華ノ嘔戀 外界ノ章
    大侵寇「八雲」

 

◆ 第十四話 反撃の烽火

 

 

―――― 大鳥居前・最前線防衛ライン――――

 

 

 

 

 グオオオオオオオオオ!!!!!

 

 

 

 

バケモノが大きく嘶いた

そして、そのボロボロの刀を大きく振り上げる

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

髭切は、ゆっくりとその瞳を閉じた

神経を一点に集中させる

 

感じる―――――・・・・・・

の気配が

 

彼らしからぬ、大振りの一振り

けれども、どこか彼らしい刀の扱い方―――――

 

くすっと、髭切がその口元に微かに笑みを浮かべた

瞬間、バケモノの大振りの一振りが下りてくる

 

刹那

それは、起きた

 

 

 

がきいいいいいいん

 

 

 

けたたましい、剣戟の音が響き渡る

髭切がゆっくりと目を開けると――――そこには、見知った背中があった

 

膝丸と燭台切だった

 

「兄者!! 無事か!!?」

 

「髭切さん、大丈夫?」

 

そう声を掛けてくる二人に、髭切は苦笑いを浮かべながら

手をひらひらっと振った

 

その時だった

 

 

「間に―――合いましたね」

 

 

そこには、髭切の今生の主である沙紀が立っていた

沙紀だけではない

 

その横には、鶴丸と大包平の姿もある

そして――――・・・・・・

 

を見た瞬間、髭切は安心したかのように、笑った

 

「よかった、どうやら本物・・は別にいたみたいで――――・・・・・・」

 

そう言った瞬間、よろりとよろめいた

すかさず、山姥切国広が手を伸ばす

 

「・・・・・・無理をするな」

 

心配ではなく、注意をされて一瞬、髭切がきょとんとその瞳を瞬かせたが

次の瞬間、「はは・・・・・・」と笑い出した

 

「うん、ちょっと確かめたい事があって―――――」

 

その言葉に、沙紀が小さく頷く

そして、バケモノの方を見た

 

今は膝丸と燭台切が応戦しているが・・・・・・

1体に対して2振でも、優勢とは言えなかった

 

「あれは・・・・・・」

 

そこまで言いかけて、沙紀が一瞬 言葉を切ってを見る

三日月色のの瞳と目が合うと、沙紀は一度だけその瞳を瞬かせたが―――・・・・・・

にこりと微笑んだ

 

そしてもう一度、あのバケモノの方を見る

 

間違いない

あれは・・・・・・、あの“バケモノ”の本当の姿は――――・・・・・・

 

沙紀が小さく呟いた

 

「――――・・・・・・参ります」

 

瞬間、沙紀の瞳が躑躅色から、金と紅の混ざった色へと変わる

 

 

高天原に神留まり坐す。(たかあまはらにかむづまります)

皇が親神漏岐神漏美の命以て(すめらがむつかむろぎかむろみのみこともちて)

八百万神等を。(やほよろづのかみたちを)

神集へに集へ給ひ。(かむつどへにつどへたまひ)

神議りに議り給ひて。(かむはかりにはかりたまひて)

我が皇御孫命は。(あがすめみまのみことは)

豊葦原瑞穂国を(とよあしはらのみづほのくにを)

安国と平けく知食せと(やすくにとたひらけくしろしめせと)

事依さし奉りき。(ことよさしまつりき)

此く依さし奉りし。(かくよさしまつりし)

国中に。(くぬちに)

荒振神等をば神問はしに問はし給ひ。(あらぶるかみたちをばかむとはしにとはしたまひ)

神掃へに掃へ給ひて。(かむはらひにはらへたまひて)

語問ひし磐根樹根立草の片葉をも(ことどひしいはねきねたちくさのかきはをも)

語止めて。(ことやめて)

天の磐座放ち天の八重雲を(あまのいはぐらはなちあまのやへぐもを)

伊頭の千別に千別て。(いづのちわきにちわきて)

天降し依さし奉りき。(あまくだしよさしまつりき)

此く依さし奉りし。(かくよさしまつりし)

四方の国中と。(よものくになかと)

大倭日高見の国を。(おおやまとひだかみのくにを)

安国と定め奉りて(やすくにとさだめまつりて)

下津磐根に宮柱太敷き立て。(したついはねにみやはしらふとしきたて)

高天原に千木高知りて(たかあまはらにちぎたかしりて)

皇御孫命の(すめみまのみことの)

瑞の御殿仕へ奉りて(みづのみあらかつかへまつりて)

天の御蔭日の御蔭と隠り坐して(あまのみかげひのみかげとかくりまして)

安国と平けく知食さむ(やすくにとたいらけくしろしめさむ)

国中に成り出む。(くぬちになりいでむ)

天の益人等が過ち犯しけむ。(あまのますひとらがあやまちおかしけむ)

種種の罪事は(くさぐさのつみごとは)

天津罪国津罪(あまつつみ くにつつみ)

