華ノ嘔戀 外界ノ章
    大侵寇「八雲」

 

◆ 第十話 神の領域と、その代償

 

 

 

 

―――――月齢1.9:三日月 大鳥居前・最前線防衛ライン・本陣―—――

 

 

 

「な、ん・・・・・・・・・」

 

今、この男は何と言ったか・・・・・・

 

たった今・・・・、“京都・椿寺”への空間を完全に遮断して閉じた・・・・・・・・・・―――――』

 

そう言わなかっただろうか?

つい、今しがた政府の人間が「待たない。 時間なので閉じる」と言って去ったばかりだというのに、もう閉じた?・・・・・

 

では、沙紀は? 鶴丸は?

 

「・・・・・・・・・・・・っ」

 

山姥切国広が、ぐっと握る手に力を込めた

 

そんな事・・・・・・

 

「俺は・・・・・、信じないっ。 あいつが・・・・、あいつらが居なくなるなんて―――――」

 

信じられるわけがないっ

初めて顕現した時からずっと・・・・・・ずっと一緒にいたのに―――――

 

「山姥切君・・・・・・」

 

燭台切はどう声を掛けていいのか分からなかった

自分よりもずっとずっと長い間一緒にいたのだ

 

それなのに、もう沙紀が、いや・・・・・・沙紀と鶴丸にもう会えないなんて――――・・・・・・

自分だって、信じたくない

だけれども、山姥切国広の様にはっきりと言える程、彼らと一緒にいた訳ではない

 

燭台切の始まりは沙紀だった

沙紀だけが視界に入った―――――・・・・・・

 

きらきらと、金の光が舞う中、彼女が立っていた

一瞬で、目を奪われた

 

それぐらい、彼女は美しかった

だが、それと同時に彼女と鶴丸の絆を見てきた

 

山姥切国広の様に、言えたらどんなに楽か―――――

 

僕は、君が少し羨ましいよ・・・・・・山姥切君

 

その時だった、大包平がさも当然の様に

 

「そうだな、俺も信じていない。 少なくとも鶴丸はこの程度でくたばるたまじゃないからな。 きっと沙紀を守っているに決まっている―――――だったら、俺のやる事はひとつだけだ」

 

そう言って、踵を返して外に出ていく

 

「おい、どこに――――」

 

山姥切国広の問いに、大包平が当たり前の様に答えた

 

 

 

 

「―――――迎えにいってくる」

 

 

 

 

 

「・・・・・・は・・・・?」

 

一瞬、誰もが言葉を失った

彼は――――大包平は「迎えに行く」と言ったのだ

 

「で、でも、空間はもう閉じられたんだろう? 一体どうやって―――――」

 

燭台切が思わずそう尋ねると、大包平はけろっとして

 

「んなもの、無理やりこじ開けるに決まっているだろう」

 

「そんな、無茶苦茶な・・・・・・」

 

あまりにもストレートな答えに思わず、燭台切が言葉を失う

 

「だ、だったら俺も―――――」

 

そう山姥切国広が切り出しかけたが

 

 

 

「駄目だ」

 

 

 

大包平にはっきりとそう言われた

思わずむっとして

 

「何故だ!? 俺だって――――――」

 

「お前に万が一でもあったら、沙紀が悲しむ。 俺は――――“他の本丸”の刀だからな。 責任を咎められても痛くもかゆくもない。 だから、“ここの本丸”の刀は連れて行けない」

 

「・・・・・・・・・・っ」

 

言葉には出していないが

その後に聞こえた気がした

 

“沙紀が責任を咎めらえる理由は作れないから連れていけない――――” と

 

自分は“他の本丸”の刀だから

責任を問われるとしたら、そこの“本丸”の“審神者”だ

だから、問題ないのだと――――・・・・・・

 

「大包平・・・・・・」

 

何故そこまでして―――――・・・・・・

その言葉をぐっと、呑みこむ

 

きっと、彼にとって沙紀は“特別”なのだ

“どこの本丸”かなどというのは、関係なく

 

彼にとっては、自身の“本丸の審神者”よりもずっと、大事なのだと

 

そう――――思い知らされた気がした

 

なら、俺は?

あいつの――――沙紀の為に何がしてやれる・・・・・・?

