、素顔を晒して“審神者”間のトラブルを回避する為でもあった

それと同時に、“審神者”を区別する為でもある

 

沙紀は、受け取った雑面を付けると、カーテンを開けてボックス席に入る

ボックス席に連れていける刀剣男士は二人まで―――――

 

これも、トラブル回避の為だ

沙紀は、前と同じく鶴丸と山姥切国広を指名した

申し訳ないが、残りのもの達には後ろで控えてもらうしかない

 

ボックス席に入ると、真っ暗な縦長の筒状の空間のいたるところに、他の本丸の“審神者”達がいるであろう、気配がする

 

「・・・・・・・・・・」

 

沙紀が席に座り、鶴丸と山姥切国広がその後ろに立った時だった

 

監査官の一人が、かんかん! という音と共にガベルを叩いた

 

 

「只今より、“対大侵寇防人作戦”の概要を説明する」

 

 

対大侵寇防人作戦?

初めて聴く作戦名だった

 

ざわざわと、周りの“審神者”達がざわめく

すると、監査官はまたガベルを叩き

 

 

「静粛に!! 質疑応答の時間は後で取ります」

 

 

沙紀は、黙ったままだった

後ろの控えている、鶴丸も山姥切国広も何も言わない

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

なにかしら・・・・・・

 

気のせいなのか

それとも、“神凪”としての力が囁くのか・・・・・・

 

なにか、よくない事が起こりそうな

そんな不可視な感覚が、襲ってくるのを拭えずにいた―――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっと、いち兄しゃべたあああああ笑

後は、伽羅子やけど・・・・・・

さて、どこで会話させよう・・・・・・

 

 

2022.05.01