MARIKA

-Blue rose and Eternal vow-

 

  Act. Ⅱ アーロンパーク 16

 

 

“何の罪もない人を殺戮する海賊が許せない”

 

そう思って海兵になる道を選んだのは、何年前の話だっただろうか……

 

とある村の紛争で重傷を負い、とうとう死ぬ時が来た…

そう思った

 

もう手も身体も一歩も動かせない…

意識も遠のきそうで、手放せばきっと楽になれる

 

『……………』

 

でも、私は十分やった

これ以上は―――――………

 

『……ま、あ……いっかぁ…………』

 

いいよね……?

 

そう思い、ゆっくりと意識を手放そうとした時だった

そこからか、赤ん坊の楽しそうな笑い声が聴こえてきた

 

一瞬、気のせいかとも思ったが

その声はどんどん自分に近づいていきた

 

幻聴を聴いているのだろうか……?

そう思い、声のする方を見ると…

 

幼い女の子が、その手に赤ん坊を抱いて瓦礫の隙間から歩いて来ていた

 

 

『…………っ?』

 

 

気のせい…じゅ、な、い……?

 

その女の子は、とぼとぼと何処かへ向かうでもなく歩いていた

 

行かなきゃ……

そう思い、動かない身体をもう一度だけ動かした

自分の身体を鼓舞して、何とかして立ち上がる

今、自分が行かなければあの子たちはきっと死んでしまう

 

そう言い聞かせて、動かない身体を必死に動かした

 

 

『…妹………?』

 

幼い女の子に近づきそう尋ねると、女の子はぷるぷると顔を横に振った

 

『ううん、しらない子』

 

がくっとその場に崩れ落ちる様に座り込むと、そっと赤ん坊の頬を撫でた

すると、その子は屈託のない笑顔で笑ったのだ

 

この、戦場跡地で

誰も生存者のいなかった焼け野原で

笑っているのだ

 

『………っ、人の気も…知らないで……』

 

知らず、涙が零れた

 

それが、ナミとノジコだった

 

もう一度だけ

もう一度だけ生きようと……思えた

 

だから海を越えた

嵐の中、故郷のココヤシ村へ向かった

2人の幼子を連れて―――――……

 

あそこの人達なら、自分が死に絶えてもこの子達を助けてくれる

そう思えたから

 

だが、幼い2人に嵐の海は過酷だった

衰弱しきって、ひどい熱をだしていた

真っ青な顔が視界に入るたびに、絶対に死なせない!!!

そう思って、2人を抱きかかえたままマストにしがみ付いていた

 

 

 

『いいから早く!! お願いだからその子達を死なせないで!! その子達を助けてェ!!!!』

 

 

 

ココヤシ村になんとか辿り着き

皆が自分の怪我を心配する中、涙ながらにそう叫んだ

 

自分の事などどうでもいい

この子達だけは、死なせたくなかった

 

 

だから―――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今、何て言った…この、不良娘!!』

 

『私が、この子達の親になる! そう言ったの』

 

自分の言葉に、ゲンゾウが驚いたのも無理はない

でも、なりたかった

この子達を守りたかった

 

『無理だ―――――――!!!!』

 

『無謀だ! やめなさい!! お前の様な悪ガキに子育ては無理だ―――――!!!』

 

『悪い事は言わんから、政府の施設に預けなさい……っ』

 

皆が皆、頭を抱えて そう口々に叫んだのは当然だった

でも、これだけは譲れなかった

誰にも譲りたくなかった

 

 

『―――もう決めたの!!!!』

 

 

気付けばそう叫んでいた

 

『私だってもう大人よ。 海軍だって入ったし…少しはまともな人間になったつもり』

 

そう言って、ナミとノジコを見た

 

『この子達は、私が責任を持って育てる! こんな時代にも負けない様な立派な人間に育ててみせる!!』

 

だって………

 

『私はこの子達と生きていく――――ナミとノジコは、私に命をくれたの』

 

そうこの子達がいたから

もう一度だけ生きようと思えたんだ―――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まったくこりない奴だな! この泥棒猫めっ!!』

 

『放してよ――――!! 今度はちゃんと払うから~~~!!! 体でv』

 

『アホな事覚えるなァ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『んもー! また男の子泣かしたの?』

 

『だって、あったまきたんだもん!!』

 

『いいのよ、ベルメール。 子供のケンカだもの』

 

『あいつら、ベルメールさんのみかんまずいって!!』

 

『うらァ!!! このガキャ―――――――――っ!!!!!』

 

 

ドコオォ!!

 

 

『ベルメール!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

  ナミ…! ノジコ……!!

