華ノ嘔戀 外界ノ章
    大侵寇「八雲」

 

◆ 第十参話 沙羅双樹

 

 

 

 

―――――月齢1.9:三日月 “本丸・竜胆” 大鳥居前――――

 

 

「皆様、お待たせしました!」

 

 

沙紀が最前線の本陣に戻ると、わっと皆が集まってきた

 

「沙紀君!! 鶴さんも、無事でよかった~~」

 

燭台切が緊張の糸が切れたかのように涙ぐむ

 

「・・・・・・おかぎ、食うか?」

 

大倶利伽羅が、待っている間おはぎを食べていたのか、口をもきゅもきゅさせながらすっと、おはぎを差し出してくる

 

沙紀は、くすっと笑みを浮かべ

 

「後で、頂きますね? 皆様にはご心配おかけして、申し訳ありませんでした。 それで、戦況は―――――」

 

そこまで言い掛けた時だった

 

 

「主!! 主は戻っているか!!?」

 

 

膝丸が駆け込んできた

その様子が尋常ではなかった為、一瞬にして本陣内に緊張が走る

沙紀は、ごくりと息を呑み

 

「膝丸さん、前線は―――――」

 

どうなっているかを聞く前に、膝丸が叫んだ

 

「兄者が、今一人で足止めしてる!! 急いで、救援に――――!!!」

 

「一人? 他の本丸の方々はどうしたのですか?」

 

沙紀がそう尋ねると、膝丸は小さくかぶりを振り

 

「兄者が、自分以外の全員を撤退させろと俺に言ってきたんだ! だから―――」

 

「・・・・・・・・・・」

 

先ほどの、音といい

今でも感じるこの、激しい痛いみは間違いなく結界への“攻撃”だった

 

「・・・・・・敵はどのくらいの数なんだ?」

 

鶴丸がそう尋ねると、膝丸は少し言いにくそうに

 

「・・・・・・ 1体だ・・・・」

 

「1体・・・・・・?」

 

膝丸の不自然な言い方に、鶴丸や大包平達が顔を見合わす

相手は、この空間すらも揺るがしてきたのに

それが、1体だというのだ

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

沙紀が、難しい顔で考え込む

 

この気配が1体・・・・・・?

そんな筈はない

この感じる気配はもっと沢山の―――――

数百・・・・・・いや、数千、数万クラスの気配だ

 

だが、膝丸が嘘を言うとは思えない

 

どういう事なの・・・・・・?

 

まるで、ちぐはぐな迷路に迷い込んだかのようだ

と、その時だった

 

「沙紀様」

 

ふいに、紺が話しかけてきた

普段自分たちが話している時に割って入る様な人ではない

という事は、何か緊急事態でも起きたのだろうか

 

一度、話を区切る様に沙紀が手で皆に合図を送ると、紺の方を見た

 

「どうしました?」

 

「・・・・・・話の最中、申し訳ございません。 隊長と碧が戻ってきております」

 

「え? 笙さんと、碧さんもですか?」

 

最終防衛ラインと、中央防衛ラインになにかあったのだろうか?

笙は、最終防衛ラインに長谷部と

碧は、中央防衛ラインに一期一振に

それぞれ付けた筈だ

 

その二人が戻ってきているという事は・・・・・・

そこまで考えて、沙紀が小さくかぶりを振った

 

いや、必ずしもそれが悪い方向へ向かうものだとは限らない

 

沙紀は、一旦皆の方へ向き直すと――――

 

「すみません、少し席を外します」

 

「沙紀?」

 

鶴丸が何か声を掛けようとするが――――

沙紀はそのまま紺と一緒に奥へ下がっていった

 

取り残された鶴丸達が顔を見合わせる

 

「笙達が戻ってきたという事は、何かあったという事か?」

 

「だと、思うけど・・・・・・」

 

鶴丸がそう尋ねると、燭台切が苦笑いを浮かべながらそう答えた

 

「・・・・・・・・・・・・?」

 

燭台切の反応がいまいちおかしくて鶴丸が首を傾げる

 

「や、笙君達はいい子だってわかってるけど・・・・・・まぁ、元が元だからね。 どうしても沙紀君の安全が気になって」

 

「それは、沙紀が許した事だ。 沙紀に判断を任せるのに納得したのはお前もだろう? 光忠」

 

