深紅の冠 ~鈺神朱冥~

 

 第1話 紅玉 12

 

 

「歓迎しよう! 五条悟!!」

 

宿儺が笑いながら、五条に向かって手を振り上げた。

刹那、無数の血の様に赤い鎖が五条の方に向かって攻撃してくる。

だが、その攻撃が五条に当たる事はなかった。

 

無限が五条と宿儺の間に展開される。

 

ばちん!! という音と共に、宿儺の攻撃が五条の手の前で全て止まった。

すると、宿儺はにやりと笑みを浮かべ、

 

「ほぉ、これが“無限”か」

 

そう言って、さらに拳に力を籠めた。

無限を無理矢理こじ破ろうとしているのだ。

 

その鎖が徐々に、五条に近づいて来る――が、近づくにつれて“遅くなる”それが五条に届くことはなかった。

五条は、羽織っていた上着を凛花に掛けると、

 

「2人とも、下がって」

 

そう言ったかと思うと、すっと手を構えた。

 

遠くにいて、遠距離攻撃してくる宿儺が煩わしい。

だったら――。

 

 

「術式順転―――」

 

 

五条のその言葉に、凛花がはっとした。

 

「ま、待って! 駄目! 悟さん!!」

 

そう言うが早いか、凛花は駆け出していた。

後ろで虎杖が「伏黒の彼女さん!?」と叫んでいるが、無視だ。

それよりも、今は――。

 

慌てて五条の傍に駆け寄ると、その手にしがみ付いた。

ぎょっとしたのは、五条の方だった。

 

まさか、術式を展開しようとする自分の腕に凛花がしがみ付くなど、誰が想像しただろうか。

 

「凛花……っ」

 

「駄目です、悟さん! ここ・・で、大技を使っては――」

 

凛花は必死だった。

この場所で――宿儺の生得領域内で、五条の膨大なエネルギーを発動させる訳にはいかないからだ。

もし、万が一、ここが破壊されてしまっては……。

 

「ここは、虎杖君の心とも繋がってるんです! だから、この場所を傷付けては――」

 

下手をすれば、虎杖は生き返っても廃人となってしまう。

それだけは、虎杖の為にも、五条の為にも、絶対にさせる訳にはいかなかった。

 

「……ごめん、凛花」

 

不意に、五条が遠くを見るような目でそう言葉を発してきた。

その様子がおかしくて、凛花がその深紅の瞳を瞬かせる。

 

「悟さ……」

 

「もう、やった」

 

「え?」

 

言われて、五条の視線の先を追うと……。

そこには、消えた筈のこの生得領域の入口とも呼べる、あの巨大な赤い人骨の門が、ぼろぼろに崩れ落ちた無残な姿になって現出していた。

 

「……」

 

凛花が唖然としたまま、五条の方を見る。

すると、五条は悪びれもなく笑うと、

 

「急いでたから」

 

と、満面の笑みで返してきた。

凛花がわなわなと震えるが、五条はきりっとしたまま、

 

「凛花が危ないかもって思ったから、仕方ない。それに、あの門は俺だけじゃ基本開けられないし」

 

とまで、言い切った。

 

いや。

いやいやいや。

そういう問題ではない!

 

「……悟さん」

 

「ん?」

 

「……ここ、宿儺の生得領域が、虎杖君の心と繋がってるって分かってましたよね?」

 

凛花のその言葉に、五条が遠くを見て「あー」と声を洩らす。

 

「もう!! 分かってたなら、尚の事駄目って知ってたでしょう!? 何やってるんですか!!」

 

「だって、凛花が……」

 

「だってじゃ、ありません!! そ、そりゃあ、助けて下さった事はその……嬉しかったですし、か、かっこ良かったですけれど、だからって……っ! 門破壊したら――」

 

「かっこいいって思ってくれたんだ」

 

「あ、いや、そこじゃなくて……私が言いたいのは――」

 

と、緊迫していた空気は何処へやら……。

虎杖は、ぽかーんと口をあんぐり開けて見ていたが、宿儺はというと半分呆れた様な目で見た後、上空から降りてきた。

そして、溜息を洩らし、

 

「つまらん。貴様ら、痴話喧嘩は他所でやれ。」

 

などと突っ込んだものだから、2人が宿儺の方を見たかと思うと、

 

 

「痴話喧嘩じゃありません!!」

「痴話喧嘩だよ。羨ましいんだろ」

 

 

と、双方違う事を言っていたものだから、凛花が「悟さん!!」と、怒ったのは言うまでもなく……。

そんな凛花に、五条は「ごめんごめん」と謝りながら凛花を抱き締め、その額に口付けを落としていたものだから、それが余計に凛花の怒りを買った。

 

