深紅の冠 ~鈺神朱冥~

 

 第1話 紅玉 11

 

 

「……呑まぬなら、この場でこのままこの女を抱く」

 

宿儺その言葉に、凛花の顔がぎくりと強張った。

その深紅の瞳が大きく見開かれる。

 

すると、宿儺が面白そうに笑った。

瞬間、ぞくりと背筋が凍るような感覚に捕らわれる。

 

それを見た瞬間、凛花は分かってしまった。

気付いてしまった。

 

冗談や、虎杖を煽る為だけに言っているのではない。

宿儺は本気で自分を抱く気なのだと――。

 

「冗談じゃ――ぁ……っ」

 

「……そうやって、虚勢を張っていられるのも今の内だぞ。そう思わぬか? 神妻の姫巫女」

 

不意に、宿儺がそっと耳元で囁く様にそう呟くと、そのまま耳を甘噛みしてきた。

ぴくんっと、反応したくもないのに反射的に反応してしまう。

 

何とか逃れようと抵抗を試みるが、天井から伸びてきている血の様な赤い鎖が絡まって、まともに動く事すら叶わない。

動けば動く程、茨のように絡み付いてくる。

 

「……くっ、う……」

 

絡まっている部分から、暴れた所為かじわりと血が滲み出ていた。

その血が、腕を伝って落ちてくる。

 

「見ろ。暴れるから血が出ているではないか」

 

そう言ったかと思うと、宿儺はその血を舐め取った。

舌を這う感覚が腕を走り、凛花がまたぴくんっと反応してしまった。

 

それを見た、宿儺はにやりと笑って、

 

「随分と敏感な身体だな、神妻の姫巫女。あの、いけ好かない男に上手く調教されている様だ」

 

宿儺のその言葉に、凛花が かっと顔を赤く染めた。

そして、キッと宿儺を睨み付ける。

 

だが、宿儺は何でもないことの様に、ふっと笑った。

そして、そのまま凛花の襟元に手を伸ばしてきたかと思うと――。

 

びりびりびり……っ!

 

「……っ」

 

そのまま、横に凛花の身に着けていた衣を破ったのだ。

凛花の白い肩が露になる。

 

屈辱だった。

五条以外の男にいいようにされるだなんて……。

 

でも、ここは宿儺の生得領域。

それは即ち“心”を指す。

そして、宿儺の“心”は今、虎杖の“心”と繋がっている。

 

ここで、大きな術式を使う事は即ち、虎杖の心に攻撃をするも同じなのだ。

そんな事をすれば、虎杖の心が壊れてしまうかもしれない。

 

故に、攻撃が出来なかった。

 

宿儺もそれを、分かった上でこうやって煽っているのは明白だった。

悔しさと、自身の無力さで、涙が出そうになる。

 

そんな凛花を知ってか知らでか、宿儺はくっと喉の奥で笑うと、凛花の顎をくいっと持ち上げた。

 

「健気なものだな。余程あのいけ好かない男以外に触れられるのが嫌とみえる」

 

「……っ。何、言って……っ、ぁ……」

 

不意に宿儺の手が伸びてきたかと思うと、凛花の露になった肌に触れてくる。

ひやりとした手に直に触れられて、凛花が肩を震わせた。

 

嫌悪感と、恐怖心に押し潰されそうになる。

そんな凛花を見て、宿儺が舌舐めずりをしかと思うと、そのまま凛花の首筋へと唇を這わせてきた。

 

瞬間、ぞわりと冷たい感覚が背中を伝った。

その感覚が気持ち悪くて仕方ない。

 

嫌……っ!