 

ぐっと、山姥切国広が息を呑む

俺は・・・・・・

 

「大包平・・・・・・、あいつを・・・あいつ等を―――――」

 

そこまで言いかけ時だった

突然、空が大きく嘶く様に光った

 

と同時に、大きな稲妻が走り どおおおおん!!!! というけたたましい音と共に落ちてきたのだ

 

周りがざわりとざわめきだす

 

「なんだ?」

 

「雷・・・・・・?」

 

ざわざわと、他の“本丸”の刀たちが騒めく中、山姥切国広と大包平がはっと何かに気付いたかのように顔を見合わせる

 

「まさか・・・・・・」

 

「おい! 落ちた方角は!!!?」

 

「え? あっちは、多分僕達の“本丸”のある―――――」

 

燭台切がそう言い掛けた時だった

大包平が本陣を飛び出した

 

「・・・・・・っ、俺も行く!! 燭台切達はここを頼む!!!」

 

山姥切国広もそう叫ぶと、大包平の後を追う様に駆けだした

 

「ちょっ、ちょっと二人とも―――――!!」

 

燭台切が止める間もなく、二人の影は見えなくなった

思わず、燭台切が大きく溜息を洩らす

 

「・・・・・・僕だって、心配なのに・・・・・・」

 

そんな事をぼやいていると、ぽんっと薬研に肩を叩かれた

 

「ま、待っとこうぜ、ここを空にするわけにはいかないからな」

 

薬研のその言葉に、燭台切が溜息をまた洩らしたのは言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――月齢1.9:三日月 最終防衛ライン―—――

 

 

 

「またか・・・・・・」

 

長谷部が空を見上げて呟いた

 

約1時間弱前にも空へと昇る光の柱が自分達の“本丸”の方から昇っていた

だが、これいとって前線から連絡がくるわけでもなく

問いただしに行きたいが、ここを離れるわけにもいかず

 

もやもやだけがどんどん募っていった

 

だが、今回のは先ほどの比では無かった

まるで、雷が落ちたのでは? と思わせるほどの、音だった

音だけではい

“本丸”に最も近い位置に布陣しているここは地が揺れるほどだった

 

もし、“本丸”に何かあったのなら、連絡が来るはずだ

だが、やはりこれと言って何の通達もない

 

「あら、あんたの所の“本丸”に何かあったようだけど、あんたは行かなくていいわけ?」

 

と、“睡蓮の審神者”が長谷部を挑発する様に言ってくるが

長谷部は至極冷静に

 

「俺の任務は、お前らの監視だ。 俺が主の指示なしにここを離れる事はない」

 

と、ばっさり切り捨てた

 

長谷部の答えが、面白くなかったのか・・・・・・

“睡蓮の審神者”は「ふ~~ん、あ、そう。 つまんない刀」といながら、ふいっとその場から去って行った

 

とは言ったものの、残された長谷部は心穏やかではなかった

 

一体、何が起きているんだ・・・・・・っ!?

主は無事なのか!?

 

そう思うも、ここであの連中を監視するのは、沙紀からの指示だ

沙紀が長谷部を信頼して、あえてこの 内に敵しかいない最終防衛ラインの“審神者”へのけん制を頼んだのだ

だから、ここを離れるわけにはいかない

 

だが――――・・・・・・

 

「おい、笙」

 

長谷部が小さな声で笙を呼んだ

笙がすっと、長谷部の背後に現れる

 

「前線の主の所へ行って、状況を確認してきてくれ」

 

長谷部がそう言うと、笙は「畏まりました」とだけ答え、その場から姿を消した

 

何事もなければいいが―――――・・・・・・

 

 

 

主、どうかご無事で―――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

ほぼ同時刻

―――――月齢1.9:三日月 中央防衛ライン―—――

 

 

 

「またですか・・・・・・」

 

一期一振は、中央の指示をだしながら空を見上げていた

先ほどの落雷といい、少し前の光の柱といい

なにやら、想定外の事が起きている様な気がしてならなかった

 

だが、私はここの守護を任された身

持ち場を勝手に離れるわけにはいかない

 

「――――碧、いますか?」

 

一期一振がそう名を呼ぶと、数秒もしない内に碧が現れた

 

「お呼びですか? 一期一振様」

 

「うん、ちょっと悪いが前線へ行って状況を確認してきてくれないかい? ――――なんとなくだけどね、嫌な予感がするんだ」

 

杞憂ならそれでいい

だが、もし万が一の事があった時は―――――・・・・・・

 

一期一振の言葉に、碧が小さく「はっ」と返事をすると、その場から離れた

 

「沙紀殿・・・・・・何もなければよいが・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――月齢1.9:三日月 “本丸・竜胆”内―—――

 

 

裏口から入った大包平と山姥切国広は“本丸”内の廊下を走っていた

 

「光が落ちた場所は分かるか!!?」

 

「――――おそらく、あの方角からして“鍛刀部屋”だ!!」

 

山姥切国広がそう叫んで、角を曲がる

その時だった

 

「はわわわわわわ」

 

目の前からてててて・・・・・と、こんのすけが慌てて走ってきていた

こんのすけは、こちらに気付いていない

そのまま、違う方へ行こうとしていた

 

「―――こんのすけ!!!」

 

山姥切国広がそう叫ぶと、こんのすけが、はっとして振り返った

瞬間―――――

 

ぶわっと、そのつぶらな瞳に涙をいっぱいためて

 

「山姥切殿! 大包平殿! 主さまと、鶴丸殿が――――――」

 

思わず、山姥切国広と大包平が顔を見合わす

 

「と、とにかく、来てください―――――!!!!」

 

そう言って、こんのすけが、先導する様に走り出した

 

なんだ・・・・・・?

