MARIKA

-Blue rose and Eternal vow-

 

  Act. Ⅱ アーロンパーク 15

 

 

 

「フンフンフンフーン」

 

鼻歌を歌いながら、上機嫌でベルメールはジュワッとフライパンのオムライスを器用にひっくり返した

そして、人差し指で特製のソースの味見をする

 

「ん! 美味すぎっ!! さすがは“私特製みかんソース”!! ナミもノジコの飛び上がるぞー」

 

一息付きながらタバコに火をつける

 

「オーブンの鴨肉があと10分。 野菜も添えて~ シチューも沸騰中だし、後はオムライスで出来上がりっと! こりゃぁ、家計に大打撃ね」

 

そう言いつつ、ベルメールはどこか嬉しそうだった

ここまでやるなら、思い切って奮発してやるか

と、キッチンの下の棚に隠して入れてあった特製みかんジュースを取り出した

 

コップを3つ用意し、ジュースを注ぐ

テーブルに焼き上がった鴨肉に野菜を添えて中央に

3つの皿にシチューを注ぎ、仕上げに特製みかんソースのオムライスを置く

 

その時だった

 

ドンドンと、扉を叩く音が聴こえてきた

 

「お、帰ったか」

 

そう思った瞬間だった、何か違和感を察した

いや、殺気とでもいうべきか…

 

元軍人の勘がそう思わせるのか

本能で、これはナミとノジコではないと悟ったのだ

 

窓の外には複数の人影

それもかなり大柄だ

 

「……………」

 

ベルメールは持っていたジュースを置いた

そして

 

「開いてるでしょ? どうぞ」

 

そう声を掛ける

 

すると、「失礼」という低い声が聴こえ、扉がギィ…と軋む様に開けられた

コツ…コツン…と紫色の肌の男……いや、人ではない魚人が入って来た

 

魚人―――アーロンは部屋の中を見渡した

キッチンには沸騰する鍋

そして、鴨肉の添えられたテーブルに3人分の食事の用意

ベッドがひとつ

 

そこには、人の影はなかった

 

「…………?」

 

アーロンが不思議に思い、首を傾げた時だった

 

シュポ…何処かでタバコに火の付く音が聴こえたと思った刹那

それは起きた

 

ベルメールの左足がアーロンの顎を貫く様に蹴り出されたのだ

そのまま持っていた長銃のトリガーを外す

 

 

 

ドオオオン!!!

 

 

 

という音と共に、アーロンの口元に長銃の銃口を突きつけたベルメールが圧し掛かった

まさかの反撃にアーロンが少しだけ驚いた様に目を見開く

だが、ベルメールの顔は笑っていなかった

 

アーロンの口の中に銃口を入れたまま

 

「残念ね、私は元軍人なの。 “偉大なる航路(グランドライン)”の海賊がはるばるこのココヤシ村へ何の用?」

 

しーんと辺りが一瞬静まり返る

が―――――

 

「くっくくくくく」

 

 

「ははははは」

 

 

突然周りの海賊達が笑い始めた

 

 

 

 

「何がおかしい!!!」

 

 

 

ベルメールがそう叫んだ時だった

瞬間、アーロンが「シャーッハッハッハッハ!!!!」と笑い出したと思った刹那

 

 

バキバキィ!!!

 

 

「!!?」

 

 

まさかの出来事にベルメールは息を飲んだ

アーロンが、口の中の長銃を噛み砕いたのだ

 

「なっ………!!?」

 

木製とはいえ、鉄の入った銃だ

普通の人には噛み砕くなど不可能な筈だった

 

ばか、な……っ

 

アーロンはそんなベルメールをみてニヤリと笑みを浮かべ

 

 

「無力! 無力! 無力無力!! なんと、てめェら下等種族の無力な事よ!! シャ-ッハッ八ハッハッハッハ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ナミとノジコは家の裏口が見える所まで近づいていた

 

「このまま裏口からベルメールさん連れて逃げよっ!!」

 

「でも…もう海賊来てるよ!?」

 

「平気よ!!!」

 

そう言って、今にも家に近づこうとした時だった

その瞬間、突然バッと人影が現れ、走っているナミとノジコを捕まえたのだ

 

「待て!! 家に帰ってはならん!!」

 

その声にハッとする

 

「ドクター……!!?」

 

それは、村のドクターだった

だが、ナミとノジコは叫んだ

 

「どいてよ!!」

 

「ベルメールさんを助けに行かなきゃ……っ」

 

 

 

 

 

 

「ノジコ!! ナミ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

突然ドクターが叫んだ

ナミとノジコがびくっと肩を震わす

 

ドクターはサングラスを上げると、二人を見た

そして

 

「ノジコ、ナミ、こんな時に…いや、こんな時だからこそお前達には少々残酷な話をせにゃあかん…」

 

ドクターの普通ではない様子に、ナミが息を飲む

 

「ドク、ター…?」

 

その時だった

 

 

 

 

「うあアアアアア!!!!!!」

 

 

 

 

 

ベルメールの声が、家の方から響いて来た

 

「ベルメールさん!!!!」

 

「行っちゃいかん!!!」

 

飛び出しそうになるナミをドクターが止めに入る

 

「でも!!!」

 

 

 

 

「ああアアアアアアアアア!!!!」

 

 

 

 

 

またベルメールの叫び声が響いた

 

ベルメールの左腕は骨が砕けてボロボロだった

その腕をアーロンが何度も何度も踏みつけていく――――

 

「…………………っ!!!!!」

 

その度に、鈍い音がするがもうベルメールは痛みに耐えるので必死で声すら上げられなかった

 

駄目だ……っ!!

