MARIKA

-Blue rose and Eternal vow-

 

  Act. Ⅰ 海上レストラン 22

 

 

 

「ギンさん、駄目!!」

 

レウリアが溜まらず叫ぶ

だが、ギンには届かなかった

 

ギンは持っていたガスマスクをブンッとそのまま海へと投げ捨てた

 

「何で…何でだ……っ!」

 

サンジにも、レウリアにもギンがそこまでする理由が分からなかった

確かに、クリークのカリスマ性は驚くぐらい凄まじかった

それでも、自分に死ねと言っている男に、そこまでの忠義を働く理由が理解出来ない

 

死んだらお終いなのよ……!!

 

死んだら、何もかも終わりだ

なのに、ギンは“死”を選ぼうとしている――――クリークへの忠義の為に

 

どうしてそこまで……っ!!

 

クリークは、ギンのその行動に満足した様ににやりと笑みを浮かべた

 

「フン!意地を見せたか……だが、もう遅い!そのコックと共に死ね!」

 

スゥッと、クリークの纏う空気が一変する

そして――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「猛毒ガス弾!!“M・H・5”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドオオオオン

 

けたたましい音と共に、史上最悪の猛毒ガス弾が放たれた

 

「!!!?」

 

「きたぞぉ!!」

 

海賊達やコック達が慌てて海へ潜る

 

「オーナー!店の中奥へ!!」

 

「お前も来い!!」

 

「ちょっ……、放して!!」

 

パティとカルネが、ゼフとレウリアを引っ張って店の奥へと避難する

レウリアは抵抗しようとしたが、出来ずにそのまま奥へと引きずり込まれた

 

クリークが、頑丈なガスマスクを付けてにやりと笑みを浮かべた

このM・H・5を受けて生きていた者はいない

皆、死ぬのだ

 

生き残れるのは、ガスマスクを持っているクリーク海賊団のみだ

そう、ガスマスクを持っている海賊団のみ――――

 

「借りるぞ」

 

「え?」

 

不意に、ぐいーんと伸びてきたルフィの手が、海賊のつけていたガスマスク2つ奪った

驚いたのは、奪われた海賊だ

 

M・H・5は、もうすぐそこまで迫っている

なのに、あっさり敵にガスマスクを奪われたのだ

 

「も、潜れー!!」

 

慌てて海の中へと潜る

だが、ルフィは気にした様子もなく、そのままそのガスマスクをサンジ達の方に投げた

 

「サンジ!ギン!使え!!」

 

「雑用!?」

 

サンジが叫ぶ

だが、ルフィは直ぐに再度海賊達の方を見た

 

「おれの分――――ってあれ~~!?みんな潜っちまってる!!?」

 

自分の分を取ろうとしたが、見事に全員潜っていてそこには誰も残っていなかった

ある意味、当然の結果である

 

あの状況で、潜らない筈が無い

 

そうこうしてい内に、M・H・5はどんどんバラティエの方に迫っていた

 

「ああああああ~~!!どうしよう、どうしよう、どうし……あ!」

 

その時だった

コロンッとガスマスク一つ目の前に転がって来た

ルフィが慌ててそれを付ける

 

どんどんM・H・5が迫ってくる

 

そして――――……

 

 

 

 

 

「これが、武力」

 

 

 

 

 

 

 

ドオオオオオオン!!

 

 

史上最悪の猛毒ガス兵器が炸裂したのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうもうと、紫色のガスがバラティエを充満していく

辺りの視界は遮られ、何も見えない

 

ルフィは、間一髪で見つけたガスマスクを装着して、何とか息をしていた

 

「た…助かった……。良かったぁ~都合よく落ちてて……」

 

遠くの海から顔を出したコック達は、目の前の状況に信じられない様な顔をしていた

 

「と、とんでもねェ野郎だ……」

 

「海賊が戦闘に毒ガスを使うなんて、聞いた事ねェよ」

 

「悪魔見てェな野郎だ……!!」

 

「ああ、人間のやる事じゃねェ」

 

 

 

 

 

 

キッチンまで避難していたパティとカルネ達は、歯を食いしばりながら今の状況を見ていた

不意に、レウリアが掴まれていた腕を振り払うと、キッチンから出て行こうとした

 

「お、おい!」

 

振り払われたパティは、慌ててレウリアを止めようと手を伸ばした

だが、レウリアはその手すら払うと、そのまま出て行こうとする

 

「おいおい、待てって!今行けば死ぬだけだぞ」

 

カルネも慌てて止めに入るが、キッとレウリアに睨まれた

その目には、薄っすら涙さえ浮かんでみる

 

「だからって………」

 

わなわなとレウリアの手が震える

 

「だからって、あの場にルフィやサンジさんを残して逃げてもいい理由にならないわ!!」

 

そう叫んで、飛び出そうとした時だった

 

「まぁ、待て」

 

不意に、ゼフが呼びとめた

 