悟さ……ん……っ。

 

知らず、凛花は心の中で五条の名を呼んだ。

呼ばずには、いられなかった。

 

いつの間にか身体に絡まっている血のような赤い鎖が、凛花を縛り付ける様に絡み付いている。

それにより両手の自由が奪われ、どうする事も出来ない。

 

更には、簡易的な術式を使おうとしても、それがまた邪魔をしてくる。

逃げ道がなかった。

 

徐々に、宿儺の舌が鎖骨の方へと降りてくる。

 

「……ンっ、ぁ……」

 

その感触に鳥肌が立ち、何とかそこから逃れようとするが、そうする度に鎖が絡み付いてきた。

 

このままじゃ……っ。

でも、どうすれば―――。

 

そんな絶望感だけが押し寄せてくる。

 

遠くで、虎杖が何か叫んでいるのが聞こえた気がしたが、今の凛花には最早届いていなかった。

そんな凛花の心の中を全て分かっている様に、宿儺はくつくつと笑いながら、

 

「諦めろ。どうせあの男はここには来られぬ」

 

そう言って、凛花の肌に触れてきた。

触れられた瞬間、凛花は はっと我に返り、

 

「やめ、て……っ」

 

と、精一杯の抵抗をして見せた。

そんな抵抗など、全く意味がないことは分かっている。

 

でも、どうしても耐えられなかった。

 

嫌だと思う感情を必死に押し殺してまで、五条以外の男に触れられるだなんて……嫌悪でしかない。

そんな凛花を見た後、ふと宿儺が何かに気付いたかのように顔を上げたかと思うと――。

そっと、彼女の耳元へと唇を寄せたかと思うと、 ちゅっと、そのまま凛花の耳朶に噛み付いた。

 

びくんっと凛花の身体が震える。

何をされるのか分からない恐怖からか、目をぎゅっと閉じながら必死の抵抗を試みるが、そんなものは無駄に等しかった。

何度も耳に舌を這わせて来て、そしてまた耳朶へと戻っていく。

 

その感触が気持ち悪くて仕方なかった。

 

そんな凛花に追い討ちをかける様に、耳元でふっと笑ったかと思うと――。

その舌先をそのまま耳孔へと差し込んできたのだ。

 

「ンン……っ」

 

ぴくんっ、と凛花の身体が震えた。

ぞくぞくと、寒気に似た感覚が背中を駆け抜ける。

 

舌先が耳孔の中で蠢いて、ぴちゃぴちゃという厭らしい水音を聴覚が拾う。

その音が堪らなく嫌だった。

 

そんな凛花を見てか、今度は耳を舐め回してきたかと思うと、そのまま首筋にまで降りて来て、執拗に舐めてくる。

ねっとりと舐め上げながら、時折ちゅっと音を立てて吸い付いてくるのが堪らなかった。

 

嫌だと思うのに、身体は正直な反応を示す。

それがまた悔しくて堪らない。

 

びくっびくっと身体が何度も震える。

ぞくぞくと身体が震えて止まらないのだ。

そんな凛花を見てか、宿儺は更に厭らしく笑って見せたかと思うと、首筋を吸い上げて来た。

紅い痕が刻まれる。

 

五条以外の男に好き勝手されるのが堪らなく嫌だった。

 

悟さ、ん……っ、悟さん……っ!

 

心の中で必死に五条の名を呼んだ。

けれど、その声は届かない。

悔しさと悲しさで、泣きたくなってくる。

 

そんな凛花を見てか、不意に宿儺はぐいっと凛花の顎を掴むと、その唇を奪ってきた。

 

「……ぁっ……ンンっ」

 

あまりの事に、抵抗を試みるが動けないのでどうにもならない。

それどころか、余計に動けば動く程に絡み付く血の様な赤い鎖がきつく締め上げてくるだけだった。

まるで、凛花を逃がすまいとしている様だった。

 

嫌……っ!

こんな……っ、こんなの……っ!

 

 

 

―――悟さん……っ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凛花ちゃん?」

 

不意に五条が顔を上げて呟いた。

余りにも突然だった為、伊地知と家入が不思議そうに五条を見た。

 

「えっと、五条さん……?」

 

伊地知が恐る恐る声を掛けると、何故か五条の表情がどんどん険しくなった。

そして、がたんっ! と、急に立ち上がったかと思うと、凛花が眠る方へと歩き始めたのだ。

 

「お、おい、五条」

 

流石の家入も、五条の様子がおかしい事に気が付いたのか、慌てて声を掛ける。

が、五条には聞こえていないのか……。

そのまま家入の横を通り過ぎると、凛花の眠るベッドの方に近づいた。

 

アイマスクを外し、そっと彼女の頬に触れる。

 

「五条、今彼女を動かしたら――」

 

家入が、危険を感じて五条を止めようとした瞬間――。

 

 

―――ゴゥッ!!