こいつら本物の化物だ……!!!

殺されるっ!!!

 

ノジコ…っ!!

ナミ……っ!!

 

 

  死ぬ

 

 

 

そう思った時だった

 

 

 

 

「ベルメ――――――ル!!!!」

 

 

 

 

 

突然、自分を呼ぶ声が聴こえてきた

なんとか顔を上げると、ゲンゾウが叫びながら歩いて来た

 

「つまらん正義感で命を無駄にするな!! 意義のない戦いもある!!! 金で解決できる問題もある!!!!!」

 

「……ゲ、ゲンさ、ん……?」

 

ゲンゾウのその言葉に、アーロンはにやりと笑みを浮かべ

 

「そういう事だ女海兵! 大人一匹10万ベリー、子供一匹5万ベリー。 家族分払えば生かしといてやるというありがたいお告げだ」

 

「か、家族分……?」

 

ゲンゾウがそっとベルメールを起こしながら小声で尋ねてくる

 

(合わせて20万ベリーだ。 ベルメール、今 全財産いくらある?)

 

(………っ、足りないわ……へそくり足しても…10万ちょっと……)

 

その時だったタコの魚人が家の中を見て

 

「おい、アーロンさん!! 3人分の食事が用意してあるぜ! 3人暮らしのようだ!!」

 

その言葉に、ゲンゾウがギリッと奥歯を噛み締める

だが、アーロンはにやりと笑みを浮かべ

 

「ほほぅ…3人家族か」

 

そうアーロンが呟いた時だった

 

「ははは、そういえば今日は私と友人が夕食に招待されてたんだったな…!」

 

「!」

 

「……さァ、ベルメール。 さっさと大人1人分払ってしまいなさい。 折角の料理が冷めてしまう…」

 

「ゲンさん……っ」

 

ベルメールが息を飲む

だが、ゲンゾウはそんなベルメールを見る事無く言葉を続けた

 

「10万あるそうだ。 金が足りてよかった…これで村人は全員無事だな」

 

「……………」

 

だから気付かなかった

ベルメールが折れた腕を強く握りしめた事に

 

「確かに…村の名簿には結婚も出産も記録されてない。 こいつは一人身だ」

 

魚人の一人が名簿を見ながらそう言う

 

それを家の裏で聴いていたナミとノジコはショックを受けた様に呆然と立ち尽くした

 

「分かるな? ノジコ、ナミ。 ベルメールとお前達には親子である証拠がない」

 

「!」

 

ドクターの言葉に、ナミもノジコも目に涙を浮かべる

だが、ドクターは二人に言い聞かす様に言葉を紡いだ

 

「お前達の存在があいつらに気付かれぬ内にこの村を…いや、この島を出ろ!! 海を渡ってずっと遠くへ逃げるんじゃ」

 

「……………!!」

 

「他にお前達3人が助かる術は無い…!! お前達だけでは海に出るのは危険かもしれん、万が一の事があるやもしれん…! しかし、少しでも可能性があるなら―――……」

 

 

 

 

 

「…………やだ……」

 

 

「!?」

 

ボロボロとナミの大きな瞳から涙が溢れ出てくる

 

「私やだ!! ……どうして出て行かなきゃいけないの…? 勝手にやって来たのはあいつらの方だよ…?」

 

しゃくりを上げならがナミはボロボロ涙を流した

 

「私…この村に住んでたいよ……貧乏だから……? もう…ベルメールさんの子でいちゃ…ダメなの…?」

 

「ナミ……」

 

「どうして? どうしてなのォ!?」

 

だが、ノジコは泣かなかった

ぎゅっと拳を握りしめ涙を堪えた

 

家の前から大好きなベルメールの声が聴こえてくる

 

 

「………よかった、これで助けてもらえるのね…」

 

そう―――これでベルメールは助かる

自分達がいなければ、ベルメールは死なないのだ

 

「分かった、行く! この村を出る!!」

 

「ノジコ!!?」

 

ノジコの言葉に、ナミが叫んだ

 

ノジコは振り向かなかった

そのまま港の方に向かって歩き出す

 

「行くよナミ!! これでいいの! ベルメールさんは助かるんだから…!!」

 

「………っ、ベル、メールさん……」

 

魚人達が去って行く

これでよかったのか……

これで………

 

 

 

「………………」

 

ナミとノジコはきっとドクターが逃がしてくれてる

もう、会えないかもしれないけれどこの地獄から逃がしてあげられる

 

 

これでよかったの

 

これで……これで…………

 

 

ベルメールが拳を握りしめる

 

 

 これで――――――…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………待ちな」

 

