MARIKA

-Blue rose and Eternal vow-

 

  Act. Ⅱ アーロンパーク 5

 

 

 

――――ココヤシ村のはずれ

 

チュンチュンと、小鳥が鳴いている

岬の上に十字にかたどられた“それ”は、潮風を受けても揺れる事無くそこにあった

その奥に行くと、大きなみかん畑が広がっていた

みかんの甘酸っぱい匂いが、辺り一帯に広がっている

 

そんな中、一軒の家があった

 

小さな小さなロッジ風の家には、一つの煙突があり

そこから、ゆらゆらと煙が出ていた

 

そんな中

 

「はっ……! こ……、ここは!?」

 

床に寝かされていたウソップは、がばっと目を覚ました

辺りを見渡すと見覚えのない家の中だった

 

思わず、きょろきょろと辺りを見渡す

 

するとその時だった

後ろの方から聞き覚えのある声が聴こえてきたのだ

 

「気が付いた? ここは、あたしん家だよ」

 

「え? え!?」

 

いきなり声を掛けられ、慌てて声のした方を見る

するとそこには、先程のあの女が椅子に座ってコーヒーを飲んでいた

 

「お、お前は……!」

 

「あたしはノジコ。ここでみかん作ってんの」

 

そこでハッとあの時の事を思い出した

このノジコとか言う女が、自分にした事を―――

 

「そういや、お前! おれをどつきやがったな!! せっかくおれが助けてやったのに……!!」

 

思わず抗議の声を上げると、ノジコは呆れた様に溜息を付いた

そして、スッとコーヒーをウソップに差し出すと

 

「助けたのは、あたしの方!」

 

「え?」

 

「あのまま魚人に手を出してたら、あんた間違いなく殺されてたはずよ。これだから、余所者は」

 

はぁ…と、ノジコがまた溜息を付いた

ウソップがノジコの隣に座ると、ノジコはすっと目の前の少年を見た

 

そこには、ウソップに「魚人め!」と斬りかかってきたあの少年が俯いて座っていた

 

「でも、あんたは隣町の“ゴサ”の子でしょう? 魚人に手を出せば殺される事ぐらいあんた達 身をもって分かってた筈よ。……充分すぎる程ね…」

 

ノジコのその言葉に、少年はギリッと悔しそうに奥歯を噛み締めた

 

「分かってるよ…分かってるけど…!! あいつらは、おれの父ちゃんを殺したんだ!! 見た事もねェ様なでっかい怪物連れて…何もかも奪って…町を壊して…! 人をいっぱい殺した…!! たとえ、おれが死んだって許さない!!」

 

「…でっかい怪物って……!? じゃぁ、あの地面のヘコミは……」

 

ウソップのその言葉に、少年はぎゅっと拳を握り締めた

 

「その怪物の通った跡だよ…すごくでかいんだ!! “偉大なる航路(グランドライン)”から連れて来たって言ってた」

 

「怪物もいんのかよ!!」

 

ウソップが、ガボーンと口を開けた時だった、少年がとんでもない事を言いだした

 

「おれは…アーロンパークにも行ったんだ……!!」

 

アーロンパーク

アーロンの根城に行ったというのだ

こんな少年が一人で

だが―――――……

 

「でも…一味の女に邪魔された…!! あいつ…魔女みたいな女だ…! おれはくやしい!! 死んでもいいから父ちゃんの仇を取るんだ……!!」

 

そう吐く様に叫びながら、少年は涙を流した

ごくりと、ウソップがコーヒーを飲みながら息を飲む

 

その時だった

 

 

 

「じゃぁ、死ね」

 

 

 

 

「ブ――――――ッ!!!」

 

突然吐かれたノジコの暴言に、ウソップが飲みかけたコーヒーを吐く

だが、ノジコは至って冷静だった

 

静かに息を吐き

 

