MARIKA

-Blue rose and Eternal vow-

 

  Act. Ⅰ 海上レストラン 9

 

 

 

 

 

「死んで後悔すんじゃねェぞ!!!!」

 

 

 

 

ダンッ!と、思いっきり地を蹴り上げると、そのままミホークに斬りかかった

「井の中の蛙よ、世の広さを知るがいい」

 

 

 

「―――鬼!!!」

 

 

 

三本の刀を、一気に交差させる

 

 

 

     「斬りっ!!!!!」

 

 

 

 

ガキィン!!!!

 

けたたましい程の音が辺りに響き渡った

 

ゾロの“鬼斬り”

出せば、100%相手を吹き飛ばす大技

これを食らった者は、今まで一人として無傷でいた者はいない

―――筈だった

 

なのに……

 

「なっ………!?」

 

ゾロは、信じられないものでも見るかの様に、言葉を失った

 

ゾロの三本の刀は、ミホークに傷を負わすどころか、たった1本の小さなナイフに止められていたのだ

ただ一点

ただ一点を抑えられただけで、“鬼斬り”は発動する前に止められてしまっていたのだ

 

う、動かねェ……っ!

 

ゾロがどんなに力を入れても、刀はピクリとも動かなかった

 

辺りが、一気にざわめく音が聴こえる

だが、今のゾロにはそんな事どうでもよかった

 

“鬼斬り”が止められた

見切った者など、いまだかつて1人もいなかったのにだ

それも、あんな玩具みたいな小さなナイフ1本で

 

一体何をされたのか

それすらも、理解の範疇を越えていた

 

ミホークの鋭い鷹の目の様な瞳が、ゾロを見ている

まるで、蛇に睨まれた蛙の様に身体が動かない

 

そんな馬鹿な事が……っ

こんなに力が違うってのか……!?

 

信じたくなかった

信じられる訳なかった

 

そんな訳ねェ!

そんなに、遠い訳がねェ……っ!!!

 

 

 

 

「うあああああああああ――――――っ!!!!!」

 

 

 

 

世界がこんなに遠い筈はねェんだ……っ!!!!

 

 

 

ゾロは、渾身の力で刀を振り回した

何度も、何度もミホークに斬りかかる

 

だが、それすらも意としないのか

ミホークは顔色一つ変える事無く、あの小さなナイフであしらっていった

それこそ、小さな獣ががむしゃらに暴れているのを、軽くあしらうかの様に

 

不意に、ミホークがナイフを打ち上げた

 

「うわぁっ!!」

 

反動で、ゾロの身体が後方へ吹き飛ぶ

それを見た、ヨサクとジョニーが叫んだ

 

「ウソだろう!?アニキ!!!本気を出してくれェ!!!!」

 

「アニキィィィィィ!!!!」

 

遠くで自分を呼ぶ声が聴こえる

だが、今のゾロにはそれに応える余裕など微塵もなかった

 

ゼェゼェと肩で息をしながら立ちあがる

ぐっと、刀を持つ手に力が篭った

 

レウリアには

『今、“世界”と“おれ”の距離がどのくらいあるのか、知らなけりゃいけねェんだ』

そう言った

 

それは、死んでしまった親友との約束の為

世界一にないりたいと言っていた彼女との約束の為

 

 

なのに……

 

「……………っ、この距離はねェだろう!!」

 

目の前に自分を見下ろす様に悠然と立つミホークが、巨大な岩山の様に見える

視界が揺らぎ、自分の呼吸の音だけが酷く煩く聴こえる

 

この遠さはねェ………っ!!!

 

 

「うああああああ——————っ!!!!!」

 

ギン

ギィイン

ガキィィィン

 

何度も、何度も斬りかかった

ゾロの出せる”本気“の力でミホークに斬りかかった

 

だが、その刀がミホークに掠る事すらなく、あしらわれていく

 

剣戟の音だけが、辺り一帯に響き渡った

 

瞬間、柵の隅に追いやられたミホークが、退路を断たれた

 

チャンスを思ったゾロは、渾身の力で斬りかかった

バキィと音がし、船の柵が真っ二つに割れる

だが、ミホークは軽く飛び上がってかわすと、そのままゾロの上を飛び越え後ろへと着地した

それを見逃すゾロでは無かった

 

すぐさま反転すると、そのままミホークめがけて刀を振り下ろした

 

ガキィィィン

 

刀と刀がぶつかり合う音だけが響いた

 

「なんと凶暴な剣か……」

 

ミホークがぽつりと呟く

が、ゾロはそのまま一気に口にくわえていた3本目の刀をそのまま横に振りきった

 

 

—————ガキィィン

 

 

 

 

 

 ゴゥ……!!