 

 

 

 

瞬間、ピタリと海賊達がその足を止めた

 

 

もう―――

 

 

「誰が私の分だって言った? その10万は2人の娘の分、私の分は足りないよ」

 

「あァ!?」

 

ギロリとアーロンが振り返る

 

「ベルメール、お前っ!!!」

 

「ごめん、ゲンさん……私、家族がいないなんて言えないや……たとえ命を落としたとしても……」

 

ナミとノジコが振り返る

その目には涙が浮かび始めていた

 

 

 “家族”

 

 

確かに、ベルメールはそう言った

“家族”と

 

「そりゃぁ、確かに血の繋がりはないけどさ……家族なんだ…口先だけでも親になりたいじゃない…」

 

あの日、ナミとノジコを育てると決めた日

皆が反対した

でも、ベルメールはどうしても譲れなかった

ナミとノジコは、自分に命をくれた存在なのだ

 

「あいつら…私の子でしょ?」

 

そう言って微笑む

 

もう――――止まらなかった

 

 

 

「ベルメールさんっ!!!!!」

 

 

 

 

 

「おい!! お前達!!!」

 

ナミとノジコはベルメールに向かって走り出した

 

 

『私…!! どうせ、拾われるならもっとお金持ちの家がよかった!!』

 

 

ナミがあの時つい言ってしまった言葉

 

 

「うそだからね……!!! あんなのうそだからね―――――!!!!」

 

 

ナミとノジコの声に、ベルメールがはっとする

何とか気力を振り絞って、声のする方を探した

 

その時だった

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベルメールさああああああん!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ナミとノジコが裏の方からベルメールに向かって駆け寄ってきた

 

「ナミ!! ノジコ!!」

 

ベルメールは、2人をぎゅっと抱きしめる

腕の中で泣くナミとノジコが愛しくて、大好きで

 

そう思うと、じわりとベルメールの目にも涙が浮かんできた

折れた右腕をなんとか動かし、両手で2人を抱きしめる

 

「もっといろいろ……本でも!! 洋服でも!! いっぱい、買ってあげたかった……!! ごめんね…!! 私…母親らしいこと何もしてあげられなかったね……っ」

 

「そんな事ない!!」

 

「何もいらないから死なないで!!!」

 

「あたし達とずっと一緒にいて!!!」

 

「私が描いた世界地図みてくれなきゃやだぁ!!!」

 

その言葉に、ベルメールがその顔に笑みを浮かべる

 

「せいか、い…地図…そうね、あんたは夢を…叶えるんだよ…」

 

そう言って、優しくナミの頭を撫でる

 

お願い……

 

 

 

 「生きて…ね……」

 

 

 

「ベルメールさん……っ」

 

 

 

 

 

 

その時だった

 

「こいつらは、てめェの娘達だな」

 

そこにはアーロンが見下す様に立っていた

ベルメールは2人をぎゅっと抱きしめるとアーロンを睨みつけ

 

「ええ、そうよ!! この子たちには手を出さないって約束して!!!」

 

その言葉にアーロンがにやりと笑みを浮かべる

 

 

「勿論だ!! てめェが大人しく死ねばな!!」

 

 

 

 

「助けてェ!!!!!!」

 

 

 

 

瞬間、たまらずナミが叫んだ

 

「うオアアアアアア!!!!!!」

 

ナミが叫んだ瞬間、ゲンゾウが持っていた銃をアーロンに向かって放った

しかし、それは他の魚人にあっさり止められてしまったかと思った刹那――――

その魚人は刀でゲンゾウを斬りつけたのだ

 

 

 

 

 

「………………!!!!!!」

 

 

 

 

ナミが声にならない叫び声を上げた

ゲンゾウがナミの前でスローモーションの様に倒れていく

 

その時だった村の方から男達が武器を持って走って来たのだ

 

 

「ベルメールを助けろ!!!」

 

「武器を取れ、戦闘だァ!!!!」

 

 

わあああああと、駆け込んできた村人にアーロンは呆れた様に溜息をつくと

 

 

「あーあー、殺気たちやがって…。 適当にあしらってやれ、殺すなよ」

 

その言葉に、他の魚人達がにやにやと笑みを浮かべる

だがアーロンはくっと喉の奥で笑うと

 

 

「お前が最初の見せしめだ」

 

 

瞬間、ベルメールがナミとノジコを家の中へ突き飛ばす

 

「ベルメールさん!!!」

 

 

にやりとアーロンが笑った

 

 

「くだらない愛に死ね」

 

 

ジャキッと銃口をベルメールの額に当てる

後では魚人と村人たちが争っていた

が、一方的にやられていた

 

 

あちらこちらから、叫び声が木霊する

 

その時だった

 

 

 

 

 

 

  「ナミ!! ノジコ!!!」

 

 

 

 

 

ベルメールが叫んだ

 

   そして――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    「――———―大好き」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドン!! ドオン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ベルメールさあああああん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ…過去編終わらなかった_(‘ω’;」∠)

わぁ~おwww

じ、次回こそは…!!!

 

てか、書きながら泣けてきた(ノД`)

 

2015/08/13