「やるだけやって、ブッ殺されて楽になってきな。死ぬ覚悟でやるんなら、復讐上等! でも、これだけは覚えときな……あたしと、そのアーロンパークの魔女があんたの邪魔をした事で、あんたは2度命拾いしてるんだ」

 

「……………!!」

 

それだけ言うと、ガタンッとノジコはコップを持って立ち上がった

少年が、いまにも泣きそうなぐらい目に涙をいっぱい浮かべて歯を食いしばる

 

「茶ァ飲んだら出てきな!! あたしは、甘ったれた奴が大っ嫌いなんだ!!」

 

「おい!! こんなガキに言い過ぎじゃねェのか!?」

 

流石のウソップもノジコの暴言に口を挟んだ

だが、ノジコはじろりとウソップと少年を見ると

 

「ガキだろうと何だろうと、死にたい奴は死なせてやりゃいいんだよ!! 辛い中で生きていく意地なんて、そいつには無いんだ!!」

 

「何だと、コラ!!」

 

少年が、ぎゅっと拳を握りしめた

だが、ウソップが何を言おうとノジコは言った事を訂正しようとはしなかった

 

「……あたしは知ってる。遠い未来を見据えて、今は死ぬよりも辛い生き方に耐えてる子を」

 

ハッと…ウソップが息を飲む

 

「だから、コイツみたいに真っ先に死ぬ事を考えてる奴が大っ嫌いなの!!」

 

その言葉に、少年が大粒の涙を流した

 

「う………おれ……どうしたら、いいんですか……」

 

ノジコとウソップが少年を見る

少年は、ボロボロと涙を流しながらノジコに訴えた

 

「おれ…くやしいの、がまんします……っ。どうしたら、いいんですか……!!」

 

「……お母さんは?」

 

「……生きてます…」

 

その言葉に、静かにノジコは微笑むと

 

「心配してるよ。お母さんのとこ帰んな」

 

その言葉に、少年は「…はい」と頷くのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノジコの、きついとも思えるあの言葉で、少年は改心した

死んで復讐を遂げる事をやめ、母の為に生きる事を選んだ

 

ウソップには、それが嬉しかった

 

「はは…お前、実はいい奴だな! 入れ墨してるけど」

 

ウソップの言葉に、ノジコは窓際で少年を見送りながら

 

「偏見! そういうあんたの素性はまだ知れてないんだけど?」

 

「ああ、そうだそうだ。おれはキャプテン・ウソップ。ナミって女を探してるんだが……」

 

その言葉に、ノジコが驚いた様に振り返った

 

「ナミを……!?」

 

「……………? 知ってんのか?」

 

ノジコの反応にウソップがきょとんと目を瞬かせる

すると、ノジコはとんでもない事を言いだした

 

「何―――――!? ナミが、アーロン一味の幹部!!?」

 

「そ、この辺りじゃ有名な話。さっきのボウズも言ってただろう? 魔女みたいな女だって」

 

そう言うと、ノジコは持っていたカップをカタンとテーブルに置いた

そして、そのまま1枚の写真の前に歩み寄った

 

「さらにびっくり。ここはその魔女が育った家」

 

そう言うと、その写真立てを手に取った

その写真には幼いナミとノジコが女の人と一緒に写っていた

 

「あたしとナミは、義姉妹なの」

 

「……………」

 

ノジコのその言葉に、ウソップは言葉を失った

そして、辺りを見渡す

 

ここが…ナミん家……?

