華ノ嘔戀 外界ノ章
    大侵寇「八雲」

 

◆ 第十九話 籠の中の「月」

 

 

 

―――――月齢1.9:三日月 不明―――

 

 

どのくらい、歩いただろうか

いけども、いけども、道は見えず

この方向で合っているかも分からない

 

唯一の手掛かりは“ここ”に来る前に沙紀が放った神鳥の式神がきらきらと金粉を巻きながら前を飛んでいるという事だけだった

 

時間の感覚さえすら、わからない

 

沙紀は、緊張のあまり思わず額の汗を拭った

それを見た鶴丸がふと、沙紀の髪に触れる

 

「あ・・・・・・」

 

「どうした? 沙紀。 少し休むか?」

 

鶴丸が、気づかってくれるのが嬉しくも感じつつも、沙紀は小さくかぶりを振った

 

「いえ、時間ありませんから・・・・・・」

 

そう――――時間がない

このままでは、外の世界の時間が動きだしてしまう―――――

その前に、三日月をみつけ、あの“三日月の折れた集合体”との魂を分離させなければ

 

「急ぎましょう」

 

早く三日月を見つけなければ―――――

 

それに・・・・・・

行方の分からない大包平も見つけないと、帰れなくなってしまう

 

一体、どこにいるの・・・・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは、どこだ?」

 

大包平は、一人闇の中にいた

右を見ても左を見ても、闇

 

道らしい道もなく、沙紀達の姿もない

 

「くそ・・・・・・沙紀と鶴丸は何処に行ったんだ?」

 

そう思うも、闇雲に歩いていい気がしなかった

その時だった

 

突然、目の前にひらひらと 一枚

桜の花びらが待っていた

 

「・・・・・・・・・・・・?」

 

大包平がそっと手を伸ばすと、その花びらは大包平の掌にひらりと落ちてきた

 

「花・・・・・・?」

 

不思議の思い、大包平がその花びらを手に取る

瞬間―――――

 

頭の中に何かの映像が流れてきた

 

 

 

 

『また、駄目だったか・・・・・・』

 

桜の樹にもたれ掛かったまま、青い衣の男がそう呟いていた

男は、天を仰ぎ

 

『俺は、何度そなたを失えばいいのだ・・・・・・沙紀・・・・・・・・・・』

 

 

 

 

(沙紀、だと?)

 

その男は、確かに「沙紀」と言った

それにその男の容貌、あれは―――――・・・・・・

 

また、ひらりと桜の花びらが落ちてきた

 

 

 

 

『どうして――――どうして、駄目なのだ』

 

また、桜の樹に寄り掛かる青い衣の男が呟いていた

 

『何度繰り返そうとも――――この結末は変えられぬのか・・・・・・?』

 

ぐっと、男が拳を握りしめる

 

 

 

 

また、ひらりと桜の花びらが落ちてきた

 

 

 

 

『今度は―――今度こそは、上手くいったと思ったのに・・・・・・何故だ』

 

青い衣の男か、桜の樹の下で何かを抱きしめている

それは、ぐったりしていてぴくりとも動かない

無残にも、男の目の前で、“それ”の手がだらん・・・・・・と、崩れ落ちた

 

『・・・・・・っ、沙紀・・・・・・。 俺は、俺はどうすればそなたを失わずに済むのだ・・・・・・』

 

 

 

 

また、ひらりと桜の花びらが落ちてきた

 

 

 

 

『よくない事はわかっている・・・・・・だが、俺にはもうこうするしかないのだ』

 

そう言って男は、そっとその胸に抱く動かなくなった“それ”に触れた

 

『沙紀・・・・・・そなたは、俺をきっと許さないだろう・・・・・・だが、俺はそなたには生きて欲しい――――その為ならば、たとえこの身が朽ちようとも構わぬ』

 

そう言うと、男は持っていた刀を抜いた

そして―――――――

 

ざしゅ・・・・・・

 

一面の血しぶき

視界が真っ赤に染まる

 

 

 

 

また、ひらりと桜の花びらが落ちてきた

 

 

 

 

桜の樹の下に、青い衣の男はいなかった

あるのは、折れた刀だけ

そして、まるでそれに護られるように目を閉じている沙紀の姿があった

 

 

 

 

(なんだ、これは・・・・・・)

 

大包平が、頭を押さえる

自分は夢でも見ているのかと錯覚に囚われる

だが、夢にしてはいやに現実味を帯びていた

 

 

 

 

また、ひらりと桜の花びらが落ちてきた

 

 

 

 

『今度こそ・・・・・・今度こそ俺は、そなたを――――――』

 

ざああああと、桜の花弁が舞い上がる

まるで、“そこ”を守るかのように――――――

 

よく見るとその桜の花弁の中心に沙紀の姿があった

だが、彼女のその瞳には青い衣の男の姿は映っていなかった

 

ずっと、遠くを見ている様な・・・・・・

ぼやりとしている感じたった

 

青い衣の男が、そっと沙紀に触れる

だが、その沙紀はぴくりとも動かなかった

 