 

  誰にも負けるな

  女の子だって強くなくちゃいけない

 

  人に褒められなくたって構わない

  生まれてきたこの時代を憎まないで…………

 

  いつでも、わらってられる強さを忘れないで……

 

ベルメールが

ナミとノジコの目の前でスローモーションの様にゆっくりと倒れていく

 

 

 

  生き抜けば、必ず楽しい事が…

 

 

ジュッ…と彼女のくわえていたタバコの火が…血で消えていく―――

 

 

 

  たくさん…

 

 

音はしなかった

 

 

 

 

  たくさん―――――

 

 

 

 

ベルメールが………

 

ボロボロとナミとノジコが涙を流す

 

 

「………っ、…………っ!!」

 

 

 

      起こるから―――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベルメールさあああん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベルメールがその笑顔を見せる事は

 

   もう―――なかった―――…………

 

 

 

 

 

 

「シャーハハハハハ!!! おれの支配下で金のねェ奴ァ死ぬんだよ!!! 分かったか、下等種族ども!!!」

 

アーロンの笑い声が響き渡る

 

誰も逆らえない

誰も敵わない

 

絶望しか、目の前には残っていなかった

 

その時だった

 

「ニュ!? 何だこれ…海図??」

 

6本腕のタコの魚人が動かなくなったベルメールのポケットから出ていた紙を拾った

それは、ナミの描いた海図だった

 

「だめ!!!」

 

堪らずナミは叫んだ

 

ベルメールを奪われ、その海図も奪われたら…

もう、何も残らない

 

「私が描いた大事な物よ! 返して!!!!」

 

泣きながら叫ぶナミを余所に、アーロンが「ほぅ…」と声を洩らし、タコの魚人から海図を受け取った

 

「お前が描いた…?」

 

「返せェ!!!!!!」

 

「ナミ! だめっ!!!」

 

ナミが今にも駆けて行きそうなのを、ノジコは必死に止めた

 

だが、アーロンは気に留めるでもなくその海図をまじまじと見ると

 

「ホウ…こりゃぁたまげた…この見事な海図をこのガキが…?」

 

瞬間、ギロリとアーロンの視線がナミに向かった

ぎくりと、ノジコが顔を強張らせる

 

すると、アーロンはにやりと笑みを浮かべ

 

「貴重な人材だ、連れて来い ハチ!!」

 

「ウッス!!」

 

そう言うなり、にゅっとタコの魚人の手がナミの首を掴んだ

と思った瞬間、ぐいっと持ち上げられる

 

「いやああ! 放せ!! 放せェ!!!!」

 

そして、ナミを掴んだままぞろぞろと引き上げ始めたのだ

焦ったのはノジコだ

 

 

「ナミを離せ!! 離せェェ!!!」

 

 

慌ててタコの魚人にしがみ付いて叫ぶ

だが、力で敵うはずもなく…ずるずると引っ張られるだけだった

 

このままではナミが連れて行かれてしまう

どうする事も出来ずに、ノジコはただただ必死に引っ張った

その時だった

 

 

 

 

「———待たんかァ!!!」

 

 

 

 

 

ゲンゾウの声が響いた

その声を煩わしそうに、アーロンが振り返る

 

すると、倒れていた筈のゲンゾウがブルブルと身体を震わせながら剣を構えていた

 

「その子の分の金は受け取ったんだ…! 手を出さん約束だろう!!?」

 

ゲンゾウのその言葉に、アーロンはくっと喉の奥で笑い

 

「ああ…傷つけやしねェよ、借りていくだけさ」

 

ニヤリと笑みを浮かべてそう言う

 

 

 

「ゲンさん、助けてェ!!!」

 

 

 

堪らずナミが叫んだ

ゲンゾウが、「子供達に手を出すな!!!!」と叫び剣を振りかざそうとするのは同時だった

 

 

が――――……

 

 

 

 

 

「————クロオビ」

 

 

 

アーロンの静かな声がそう響いた刹那――――

 

   ―――ヒュン!!!