 

「……あたしもナミも孤児でさ、この家で拾われて育ててもらったの。その育ての親はもう死んじゃったけど……。昔は3人、仲良く暮らしてたんだよ? このココヤシ村で」

 

「………………」

 

見ると、テーブルにはナミが描いたとおぼしき船の落書きが描かれていた

 

この村でって……

 

このココヤシ村は、今アーロン一味の支配下に置かれている筈だ

そのアーロン一味の幹部をしているという事は……

 

「…じゃぁ、ナミは自分の親や村の人を裏切ってアーロン一味に加わったって事か!?」

 

一瞬、ぴくりとノジコが肩を震わせた

だが、それだけだった

 

ノジコは、ゆっくりとその写真立てを置くと

 

「まァ、そういう事。まさに魔女だろう?」

 

「そういう事か…くっそーおれ達はずっと騙されてたって事か…! あの女、はじめっから宝目当てで……!! おれの村を守る戦いにも参加してくれたし、船の上でもあんなに楽しそうに笑ってたのに……!! その腹の中じゃ、おれ達を出し抜く算段を進めてたわけだ……!!」

 

ウソップの言葉に、ノジコが少し嬉しそうに微笑んだ

 

「………へぇ、楽しそうに…? あいつが……」

 

「おれ達は、あいつを連れ戻しに来たんだが…もう、そんな必要……あ“」

 

突然ウソップが何かを思い出した様に固まった

そして、ギギギギギとノジコの方を向きながら

 

「そういえば…運悪く(・・・)、仲間の1人が魚人に捕まってたんだった……」

 

正確には、運悪くではなく

ウソップ達が放置したからであるが…

 

「やべェなぁ……どうしてっかな…あの野郎……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どお? 分かったでしょう。私は最初からあんた達を利用してただけ。そこそこ腕もたったし…利用しがいのあるカモだったわ」

 

ナミがゾロを見下した様にそう口にすると、後ろに座っていたアーロンが 「シャーッハッハッハッハ」 と笑い出した

 

「まんまと騙されたって訳だ。こいつはな金の為なら親の死さえも忘れられる、冷徹な魔女の様な女さ!」

 

「……………っ!」

 

瞬間、ナミの表情が変わった

顔は青ざめ、ぎゅっと唇を噛み締める

 

その瞬間を、ゾロは見逃さなかった

 

こいつ……

 

だが、アーロンはそんなナミに気付きもせずにやりと笑みを浮かべた

 

「宝をダマし盗る事なんざ訳もねェこった! ましてやバックにおれ達がいる。まァ、相手が悪かったと思って諦めろ」

 

アーロンの言葉に、ゾロはハッと息を吐いた

 

「なるほどねェ…まぁ、もともとおれはコイツを信用してた訳じゃねェし…たとえ殺人鬼だろうと別に驚きゃしねェよ」

 

ハッとナミが我に返る

 

「おれは最初っから、てめェがこういうロクでもねェ女だと見切ってた、へへ……!!」

 

「フ、フン…だったら話が早いわ。ダマされたと理解出来たら宝も航海術も諦めてさっさと消えてくれる? 目障りだから!!」

 

ナミが虚勢を張る様にそう言い返した瞬間だった

ゾロがにやりと笑みを浮かべたかと思うと―――――

 

 

 

ト…ン………!

 

 

「え……!?」

 

突然、ソロが地を蹴ったかと思うとそのままドボオオン!という音と共にプールに飛び込んだのだ

 

これに驚いたのは、他ならぬナミだった

アーロンの一味が、ゾロの奇怪な行動にどよめきだす

 

「な、何だァ!?」

 

「どうした? 何であいつ急に飛び込んだんだ?」

 

う……そ…でしょ……

 

「誰か寒いギャグでもかましたんじゃねェか?」

 

「いや、別にズッコケた訳じゃねェだろうよ」

 

だって…あいつ……

 

手が震える

身体が、ガクガクと震えだす

 

「じゃぁ、逃げたんだ!?」

 

「違うだろ、両手両足しばってるんだぜ? 人間が泳げるかよ」

 

「じゃぁ、自殺か?」

 

一味の言葉に、アーロンは 「放っておけ」 と呟いた

 

が、ナミは固まったまま動けなかった

 

そうよ、両手両足縛ってるのよ

このままじゃあいつ……

 

助けなきゃ死んじゃう……!

