華ノ嘔戀 外界ノ章
    大侵寇「八雲」

 

◆ 第二十壱話 それぞれの ”在り方” 

 

 

 

 

―――― 月齢1.9:三日月 大鳥居前・最前線防衛ライン――――

 

 

にやりと女は笑うと

 

「さて・・・・・・どんなお仕置きがご希望かしら、ねえ?」

 

そう言って、山姥切国広を見下したように言うと、その女はその手に凝集させた霊力ちからを形にしてみせた

 

それは、まるでブラックホールの様な黒い大きな球体だった

その球体が、バチバチと音を立てて徐々に大きく膨らんでいく―――――

 

なんだあれは・・・・・・

 

山姥切国広は、その女を睨んだまま 息を呑んだ

本能的にあの球体に近づいてはいけない――――――

そんな気がしたからだ

 

だが・・・・・・

 

あの女の後ろには、沙紀が・・・・・・

 

そう――――

丁度、その女の後ろに沙紀や、鶴丸達の身体があったのだ

 

確かに、紋は破られたかもしれない

でも、もしかしたら――――と言う可能性は捨てきれなかった

なんとしても、あの女から彼女らの身体を守らなくては――――――・・・・・・

 

それと同時に、この事をあの女に気付かれてはいけない

迂闊に動いて、人質にでも取られたら面倒だからだ

 

「・・・・・・わるいが、俺はお前に従う気はない」

 

そう言って、山姥切国広はすっと本体を抜いた

それを見た女は「へぇ~」と、面白いものでも見たかの様にその口元に笑みを浮かべると

 

「そんなに、“これ”を味わいたいみたいね? だったら―――――」

 

そう言うなり、女は一気に膨れ上がったその球体を山姥切国広めがけて投げた

 

どん!! と、大きな音と共に、その球体が人ひとり吞み込めそうなほど大きくなる

 

 

「―――――!?」

 

 

きた!!!!!

 

瞬間、山姥切国広は持っていた本体ではなく、鞘をぐっと前に突き出した

それを見た、女が面白いものでも見たかのように笑い出す

 

「あははははは! 馬鹿じゃないの!!? そんなもので防げるわけ――――――――!!?」

 

「防げるわけない」 そう言おうとしていた表情が一変する

 

「な・・・・・・」

 

女が信じられないものを見たかのように、その目を見開いた

 

そう―――――山姥切国広がたった鞘1つ

しかも、片手でその球体を防いでいたからだ

 

「あ、ああ・・・・・・」

 

何が起こっているか分からない女が、怒りのあまりわなわなと震えだす

 

だが、山姥切国広には今、その女などどうでもよかった

まずは、この邪魔な球体を消滅させなければ―――――他に被害が出る

 

「くっ・・・・・・・・」

 

山姥切国広は何とか、鞘を持つ手に力を籠めた

そこ一点だけに霊力ちからを集中させる

 

『山姥切さん、ひとつだけお伝えしておきます。 もしもの時は――――・・・・・・』

 

沙紀が、三日月の深層心理に入る前に伝えてくれたこと

彼女は、それぞれの刀剣男士の鞘にある細工・・・・を施している

そう言っていた

 

皆、各自が最大の力を発揮できるように、沙紀自らが術式を埋め込んだのだという

そして、山姥切国広の鞘に埋め込まれたものは――――――「絶対防御」

 

それは、どんなものにも、どんな力にも「打ち勝てる力」だった

 

 

発動条件は―――――自らが危機に瀕した時

 

 

その力は最大限に引き出されるのだという

そして今、その力は今までに見た事ないぐらい“強い力”となって発動したのだ

 

まるで、山姥切国広を中心に、大きな防御結界となり、力が集まってくる――――・・・・・・

その淡い碧色の力は、山姥切国広の瞳の色と同じものだった

 

正直、「賭け」だった

もしかしたら、発動しないかもしれない

だが、発動しないならば、大した力ではないという証明にもなる

 

しかし、現実は異なり

大きな力となって発動した

 

後は・・・・・・この球体を消し去れば―――――・・・・・・

 

山姥切国広はぐっと、もう片方の手に持つ本体に霊力ちからを籠めた

消せないならば―――――斬り捨てるまで!!!!

 

 

 

「―――― はぁ!!!!!」

 

 

 

山姥切国広は、全霊力を注ぎ込むと、そのまま思いっきりその球体を一刀両断にした

 

ず・・・・ばん!!! という音と共に、その球体が真っ二つに割れると、そのまま飛散していった

 

しゅうううううう・・・・・・

と、目を覆いたくなるほどの瘴気の様なものが、辺り一帯に広がる

 

見ると、あの球体が触れた草花は完全に萎れていた

もし、沙紀の助言がなければ

もしかしたら、ああなっていたのは自分だったのかもしれない――――

 

そう思うと、ぞっとした

 

こんな力が・・・・・・“審神者”の力、だと?