男は少し寂し気に目を細めた

 

『それでよい・・・・・・そなたは、俺など忘れ“自由”に生きてくれ―――――』

 

 

 

 

また、ひらりと桜の花びらが落ちてきた

 

 

 

 

『今度こそ・・・・・・今度こそ、あの結末を変えられる―――――・・・・・・』

 

青い衣の男が、しだれ桜の咲き乱れる場所を歩いている

それと同時に、禍々しい気配が辺り一帯に広がっていた

 

『これでいい―――――・・・・・・』

 

まるで自分に言い聞かすかのように、彼がそう呟く

 

『これで――――、“本丸”も“彼女”も守れる――――・・・・・・だから、これでいいのだ』

 

そう言った、男の目から涙が零れ落ちた

男は、そっと袖でそれを拭うと、そのままそのしだれ桜の奥の方へと消えていった

 

 

 

 

大包平は、ただただ じっとそれを見ていた

もう、桜の花びらは落ちて来なかった

 

おもむろに、足元を見ると

そこには、今まで落ちてきた桜の花びらが無造作に落ちていた

 

あの青い衣の男は・・・・・・

 

大包平がそっと、その落ちている桜の花びらを拾おうとした時だった

自分の足下に広がる“それ”にぎょっとした

 

“それ”は、無残に折られた刀達だったのだ

 

慌てて左右を確認する

前も後ろも

周り全てに無残に折れた刀が散らばっている

 

しかも、よく見るとそれは――――

 

「三日月宗近・・・・・・?」

 

そう―――――それは、三日月宗近だった

無数の三日月宗近が折れて床に埋もれる様に散らばっていた

 

なんだここは!!?

 

まるで、いや、これでは“三日月宗近”の墓場の様だった

その中心に自分が立っているという事実に、背筋がぞくりとした

 

「・・・・・・・・・・・・っ」

 

思わず吐きそうになり、慌てて口を押さえる

 

あの青い衣の男は、三日月だった

そして、やつは、何度も沙紀の死に目を見ている様な口ぶりだった

 

どういうことだ?

 

最後の映像の時

三日月が背後にあった禍々しい気配

まさか、あれがあのバケモノの大元なのか?

 

だから、沙紀は三日月とバケモノの魂を分離させると言ったのか・・・・・・?

分からないことだらけだ

 

狂っている―――――

 

そうとしか、思えなかった

その時だった

ふと、目の前にあの青い衣の男―――三日月宗近が立っていた

その瞳に色はなく

表情も読み取れなった

 

そして、彼は小さく息を吐くと

 

「だれだ・・・・・・? なにゆえ、ここに来た」

 

まるで、目の前の大包平が見えていない様な口調だった

 

「もし、邪魔をするというならば―――――」

 

そう言って、すっと目の前の三日月が刀を抜く

はっとして、大包平は慌てて自身の刀に手を掛けた

が、抜くべきか躊躇った

 

今の、三日月にはおそらく大包平は見えていない

きっと、気配だけで感じているのだ

 

どうする!?

 

そう考えるも、その三日月はそんな余裕を赦してはくれなかった

抜き切った三日月宗近をそのまま大きく振り下ろしてくる

 

ぎいいいいいん!!!!

 

咄嗟に、大包平が持っていた太刀を抜かずに鞘のままで攻撃を防いだ

だが、三日月の攻撃はそれだけでは収まらなかった

 

瞬時に、持っている手を捻ると、そのまま更に打ち込んできた

大包平が、なんとかその攻撃を受け流す

 

「やめろ!! 三日月!!!」

 

そう叫ぶも、三日月には届いてはいなそうだった

 

「――――誰かは知らぬが。 邪魔するものは消す」

 

そう言うなり、三日月が反転して反対から打ち込んできた

 

「くっ・・・・・・!!」

 

 

大包平が、間一髪でそれ避ける

このまま鞘で戦うには限度があった

しかし、ここで鞘を抜いてはいけない――――そんな気がした

抜けば、終わりだと

 

だからって・・・・・・

 

このままでは、いつか討ち負ける

曲がりにも相手は天下五剣

認めた訳ではないが、大包平が手加減して勝てる相手ではない

 

もし、ここで死ねば現世の大包平の身体は朽ちる

 

死ぬわけにはいかない

だが・・・・・・

 

そう考えている間にも、三日月からの攻撃はどんどん激しさを増していった

思わず、大包平が膝を付く

 

落ち着け

ここは、三日月の心の中だ 現実ではない

だが、ここで三日月に傷を付ければ、現世の身体にどんな影響があるか分からない

 

俺達がここへ来た目的はなんだ?

この男の魂とも呼べるものを救う為ではないのか

 

なら、この三日月はどちらの三日月・・・・・・・だ?

折れた方の三日月?

それとも、本当の三日月?

 

考えろ

考えるんだ!!