 

でも――――

ここで助けに入るという事は、アーロンに疑いを掛けられることになる

 

「まさか、自殺するとはなァ」

 

「恐ろしく諦めのいいやつだぜ!」

 

「命は大切にしましょってなァ」

 

ギャハハハハハと、一味の笑い声が木霊する

 

たすけ…なきゃ……

でも…でも―――――

 

 

「………………っ、あのバカ…!」

 

もう時間も経ってる

なりふり構っている暇はなかった

 

ナミはサンダルを脱ぎすてると、思いっきりプールに飛び込んだ

 

「ナミ!?」

 

それに驚いたのは、他ならぬ一味の連中だった

ざわりと、あたりがどよめきだす

 

瞬間、ナミがゾロを連れてザパンッとプールから這い出てきた

 

「お…出てきた」

 

「おい、ナミ! 何事だよ!」

 

何も知らない連中からヤジが飛んでくる

だが、それに構っている余裕はナミにはなかった

 

肩でぜーぜーと息をしながら、ナミはギロリとゾロを睨みつけると、吐き捨てる様に

 

「何のつもりよ……!」

 

「ゲホッゲホッ……てめェこそ何のつもりだ」

 

ゾロが噎せ返りながらそう言う

その口元ににやりと笑みを浮かると

 

「人一人も見殺しに出来ねェ様な小物が…粋がってんじゃねェぞ!!」

 

「…………っ!!」

 

ナミは大きく目を見開いた

見透かされたその言葉に、頭にカッと血が昇る

 

「……さっさと助けやがれバカ。死ぬかと思ったぜ…」

 

 

 

「……………っ、フザけんな!!」

 

 

 

 

ドカッ!!

 

 

瞬間、ナミは力の限りゾロの怪我の上を足で蹴り上げた

 

「ぐあ…っ!」 とゾロがうめき声を上げるが、構う余裕などなかった

わなわなと震える手で、ぐいっとゾロの胸ぐらを掴み上げて睨みつける

 

「これ以上、私に関わると死ぬわよ!!」

 

ナミのその言葉に、ゾロはハッと息を吐いた

 

「へっ…どうだか……」

 

それでも尚食い下がらないゾロに、ナミはギリッと奥歯を噛み締めた

 

「………大層な包帯ね……」

 

「服の替えがなくてよ……! かわりだ」

 

カッと頭に血が昇った瞬間――――

 

「……………っ」

 

 

ドスッ!!

 

「ごゥ!!!」

 

ナミは力の限りゾロの傷の上から腹部を殴り付けた

ゾロが、大きくのけ反りその場に倒れ込む

だが、両手両足を縛られていて、押さえる事すらままならない

 

ナミはそんなゾロを無視するかの様に、すたすたと横を通り過ぎる

すると、アーロンが面白いものを見たかのように にやにやしながら

 

「おいナミ、あいつどうするんだ?」

 

「ブチ込んどいて! 私が始末するわ」

 

それだけ言うと、そのままアーロンの横を通り過ぎようとした

その時だった

 

「アーロンさん! アーロンさん!!」

 

魚人の一人が駆け込んできた

ふと、アーロンは何事も無かったかのように、ゆっくりと視線だけを向け

 

「どうした、同胞よ」

 

「すまねェ! もう1人あいつの仲間で鼻の長え奴がいたんだが…そいつを、取り逃がしちまった!!」

 

「………………!」

 

瞬間、ナミの表情が変わる

 

だが、それに気付かない魚人はアーロンにとんでもない事を言いだした

 

「多分、ココヤシ村に逃げ込んだと思うんだが…」

 

その言葉に、アーロンがくっと喉の奥で笑った

 

「ココヤシ村か…ちょうどいい。用があった所だ…ちょっと出掛けてくるぜ」

 

「……………っ」

 

その言葉に、ギリッとナミが何かに耐える様に拳を握りしめた

だが、誰もそれに気付くものはいなかったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウソップとゾロの回でした

この辺は、まだルフィが到着していないので…仕方ない

 

※今回、名前変換ありません 

 

2013/01/28