華ノ嘔戀 外界ノ章
    大侵寇「八雲」

 

◆ 第弐話 急襲

 

 

 

―――月齢26.4:晦――――

 

 

 

 『生き残れ』

 

 

 

それだけ言い残すと、ぶつん・・・・と、通信が遮断された

 

「今のは・・・・・・」

 

あまりにも、突然だった為

その場に居合わせた者たちに動揺が走る

 

「ふむ・・・・・・」

 

三日月が、何やら含みのある声を洩らした

鶴丸も、“それ”が何なのかわかるのか・・・・・・

深刻そうに、顔を顰めた

 

「さっきの入電はなんだ?」

 

山姥切国広がそう尋ねると

鶴丸は、一瞬だけ三日月を見た後、小さく息を吐いて

 

「あ~、あれは政府のクダ屋だよ。 まぁ、俺も実物を見たのは初めてだがな」

 

「クダ屋・・・・・? ですか?」

 

初めて聴く、その単語に沙紀が小さく首を傾げる

 

「簡単に言うと、管狐を管理する機関さ。 要は、こんのすけの上官みたいなもんかな」

 

「こんのすけの・・・・・・?」

 

思わず、こんのすけを見てしまう

すると、こんのすけは、ふふんっと誇らしげに

 

「はい、私の他にも“こんのすけ”は沢山います。 多くの“こんのすけ”の中で選ばれたえりーとだけが、主さま方々にお仕え出来るのです!!」

 

いやに、“えりーと”の部分が強調されていたが

見ているとなんだか可愛らしくみえて、沙紀は思わず笑ってしまった

 

「そう・・・・・・、こんのすけは凄いのね」

 

そう言って、こんのすけを撫でると

こんのすけは、嬉しそうに尻尾を千切れんばかりに振っていた

 

「しかし、クダ屋が出てくるとは・・・・・・事はかなり深刻な状態みたいだな」

 

「うむ、援軍要請でなかったならば、これからが肝要」

 

鶴丸の言葉に、三日月が深くうずいた

 

いつの間にか沙紀の膝の上で気持ちよさそうに頭を撫でられているこんのすけが、突然ぴんっと尻尾を立てた

 

「こんのすけ?」

 

まるで、何かに警戒するかのように こんのすけが毛並みを逆立てる

 

 

 

「なにか――――きます!!!」

 

 

 

瞬間―――――

 

 

 

  りりり――――――――――ん・・・・・・

 

 

 

「この音は――――――っ」

 

外の外部結界の音だ

つまりは―――――――侵入者!!

 

すぐさま、鶴丸が立ち上がると沙紀の手を引いて自分に後ろに庇う様にして立つ

その場に、居合わせた三日月と山姥切国広が素早く自らの獲物を抜いて構えた

 

 

しん・・・・・・

 

 

と、辺り一帯が静まり返る

 

どくん、どくんと、緊張の音を心臓が立てる

 

気配が・・・・・・

 

嫌な気配が、どんどん近づいてくる

 

 

 

 

刹那

それは起こった

 

 

 

 

ドゴオオン!!! という、物凄い轟音と共に、沙紀の背後にあった壁が割れた

 

 

 

「沙紀!!!!」

 

 

 

鶴丸が咄嗟に、反転して沙紀を抱き寄せて庇う

 

濛々と立ち昇る煙

視界が遮られて前が見えない

 

「何が―――――」

 

そう言い掛けた瞬間―――――

 

 

 

 

オオオオオオオオオ!!!!

 

 

 

 

禍々しい雄叫びが、部屋中に響き渡った

 

あれは――――――

 

そう――――その姿、形・・・・・・見間違う筈がない

時間遡行軍!!!

 

何故ここに!!!?

と、思うよりも早く、鶴丸と山姥切国広が動いた

 

「国広!!!」

 

「―――――わかっている!!!!」

 

鶴丸が沙紀を抱きかかえて後退するのと、山姥切国広が飛び出すのは同時だった

そのまま、山姥切国広が時間遡行軍の大太刀に斬りかかる

 

大太刀が雄叫びと共に、大きくボロボロの刀を振り上げるが――――――

山姥切国広の方が速かった

 

素早く、刀を下から上へ振り上げた

 

 

 

グアアアアアアアアア!!!!