 

疾風の様な何かが無数に走ったかと思うと――――……

 

「……が………っ」

 

ゲンゾウの身体のあちらこちらから血が噴き出したのだ

 

誰も見えなかった――――

何が起こったのかすら分からなかった

 

分かる事はただ一つ

ゲンゾウがその場に崩れ落ちた事だけだった

 

 

 

「ゲンさん!!!!」

 

 

ナミが叫ぶ

ノジコは叫ぶ事も出来ず、がくっと力なく崩れ落ちた

 

「ゲンさん! ゲンさん!! ゲンさあああん!!!!」

 

ナミの脳裏に、先程のベルメールが思い出される

声もなく崩れ落ちたベルメール

―――そして、ゲンゾウ……

 

 

このままじゃぁ………

 

「!」

 

クロオビと呼ばれたエイの魚人がピクリと反応する

それを見たアーロンは煩わしそうに溜息を洩らした

 

ゲンゾウが……ガクガクと身体を震わせながら立ち上がろうとしているのだ

 

「今……助ける、ぞ……ナミ……っ」

 

その声はかすれ、全身から血が零れ落ち

立っているのもやっとな状態のゲンゾウが、アーロンの前に立ちふさがった

 

 

「ここは…とお、さん……」

 

 

もう―――声すら出なかった

 

震えが止まらない

涙が止まらない

 

 

このままでは……このままでは、ゲンゾウが死んでしまう――――……

ベルメールと…同じように

 

 

 

「……もう、いいよ! やっぱりいいよ!! 助けなくていいから……っ!!! お願い――――っ」

 

 

 

 

「今…たす、け……」

 

「……くどい」

 

    ザシュ……っ!!

 

 

 

「―――――――もう誰も死なないでェ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

カラカラカラ……

 

 カラカラカラ……

 

 

風車の音だけが

 

   響いていた――――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひゅううううううう……

 

アーロンが去った村の様子は悲惨な光景だった

アーチは壊され、作物は荒らされ…辺り一面に魚人達の爪痕が残されていた

 

「村の船は全て沈められておったよ……」

 

ドクターの診療所の中は怪我人で溢れかえっていた

その中には全身包帯まみれのゲンゾウの姿もあった

 

そう―――ベルメール以外の村人の姿が――――……

 

「あの時、ナミとノジコを海へ逃がせると思っておったわしらの考えは…」

 

「……甘かったな」

 

なんとか生き残ったゲンゾウは、身体をベッドに預けたままそう呟いた

 

「案の定、海軍も取り合ってくれん。 この島は、支配される……」

 

ドクターは頭を抱えた

 

「ベルメールは分かっておったのだ…海兵としての経験から、やつらのやり方を知り尽くしておったのだ。 最早―――誰一人逃げられぬ運命だと……」

 

もう、奴らに従う他 生き抜く術がない事を―――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後――――……

 

「アーロン一味の居場所が分かった!! どうやら、この島に居つく気らしい!! 決断の時じゃ……!!!」

 

広場には少しは動ける様になった男衆が集まっていた

ドクターは叫んだ

 

「今、戦い“意地”に死ぬか! それとも、いつ殺されるやもしれん支配を受け、政府の助けに望みをかけるか!! 二つに一つ!!」

 

「…恐らく奴らに敵う政府の戦力は“偉大なる航路(グランドライン)”の“海軍本部”だけだ…!! だが、“本部”は“偉大なる航路(グランドライン)”で手一杯。 こんな辺境の地までやってくる望みはゼロに等しい…っ!! …だがわしはナミを放ってはおけん!! ―――――戦うぞ!!!」

 

ゲンゾウが決意を胸にそう叫んだ

すると、他の男衆もこくりと頷き

 

「おれもだ! 子供1人見捨てて自分だけ生きようとは思えねェ!! おれ達は、みんな “家族”なんだ!!」

 

「そうだ!! あいつらと刺し違えてもナッちゃんを助けるぞ!!!」

 

「おお!!!」

 

「ベルメールは命に代えてあの子達を守った!!」

 

「もう一度戦おうぜ!!」

 

「どうせ、1人戦ったらみんなの責任になっちまうんだ!!」

 

男衆たちはもう、戦う気だった

ノジコはそんな彼らをただ見ている事しか出来なかった

 

 

ベルメールの言葉が脳裏を過ぎる

 

 

 

 

    『――――生き抜けば、楽しい事がたくさん起こるから!!』

 

 

 

 

ベルメールの最後の言葉―――……

ノジコは涙を堪えて目を閉じた

 

 

ベルメールさん……

 

 

もう―――どうにもならないのか――――……

その時だった

 

 

とぼ…とぼ… と、誰かが歩いてくる気配がした

はっとしてノジコが振り返る

そこにいたのは――――――……

 

 

 


「ナミ!!!」

 

連れ去られたはずのナミだった

 

「ナッちゃん!!」

 

「無事だったのか!!!」

 

皆がわっと、ナミの方に駆け寄る

 

「ナミ、ナミ――――!!」

 

堪らず、ノジコはナミに抱きついた

 

「大丈夫!? 怪我は? なんかされなかった!!?」

 

「……………」

 

だが、ナミの様子がおかしかった

それに最初に気付いたのはノジコだった

 

「ナミ……?」

 

「……私……る………」

 

「え……?」

 

「私…アーロン一味に入る……。 測量士になって海図描くの」

 

 

 

 

 

「……え………」

 

 

今ナミは何と言ったか…

アーロン一味に入る……?