許許太久の罪出む此く出ば。(ここだくのつみいでむかくいでば)

天津宮事以ちて天津金木を本打ち切り(あまつみやごともちてあまつかなぎをもとうちきり)

末打ち断ちて。(すえうちたちて)

千座の置座に置足はして(ちくらのおきくらにおきたらはして)

天津菅麻を本刈り断ち末刈り切りて(あまつすがそをもとかりたちすえかりきりて)

八針に取裂きて(やはりにとりさきて)

天津祝詞の太祝詞事を宣れ。(あまつのりとのふとのりとごとをのれ)

 

此く宣らば。(かくのらば)

天津神は。(あまつかみは)

天の磐戸を押披きて天の八重雲を。(あまのいはとをおしひらきてあまのやへぐもを)

伊頭の千別に。(いづのちわきに)

千別て。(ちわきて)

聞食さむ国津神は。(きこしめさむくにつかみは)

高山の末低山の末に登り坐て。(たかやまのすえひきやまのすえにのぼりまして)

高山の伊褒理(たかやまのいぼり)

低山の伊褒理を掻き別けて。(ひきやまのいほりをかきわけて)

聞食さむ。(きこしめさむ)

此く聞食しては。(かくきこしめしては)

罪と言ふ罪は在らじと(つみといふつみはあらじと)

科戸の風の天の八重雲を(しなとのかぜのあまのやへぐもを)

吹き放つ事の如く。(ふきはなつことのごとく)

朝の御霧。(あしたのみぎり)

夕の御霧を。(ゆうべのみきりを)

朝風夕風の吹き掃ふ事の如く(あさかぜゆうかぜのふきはらふことのごとく)

大津辺に居る大船を。(おおつべにをるおおぶねを)

舳解き放ち。(へときはなち)

艪解き放ちて。(ともときはなちて)

大海原に押し放つ事の如く(おおうなばらにおしはなつことのごとく)

彼方の繁木が本を。(おちかたのしげきがもとを)

焼鎌の利鎌以て打ち掃ふ事の如く(やきがまのとがまもちてうちはらふことのごとく)

遺る罪は在らじと。(のこるつみはあらじと)

祓へ給ひ清め給ふ事を。(はらへたまひきよめたまふことを)

 

高山の末。(たかやまのすえ)

低山の末より。(ひきやまのすえより)

佐久那太理に落ち多岐つ。(さくなだりにおちたきつ)

早川の瀬に坐す。(はやかわのせにます)

瀬織津比売と伝ふ神。(せおりつひめといふかみ)

大海原に持出でなむ。(おおうなばらにもちいでなむ)

此く持ち出で往なば(かくもちいでいなば)

荒潮の潮の八百道の八潮道の(あらしほのしほのやおあひのやしほじの)

潮の八百曾に坐す。(しほのやほあひにます)

速開都比売と伝ふ神。(はやあきつひめといふかみ)

持ち加加呑みてむ。(もちかがのみてむ)

此く加加呑みては気吹戸に坐す(かくかがのみてはいぶきとにます)

気吹戸主と伝ふ神。(いぶきどぬしといふかみ)

根国底国に気吹放ちてむ。(ねのくにそこのくににいぶきはなちてむ)

此く気吹放ちては根国底国に坐す。(かくいぶきはなちてはねのくにそこのくににます)

速佐須良比売と伝ふ神。(はやさすらひめといふかみ)

持ち佐須良比失ひてむ(もちさすらひうしなひてむ)

此く佐須良比失ひては。(かくさすらひうしなひては)

今日より始めて(けふよりはじめて)

罪と伝ふ罪は在らじと。(つみといふつみはあらじと)

 

今日の夕日の降の(きょうのゆうひのくだちの)

大祓に祓へ給ひ清め給ふ事を(おおはらへにはらへたまひきよめたまふことを)

諸々聞食せと宣る(もろもろきこしめせとのる)

 

 

沙紀が、「大祓詞」の全文を唱えた瞬間、それは起こった

あれだけ辺り一帯に立ち込めていた瘴気が、一瞬にして消えたのだ

そして、あのバケモノが「グアアアア」と苦しみだした

 

「おお・・・・やっぱ略式じゃないのは威力あるなぁ~」

 

などと、鶴丸が感心していると

バケモノが苦しそうにのたうち回りだした

そして、目標が定まらないのか、攻撃がどんどん雑になっていく

 

だが、膝丸と燭台切だけでは、どう見てもやはり劣勢だった

当然と言えば、当然である

 

見た目は・・・・1体に見えるが――――

その大きな体の中に何百何千もの気配を感じる

 

「長谷部さん! 一期さん!!」

 

沙紀が叫んだ瞬間、後方から2振が飛び出した

そのまま左右からバケモノに向かって攻撃を仕掛ける

どうやら、沙紀はあの時笙と碧に2振の招集をお願いしたらしい

その間、くれぐれも他の“審神者”に気付かれない様に――――と

 

「主!! 今こそお役に立って見せます! このへし切長谷部が!!」

 