 

 

 

断末魔とでもいうべきか

そのまま大太刀が跡形もなく消えてゆく―――――・・・・・・

 

だが、時間遡行軍はそれだけではなかった

消えた大太刀の背後から、短刀の時間遡行軍の群れが押し寄せてくる

 

「鶴丸! 三日月!!」

 

山姥切国広が、叫んだ

すると、鶴丸は沙紀を片腕で抱き上げたまま、軽々と刀を振るっていった

 

「りんさん・・・・・・っ、私を降ろし――――」

 

「降ろして」と言おうとしたが、それは鶴丸の言葉によって遮られた

 

「それは出来ない相談だ――――、な!!」

 

そう言って、迫ってきた時間遡行軍を打ち払う

 

「ですが―――――」

 

自分がいるせいで、鶴丸の行動に制限が掛かっているのは明白だった

 

これじゃ、ただのお荷物だわ・・・・・・

そんなの、自分で自分が許せない

 

だが、鶴丸は沙紀を離す気は毛頭ないのか、彼女を抱く手に力を込めてきた

 

「いいから! 落ちない様にしっかり俺に捕まっておけ!!」

 

そう言いながら、軽々と時間遡行軍の攻撃をかわすと、そのままどんどん斬り伏せていく

その時だった

 

 

 

「鶴丸! ――――伏せよ!!!」

 

 

 

突然、三日月の声が響いた

鶴丸が沙紀を抱えたままその場に伏せるとの、三日月の刀が横に振られるのは同時だった

 

瞬間――――

背後から、時間遡行軍の断末魔が聞こえてくる

 

どうやら、後ろから迫っていたやつがいた様だった

 

「助かった、三日月」

 

鶴丸がそう言うと、三日月は少し呆れ気味に

 

「もう少し、周りを見よ。 お主の手の中に 今、俺の大事な主がいるのを忘れるでない」

 

「・・・・・・お前のじゃないだろうが」

 

と、共闘していた筈なのに、突然ピリピリした空気が走った

 

「あ、あの・・・・・・っ」

 

耐えかねて、沙紀が止めに入ろうとした時だった

 

 

 

 

「主―――――――!!!!! ご無事ですかあああああああ!!!!!」

 

 

 

 

と、どこからともなく、長谷部が部屋に駆けこんできた

長谷部だけではない

燭台切や大倶利伽羅も一緒だった

 

「おい! 一体、何が起きてるんだ!!?」

 

と、今度は反対の廊下から薬研や一期一振、髭切と膝丸もやってきた

刀を抜いている所をみると、どうやら彼らも戦っていた様だった

 

「それが―――、私にもよく・・・・・・」

 

“本丸”には幾重にも重ねた結界が張ってあり、外部からの侵入は不可能な筈である

万が一破られれば、真っ先に沙紀が感知する筈である

しかし、今回その兆候はない

現に、結界は維持されたままだ

 

なのに、時間遡行軍は明らかに、“本丸”内部にやってきていた

 

考えられるルートは・・・・・・

 

「あ・・・・・・」

 

その時、あのクダ屋の言葉を思い出した

彼は何と言っていたであろうか

 

『――――本部への跳躍経路への浸食あり。 政府はこれより、緊急防衛体制に入る』

 

そう言っていなかっただろうか

 

“跳躍経路”への浸食――――

つまり、考えられるのは―――――

 

「転送装置・・・・・・?」

 

それ以外、考えられなかった

やつらは、政府の時間跳躍システムに介入して、こちら側に来たのだ

 

おそらく、政府機関が緊急防衛体制に入った事により、時間跳躍経路を一時的に遮断している可能性が高い

もし、そこに時間遡行軍が押し寄せてきていたとしたら

既に遮断された政府機関には侵入は不可

 

よって、他に繋がっていたであろう場所―――――それが各“審神者”が守る“本丸”なのだとしたら―――――・・・・・・

 

「こんのすけ!」

 

沙紀がこんのすけを呼ぶと、こんのすけはそれで全てを悟ったかのように、くりくりっと首の鈴を鳴らした

 

「直ぐに、全“本丸”に通達を―――――」

 

「わかりました! お任せください!!」

 

こんのすけが、他の“本丸”に通達している間に、ここ・・の“本丸”の転送装置を一時的に遮断しなければ――――・・・・・・

 

そう思うと、ぱっと持っていた端末を取り出す

認証を素早く終わらせると、複数のパネルを立ち上げた

 

「・・・・・・・・・・・・っ」

 

落ち着かなきゃ・・・・・・

 

やり方は頭に入っている筈だ

万が一に備えて、一通りの事は教わっている

 

教えてもらった通りにすれば――――

そう――――すればいいと思っているのに

 