 

 

「きゃっ……!」

 

突然、五条の呪力が暴発するかのように、辺り一帯を巻き込みながら発動した。

そのまま家入が吹っ飛ばされそうになる。

 

それに驚いたのは、家入ではなく伊地知だった。

 

「家入さん……!」

 

伊地知が、慌てて家入に駆け寄る。

だが、家入は伊地知を手で制すると、五条を見た。

 

「五条……?」

 

普通でない五条の状態に、家入が眉を寄せた。

と、その時だった。

 

「硝子」

 

五条の低い声が辺り一帯に響いた。

家入が、一瞬びくりと肩を震わすが、平静を装い「何?」と答えた。

 

すると、五条がゆっくりとした動作で、振り返る。

その碧色の瞳は淡く光っており、六眼が最大出力で発動している証拠だった。

 

それを見た家入が、ごくりと息を呑む。

 

「……まさか、神妻に何かあったのか?」

 

「……」

 

家入のその言葉に、五条は何も答えなかった。

じっと、眠る凛花の方を見ると、

 

「“神域”に今から入る。道筋は見つけた。手伝え」

 

「は?」

 

五条の無茶な指示に、思わず家入が素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

そもそも、“神域”は“神妻”の血が無いと扱えない。

所謂、相伝術式だ。

それを、こうもあっさり見破ったというのか。

 

「……一体、どういう――」

 

「時間がない。早くしろ」

 

どういう事か聞こうとしたのに、それすらも五条にばっさり遮られた。

その言葉からは、微かに焦りも感じ取れた。

 

家入は、小さく息を吐くと、

 

「分かったよ。まったく……」

 

そう言って、五条の方を見る。

そして、

 

「とりあえず、その今発動しかかってる術式解け。近づけやしない」

 

と言った。

言われて五条は気付いたのか、すっと手を伸ばす。

すると、家入が通れるぐらいの道がそこに出来た。

 

「早くしろ」

 

再度そう言って、合図する様にくいっと手を上げた。

それを見て、家入が大きく溜息を洩らす。

 

「家入さん……」

 

伊地知が心配そうに家入の名を呼ぶが、家入は特に伊地知には気も留めずに五条の方に向かった。

傍まで行くと、五条がぴりぴりしているのが酷く伝わってきた。

 

高専時代からの付き合いのある家入でなければ、おそらく今の五条に近づけなかっただろう。

この状態の五条に近づけるとしたら、後は凛花ぐらいじゃないだろうか。

 

家入は小さく息を洩らすと、

 

「言っておくけど、私の術式は――」

 

「問題ない。凛花の“神域”は反転術式をベースに構築されてる」

 

そう言って、五条はすっと凛花の胸元に手を当てた。

瞬間、そこへ術式の痕跡が現れる。

 

「……」

 

今、五条は「凛花ちゃん」ではなく、「凛花」と呼んだ。

言葉使いも、今の五条ではなく高専時代の五条に近かった。

 

それだけ、キレているというという事か……。

 

出来る限り、今の五条は刺激したくない。

と、家入は思った。

 

家入は何度目か分からない溜息を洩らすと、

 

「で? 何をすればいい訳」

 

家入が、片腕を腰に当ててそう尋ねると、五条は一度だけそちらを見た後、そっと、凛花の頬を撫でた。

そして、視線だけ家入に送ると、

 

「俺が今から凛花の術式に“穴”を開けて侵入する。俺が入った後その“穴”を塞いでくれ」

 

「え……それは構わないけど、そんな事して神妻は平気なのか?」

 

五条は強制的に凛花の術式の一部を破ると言っているのだ。

普通に考えれば、術者にまったく影響がないとは思えない。

 

すると、五条はさも当然の様に、

 

「放置時間が長ければ、凛花に何か影響が出るかもしれない。だから、硝子に頼むんだ」

 