 

嫌な予感がどんどん膨らんでくる

まるで、彼らに“何かあった”かの様なこんのすけの言葉が、頭から離れない

 

こんのすけが向かっている場所は“鍛刀部屋”のある方角だった

 

そこへ、辿り着いた瞬間、山姥切国広は違和感を覚えた

いつも必ずがっちり閉められている“鍛刀部屋”の扉が開け放たれている

そして、そこから濛々と白い煙のような“何か”が立ち込めていた

 

「こんのすけ、何があったんだ?」

 

山姥切国広がそう尋ねると、こんのすけは涙をぽろぽろ流しながら

 

「先ほど、主さまと鶴丸殿が突然光の渦と一緒に“鍛刀部屋”にお姿を現されたのです。 ですが・・・・・・」

 

それ以上は声にならないのか、こんのすけがわんわん泣き出し始める

 

「主さまが・・・・・・、鶴丸殿が・・・・・・っ」

 

先ほど感じた“嫌な予感”が“確信”へと変わり始めるのに、時間は掛からなかった

 

まさか・・・・・・二人の身に何か・・・・・・・・・・

 

そんな考えが頭の中でいっぱいになる

その時だった、不意に大包平が山姥切国広の肩を叩いた

 

「しっかりしろ! まだそうと、決まった訳じゃない!!」

 

そう言われて、山姥切国広がはっとする

そうだ、まだそうだとは限らない

 

「あ、ああ・・・・・・行こう」

 

なんとか、自分を鼓舞して“鍛刀部屋”の中に足を踏み入れる

中は、真っ白な靄で何もみえなかった

 

「これは・・・・・強い霊気だな・・・・・・」

 

「霊気?」

 

その言葉に、大包平が頷く

落雷の煙ではなく、濃密な霊気が部屋中を支配しているのだと大包平は言った

 

だが・・・・・・

 

「こんな霊気の中に長時間いたら、もたないぞ」

 

「どういうことだ?」

 

「言葉の通りだ、この濃密すぎる霊気は人の手には余る。 もはや、これは神の領域のレベルだ」

 

そうして、部屋の中央部分まで進みかけたと事で、大包平が山姥切国広を手で制した

 

「・・・・・・誰か、いるな」

 

だが、直ぐにその気配に気づいた

 

「これは・・・・・・鶴丸?」

 

それは、鶴丸の気配と似ていた

二人はそのまま奥へと進むと―――――・・・・・・

 

目の前に人影が見えた

 

白い衣に、銀の髪の男だった

それは――――

 

 

「鶴丸!!!」

 

 

慌てて山姥切国広が駆け寄る

 

「・・・・・・っ、う・・・・・・」

 

鶴丸は意識が朦朧としているのか、反応が鈍かった

だがその手の中には刀が一振と、沙紀の姿があった

 

脱出出来たのか――――――・・・・・・

 

その事に山姥切国広が安堵するが

大包平は、顔面蒼白になって慌てて二人に駆け寄った

 

「おい! しっかりしろ!! 鶴丸!!!」

 

そう呼びかけるも、鶴丸は辛うじて意識だけはあるのか、焦点の合わない瞳でこちらを見た

 

「か、な・・・・・・みか、き・・・・・・」

 

「ああ、この刀が三日月宗近なんだな? よくやった!」

 

大包平がそう言って、鶴丸に声を掛ける

鶴丸は刀を渡してくると、自身の腕の中でぐったりしている沙紀を見た

 

「沙紀・・・・・・は、・・・・だ、・・・・か・・・・・・・・・・」

 

「大丈夫だ、沙紀もいる」

 

大包平がそう答えると、鶴丸は安心したのかそのまま気を失った

だが・・・・・・

 

「沙紀・・・・・お前・・・・・・・・・・」

 

沙紀の姿を見た瞬間、大包平は全てを悟ったかのように、顔を青くさせた

 

沙紀の姿は、大包平の知るそれとは異なっていた

あの艶やかな黒い髪が銀糸に染まり、白かった四肢は一層白さを増し、そして、その唇には色がなかった

 

 

 

「沙紀っ・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

沙紀は

 

  息をしていなかった――――・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予定の半分しか入らなかったああああああ( ̄∇ ̄|||)

いや、キリが悪かったのよ、うん

本当は、もっと進める予定だったのだが・・・・・・

中央防衛ラインと、最終防衛ラインで文字数食ったからwww

(もともと、椿寺に行く前に入れようかと思っていたネタでした)

 

 

2022.05.11