その時だった。

不意に、宿儺がにやりと笑ったかと思うと、突然ぱちんっと指を鳴らした。

瞬間、それに呼応するかの様に、無数の血の様に赤い鎖が、五条と凛花、そして虎杖の周りを囲むようにして現れる。

 

それらが一斉に凛花達に向かって飛んできた。

五条は素早く凛花を抱き寄せると、虎杖も自分のテリトリー内に引っ張る。

 

まるで虫の様に蠢くそれは、無限に触れた瞬間“止まる”ものの、すぐにまた向かってくるのでキリがない。

だが、五条は余裕の様に笑みを浮かべたまま、

 

「無駄だよ」

 

そう言って、軽く手でその血の様に赤い鎖を弾く。

そして、宿儺の方を見ると、その鋭く光る六眼で睨み付け、

 

「宿儺。オマエは俺の凛花に触れた。――絶対に許さない」

 

刹那、五条の纏う呪力がどんどん膨れ上がっていく。

 

虎杖は、まるで火山が噴火したかのような、その圧倒的な呪力を前に目を離す事が出来なかった。

そして、その五条の呪力に反応し、先程の血の様に赤い鎖が再び飛んでくる。

だが、それらは全て無限に触れた瞬間止まり……五条の手によって弾かれた。

 

五条がすっと手を伸ばすと――ばき、ばきい! という音と共に、その血の様に赤い鎖が全て粉々に砕け散る。

それを見た、宿儺は「ほぅ」と、声を洩らしたかと思うと、にやりと笑った。

 

「面白い! 面白いぞ! 五条悟!!」

 

そう言って、今度は赤い目を煌々と光らせる。

刹那、それは起きた。

 

突如、何かが凛花の腕を掴んだかと思うと、そのままぐいっと引っ張られたのだ。

突然の事に、対応が遅れる。

 

「凛花……っ!」

 

五条の声が響いた。

 

「悟さ……っ」

 

凛花が手を伸ばすも、その手が五条に届くことはなかった。

そして、気が付けは凛花の身体は宿儺の腕の中にあったのだ。

 

それを見た五条が、その碧色の瞳を大きく見開いた。

それは、怒りとも悔しさとも取れない表情だった。

 

瞬間、宿儺がにやりと笑うのと、五条と虎杖めがけて攻撃をするのは同時だった。

 

「……っ! 悟さん! 虎杖君!!」

 

五条は無限があるから絶対に当たらない。

でも、虎杖は違う。

五条のテリトリー内にあったとしても、絶対は――ない。

 

凛花は、唯一空いていた片手で素早く印を結ぶと叫んだ。

 

「神域・布刀玉ふとだま!」

 

刹那、凛花の瞳が紅く光り、突伽天女ドゥルガーの紋が現れる。

――と、思った瞬間。

 

ぱああん!! という、けたたまし音と共に、宿儺の攻撃が全て弾かれた。

それを見た宿儺が、面白そうに笑う。

 

宿儺の視線の先には、紅い鏡の様な防壁に護られた、五条と虎杖の姿があった。

それは、絶対防御の“神域”だった。

 

「ほぅ、遠隔にもその術は使えるのか。やはりオマエは興味深い、神妻の姫巫女――いや、“凛花”と呼ぶべきか」

 

そう言って、宿儺が凛花の顎を掴むと上を向かせた。

ぎくりと、凛花の顔が強張る。

 

だが、宿儺は気にした様子もなく、にやりと笑みを浮かべると、

 

「五条悟には勿体ない女だ。オマエは俺にこそ相応しい――」

 

そう言って、まるで食らい付くかの様に凛花に唇を寄せた。

だが――。

 

それを阻んだのは――五条の術だった。

五条から放たれた呪力が、宿儺の身体を貫いたのだ。

その瞬間、呪力の爆発と共に血の様な赤い閃光が走ったかの様に見えた。

しかし、

 

「悟さん……っ! 避けてえ!!」

 

凛花が叫ぶのと、宿儺が五条めがけて攻撃を仕掛けるのは、同時だった。

宿儺の放った拳が五条の顔めがけて放たれる。

だが、五条は素早くそれを避けると、その手で宿儺の腕を掴むとそのまま足払いをした。

そして、一気に拳を繰り出したのだ。

 

刹那、ぐらりと宿儺の体勢が崩れる。

が――宿儺は片足で素早く体勢を立て直すと、そのまま軸足になっていた片足を支えに、蹴り上げてきた。

 

だが、その蹴りが五条に当たる事はなかった。

五条が手でその足を上へ払い避けると、その空いたもう一方の足めがけて攻撃したのだ。

しかし、宿儺はその攻撃を地を蹴ってあっさり避けると、再び五条に向かってその足で飛び蹴りを放ったのだ。

 