「ちったぁ、冷静になる事だ。今、飛び出して何になる? 何の状況も掴めねェまま死んじまうのがおちだな」

 

「……………っ」

 

図星を突かれて、レウリアがぐっと押し黙る

 

「でも………っ」

 

それでも、傍に行きたかった

2人の事が心配でならなかった

 

「今は、少し霧が晴れるのを待て。それから行っても遅くはねェよ」

 

「……………」

 

レウリアは、何も言い返せなかった

ゼフの言っている事は正しい

今、自分が行ってもガスに呑まれて死ぬだけだ

 

「だがよ…サンジの事を心配してくれたのは、ありがとよ」

 

「オーナーさん……」

 

ゼフの気持ちが痛いほど伝わってくる

レウリアは、ただ静かに頷くしか出来なかったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空をカモメが飛んでいる

が、ガスに触れた途端、意識を失った様に落下した

 

コック達は、遠巻きにバラティエを眺めながら、ごくりと息を呑んだ

 

「……サンジと雑用は無事か…?」

 

「さぁな……」

 

あの状況では、助かったかどうかすら分からない

 

その時だった

コックの1人が、バラティエの方を指さした

 

「みろ!毒霧が晴れていくぞ!!」

 

徐々に、ガスが晴れていく

次第に、人影が見え始めた

そこにいたのは――――……

 

「ギン……っどけろ…!!」

 

抑え込む様に、サンジのガスマスクを宛てている誰かと―――

ようやく晴れたガスにほっとしてガスマスクを外すルフィ

 

「手、どけろ……!!」

 

不意に聴こえた声に、ルフィはそちらの方を見た

 

「!!?」

 

そこには、血を吐きながら顔面蒼白にした、ギンがサンジにガスマスクを当てっていたのだ

 

「お前……っマスクは!!?」

 

そこまで言って、ハッと思い出した

あの時、突然目の前に放り出されたガスマスク

あれは……

 

「マスク…お前がくれたのか……!?」

 

ギンが、ガクガクと震えながら、口や鼻から血をボタボタと流していく

ぜーぜーと肩で息をするが、息が出来ないのか、顔色がどんどん紫色へと変色していく

そして――――……

 

 

ガクン……

 

 

ぐらりと、血反吐を吐いたかと思うとギンが倒れ込んだ

 

「ギン!!」

 

慌ててルフィが駆け寄る

 

「ハッハッハッハッハッハッハッハ!!バカな野郎だぜ!!」

 

突如、クリークの高笑いが聴こえてきた

 

「たかがメシに大層な恩持っちまうから、そんな目にあうのさ!まァ…バカ死なねェと分からねェか…ハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」

 

「……………」

 

「はぁ…はぁ…はっ……ド……ン………ドン…クリーク……っ」

 

ガクガクガクと、穴という穴から血と涙を流しながらギンが、必死にクリークの名を呼ぶ

それを見た、サンジがぐっとギンを抱える手に力を込めた

 

「ギン……」

 

サンジが、静かに呟く

そして、ゆっくりとクリークを睨みつけた

 

「ギン、お前は……付いて行く男を間違えたらしいぜ……っ!!」

 

サンジのその言葉に、クリークが更に笑い出す

 

「ハーッハッハッハッハッハッハ!同情してくれるのか?うちのカス野郎に!」

 

「カスだと!?」

 

「そうとも、目的を失っておれの命令をきけねェ様なバカは、今後役に立つ当てもねェ。 また同じことを繰り返さんとも限らねェそいつは、いっそこの場で殺してやるのが、おれの愛だろう?」

 

クリークの言葉に、信じられなかったのはサンジ達だけでは無かった

それを聴いていた海賊達も、目の前の光景が信じられない事の様に目を疑った

 

「まさか、首領(ドン)が総隊長を殺すなんて…っ!」

 

「まさか!いくらなんでもそんな……っ!!ギンさんは、首領(ドン)の右腕だぞ!?」

 

その時だった

 

「ギンさん!!」

 

レウリアの声が響いた

サンジがハッとして振り返ると、レウリアがこちらに向かって駆け寄ってきた

 

「リアさん!」

 

その後ろで、パティとカルネが唖然としている

 

レウリアは、すぐさまギンを見ると自身の口元を覆った

 

酷い…

これじゃぁ……

 

だが、ここで諦める訳にはいかない

 

「解毒剤は無いの!?」

 

「解毒剤!?」

 

「何処かに絶対ある筈よ…何処かに――――」

 

もしもの時のものが必ず常備されている筈だ

どこか、身近な所に―――

 

「パティ!カルネ!解毒剤あっただろ!!」

 

「お? おお、あるにはあるが…あれは、食あたり用だぜ?大体、そいつは敵なん……」

 

「何でもいいから、持って来い!!」

 

その時だった

 

「バカ野郎!だったら、直ぐそいつにマスクを当てろ。多少なり解毒作用を含んでいる筈だ」

 

「!?」

 

そうだわ、マスクなら身近にあっていざと言う時直ぐに解毒出来る!!