 

自分の知っている“審神者”の力はもっと清浄で美しいものだった

これではまるで――――――・・・・・・

 

そこまで考えて、山姥切国広はその女を見た

女は、怒りのあまり顔を真っ赤にしていた

 

「・・・・・・・・・・・」

 

山姥切国広は、少しだけ息を吐いた後、すたすたと女の方向へ歩き出した

ぎょっとしたのは女のほうだ

 

「な、なによ!! まだやろうって―――――!!」

 

虚勢を張ってそう叫ぶが

山姥切国広はそんな彼女を無視して、素通りした

 

そしてそのまま、沙紀達の身体のある所へ行く

彼女達の身体には傷一つなかった

その事に、ほっとする

 

それから、破壊された紋をみた

そこは、無残にばらばらになっていた

 

すると、それを見た女が はっ!と笑いながら

 

「無駄よ無駄! あんたの大切な“審神者”はもう二度と帰ってこれないわよ!!」

 

そう虚勢を張った様に言うが、山姥切国広の耳には入っていなかった

 

沙紀達が、帰ってくるには一体どうしたら――――――

それとも、このまま俺はあんたを失うのか・・・・・・?

 

 

「・・・・沙紀・・・・・・・・」

 

 

山姥切国広がそう呟いた時だった

突然、彼女達の身体を護っていた紋が淡い光を放ち始めた

 

「だから、無駄だって―――――――・・・・・・え?」

 

その女が何かに驚いたかのよう、その瞳を見開く

 

山姥切国広が“それ”を見て、ふっと柔らかく笑った

 

「・・・・・無事だったか・・・」

 

そう――――

そこには、沙紀と鶴丸、それから大包平が立っていたのだ

その後ろには、頭を押さえながら立ち上がる三日月の姿もある

 

それを見た女が、震える手で沙紀を指さし

 

「あ、あああ、あんた、なんで――――!!? 紋は破壊した筈よ!! なんで、ここにいるのよ!!」

 

言われて沙紀が、破壊されたであろう紋を見た

そして、何も言わずに無残にも壊された紋そっと触れる

 

すると――――――

 

ぱああああああああ

 

突然、紋が光り出し

元の破壊されていない紋へと戻った

 

それを見た女は大きく目を見開き

 

「―――― だ、だましたのね!!!? 上の紋はカモフラージュって事!!?」

 

そう叫ぶ女を見て、沙紀は静かに

 

睡蓮様・・・。 貴女様の持ち場はここではありません。 この件は不問に致しますので、お戻りください」

 

そう言って、すっと立ち上がると山姥切国広の方を見た

山姥切国広は、少し放心した状態だったが、直ぐに我に返り

 

「無事でよかった・・・・・・」

 

そう言って、力が抜けた様に、ずるっとその場に倒れそうになった

とっさに、沙紀が手を伸ばす

 

「・・・・・・それは、こちらの台詞ですよ? 山姥切さん。 あの術式が発動する気配を感じました。 ご無事で何よりです」

 

「・・・・・・はは、またあんたに助けられた・・・」

 

山姥切国広のその言葉に、沙紀は小さくかぶりを振り

 

「私こそ、いつも山姥切さんには助けていただいております。 ありがとうございます」

 

それだけ言うと、つと顔を上げて“睡蓮の審神者”の方を見た

 

「睡蓮様・・・・いつまでそこに――――」

 

そう沙紀が言いかけた時だった

“睡蓮の審神者”は、ばっと立ち上がり

 

「わ、私の大包平返しなさいよ!!!! この泥棒猫!!!」

 

「・・・・・・・・」

 

沙紀は何も答えなかった

少しだけ息を吐いた後、横にいた大包平を見て何か言おうとした瞬間

大包平の方が先に動いた

 

「・・・・・・大人しくしていればいいものを――――」

 

そう、冷たく言い放つ

一瞬、“睡蓮の審神者”はびくっとする

 

が、ばっと手を伸ばすと、大包平の横にいた沙紀を どん! と、突き飛ばすとそのまま大包平に抱き付いた

 

突き飛ばされた沙紀が、一瞬よろめくが

すかさず、鶴丸の手が伸びてきて支えてくれた

 

「大丈夫か?」

 

そう尋ねられて、沙紀が小さく頷く

 

「私は・・・・・・。 それよりも――――」

 

そう言って、“睡蓮の審神者”の方を見る

“睡蓮の審神者”は大包平に懇願する様に

 

「ねぇ、私と帰ろ? どうせ、この女に無理やり連れまわされてるだけなんでしょ!?」

 

「・・・・・・・・・」

 

大包平は答えなかった

冷たく“睡蓮の審神者”を見下ろしたまま、大きな溜息を洩らした

だが、“睡蓮の審神者”は尚も言い募った

 

「こんな女の言う事聞くことないじゃない!! いつもみたいにあたしだけを見てよ!!! ねぇ、キスして? そしたら、許してあげるから――――」

 

そう言って、“睡蓮の審神者”が大包平の首に手を回しかけるが――――

瞬間、大包平がどん!っと、“睡蓮の審神者”を拒絶する様に突き飛ばした

 

「きゃあ!!」

 

突然の出来事に、そのまま“睡蓮の審神者”が倒れる

 

「な、なにするのよ! 大包―――――「してやるよ」

 

「え?」

 

一瞬、“睡蓮の審神者”がきょとんするが、次の瞬間、嬉しそうに笑い

 

「だったら、早く――――――――」

 

「悪いな、沙紀。 それから、鶴丸も―――」

 

そういうなり、突然大包平の手が沙紀に伸びてきたかと思うと――――

そのまま沙紀の腰をぐいっと自分の方に寄せ、彼女の唇に自身の唇を重ねた

 

え・・・・・・?