「きゃっ……」

 

瞬間、宿儺に抱えられていた凛花が宙に浮く形となり、ぎょっとする。

が――それを狙っていたのか、五条が素早く凛花に手を伸ばすと、そのまま抱き寄せる形で彼女の身体を支えた。

そして、そのまま一気に宿儺と距離を取る。

 

「凛花、平気か?」

 

心配そうにそう尋ねてくる五条に、凛花がぎゅっと五条の服を握り締めると、こくりと頷いた。

それを見た宿儺が、不愉快そうに舌打ちをする。

 

「五条悟、オマエにその女は過ぎたるものだ。俺が有効的に使ってやろう」

 

「ふざけるな。凛花はオマエには渡せないね」

 

一触即発。

そう思われた時だった。

凛花は、はっとある事に気付いた。

 

虎杖君……っ!

 

虎杖が、さっきの攻防で1人宿儺の後ろへ取り残されているのだ。

今、宿儺に虎杖を人質にでも取られたら厄介な事この上ない。

 

「悟さん」

 

凛花は、宿儺に聞こえないぐらいの声で、五条を呼んだ。

そして、耳元で何かを囁く。

それを聞いた五条が、小さく首を振るが、凛花は譲らなかった。

 

「お願い、悟さん。後で、何でも貴方のお願い聞くから――」

 

「……」

 

五条が難しい顔をする。

が、五条も凛花の言う事は理解出来るのだろう。

仕方ないな……とでも言いたそうに、深い溜息を吐いた。

そして、もう一度だけ念を押すように凛花の方を見ると、その額にそっと口付けを落とし、

 

「無理はするなよ」

 

「大丈夫よ、悟さんもね」

 

それだけ言うと、すっと凛花が五条の隣に立った。

虎杖の方に視線だけを向ける。

 

それで何か気付いたのか、宿儺がくっと喉の奥で笑った。

 

「ほう、神妻の姫巫女は小僧が気になると見える。だがな――」

 

宿儺がそこまで言った時だった。

 

 

 

「――悟さん!!」

 

 

 

凛花が叫び走り出すのと、五条が飛ぶのは同時だった。

それ・・を見た瞬間、宿儺が「何!?」と声を上げた。

 

宿儺は、五条の相手をするのだと思っていたし、向こうもそのつもりだと思っていた。

何故なら、宿儺の相手は凛花には荷が重いからだ。

しかし――。

 

自分に向かってきたのは、五条ではなく凛花だった。

 

凛花が素早く跳躍すると、宿儺の目の前に躍り出た。

そのまま、一気に体勢を低くして片手を地に付けると、宿儺の顎めがけて蹴り上げた。

 

「……ちぃ!」

 

宿儺がさっとそれを後ろへと避ける。

だが、凛花はそのまま蹴り上げた足で宙を蹴ると、一気にもう片方の足で横腹を蹴り飛ばした。

 

油断して防御し損ねた宿儺がそのまま横に吹き飛ぶ。

いっその事、ここで一気に天之麻迦古弓あめのまかこゆみと、天羽々矢あめのはばやを生成して追撃したい所だが、この生得領域でそれを使うのは憚られた。

 

結局、体術メインで動くしかないのだ。

 

かといって、“力”では宿儺には絶対敵わない。

ならば――。

 

凛花は素早く地を蹴って飛ぶと、宿儺が吹き飛んだ場所めがけて足技で追撃した。

だが、手ごたえが無い。

完全に、往なされているのが分かる。

それでも、凛花は攻撃の手を緩めなかった。

 

その時だった。不意に、足を掴まれそうになった感覚があった。

素早く足を引くと、そこからゆらりと宿儺が立ち上がってくる。

 

「はははははっ! まさか、オマエの方が俺の所へ来るとはな……予想外に楽しませてくれる」

 

そう言って、無傷にもほぼ近い宿儺がそこにはいた。

すると、凛花は笑みを浮かべながら、

 

「そう? 貴方の意表を突けて何よりだわ」

 

そう言って、とん……っと、足を鳴らした時だった。

 

 

 

 

  コ―――――ン……。

 

 

 

 

遠くから、場違いなほどの明るい声が聞こえてきたのだ。

 

と、同時に上空の色が血の様に赤い色から金色へと変わり、そこから一匹の獣が現れる。

それは、神々しい金の毛並みを持つ狐だった。

 

「あれは――」

 

凛花が、それを見てはっとする。

それは“神妻”の御使いである、霊狐だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリが悪くなりそうだったので、ここで切ってまーすw

虎杖が、相変わらず空気になるうううう汗

スマヌ……許せ

 

2024.02.18