鶴丸のその言葉に、降参という風に燭台切が手を上げた

 

「わかってるよ~。 別に、疑ってる訳じゃないし、笙君達はね。 僕が心配しているのは、どちらかと言うと笙君達を追ってくる政府機関の人かな。 沙紀君が巻き込まれると大変だからね」

 

「ああ・・・・・・そっちか」

 

燭台切の言い分にも一理あった

実際、笙達を始末しようとする者が放たれたのは一度や二度ではない

 

今は、もう“竜胆”の証を与えたのである程度は収まったものの

全くないという訳ではない―――――・・・・・・

なにせ、笙達は、元“暗部”なのだ

 

“暗部” それは、政府お抱えの調査部隊なのだ

情報という情報を網羅している

それも“三老”という政府の上層部に君臨するやつらの直属部隊だった

そこを抜けたのだ――――簡単、という訳にはいかないのだ

 

「おい」

 

その時だった、大包平が呆れた様に溜息を洩らしながら

 

「そんな事 今はどうでもいい。とっとと沙紀の所へ行くぞ」

 

「「「は・・・・・・?」」」

 

大包平からの言葉に、思わず素っ頓狂な声が多方面から上がる

だが、大包平はお構いなく沙紀と紺が行った方へと消えていく

 

「いいのかよ、あの旦那 放置して。 大将が行った所へいっちまったぞ」

 

薬研が呆れた様にそうぼやく

その言葉に、我に返った鶴丸や燭台切達が慌てて後を追ったのは言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――月齢1.9:三日月 “本丸・竜胆” 大鳥居前・本陣奥の間――――

 

 

沙紀が奥に来ると、既に笙と碧が待機していた

二人は沙紀を見るなり、さっと頭を下げる

 

下げなくていいといつも言っているのに、これだけは譲れないらしい

だが、今日はそんな事を言っている余裕がないので、直ぐに本題に入る

 

「何かあったのですか?」

 

沙紀がそう尋ねると、笙も碧もお互いを見合わせて

 

「実は―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

笙達と会話する沙紀を後ろの影からこっそり見ているものが約4名

 

「(おい、笙達の話聞こえるか?)」

 

「(いや、全然聞こえんな)」

 

そんな会話をこそこそしながら鶴丸と大包平が会話している後ろで・・・・・・

 

「(ねえ、なんで僕達こそこそしてる訳?)」

 

「(・・・・・・俺に聞くな)」

 

と、燭台切と山姥切国広がぼやいていた

「それなら、ついて行かなけりゃいいだろ」っと、薬研の声が聞こえてきそうだ

 

だが、この二人を放っておくと何かしでかしそうで、逆に心配になる

自分の胃が

 

などと考えていた時だった

 

 

 

「おい! お前ら!!!!」

 

 

 

突然、膝丸がまったく空気を読まず ずかずかとやってきた

膝丸は怒り狂ったように

 

 

 

「こうしている間にも、兄者は1人で戦ってるんだぞ!? なにの何ちんたらしてるんだ! さっさと援軍を――――――!!!!」

 

 

 

「・・・・・・皆様?? あの、そこで何を?」

 

と、沙紀が振り返ったものだから聴き耳立てていたのがバレた

 

何か言わなければ・・・・・・っ

と、皆が思うも急すぎて言葉が出てこない

と、思ったのだが・・・・・・

 

「決まっているだろう!! お前がこそこそ奥に入るから付いてきたのだ!」

 

と、堂々と大包平が言い切った

余りにも、清々しその言葉に一瞬 沙紀がその目を瞬かせたが

次の瞬間、くすくすと笑いだした

 

「すみません、すぐ戻るつもりだったのですが」

 

そこまでで一旦話を切ると、沙紀は笙達に向かって

 

「では、お願いしますね? 特に、最終防衛ラインの方はくれぐれも気づかれない様に・・・・・・・・・・・・・、それと、紺さんは―――・・・・・・」

 

「はっ」

 

短くそれだけ答えると、笙と碧がしゅんっとその場から消える

それを確認した後、沙紀はまっすぐに5人の方に歩いてきて

 

「では、戻りましょうか?」

 

そう言ってにっこりと微笑んだのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――― 大鳥居前・最前線防衛ライン――――