 

 

その言葉に、流石の皆も動揺を隠せなかった

 

「は、はは…何を言ってるんだ ナミ、正気か…!?」

 

「あいつらに、何かされたのか…? 何か酷い事を―――……」

 

 

ゲンゾウがナミにそっと語りかける

だが、ナミは小さく首を横に振った

 

 

「……ちがう………」

 

「脅されたんだろう!! そうだろう!!?」

 

 

 

「違う!!!」

 

 

「言いなさい!! ナミ!!!」

 

 

 

「―――――っ、放してよ!!!」

 

 

瞬間、ナミがゲンゾウの腕を振り払った

 

「………っ、ナミ…!!!?」

 

「そ、れ――――……」

 

 

ゲンゾウだけではない、ノジコも 他の男衆も皆大きく目を見開いた

腕を振り払った瞬間に見えたナミの左腕――――そこには……

 

 

 

「…そ、それは、アーロンの刺青……」

 

 

 

そう―――そこには、アーロン一味のマークとも言えるサメの刺青が掘られていたのだ

 

「…お、まえ――――……」

 

「ナ、ミ……」

 

ゲンゾウやノジコの声が震える

だが、震えていたのはナミもだった

 

震える手で持っていた札束を見せる

 

 

「見てよ……こんなに、おかね…もらっちゃった……」

 

そう言って、震えながら笑顔を見せた

だが、何かに堪える様にぎゅっと札束を握り締める

 

「好きなもの…何でも、買ってくれるって……!!」

 

 

「―――――ナミ!!!」

 

瞬間、ノジコが飛び出した

ナミに圧し掛かり、叫んだ

 

 

「許さない……っ! 許さないから!! よりにもよってあいつらの一味になるなんて絶対に許さない!! あいつらが一体どういう奴らだか分かってんの!!?」

 

 

 

 

「――――何よ!! 正しく生きてベルメールさんみたいに殺されるんなら……っ、私、正しくなんて生きたくないっっ!!!」

 

 

 

「!!!?」

 

 

しーん…と、辺りが静まり返った…

誰もが言葉を失った

 

 

ナミは…

 

 

「……なんて、こと、を……ベルメールさんは…っ、ベルメールさんはあたし達の為に殺されたんだよ!!? それを―――――!!!!」

 

 

 

「―――もういい、ノジコ」

 

 

 

 

瞬間、空気を裂く様な冷たい声が辺りに響いた

はっと、ノジコが振り返る

 

ゲンゾウはこちらを見なかった

だが、声が怒りを露わにしているのは明白だった

そして――――……

 

 

 

 

「出て行けナミ!! もう二度とこの村に足を踏み入れるな!!!!」

 

 

 

 

 

 

「…………っ!」

 

ぐっとナミな涙を堪える

そして、そのままその場から駆け出して行った

 

「ナミ!!!」

 

ノジコは止める事も追いかける事も出来なかった

足音がどんどん遠ざかって行く―――……

 

ナミが……いなくなっていく―――――………

 

 

ゲンゾウは、震える手を握り締めた

 

 

「…何て、バカな事を……」

 

怒っているというよりも、ショックが大きかったという方が正しいのかもしれない

先程まで、ナミを助けようと

“家族”だとみなで言っていたのに……

 

「しょせん、あいつにとってベルメールは親じゃなかったというのか……!!」

 

 

「……………」

 

誰もが何とも言えぬ表情をしていた

 

 

 

  絶望――――

 

 

 

そんな表情だった

 

ノジコは何も言えなかった

 

違うと

そんな事無いと

 

だって、ナミはベルメールが大好きだったのだから……

 

で、も――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が暮れ薄暗くなった岬の上に小さな足跡が続いていた

はっとしてノジコがその先を見ると…

ベルメールの墓の前でうずくまるナミの姿があった

 

「ナミ……」

 

だが、ノジコはそんなナミに近づく事が出来なかった

その時だった

ふと、ナミがノジコに話し掛けた

 

 

「ねぇ…ベルメールさん言ってたよね……」

 

 

「え…?」

 

 

「生き抜けば、必ず楽しい事が起こるって…たくさん起こるって……」

 

「…………うん」

 

ナミは顔を伏せたまま

 

「…アーロンに連れてかれてからね…アーロンを捕まえに来た海軍の船が5隻…簡単に沈められちゃったの…きっと、もう、この島には政府の助けは来ない。 私、分かった。 自分で何とかしなきゃって……っ!!」

 

ぎゅっと、足を抱えている手に力が籠る

 

「アーロンと契約したの。 あいつからココヤシ村を買うって」

 

「村を買う…!?」

 

「うん…一億ベリーでね」

 

「!!?」

 

「村を買えば自由になれる。 もう――誰も死ななくて済む。 その代わり、一味に入って海図を描けって……」

 

確かにそうだ

村を買ってしまえば、みな自由になれる

だが…


「でも…一億ベリーなんて、一生働いても払えるかどうか―――……」

 

 

 

 

「稼いでみせるわ!!!

