MARIKA

-Blue rose and Eternal vow-

 

  Act. Ⅱ アーロンパーク 14

 

 

ザ――――――

 

雨が降り続いていた

まるでベルメールの心を鏡のように写したその雨は酷く耳に響いた

 

後悔――――しているのは分かっていた

分かっていたのに…ナミのあの言葉を聞いた瞬間、身体が勝手に動いた

気が付けば、ナミを叩いていた

 

止まらなかった

どうしても、止められなかった

 

大人げないのは分かっている

分かっているが――――……

 

ナミを叩いた手のひらが、じくじく痛む

でも、それ以上に心が軋む様に痛かった

 

叩いてしまった…

大切な娘を

あの子を、自分に生きる力をくれたあの子を――――叩いてしまった

それが酷くショックだった

 

その時だった

 

「ベルメールさん……」

 

ノジコが、見てられなくて声を上げた

 

「あたし達は“家族”だよ!? ナミだってきっとそう思ってる! さっきは…つい…つい……」

 

じわりとノジコの大きな瞳に涙が浮かんできだした

 

「………………」

 

何を―――やっているのだろうとベルメールは思った

ナミを泣かせ、今度はノジコまで泣かせようというのか

 

こんな小さな子が、頑張っているのに自分は何をくよくよしているのだろうか

そう思うと、ベルメールの顔に微かに笑みが浮かんできた

 

「……ノジコはしっかり者だね…」

 

そう言って、ノジコの頭を撫でる

 

「わかってる…私が大人げなかったよ。 ナミを連れ戻して来てくれる? とびっきり美味しい夕食作って待ってるから」

 

そう言って、にっこりと微笑んだ

ベルメールのその言葉に、ノジコは今度こそ満面の笑みを浮かべて頷いたのだった

 

外を見れば、雨が上がり太陽が姿を現していた

まるで、3人を祝福するかの様に―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


―――――ココヤシ村・駐在所

 

 

「ははははははははは!」

 

ココヤシ村の真ん中になる駐在所の中から笑い声が聴こえて来ていた

駐在のゲンゾウだ

 

「村の外れからここへ来るのが、家出か! 手軽でいいな!」

 

そう言いながら、ゲンゾウはびしょ濡れで駆け込んできたナミの髪をタオルで拭いてやった

そして、温かいミルクの入ったカップをナミに差し出す

 

「さ、飲みなさい。 冷めないうちに」

 

だが、ナミは落ち込んでいるのか…

そのミルクに口を付けようとはしなかった

 

ぎゅっとカップを握り締める

 

「……ベルメールさんは私達がいない方が幸せなのよ」

 

「………何故、そう思う?」

 

まさかそう返されるとは思わなかったのか、ナミが一瞬口籠る

だが、視線を反らすと

 

「だって…子供が2人もいたらお金もかかるし…私のせいで、村の人達にも嫌われちゃうし…」

 

ナミのその言葉に、ゲンゾウがまた笑い出した

 

「お前も遠慮を知る年になったか! 安心しろ! ベルメールもお前ぐらいの年の頃はこの村でも有名な悪ガキだった」

 

その言葉に、ナミが「え…っ」と声を上げる

 

「ベルメールさんが!?」

 

「驚く程の事じゃない。 村の連中から見れば今でも充分悪ガキだ」

 

「え……」

 

すると、ゲンゾウは懐かしむ様にその顔に笑みを浮かべた

 

「その悪ガキが海兵になると言い出した時、村中の皆が驚いたっけ」

 

「海兵!? ベルメールさんは海兵だったの?」

 

知らなかった

まさか、ベルメールが元海兵だったなんて…

そんな事、ベルメールは一言も言わなかった

 

「ああ…何の罪もない人々を殺戮する海賊が許せない―――そう言って村を飛び出して行きおった。 あの時の事は、今でも忘れんもせん。 その日は酷い嵐で……」

 

そう―――あの日は酷い嵐だった

その嵐の中、一艘の小船がこの島に向かってきていた

そして、その船に乗っていたのは――――…

 

『おい、ベルメールだ!!』

 

『子供を抱いているぞ!!』

 

傷だらけのベルメールは2人の子供を胸に抱いていたのだ

その子供たちは、真っ青な顔をしてガタガタと震えていたのだ

 

 

『ドクターを呼んで!! ひどい熱なの!!! 嵐にやられて衰弱しきってるっ!!』

 

 

ぜぇぜぇと肩で息をするベルメールは必死にそう叫んだ

ドクターは子供たちを引き受けると、ベルメールにも早く傷の手当てをと言った

だが、ベルメールは自分の事など無視する様に涙ながらに叫んだ

 

 

『いいから早く!! お願いだからその子達を死なせないで!! その子達を助けてェ!!!!』

 