 

「ふ、はははははははは!」

 

その時だった、突然、目の前の三日月が笑だいだした

それが、あまりにも不自然で違和感があった

 

なんと表現すべきか わからないか―――――

この三日月は・・・・・・

 

 

 

「お前は、俺の知っている三日月宗近ではない!!!!」

 

 

 

大包平がそう叫ぶと、鞘から刀を抜いた

 

「貴様は、運命に負けて折れた三日月だ!! だから、ここで眠らせてやる!!!」

 

そう叫ぶな否や、大包平は地を蹴った

そして、目の前の三日月めがけて斬りかかる

 

その瞬間、三日月の瞳が見えた気がした

その瞳は微かに笑っていた

 

そう――――まるで、それを願っているかのように――――・・・・・・

 

 

「うおおおおおおお!!!」

 

 

大包平がそのまま刀を三日月、めがけて振り下ろす

瞬間、ざああああああと、辺り一面の桜の花弁が舞った

 

その花弁は、どこまでも高く舞い上がる

そして、二人の間に はらはらと舞い落ちてきた

 

ひらり ひらり

と、花びらが1枚1枚落ちてくる

そうして、最後の1枚が落ちた時・・・・・・三日月が、ぽつりと呟いた

 

「何故だ・・・・・・」

 

まるで、それが何故なのか分からないという風に、そう呟いた

大包平の放った刃は、三日月の真横に振り下ろされていたからだ

 

「何故、だと・・・・・・?」

 

瞬間、大包平が怒りを露にして茫然としている三日月の胸ぐらを掴んだ

 

 

 

「本気で言っているのか、貴様ぁ!!!」

 

 

 

暗闇の中に大包平の声が響く

 

「まさか、今の台詞は本気ではあるまいな!!!?」

 

「・・・・・・・・・・・・?」

 

本当に、その三日月には分からないのか・・・・・・

首を傾げ、その瞳を静かに一度だけ瞬かせた

 

瞬間、ぶちっと 大包平の中で何かが切れた

 

 

「ふ・・・・・・ふざけるな!!! 勝ち逃げなど赦さんぞ!! 三日月宗近!!! 無抵抗の貴様を斬った所で何になる!!? 大体、さっきの俺に見せた幻はなんだ!!? あれは貴様が“助けて”欲しいからなのではいのか!!?」

 

「・・・・・・俺は、あそこにいるべきではない」

 

「そんな事、貴様が決めるな!!!」

 

「・・・・・このままいけば、きっと彼女を救える・・・・・・。 ならば俺はこのままここで朽ちる方が―――――」

 

「それで、沙紀が喜ぶと思っているのか!!? 貴様を犠牲にしてまであいつが!! それを願うと本気で思っているのか!!? いい加減・・・・・・」

 

わなわなと、大包平が拳を握りしめると

 

 

 

「―――――目を覚ましやがれ!!!!!!」

 

 

 

ばきい!!! と言う音と共に、大包平が思いっきり三日月を殴り飛ばした

 

「・・・・・・・・・・・・っ」

 

よろりと、顔を殴られた三日月が足元をよろめかせた

 

「少しは目が覚めたか! このあほうが!!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

三日月は、殴られた頬をそっと手で触れた

そこは、赤くなり熱を帯びていた

 

痛みなど・・・・・・忘れたと思っていた

それなのに――――・・・・・・

 

「・・・・主は・・・・、沙紀は、俺を・・・・」

 

まだ、必要としてくれるのか・・・・・・?

 

ゆっくりと三日月が顔を上げると―――――

 

そこには、沙紀と鶴丸がいた

 

「あ、るじ・・・・・・」

 

「三日月さん・・・・・・っ」

 

沙紀が慌てて三日月に近づこうとする 

が――――

 

寸前のところで、鶴丸が沙紀の手を掴んだ

まるで、三日月の元へ行くのを止めるかのように

 

「りん、さん?」

 

沙紀が少し驚いた様に、鶴丸を見る

すると、鶴丸が小さく首を振ったかと思うと

ぐいっと沙紀の手を引き、まるで何かからかばう様に自分に後ろに回した

 

え・・・・・・?

 

一瞬、何が起きて――――? と思うも、それは直ぐに分かった

前を見ると、先ほどまで三日月がいた場所から、どんどん“何か”が溢れ出て来ようとしていた

 

「あ、れは―――――」

 

大包平も、沙紀達の方へ来ると

 

「あの三日月は“何か”がおかしい。 気を付けろ」

 

ゆらりと、目の前の三日月が揺れる

 

「沙紀・・・・・・、ああ・・・・沙紀・・・・・・・・・」

 

まるで“それ”を求めるかのように、三日月が呟く

そしてゆっくりと顔を上げた瞬間――――

 

「・・・・・・・・・・っ」

 

沙紀が、悲鳴にならない声を上げる

その三日月の瞳は、いつもの色ではなく

 

まるで、獲物を見つけたかのように

真っ赤に染まっていたのだった―――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全部、みかちの深層心理内の話ですwww

現実世界はどうなったwww

まんば~~~~~~~~~!!!!笑

 

 

2022.06.08