 

突然の大包平からの口付けに、沙紀がその躑躅色の瞳を大きく見開いた

 

「なんーーーーー」

 

それを見た、“睡蓮の審神者”がわなわなと震えだす

 

「な、ななな、なにやってんのよお!!! なんで!? なんで、その女にするの!!?」

 

すると、大包平はちらりと“睡蓮の審神者”を横目で見た後、自身の唇に指をあて

 

「なんだ? 足りないのか? なら―――――」

 

そう言って、今度は沙紀の腰だけでなく、頭を抑え付けてきた

驚いたのは他ならぬ沙紀だ

 

「ちょ・・・・・・っ、お、大包平さ――――んん」

 

止める間もなく、二度目の口付けが降ってくる

それも、一回目とは違い、その口付けは何度も何度も重ねられた

 

「ま、待っ・・・・・・・」

 

沙紀は困惑した様に、大包平の袖を掴むも、口付けは終わらなかった

何度重ねられたか分からなくなったころ――――やっと、解放されて 沙紀が思わずよろけるが

すぐさま、傍に居た鶴丸に支えられた

 

「り、りんさん・・・・・・」

 

「大丈夫だ、まぁ、何となくあいつの魂胆は分かるしな」

 

そう言って、沙紀の頭を撫でた

 

一方

大包平は、満足気に自身の唇を舌で少し舐めると

 

「で? 後は何が望みなんだ?」

 

と、高圧的に“睡蓮の審神者”に尋ねた

“睡蓮の審神者”がわなわなと震え上がる

 

「・・・・・・んでよ」

 

「あ?」

 

「何でよ!!! いつも、いつも私にしてくれてたじゃん!! なのに―――――」

 

すると、大包平が今までにないくらい低い声で

 

「俺が、俺の意思でしたのは沙紀にだけだ。 お前から、“しないと他の刀剣男士に危害を加える”と脅されて仕方なくしてやっていただけだ・・・・・・・・・・

 

「じゃ、じゃぁ、あたしを抱いたのは!? あれは、大包平の意思、だ、よね?」

 

“睡蓮の審神者”の声がどんどん、涙声に変わっていく

だが、大包平は冷淡なまま

 

「俺の意思はないと、言ったはずだが? お前が勝手にそう解釈しているだけだろうが」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

“睡蓮の審神者”が力なくその場に崩れ落ちる

 

「・・・・・・言いたい事は以上か? だったら、とっとと持ち場へ戻れ」

 

ぴしゃり と、言い捨てると大包平は、沙紀達の方へ戻ってきた

それから、沙紀を見て

 

「悪かった、いきなりして」

 

そう言ってくれたのだ

一部始終を見ていた側からすれば、そう謝罪されると怒る事も駄目とも言えない

 

沙紀は、苦笑いを浮かべながら

 

「あ、いえ・・・・・・大丈夫、ですので」

 

と答えるのが精一杯だった

 

「あの、それで、彼女は――――」

 

「どうするのですか?」と、聞こうとしたが

それを大包平に聞くのは酷な気がした

 

すると、大包平は視線もくれずに

 

「放っておけ、その内 勝手に帰るだろう」

 

そう言って、すっと沙紀の髪に手を伸ばした

 

「え・・・・・・? あ、あの・・・・」

 

突然の大包平の行動に、沙紀が困惑する

すると大包平はにやりと笑みを浮かべ

 

「で、お前は? 俺にされてどうだった」

 

「――――っ」

 

急にそんな事を聞いてきたものだから、沙紀が思わず顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせた

その反応に、大包平がにやりと笑みを浮かべたかと思った瞬間

ぐいっと、後ろから鶴丸が沙紀を引っ張った

 

「はい、そこまで! それ以上の行為は、俺は許さないからな」

 

「ほぅ・・・・。 まだ沙紀と付き合っているわけでもないんだろう? 鶴丸」

 

「だからなんだ、お前の入る余地はねえよ」

 

何故か、そこの二人にばちばちと火花が散っていた

ちょうど真ん中にいた沙紀が、頭上で起きている攻防に、困ったのか

助け舟を求める様に山姥切国広を見た

 

それに気づいた山姥切国広は「あ~」と、困った様に声を発した後

 

「あんたら、そういうのは後にしておけよ。 今は―――――」

 

そう言った時だった

術式で時間を止めていた“バケモノ”が少しずつ動き始めたのだ

 

「術が――――――」

 

 

 

    解ける!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてと、”睡蓮の審神者”の件はこれで、ひとまず終わり~~(今回は)

後は、”バケモノ”倒すだけよ(๑•̀ㅂ•́)و+

といっても? 核となるじじいの魂はもうそこにないから、多分あっさり片付くなwww

 

 

2022.06.13