 

「それが…赤ん坊のお前と まだ3歳のノジコだ」

 

ナミはいまだに信じられないその話に、戸惑いの色を見せた

 

「……私…橋の下に落っこってたって……」

 

「………そりゃぁ、ベルメールのウソだ。 聞けば、その時 戦場であいつは瀕死の目にあっていたそうだ。 このまま目を閉じて死んでしまおうかと思っていた所に現れたのが…お前を抱いたノジコだった」

 

「……………」

 

「聞けば、知らない子だという。 だが、そんなお前はノジコの腕の中で笑っていたそうだ…人の気も知らずにな。 見ていたら死ぬ気もうせたらしい」

 

「………………」

 

「そんなベルメールがお前達を育てると言い出した。 勿論、村の連中全員で止めたさ。 しかし、ベルメールは言っておった、ナミとノジコは自分に命をくれたのだとな」

 

「………………」

 

ナミは今度こそ驚いた様に大きく目を見開いた

 

「お前達には、血よりも深い絆がある」

 

ゲンゾウの言葉が耳に痛い

自分はベルメールやノジコに何と言ってしまった?

あんな事、言ってはいけなかったのだ

 

それがどうしても引っかかった

もう、ベルメールもノジコも自分の事を嫌いになったかもしれない

そう思うと、怖くて顔が上げられなかった

 

 

その時だった、突然ひとつの小さな人影が駐在所に駆け込んできた

 

「ナミ!! やっぱりここにいた!!」

 

「……! ノジコ…」

 

それは、さっき自分が酷い事を言ってしまったノジコだった

だが、ノジコはにこっと笑って

 

「ベルメールさんが待ってるよ……おいしい夕食を作って!」

 

「……………」

 

その言葉を聞いた瞬間、沈んでいたナミの顔に自然と笑みが浮かび始めた

ベルメールは怒ってない…?

きちんと、謝れば許してくれる…?

 

「……うん!!」

 

そう思った瞬間、満面の笑みで頷いたのだ

そして、ノジコと一緒に駆け出した

 

「きっと、ナミの大好物のオムレツのみかんソースだよ!

 

「やったぁ!!」

 

しそうにはしゃぎながら駆けていく2人を村の皆は微笑ましそうに見ていた

 

「早いもんだ…生死の境を彷徨った子供たちがあんなにすくすくと…」

 

「ああ、あの子らの成長が今では我々みんなの楽しみの様なもんだ」

 

ゲンゾウの言葉に、ドクターは嬉しそうに頷いた

村のみんなも嬉しそうに頷く

 

あの一家3人が幸せになるのを見届けなくては気が済まない

皆が皆、そう口にしていた

 

その時だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海賊だ―――――――――!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

一人の男が、そう叫びながら村の外からか走って来た

ざわりと、村中がざわめき出す

 

「海賊が来たぞ―――――! みんな隠れろォ――――――!!」

 

男はそう叫びながら、皆に隠れる様に促した

数秒前まで嬉しそうにしていた、ナミとノジコにも緊張が走る

 

その時だった

 

 

「シャ――――ッハッハッハッハッハッハ!!!」

 

 

大きな笑い声と共に、巨大な海賊船が村のすぐ傍の小さな港に乗り込んできたのだ

その帆には大きなノコギリザメにドクロマーク

 

それを見た瞬間、村人たちはぎょっとした

 

「アーロン一味だ……!!」

 

「アーロン!!?」

 

「そんなバカな!!」

 

それもその筈である

アーロンといえば、有名な王下七武海の1人ジンベイがいる“魚人海賊団”の幹部だった筈である

そして、そのアーロンは“偉大なる航路(グランドライン)”にいた筈の海賊だったからだ

 

なのに、この“東の海(イーストブルー)

よりにもよってこのコノミ諸島に現れるなど…誰が想像しただろうか

 

「魚人海賊団が分裂したって噂は…本当だったのか…!!」

 

そうとしか考えられなかった

そうでなければ、こんな所にアーロンなど現れる筈がない

 

村中が慌てふためく中、ゲンゾウとドクターはナミとノジコに駆け寄ると

 

「ナミ! ノジコ! ここは危険だ! 裏の林の奥へ隠れろ!!