焦りからか、上手く操作できない

 

早く、早くしなければ

そうでないと、もしかしたらまた時間遡行軍が侵入してくるかもしれない―――――

 

手が・・・・・・震える

 

万が一、間違えれば、この“本丸”への経路を完全に遮断してしまうからである

そうすれば、自分たちは二度とここから出られなくなる

 

失敗は――――許されないのだ

 

一発で、成功させなければならない

 

「・・・・・・・・・・・・っ」

 

その時だった、そっと沙紀の手に鶴丸の手が重なった

 

「あ・・・・・・」

 

「大丈夫だ、沙紀なら出来る。 そうだろう?」

 

震えが・・・・・・

とま、た・・・・・・・・・?

 

「りんさん・・・・・・」

 

鶴丸だけじゃない、山姥切国広や三日月――――そう、皆がいる

 

沙紀は、一度パネルから手を離すと、すぅ・・・・と大きく息を吸い、吐いた

そして、ゆっくりと閉じていた躑躅色の瞳を開ける

 

大丈夫

できるわ

 

 

 

 

「今から、一時的この“本丸”への時間跳躍機能を遮断します」

 

 

 

 

瞬間、それは起こった

ふわ・・・・・・っと、沙紀の周りから風が吹いた

 

彼女の漆黒の長い髪が揺れる

 

「Aルート浸食あり――――遮断。 Bルート浸食無し。 Cルート・・・・・・」

 

ひとつひとつ、調べていきながら遮断と維持を選んでいく

全てあるルートをチェックし終わると、そのまま最後のパネルを開いた

 

そこには、 『当本丸への時間跳躍を全てブロックしますか?』 という文字が出ていた

その下で、赤いパネルがちかちかと光っている

 

沙紀は、静かに息を呑むと、そのパネルとタップした

瞬間、ブブ―――――ン… という音と共に、全てのパネルが赤く染まる

 

そして

 

『“華号・竜胆”―——―—認証しました。 “審神者”の権限により、当本丸への跳躍を一時的に遮断します』

 

そうシステムの声が響くと、ブン・・・・・・と、全てのパネルが閉じた

 

成功・・・・し、た・・・・・・?

そう思うと、どっと身体から力が抜けた

思わず倒れそうになるが、さっと伸びてきた腕が沙紀を支えた

 

「あ・・・・・・」

 

「・・・・・・無理をするな」

 

それは、山姥切国広だった

 

「山姥切さん、ありがとうございます」

 

沙紀は、山姥切国広に支えられながら立ち上がた

そして

 

「まずは、状況を整理します――――・・・・・・」

 

そう言って、他の部屋から来た長谷部や一期一振に何があったのかと尋ねると、両方とも自分達と同じようで

突然現れた時間遡行軍に襲われて、それを撃退したのだという

 

そこで、沙紀は先ほどのクダ屋の話を話した

 

「先ほど、政府か入電がありました。 彼らは言うには、本部への跳躍経路への浸食があり、その経路を遮断。 政府はこれより、緊急防衛体制に入るそうです。 当面は、各本丸の自立プログラムにて、管狐を通して本丸の機能を維持・継続だと・・・・・・」

 

それによって、起きた先ほどの時間遡行軍の急襲

 

「おそらくあれは、行き場を失った時間遡行軍が“出口”として空いていた場所―――つまりは各本丸へ来たものと思われます。 ですから、一時的にこちらへは来られない様に経路を遮断しました」

 

「今、唯一“繋がっている”のは――――――」

 

瞬間、全員の視線がこんのすけに集中する

 

こんのすけが、一瞬「え?」という風な顔をする

 

沙紀は、すっと膝を折ると、こんのすけの頭を撫でた

 

「今はあなたが唯一の鍵です。 大変かもしれないけれど・・・・・・」

 

そこまで言いかけて、沙紀は言葉を切った

そして、一度だけ躑躅色の瞳を瞬かせると―――――

 

「ひとりではありません。 皆もいます。 勿論、私も―――――だから、一緒に・・・頑張りましょう」

 

そう言って、にっこりと微笑んだ

すると、こんのすけが目に涙を浮かべながら

 

「・・・・・・・っ、はい!」

 

と、答えながら沙紀にしがみ付いたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話、ほとんど進ますオリジナル展開で終わった!!!( ̄∇ ̄|||)

すみません~~~

 

とりあえず、全員名前出た・・・・・・よな????

 

 

2022.04.26