「ははは。 長谷部殿、元気ですね」

 

などと2人で会話するぐらいの余裕はある様だった

まぁ、今の今までほとんど戦いなどなかったであろうから、仕方ないのかもしれない

特に、長谷部は“睡蓮の審神者”の対応で、かなりのストレスが溜まっていたであろう

 

だからと言って、ある程度弱体化させたとはいえ、4振だけに任せるわけにはいかない

 

「さあて、俺達も参戦と行きますかね」

 

「ふん! 望むところだ!!」

 

「俺っちも行くぜ」

 

「・・・・・・とっとと、片づけるぞ」

 

「――――言われなくても」

 

そう言って、鶴丸や大包平、薬研や大倶利伽羅、山姥切国広まで飛び出していく

沙紀は、彼らに「お気を付けて」と声を掛けた

 

「主・・・・・・」

 

じゃりっと、砂利を踏む音が聞こえて振り返ると、三日月が神妙な顔でこちらを見ていた

 

「正直に、答えて欲しい」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

三日月が何を言おうとしたのか、察したのか

沙紀が、静かに前を見据えたまま

 

「・・・・・・確証があった訳ではありません。 ですが―――・・・・・・」

 

そう言って、目の前で戦う彼らと、バケモノを見る

 

「実物を見て、予想は確信へ変わりました。 あの大きな敵は1体で構成はされていない。 何十・・・・・・いえ、何百何千という“意思”の集合体であると――――そして・・・・・・その“意思”は、貴方であると―――違いますか? 三日月宗近さん」

 

迷いのない、言葉

迷いのない、瞳

 

だからこそ、彼女は“強い”のだと――――・・・・・・

そう、思ってしまう

 

三日月が静かに「そうか・・・・・・」と答えた

そして

 

「・・・・・・それならば、迷うことはない。 主、俺を――――」

 

 

 

「ですが――――・・・・・・、あれは、過去の貴方であり、今の貴方ではありません」

 

 

 

まるで、三日月の言葉を遮るかのように沙紀がそう口にした

 

「主?」

 

三日月が少し驚いた様に、その三日月色の瞳を瞬かせた

すると、沙紀は真っ直ぐに三日月を見つめ

 

「今の貴方は、あの中には含まれていない―――あれらの“三日月宗近だった意志”は、あの夢見の中で見た無残に折れた貴方。 きっと、何度も繰り返して 繰り返して―――折れたのでしょう。 その“思い”は最後にはあの形として姿になった。 だから、私は思うのです―――あの“沢山の意思”を打ち消せるのは貴方だけだと――――」

 

「・・・・・・は、ははは・・・・」

 

沙紀の、真っ直ぐな言葉に、三日月は目元を手で隠して笑った

 

「・・・・・・そう、か。 俺、だけ、か・・・・・・」

 

不思議な気分だった

もう、駄目だと

知られてしまったら、お終いだと――――そう、思っていた

 

それなのに、彼女はそんな事関係ないという風に言う

そう―――まるで、自分になら倒せるのだという風に

 

「主・・・・・俺を買いかぶり過ぎだ」

 

苦笑いを浮かべながら、三日月がそう言うと 沙紀は少しだけ笑った

その笑顔を見ると、「出来ない」などとは言えなかった

 

三日月はふっと微かに笑みを浮かべ

 

「・・・・・・主は、何人ぐらいが“この事実に”気付いていると思う?」

 

「そうですね・・・・・・、りんさんや、髭切さんはきっとお気づきかと。 大包平さんは本能で気付いてそうですよね」

 

沙紀のその言葉に、三日月が思わず吹き出す

 

「ああ、大包平はそうかもしれんな」

 

そう言って、腰にはいていた刀をすらっと抜いた

 

「では、じじいも参戦するとしようか」

 

三日月のその言葉に、沙紀が微笑み

 

「―――微力ながら、私もお手伝いさせて頂きます」

 

そう言って、ぱんっと沙紀が両の手を叩いた瞬間――――

彼女を守る“神代三剣”の1柱 布都御魂剣が姿を現した

 

「ほぅ・・・・・・」

 

霊力が底上げされているおかげか、無詠唱で神剣をその身から取り出すとは―――・・・・・・

さすがと言うべきか・・・・・・

 

“神凪”の名は伊達ではないということか

 

沙紀がゆっくりと、目の前に現れた布都御魂剣手に取る

まるで、洗礼されたように前よりも手に馴染む

 

「では、共に参ろうぞ」

 

「はい」

 

 

ついに―――――・・・・・・

 

 

最後の戦いが始まろうとしていた―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後、1話か2話だなw 嘘だなwww もっといるうううう

※1:あの6面の敵の解釈は、あくまでも私の独自解釈です

公式は正式発表していませんので、違う可能性もありますのであしからず

※2:「大祓詞」は長いので、読み飛ばしても問題ありませんww

(神道・古神道 大祓祝詞全集 参照)

 

2022.05.18