 

 

 

 

 

瞬間、辺り一帯に剣風が巻き起こる

それを見ていた、クリーク海賊団の一味は、ゾクリと背筋を凍らせた

 

「あんなモンで、ロロノア・ゾロの三刀流を全部受けてやがる……っ!!!」

 

「あいつは、バケモノ ゾロを越えるバケモノだ……っ!!!」

 

あんなバケモノに、自分達は「ヒマつぶし」で襲われていたのか

考えただけで、ゾッとする

 

それを見ていたルフィも、ぐっと耐えるかのようにバラティエの甲板にある手摺を握り締めた

ルフィも分かっているのだ

これは、自分が手を出していい戦いではないという事に

 

マリモさん……

 

レウリアは、ルフィを見た後 もう一度ゾロの方を見た

 

状況は一変しておらす、相変わらずゾロが只管刀で斬りつけている

はたから見れば、ゾロが優勢にみえなくもない

だが、実際は違う

ゾロの剣は、ひと掠りもミホークに届く事は無く

ゾロがあれだけ息を荒くしているのに対し、ミホークは呼吸の乱れた形跡すらない

 

それだけ、あの男は余裕であり

ゾロのあの猛攻ですら、軽く赤子の手を捻る程度のものなのだ

 

力の差は歴然としていた

 

それでも、ゾロは負けじとミホークに何度も何度も挑みかかっていた

ぎゅっと、胸元で握った手に力が篭る

 

マリモさん……貴方は、この戦いで何を掴もうとしているの……?

 

単純に、力の差だけを知りたいなら すでに分かっている筈だ

だが、認められない

いや、認めたくないのだろう

 

でも、それでは何も得られない

 

それでは駄目なのだ

何度もミホークに斬りかかるゾロを見る

 

貴方は知らなければいけない

“それ”がどういうものなのか

 

知らなければいけないのよ

 

 

————————マリモさん…!

 

 

 

 

 

 

ゾロはすぐさま、手に持っていた刀を振り払った

ギン ギィンと、また剣戟の音が響き渡りだす

 

信じたくない

信じたくなどない

 

おれは…おれは、こんな玩具にあしらわれる為に……今日まで剣を振るってきた訳じゃない!!!

 

ミホークの小さないナイフの刃が、とても大きな剣に見える

それが、自分めがけて何度も向かってくるような錯覚に捕らわれる

 

おれは……

おれは…………っ!!

 

その時だった

 

 

 

 

  『ゾロ……』

 

 

 

 

 

 

ーーーーギィィィン

 

 

 

 

その時、一等大きな剣戟の音が聴こえてきた

瞬間、ゾロの足がもつれて倒れそうになる

踏ん張ろうにも、足がもつれて留まれない

そこへ、追い打ちをかける様にミホークの放った手刀がゾロの首めがけて振り下ろされた

 

「がはぁ……っ!」

 

瞬間、頭が真っ白になる

 

『ゾロは良いね、男の子だから……。私だって、世界一の剣豪になりたいよ!』

 

あの時、彼女が言った言葉

 

自分は女だからと、嘆いていた彼女

ゾロに勝っておきながら、ゾロを羨ましがった彼女

 

『約束しろ!いつか必ず、おれかお前が世界一の剣豪になるんだ!!どっちがなれるか、競争するんだ!!!』

 

『約束だ』

 

世界最強になる為に……

 

雨の中、運ばれていく棺

夢を叶える事もなく、その命を散らしてしまった彼女

 

『おれ、あいつの分も強くなるからさ!!天国まで、おれの名前が届く様に世界一強い剣豪になるからさ!!』

 

『約束したんだ!おれは……っ!!!』

 

 

 

はぁ……はぁ……

 

呼吸が酷く煩く聴こえる

視界が揺れて、上手くミホークを捉える事すら出来ない

 

この、男に勝つ為だけに……

 

はぁ……はぁ……

 

もつれる足で、なんとか立ち上がる

そして、よろめく足のままミホークに斬りかかるが―――それは当たる事無く、そのままゾロはその場に倒れ込んだ

 

意識が遠のきそうだ

周りの音すらよく拾えない

 

それでも、刀だけは手放さなかった

ぐっと、握り戦意だけは失わない

 

ずっと……この…男…に――――

 

ぐっと、今にと飛びそうな意識を保ちミホークを見た

微かに、ミホークの瞳が鋭くなる

 