 

「え…でも……」

 

ナミが躊躇う様にそう口にしようとした時だった

 

「早く行け!!」

 

ゲンゾウに強く言われ、ナミがびくっと肩を震わす

 

「行こう、ナミ」

 

だが、ノジコがぐいっとナミを引っ張った

ナミはこくこくと頷きながら、ノジコと一緒に裏の林に身を隠す事にした

 

そうこうしている内に、海賊達がにやにやと笑いながら上陸してきたのだ

紫色の肌にノコギリザメの様なギザギザの鼻の男が、真っ青になって息を飲む村人たちを見据えると、その口元に笑みを浮かべた

 

「ゴキゲン麗しゅう くだらねェ人間どもよ!! 今、この瞬間から この村…いやこの島をおれの支配下とする!!!」

 

その男がそう叫んだ瞬間、後ろの海賊達が「ウオオオオオオオオ!!!!」と叫んだ

 

ざわりと、村人たちがざわめく

この男は何と言ったか…支配と言わなかっただろうか

 

「よ~く聞け! テメェらは今日この記念すべき日に自分の命をおれから買うんだ!! 大人1人10万ベリー、子供1人5万ベリー、払えねェやつは…殺す!!」

 

「10万……っ!?」

 

村人たちがどよめきだす

それもそうだろう…10万ベリーという大金を払えというのだ

動揺しない方がおかしい

 

裏の林でその様子を見ていたナミとノジコはごくりと息を飲んだ

 

「どうしようノジコ…そんなお金払えないよ」

 

自分達の家はお世辞にも裕福とは言えない

むしろ貧乏の部類に入る

そんな家に、3人分 計20万ベリーもある筈がない

 

「でも、うちは見つからないかもしれない…村からは見えないから」

 

村の外れにあるベルメールの家は立地の関係から、村からは直接見えない位置にあった

だから、もしかしたら…と考えずにはいられなかった

 

ドサ ドサッと海賊が用意した大きな袋の中に村人たちが自分の命を買うお金を入れていく――――

それを満足気に見てた紫色の肌の男はにやりと笑みを浮かべ

 

「今回は奇襲に付き払えねェ奴のみ殺す事にする……で? 幾ら出た同胞よ」

 

「二千五百万ちょいってとこか……」

 

「上出来!! シャーッハッハッハッハッハ!!!」

 

仲間の一人がそう答えると、男は満足気に頷いた

その様子を村人たちは遠巻きに見ていた

 

「これからは、毎月1人10万ベリーで命を買わねばならんそうだ…っ!」

 

「10万!? おれたち生きていけねェよ…」

 

村人たちがそう堪らず口にする

それを諌める様にゲンゾウが囁いた

 

「今はまだ耐えろ…幸いまだ村に1人の犠牲者もいない」

 

お金で事足りるなら安いと見るべきなのか…

このままベルメールの家に気付かずに帰ってくれるといいのだが、どう考えても子供2人と大人1人合せて20万ベリー

そんなに蓄えがあるとは思えなかった

 

「よォし! 引き上げるぜ、同胞達よ!!」

 

そう言って、海賊達が村から引き揚げていく

それを見たゲンゾウがほっと息を吐いた時だった

 

「アーロンさん! 村の外れからけ・む・り・だ!」

 

1人の海賊が村の外れから出ている白い煙を指さした

アーロンと呼ばれた紫色の肌の男は「あ?」と声を上げると、ゆっくりと顔を上げた

 

「あれは、民家からの煙だ」

 

煙を見つけた魚人が指さす

 

「……………っ!!!」

 

村人たちは動揺しそうになるのを堪えた

うかつに騒げば決定付けることになる

 

だが、アーロンと呼ばれた男はにやりとその口元に笑みを浮かべ

 

「ほぅ…見落とすとこだった……」

 

アーロンの言葉に、ギリッとゲンゾウが奥歯を噛み締めた

 

くそ……っ!

 

このまま見過ごしてくれると思ったのに

まさか、こんな事で見つかってしまうとは……っ!!!

 

「いくぞ、取立てだ!!!」

 

そう言って、アーロンたちがぞろぞろと村はずれのベルメールの家に向かって歩き始めた

 

「おいマズイぞ!」

 

「海賊達がベルメールの家に……っ!!」

 

どうすれば……っ!

ついさっきまで幸せな気持ちで一杯だったのに…どうしてこんな事に…!!

 

ベルメールの家に行かせたくはない

だが、自分達では海賊達に敵わない

どうにもできないもどかしさが、村人たちを襲った

 

「おい! ノジコとナミがいないぞ!!」

 

「なんだと!?」

 

はっとして林の奥を見ると、そこに隠れていた筈のノジコとナミの姿が消えていたのだ

まさか……!!

 

考えられる事は一つしかなかった

ベルメールの家に向かったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナミとノジコは必死に走った

息が苦しくなり、心臓がバクバクいうのを無視する様に、とにかく走った

 

早くしないと…

 

早くないとベルメールが……

 

 

 

 

        ベルメールが殺されてしまう………っ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっぱり3話になりそうです 過去編

正確には、2.5話かな?

多分、次の話の最後ぐらいには、過去編終わると思うと…多分??

 

終わるといいなぁ~(笑)

 

2015/05/01