そう言うなり、五条はいきなりすっと凛花の胸元に当てていた手に力を送り始めた。

瞬間、そこを中心に何かが反発する様に、紅い光と蒼い光が混じり合い紫の光へと変わっていく。

 

「え!? ちょっと……!!」

 

いきなり、予告も無しに始めた五条に家入が慌てるが……。

五条は、それを気に留める事も無く、

 

「凛花、今行く――」

 

そう言った瞬間、五条の姿がその光に飲み込まれる様に消えていった。

 

「……ああ、もう!!」

 

家入はそう叫びながら、素早く術式を発動させたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ぴちゃん。

 

五条がゆっくりとその碧色の瞳を開けると、そこは真っ暗な闇の中だった。

何もない闇の中に、水音だけが響く。

 

足元を見ると、波紋の様に広がる水の中に無数の“何か”があった。

しかし、今の五条にはどうでもよかった。

 

「……ここが、他者の深層心理へ続く場所か」

 

思ったよりも、ずっと不気味で居心地が悪かった。

それもそうだろう。

 

ここは、他者へ干渉出来る“神妻”血を持つ者以外は“不可侵”の場所。

そこへ無理矢理 侵入したのだ。

心地よい筈がない。

 

“神妻”の同行者がいればまた違う景色になるのかもしれないが――。

今は、それよりも……。

 

五条は、すっと六眼の瞳に触れた。

瞬間――世界が変わる。

 

全てが見え、全ての情報が頭に流れ込んでくる。

刹那、その一点に巨大な赤い人骨の門が見えた。

 

「……あれか」

 

五条は、すっと手を構えると――。

 

「……術式反転 “赫”」

 

 

 

 ―――ドゴオオン!!

 

 

 

轟音と共に、問答無用で門を破壊した。

 

押しても引いても、どうせ五条には開けられない扉だ。

ならば、破壊して無理矢理 こじ開けるしかない。

 

それに――。

この方が、手っ取り早い。

 

濛々と爆煙が立ち籠め、ぱらぱらと何か欠片の様なものが落ちてくるが、五条はそれにはまったく気に留めず、そのまま中へと侵入した。

 

爆煙で視界が遮られる。

煩わしい。

 

片手で、爆煙を払うと六眼を光らせた。

一気に“情報”が視覚となって入って来る。

 

「……っ」

 

瞬間、捕らわれている虎杖の他に、見たくもない光景が入ってきた。

 

誰かが、凛花に触れていたのだ。

その手が、彼女に伸びて彼女のあの柔らかな唇に触れていた。

 

刹那、五条の頭の奥で何かがキレる音がした。

今まで感じた事の無い程の怒りが、五条の中に生まれていく。

 

辺りを圧倒する程の五条の呪力が、一気に膨れ上がった。

まるで、どす黒い血の様な呪力が、辺り一帯に撒き散らされる。

 

六眼の碧眼が妖しく光ると、それと同じ色の無下限術式が展開された。

そのまま、その何者かに向かって一気に飛翔すると――次の瞬間には、五条の手が相手の首を掴み上げていた。

 

それを見た凛花が、大きくその深紅の瞳を見開く。

 

「さと、る、さ……ん?」

 

あり得ないと思った。

自分は夢でも見せられているのかと。

 

ここにいる筈のない、五条が自分を助けてくれるなんて――。

知らず、凛花の瞳から一滴の涙が零れ落ちた。

 

それを見た、五条の表情が益々険しくなる。

 

俺の・・凛花を泣かせてるやつは、何処のどいつだ」

 

絶対零度に近いぐらいの低い声が響いた。

すると、首を掴みあげられた人物が面白いものでも見たかのように、笑い出したのだ。

 

「ははははは! まさか、貴様が釣れるとはな! 五条悟!!」

 

「オマエは……」

 

その者は、見覚えのある人物だった。

 

虎杖と同じ明るいピンクの髪。

そして、血の様に赤い瞳。

六眼で視る限り、その男は紛れもなく――。

 

「……両面宿儺」

 

それは、あの日虎杖の身体に受肉した筈の宿儺だった。

 

