MARIKA

-Blue rose and Eternal vow-

 

  Act. Ⅱ アーロンパーク 18

 

 

 

「リ……リリリリ、リディ・レウリア!!?」

 

まさかのレウリアの登場に、ネズミがぎょっとした

何故なら、ここにいるのは、ネズミ1人のはずだからだ

 

部下には“ここ”に誰も近づかせないように、周りを見張らせていたというのに―――……

そう―――すべて見張らせていた筈だ

 

このミカン畑の周辺も、ココヤシ村も

すべて…全てだ

 

なのに、レウリアは何事もなかったかの様にそこにいた

 

「……………ごきげんよう? で、いいかしら」

 

冗談めかした様にそう言うと、軽く首を傾けた

さらりと、レウリアのプラチナ・ブロンドの髪が揺れる

 

コツン……

 

一歩、レウリアが歩を進めた

 

「それとも………」

 

コツン……

 

ゆっくりとその右手を前に出した

 

 

 

 

「さようなら……?」

 

 

 

 

 

そう言った刹那、“それ”は起きた

レウリアの背後に無数の紋様が姿を現す

 

「――――――っ!!」

 

流石のネズミも噂には聞いていた

最年少で海軍大佐にまで上り詰めたという噂の

海軍きっての強者 リディ・レウリア

またの名を “翔風”

 

最初、ネズミは単なる親の七光りだと思っていた

何故なら、レウリアの義父にあたるのが、海軍中将のガープだったからだ

実際、この目で見たのは数度

どこにでもいる、ちょっと容姿のいい小娘だと思っていた

 

だが――――……

 

あの時のことは、今でも覚えている

海賊艦隊に自分たちが乗る一艘で囲まれたことがあった

他にも海軍の艦隊はいたのに、全滅させられたのだ

何故なら、その海賊艦隊の後方で指示を出していたのは、王下七武海の一角・白ひげだったからだ

 

まさに、絶体絶命

そう思われた――――彼女が現れるまでは――……

 

その時、レウリアはまだ中佐の位だった

その船に乗っていたのも、見聞を広げる為―――という名目の、研修に近かったのかもしれない

だが……

 

時間にしてものの数秒

いや、もっと短かったかもしれない

 

気が付いた時には、囲んでいた海賊艦隊はすべて沈没し、レウリアは白ひげの前に立っていた

そこで、どういった会話が行われたかはわからない

白ひげの機嫌が無駄によかったのだけは覚えている

それは―――白ひげに“認めさせた”という事に他ならない

 

あの時ほど、レウリアを“恐ろしい”と思った事は無い

年下の、しかも年端もいかない少女が……

たった一人で海賊艦隊を壊滅に追いやった上に、そのトップに認めさせるなんて―――……

 

いくら、ガープが自慢する義娘とはいえ……

親の七光りなんてものじゃない

レウリア自身がもはや“兵器”といっても過言でなかった

 

 

そして―――先日報告で上がっていた「海軍大佐 リディ・レウリア 海軍大佐の地位返上と海軍の脱退」だ

 

それを認めた上層部も上層部だが…

レウリアも地位を返上などとは、馬鹿な事をしたものだと思った

そのままいれば、遠からず中将

果ては大将まで昇っていたかもしれないというのに…

 

所詮は、ガキの浅はかな考えだと思った

だが、海軍上昇部はわかっているのだろうか?

 

 

 

 

…とんでもない“怪物”を野に放ったいうことに―――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その“怪物”今、目の前で自分に刃を向けようとしている

 

ネズミはごくりと息を飲んだ

 

だ、大丈夫だ……

こちらには、あのアーロンが付いているのだ……

 

おいそれと手は出せないは――――……

 

ビュン!!!

 

 

「……へ?」

 

突然、レウリアの出した紋様から鋭い風の刃が一本放たれた

その矢がネズミの真横……正確には顔まで数ミリの所を通過していく――――

 

 

「今のは、威嚇。 次は―――ないわ」

 

レウリアがそういうなり、彼女の背後の紋様から無数の風の刃が姿を現した

それを見ただけで、ネズミの背筋が凍った

 

冗談ではなかった

あんなもの食らったらひとたまりもない

 

ネズミが慌てて手を前にして

 

 

「待て!! 待て待て待て!!! こ、ここは、平和的に解決しようではないか!!」

 

「平和的…?」

 

食いついた!!

ネズミはそう思った

 

「そ、そうだ! 平和的にだ!! ここに一億ベリーある。 これを私と君で山分けしようじゃないか!!」

 

そうだ

この女の欠点―――それは、“金”だった

この女は、海軍でありながら多額の賞金のかかった海賊狩りも容赦なくやってのけていた

本来、海軍が倒した場合、その賞金は払われない

しかし、レウリアは特殊な換金ルートを持っていた

 

いわゆる 「ブラック・コア」と一般的に呼ばれるものだった

 

それは、海賊に賞金を懸けることができる上層部のごく一部だけが発行出来るという特殊な換金コードだった

それを彼女はもっている――――

つまりは、“金”を集めているのだ

 

 

だから、こういえば、食いつく!!!

そう確信していた

 

 

ちらりと、レウリアがネズミの横にある一億ベリーの入った箱を見た

それから、「ふーん……」ち、小さく声を洩らし

 

「……半分じゃダメ」

 

そう言って、くいっと指先を動かした

瞬間、ヒュンッ!と、風の刃がネズミ目掛けて飛んでくる

 

 

ぎょっとしたネズミは慌てて

「な、なら、4:6ではどうだ!? 私が4、お前が6だ!!」

 

そう叫んだが、風の刃は止まらない

このままでは、直撃だ

 

 

 

くっそぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!