 

 

 

 

「どんなことをしても! …みんなは貢ぎ金を払う事で精一杯だし…――――1人でやるしかない……!! だって……」

 

ぎゅっと顔を更に埋める

 

 

「誰かに助けを求めたら、また人が傷つくから……」

 

ナミの脳裏に過ぎる

 

傷だらけの村の人達

血だらけのゲンゾウ

そして―――……動かなくなったベルメール

 

 

「……………辛いよ?」

 

「……うん………」

 

 

「ベルメールさんを殺した奴と一緒にいるなんて……辛いよ…?」

 

 

「平気…。 あいつの顔見たって私、笑っててやる…! もう、泣かないって決めた!! 1人で戦うって決めたの!!!」

******

 

 

 

 

 

誰もが言葉を失った

レウリアだけじゃない、サンジもウソップも…

ナミの過去は想像を絶するものだった

 

「8年前のあの日から、あの娘は人に涙を見せる事を止め、決して人に助けを求めなくなった…あたし達の母親の様にアーロンに殺される犠牲者をもう見たくないから……っ!!」

 

「……………」

 

「わずか10歳だったナミが、あの絶望から1人で戦い抜く決断を下す事がどれほど辛い選択だったか…わかる?」

 

「……………」

 

「………村を救う唯一の取引の為に…あいつは……」

 

くいっとウソップが深刻そうに長っ鼻を押さえた

その時だった

 

 

「うお――――――!! 愛しきナミさんを苦しめる奴ァ!! このおれが、ブッ殺して――――――――ドゴオ!!!!

 

突如、サンジの左頬をノジコのパンチがクリーンヒットした

 

「な、んで…おねーさま……っ!!?」

 

問答無用に殴られたサンジがバタンとその場に倒れる

 

「サンジさん……煩い

 

そして、トドメを刺す様にレウリアの一言がサンジを直撃した

 

「ぐはぁ…! リアさんまで……っっ」

 

しょぼーんとしょぼくれるサンジに間髪入れずに

 

「だから、それを止めろと言いに来たんだよ!! あんた達が“仲間”だって騒いだら、ナミは海賊達に疑われこの8年の戦いが無駄になるじゃないの!!!」

 

「…………」

 

「だから、これ以上 あの娘を苦しませないで!! 1人で戦かわなきゃいけないあの娘にとって、”仲間“と呼んでくれる奴らがいる事が一番辛いんだよ……!!」

 

「…………」

 

そこまで話を聞いたレウリアは、小さく息を洩らした

 

「………でも、まだ全て(・・)が“無くなった”訳じゃない」

 

ぽつりとそう呟く……

ぴくりとノジコが反応した

 

「……どういうこと?」

 

一瞬、険しくなったノジコの表情を見た後、レウリアは風に吹かれて乱れたプラチナブロンドの髪を押さえた

 

「―――別に…。 まだ全てを“失った”訳じゃない…そう言いたいだけよ」

 

そう言ってアイスブルーの瞳を閉じる

 

「………リアさん…?」

 

様子のおかしいレウリアの反応に、サンジが目を瞬かせる

 

そう―――全て(・・)を“失った”訳じゃない

まだ、ナミには残されている

村の人達も、帰る場所も、待ってくれている人も――――残っている

 

でも……私には、もう――――………

 

 

ザァ……と風が吹いた

 

 

「あんた……」

 

 

何かに気付いたのか、ノジコがそこで言葉を切る

 

レウリアは真っ直ぐに前を見たまま、そのアイスブルーの瞳を一度だけ瞬かせた

 

 

そう――――

ナミにはまだ“残っている”

 

だから、 “希望” が持てた

 

 

けれど―――――私には――――…………

 

 

 

 

 

        何も……残されていなかった(・・・・・・・・・)――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うお~~~

やっと…やっとナミの過去編終わったぁぁぁぁぁぁ!!!

無駄に長くなっちまったぜ(((;°▽°))

 

そして、おやおや~?

何やら夢主の心境に何か不穏な気配が…

 

2016/03/08