「何を背負う。 強さの果てに何を望む。 弱き者よ……」

 

 

「…………っ!」

 

 

 

“弱き者”

 

その言葉に、ゾロがギリッと奥歯を噛み締めた

それに怒りを露わにしたのは、他でもないヨサクとジョニーだった

 

「アニキが弱き者だとぉ!!!?このバッテン野郎ォ!!!」

 

「てめェ!!思い知らせてやる!!!」

 

憧れているゾロに対し浴びせられた弱者という言葉にヨサクとジョニーがカッとなり剣を抜いてミホークに飛び掛かかった

 

「あ、駄目よ!!!」

 

レウリアが止めようとする

が、瞬間、ルフィが叫んだ

 

「やめろっ!!手を出すな!!ヨサク、ジョニー!!!!」

 

そう叫ぶな否や、飛び出したヨサクとジョニーに腕を伸ばして引き戻すと、そのままガンッと頭を抑え込んだ

 

「ちゃんと、ガマンしろ……っ!!!!」

 

ギリリりっと奥歯を噛みしめながらそう言うルフィが、本当は一番行きたいのだろう

それはそうだ

あのゾロが、あそこまであしらわれて黙っていられるほど大人ではない

 

だが、この戦いの邪魔はしてはいけないと本能で分かっているのか

必死になって耐えているのが見て取れた

 

「ルフィ……」

 

レウリアは、ぽつりとそう呟くと、小さく息を吐いた

そして、3人の側に近づくと、その場にしゃがむ

 

「ヨサクさん、ジョニーさん、ルフィの言う通りよ。今は駄目。 マリモさんの事を少しでも想うなら耐えて。 辛いでしょうけれど…でも、それが彼の為なのよ」

 

そう言って、ゾロの方を見る

 

「彼が戦っているのは、鷹の目さんではく己自身。 ————・・・・きっと、もう少しだと思うから……」

 

そう、あと少し

あと少しで―――

 

その言葉に、ヨサクがカッとなった

 

「何だよ、”あと少し“って! あと少しで、アニキが死んじまうって言いてェのか――――ぐぇ!」

 

ヨサクが言い終わる前に、レウリアの鉄拳制裁が下った

 

「馬鹿な事言わないで、誰がそんな事言ったのよ。そういう意味の“もう少し”じゃないわ」

 

それから、がしっとヨサクの頭を掴むと、無理矢理ゾロの方を向かせた

 

「いいから、よく見ておきなさい。男が命を懸けて何をしようとしているのかを」

 

そして、何を掴むのかを―――

見届けなければならないのだ

 

その時だった、ゆらりとゾロが立ち上がった

だが、その足に力はなく 立っているのがやっとという状態だった

 

肩が酷く上下に揺れ、呼吸が乱れる

それでも、ゾロはまっすぐにミホークを見た

 

「おれは……負けるわけにはいかねェんだ……っ」

 

そして、両の手に持った2本の刀を口にくわえた3本目に後ろからクロスさせ背に構える

 

 

瞬間、世界の音が消えた

 

 

「虎………」

 

 

 

『いいねェ、世界一の剣豪かぁ~!海賊王の仲間なら、それぐらいになってもらわないと困る!!!』

 

 

 

 

『おれ、あいつの分も強くなるからさ!!天国まで、おれの名前が届く様に世界一強い剣豪になるからさ!!』

 

 

 

 

 

     「――――狩りっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 ドシュ……っ!!

 

 

 

 

 

 

ポタ…ポタ……

 

 

それは、一瞬だった

ほんの一瞬の出来事

 

 

ポタ……ポタ……

 

 

血の滴り落ちる音だけが、嫌なぐらい響き渡った

 

瞬間、停止していた時間が動き出す

それを見た瞬間、誰もが言葉を失った

ヨサクとジョニーが叫び声をあげ、ルフィが、必死に耐える音だけが聴こえる

 

レウリアも、思わず口元を手で覆った

 

ポタ…ポタ…と、小さなナイフから血が滴り落ちる

そのナイフは、まっすぐにゾロの左胸を刺していた

 

ゾロの表情は見えない

だが、貫かれた胸元がじわじわと赤く染まっていくのだけが鮮明に色を付けていた

 

「このまま心臓を貫かれたいか……何故、退かん」

 

ミホークの言葉に息を飲む

 

そう―――ゾロは一歩も退かなかった

恐らく、あれはそこまで深くは刺していない

後ろへ退けばあのナイフは抜けるだろう

 