五条の呟きに、宿儺の口角が更に上がる。

そして、首に掛る五条の手を振り払うと、空中に飛び、両腕を広げて高々と笑った。

 

瞬間――。

辺りが一気に血の様に真っ赤な世界へと変貌する。

 

五条は素早く凛花の拘束を解くと、そのまま抱き上げた。

 

「悟さ――」

 

思わず、凛花が五条の名を呼ぼうとするが、それよりも早く五条の手が凛花の髪に触れたかと思うと、そのまま顎を掴むと彼女に口付ける。

そして、何度も角度を変えて凛花の唇を貪ると、強引に舌を捻じ込んだ。

 

突然の事に凛花の瞳が驚いた様に大きく見開かれる。

 

「ンっ……ふ、ぁ……っ、さと……る、さ……っ」

 

だが、五条に舌を絡められる事ですぐにその瞳はとろんと蕩けていった。

 

「凛花……」

 

名を呼ばれ、ぴくんっと微かに凛花の肩が震えた。

堪らず、五条の上着をぎゅっと掴む。

その手は、微かに震えていた。

 

五条は、そっと凛花のその手を握ると、

 

「とりあえず、消毒したから。続きは後でな」

 

と、五条がもう一度軽く口付けて彼女の頭を撫でた。

 

凛花がほんのり頰を赤らめて五条を見る。

そんな可愛い彼女に笑みを零すと、五条は彼女を抱きかかえたまま一気に跳躍すると、虎杖が拘束されている方へ着地した。

 

「先生!!!」

 

虎杖が、五条の姿を見て安堵した様に叫ぶ。

それから、素早く五条が虎杖の拘束を解くと、自由になった虎杖が慌てて凛花の元に駆け寄ってきた。

 

「大丈夫!? 伏黒の彼女さん!!」

 

「大丈夫よ。ありがとう」

 

虎杖に礼を言って、凛花はそっと五条から離れようとするが、それを阻む様に五条の腕が突如、凛花の腰に回った。

 

「悟さん!?」

 

流石に、人前でそれは……と慌てるが、五条は聞く耳を持たないとばかりに無視する。

そして、そのまま虎杖の方に顔を向けると、

 

「悠仁、今何って言った?」

 

「え?」

 

突然、怒りの矛先が自分に向き、虎杖が一瞬固まる。

 

「えっと……“伏黒の彼女さん”……?」

 

それを聞いて、五条の碧色の瞳がすっと細められた。

同時に、その周囲の空気が一気に冷たくなる。

ぞっとするほどの怒りのオーラを撒き散らしながら、五条が言った。

 

「悠仁……。凛花は、俺の・・だから」

 

「あ、はい……」

 

有無を言わさない迫力に、思わず虎杖が素直に返事をしてしまう。

縮こまってしまった虎杖に、凛花がくすっと笑った。

 

すると、五条がぽんっと凛花の頭に手を置き、

 

「凛花も、否定しろよな」

 

「え……? あ、ごめんなさい」

 

凛花が、少し申し訳なさそうに素直に謝る。

その様子を見ていた虎杖が、ぽかんと口を開けて2人を見ていたが、その空気を割ったのは五条だった。

 

突如、六眼が細められたかと思うと、凛花に加え虎杖も抱え、そのまま一気に跳躍してその場から離れたのだ。

刹那――。

 

先程まで五条の立っていた場所に、無数のあの血の様な赤い鎖が降り注ぐ。

ガガガガガ! という、凄まじい音を立てて、それは槍の様に降ってきたかと思うと、避けた五条達の方へも向かってきのだ。

 

それを見た五条が、煩わしそうに目を細めると、

 

「面倒だ」

 

と、呟くと同時に無下限呪術を展開する。

そのまま片手で、キンッ!! という、金属音に近い音と共に、凄まじい勢いで降ってくる鎖を防いだ。

 

そして、すっと鋭い眼光で、攻撃してきたであろう赤い瞳の相手を見る。

それを見た宿儺は、面白そうに口元を歪めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10話の、逆サイドです。

夢主・五条視点でお送りしますw

 

2024.01.28