 

 

 

「なら、3:7……いや、2:8だ!!!」

 

そう叫んだ瞬間、風の刃が止まった

ネズミの鼻に当たるか当たらないか、すれすれの所で……

 

 

 

思わず、ネズミがよろよろとその場にへたり込む

 

 

「は、はは…ははは」

 

まさかこんなことになるなんて……

これでは、本部に報告するよりもずっと少なくってしまう……

 

 

この…くそ女がぁぁ!!

 

と、心の中で思ったが、怖くて口に出せなかった

が――――

 

 

にやりとネズミがその口元に笑みを浮かべる

これで、少なくとも2千万ベリーは私の…………

 

 

そう思った時だった、止まっていた風の刃がヒュンッと音を立てて、ネズミの足に刺さった

 

 

「ぎゃああああああああ!!!」

 

 

まさかのレウリアの攻撃に、ネズミが刺された足を抑えて転げまわる

 

痛い…痛い痛い痛い!!!!

もはや、脳裏にその言葉しか浮かばない

 

痛すぎる

たった1本……

たった1本刺さっただけなのに、まともに立ち上がる事すら叶わない

明らかに、足の腱を狙って攻撃してきていた

 

納得したんじゃないのか!!?

 

そんな考えが頭をよぎる

 

コツン……

 

不意に、間近にレウリアの気配を感じた

はっとして、ネズミが顔を上げると

 

冷たくこちらを見下ろす、アイスブルーの瞳があった

絶対零度とも言うべきか

それぐらい、レウリアの瞳は冷ややかだった

 

ふと、彼女の桜色の唇が動く―――

 

「0:10」

 

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

一瞬、ネズミは彼女がなにを言っているのか分からなかっ

 

0:10……?

 

それはつまり……

 

「……そ、それでは、私の取り分が――――ぎゃあああっ」

 

「ないではないか!」と言いつのろうとした瞬間、もう1本の風の刃がネズミの反対の足を貫いた

 

痛すぎて、痛すぎて、死んでしまいそうだ

 

だが、レウリアは淡々と

 

「痛い? その何百倍も彼女たちは痛い思いをずっとしてきたのよ…役立たずの大佐殿?」

 

そう言って、にっこりと微笑むと、ネズミの足にさらにもう2本の風の刃が刺さった

 

 

「ぎゃあああああああああ!!!」

 

 

 

それでも、追い打ちを掛けるようにレウリアの手がくいっと動いた

瞬間、残りの風の刃が一斉にネズミの方に向く

 

「ひいいいいい~~~~」

 

「貴方の痛いのと、彼女たちの痛いの…どっちが痛いと思う?」

 

「ひぃ……ひいい~~~」

 

 

くすっ…と、レウリアが口元に笑みを浮かべる

 

「貴方には金貨1枚すらあげる気はないの? ………さようなら」

 

 

レウリアがそう言うのと、風の刃がネズミに向かって放たれるのは同時だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――アーロンパーク

 

 

 

 

 

 

「――――――――っアーロン!!!!」

 

 

 

 

 

 

バンッと言う扉が開く音と同時に、ナミの声がアーロンパークに響き渡った

突然の、音に驚いたアーロン一味の連中がナミの方を見た

 

それに気づいたアーロンが、今気づいたかのように

 

「ん? おお、どうした? 我らが有能なる測量士よ。 そんなに血相かえて…」

 

だが、ナミはそんな言葉を無視してツカツカとアーロンに向かっていくと―――

物凄い剣幕で、アーロンの胸ぐらを掴んだ

 

「あんたが手を回した海軍が、私のお金を奪いに来たわ!!!」

 

その手はわなわなと震えていた

包帯を巻いている右手が血でじんわり滲んでくる

 

 

「どういうことよ!!! お金の上の約束は死んでも守るんじゃなかったの!!!?」

 

ナミがそう叫ぶが――――……

アーロンは素知らぬ顔で

 

「んん? 守るぜ? ……おれが約束をいつ破った?」

 

ニヤリと、アーロンがその口元に笑みを浮かべた

 

だが、ナミは収まらなかった

アーロンの胸ぐらを握りしめ

 

 

「とぼけるな!!! お前が、海軍と組んで―――――っ!!」

 

 

ナミがそこまで言いかけたその瞬間

ナミの口元をその大きなヒレのある手で鷲つかみにして持ち上げた

そして、その目で射殺すような目でナミを見た

 

 

 

おれが約束を・・・・・・、いつ破った!!!? 言ってみろ!!!!」

 

 

 

 

「……………っ!!」

 

確かに、アーロンがあのネズミとかいう海軍を連れてきたという“証拠”はない

ない、が――――………

 

でも……

でも、あいつは―――――!!!

あいつは、間違いなくアーロンが…っ!!

 

 

言い返せないナミを見て、アーロンがにやりと笑みを浮かべて、高々と笑った

 

 

「シャ――――ハハハハハハハ!!!」

 

 

同時に、周りのアーロン一味も笑いだす

 

 

 

「………………っ!!」

 

 

 

 

悔しい―――――……!!!

言い返したいのに、言い返せないのが悔しい―――――

 

 

ボロボロと悔しくて涙が流れる

 

 

周りの笑い声が、酷く耳に残る――――

 

 

畜生っ!!

畜生ォ!!!!

 

 

       畜生ォォ―――――――――!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりの更新になりましたが…

文字数少なくてすみません( *・ω・)*_ _))ペコリン

 

ちょっとキリが悪くて…

ここらで、一旦切りました( ;´・ω・)

 

2020/05/06