だが、ゾロは一歩たりとも後ろへ下がろうとはしなかった

 

ポタ…ポタ……

 

と、ゾロの胸から流れ出た血が、割れた甲板に波紋を残していく

 

「……さァね…分からねェ……、おれにも分からねェんだけどよ……」

 

ポタリ…と、また血が落ちた

 

「今、ここ・・を一歩でも退いちまったら……何か大事な今までの誓いとか、約束とか……いろんなモンはヘシ折れて、もう二度とこの場所へは帰って来れねェような気がする……」

 

マリモさん…それが……

 

 

「そう、それが“敗北”だ」

 

 

ミホークがそう言葉にすると、初めてそれを知ったのか

ゾロは一瞬だけ驚いた様な顔をした後、口元に微かに笑みを浮かべた

 

「へへ…そうか、じゃぁ、なおさら退けねェな」

 

「死んでもか……」

 

「死んだ方がマシだ」

 

その言葉に、ミホークが一瞬ゾロを見る目が変わった

 

「何という強き心力……!! 敗北より、死を取るか」

 

そのゾロの強き信念に心打たれたのか、ミホークはすっとゾロの胸を指していたナイフを抜いた

 

「小僧、名乗ってみよ」

 

ゾロは一度だけ目を瞬かせると、刀を大きく広げた

そして、3本の彼方を風車の羽の様に構えた

 

 

 

 

 

  「ロロノア・ゾロ」

 

 

 

 

 

ふっと、微かにミホークが笑った後、スッと背に持っていた黒刀「夜」に手を掛けた

 

「憶えておく、久しく見ぬ“強き者”よ。そして、剣士たる礼儀を持って―――」

 

スラッと、その長い黒刀を抜ききった

 

「―――世界最強の、この黒刀で沈めてやる」

 

「はっ…!そりゃぁ、ありがてぇこった」

 

にやりと、ゾロが笑った

 

認めた……っ!!

 

レウリアは信じられないものを見る様な目で、そのアイスブルーの瞳を大きく見開いた

あの、世界最強の男・ジュラキュール・ミホークを認めさせた……!!

 

「抜いた……!!」

 

「おれ達の船を割った刀剣だ……っ!!!」

 

外野が何か言っているが、今のゾロには聴こえない

真っ直ぐに、目の前の敵だけを見据える

 

これが最後の一撃か……

死か世界一か……!!

 

ゆらっとミホークが構える

ソロも、ぐっと刀の柄を強く握り締めた

 

「……………!!!」

 

「アニキ、もういい!止めてくれェ―――――っ!!!!」

 

ルフィやジョニー達が叫ぶ

 

 

 

「三刀流奥義!!!!」

 

 

 

2本の刀を風車の様に回転させる

瞬間、ミホークが一気に間合いを詰めて――――

 

 

 

 

 

  「――――三・千・世・界!!!!」

 

 

 

 

 

ドォォォォン!!!

 

 

2人が交差した瞬間、すさまじい剣風が辺り一帯を襲った

 

誰しもが息を飲んだ

しん……と静まり返った2人の間に音は無い

 

どちらが勝ったのか

双方、共に動かない

 

その時だった

 

ビシ…ビシビシ……

 

  ガシャン…

 

 

「あっ!!」

 

ジョニーが思わず叫ぶ

 

ゾロが両の手に持っていた刀が2本

音をたてて割れたのだ

 

「ごふ……っ」

 

口にくわえていた刀を取った瞬間、口から血吐き出された

思わず、膝を折る

 

……敗けた……

おれが敗けるなんて考えた事なかった……

 

そのまま、唯一残った刀を鞘に納める

 

これが……世界最強の力か……

 

ゆっくりとした動作で立ち上がると、ゾロは両手を広げてミホークの前に立った

 

「……!  何を……」

 

一瞬、ミホークも意味が分からなかったのか、その瞳に困惑の色を見せる

 

ゾロは、血の流れる口元でにやりと笑みを浮かべると

 

 

「背中の傷は剣士の恥だ」

 

 

 

 

「フ……見事っ」

 

 

 

 

 

ズバン……!!!

 

 

 

 

 

 

 

「ゾロォ――――――――っ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ???

意外に、もう少し行けると思ったんですが……

ここで終わってしまいました_(‘ω’;」∠)

や、切り悪かったし………

 

とりあえず、ゾロVSミホーク戦は終了

後は、締めるだけですね~~

 

つか、もっと早くに上げる筈が……

爆睡していました…すみません( ;・∀・)

 

2012/07/09