 

 

 

髭切は、刀を構えたまま一歩も動かなかった

否、動けなかった

 

目の前では、あの大きな敵・・・・・・バケモノとでも言うべきか

結界を破ろうと、何度も何度も結界に斬り付けていた

 

「さて・・・・・・我が弟は、間に合ったかな」

 

そうぼやくと、髭切は今度こそ その目を細めた

チャンスは一度だけ―――――・・・・・・

 

相手が、結界を破った瞬間に、ありったけの霊力ちからを込めた一撃をお見舞いする

攻撃する隙を与えれば、こちらが押されるのは必至だった

 

じゃり・・・・・・と、地を足で踏む音がいやに大きく聞こえる

 

 

 

どおおおおおん!!!!

 

 

 

更に大きな音となって、そのバケモノの攻撃が大きくなる

その時だった

 

髭切の背後に紺が現れた

 

「髭切殿――――沙紀様が・・・・・・」

 

それだけで通じたのか

髭切が小さく「わかった」と答える

 

「じゃ、ちょっと僕と遊ぼうか」

 

髭切がそう呟いた時だった

いままで、張ってあった強固な結界が破壊―――――いや、消えたのだ

 

髭切はその瞬間を逃さなかった

 

 

 

 

 

「はぁ―――――!!!!!」

 

 

 

 

 

刀にありったけの霊力ちからを込めると、そのままそのバケモノめがけて振り下ろした

一瞬、そのバケモノが躊躇する

だが、髭切はその手を止めなかった

そのまま更に刀を回転させると、今度は大きく下から斬りつけた

 

 

 

 

 グアアアアアアア!!!!

 

 

 

 

バケモノが声にならない叫び声を上げる

 

刹那

そのバケモノの赤い瞳が大きく光ったかと思うと――――――

そのまま大ぶりの一撃が降ってきた

 

髭切が寸前のところでそれを回避する

が――――

着地と同時に、まるで最初からそこに着地するのが分かっていたかのように、バケモノが足元を狙って攻撃してきたのだ

 

「――――おっと」

 

だが、髭切もそう簡単にはやられなかった

軽くそれをいなすと、そのままくるっと回転し、バケモノに連撃で斬りかかった

 

しかし、バケモノはそれすらもいとも簡単に避けていく

 

おかしな話だ

髭切の行動がまるで誰かと戦っていた時の様に・・・・・・・・・・・・、全て読まれている―――――・・・・・・

 

「―—―う~ん、これじゃあキリがないね」

 

そう言って、軽口を叩いては見たものの

正直、これ以上長引けば負けるのは必須だった

次第に、押されているのが分かる

 

「はは、本当にあの人と戦っているみたいだよ」

 

おどけた様に、そう言いながら髭切はぐっと胸元を抑えた

残りの霊力はあまりない

 

これ以上は生命力を削ることになる

だが――――・・・・・・

 

「残念だけど、僕にも源氏の宝刀である矜持がある。 ――――だから、引けないのさ!!」

 

 

たとえ―――――・・・・・・

貴方が相手だとしても――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「はっはっは、また俺の勝ちだな」

 

自慢するでもなく、楽しそうに彼は笑った

それを見て、髭切は苦笑いを浮かべて

 

「まったく、貴方は手加減というものを知らないのかな~」

 

そう、おどけた様に返すと、彼はひと言

 

「手加減か・・・・・・俺はそれでも良いが、それではお主の相手にはならんだろう?」

 

そう言って、いつも笑っていた

 

そんな貴方が、僕にとっては眩しくて―――――

羨ましかった

 

そんな貴方だから、僕は――――・・・・・・

 

 

 

バケモノの持つボロボロの刀が大きく降り下りてくるのと

 

 

       髭切がその瞳を閉じるのは同時だった―――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ・・・・・・?

髭切の戦闘シーンまでしか入ってないやんけwww

いや、まぁ。区切りが悪かったんでwww

 

追記:沙羅双樹について

これは、沙羅樹は神話学的には復活・再生・若返りの象徴である「生命の木」に分類されるんです

後、平家物語からで、沙羅双樹の白化は死<盛者必衰>を想起させるという考えがあったようでう

その辺からつけてます

 

 

 

2022.05.16