レウリアは慌ててマスクを探すと、すぐさまギンの顔に当てた

 

「オーナーさん、2階をお借りしてもいいでしょうか?」

 

「ああ、構わねェ」

 

ゼフの言葉に、レウリアが「ありがとうございます」と小さく頷く

 

「直ぐに2階へ運んで、そして良く呼吸をさせてあげて!助かる見込みがあるとしたら、まずそれだけよ!って、何しているのよ2人とも早く来て!!」

 

と、突然怒鳴られてパティとカルネが互いに顔を見合す

それに苛っとしたのか、サンジまでもが叫びだす

 

「早くしろよ、パティ!カルネ!!!」

 

「わ…分かったよ!うるせェな!!」

 

「おれもかよ」

 

慌ててパティとカルネが駆け寄ってくる

 

その様子を見ていたクリークは、ハッと鼻で笑うと

 

「無駄だ…もって1時間ってことか」

 

そう言って、にやりと口元に笑みを浮かべる

その時だった、

 

「…………絶対、死ぬなよギン」

 

「!」

 

不意に、ルフィが呟いた

 

「あんな奴なんかに、殺されるな!」

 

「ルフィ……」

 

レウリアがそのアイスブルーの瞳を大きく見開く

 

意地で生きろ(・・・・・・)!!分かったな!!あいつはおれがブッ飛ばしてやるから!!!」

 

「よせ……っ、あんたじゃ……あの男に……勝てない……」

 

ギンの声が途切れ途切れ聴こえる

だが、今のルフィには関係なかった

 

勝てないじゃない

勝つのだ

 

「バカ、落ちつけ!!真正面から飛び込めば、あいつの思うツボだろ!!死ぬぞ!!!」

 

サンジが慌てて止めに入る

だが――――……

 

 

ザワ…と、風が薙いだ

 

 

そして――――……

 

 

 

 

 

 

「死なねェよ」

 

 

 

 

 

 

サンジが大きく目を見開く

瞬間――――

 

ルフィはサンジの手を振り払うと、一気に駆け出した

 

 

「撃ちたきゃ好きなだけ撃ってみろっ!!!」

 

 

「おい!!」

 

サンジが止めるのも無視して、ルフィはクリークめがけて駆け出した

それを見たクリークがにやりと勝ち誇った様に笑みを浮かべる

 

「バカが…逆上した奴ほど殺しやすい奴はいねェ…」

 

それでも、ルフィは止まらなかった

一気に加速していく

 

「フン…サルでも学習能力はあると聞くが…二度も越え誤った壁にまた突っ込んでくるとはそれ以下だな、カナヅチ小僧!!」

 

「おれは諦めが悪いんだ!!」

 

「貴様にとって海は地獄!!飛べば槍の恰好の餌食!!!”ヒレ“から先は、てめェの墓場だ!!!」

 

「おれの墓場!?」

 

そう叫ぶな否や、クリークは爆弾を一気にルフィ目がけてばらまいた

 

「またあの爆弾だ!!」

 

「目くらましだ!!」

 

コック達が叫ぶ

瞬間、ドバアアアアアンと波が一気に飛沫を上げて舞い上がった

 

ルフィの視界が波で見えなくなる

それを見越していたかの様にクリークはにやりと笑みを浮かべると、ウーツ鋼の肩当てを構えた

そして

 

 

 

ドドドドドドド

 

 

 

 

一気に槍の雨をルフィ目がけて放ったのだ

 

「やべェ、逃げろ雑用!!」

 

コック達が叫ぶ

だが、ルフィは逃げなかった

真正面からクリークめがけて駆け込んだのだ

 

 

ドシュ!ドシュ!

 

「食らった!!?」

 

「ルフィ!!」

 

サンジとレウリアの声が木霊する

肩や足、脇にどんどん槍が刺さっていく

だが、ルフィは止まらなかった

 

 

そのまま一気に飛沫を上げた波を越えると――――

 

 

「ゴムゴムの―――――」

 

 

 

ぐいーんと腕を撃っ気に伸ばし上げる

それを見た、クリークは口元に笑みを浮かべて、マントでバサッと広げた

そして――――

 

 

 

「殴れるもんなら、殴ってみろ!!」

 

 

 

 

「なっ、なんだありゃぁ!!」

 

ぎょっとしたのは、サンジ達だった

 

クリークが自身を覆ったマントの先には剣山の様に針の山で一杯だったのだ

 

「汚ねェ…!何だ、あの針だらけのマントは!!!」

 

「あんなの素手じゃ、触れもしねェじゃねェか!!!」

 

クリークがにやりと笑みを浮かべる

 

「ククク…手も足も出まい、この……」

 

 

 

 

 

 

  「――――――“銃弾(ブレッド)”っ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォ!!!

 

 

「!!!!?」

 

 

 

「ん何ィ―――――――っ!!!」

 

 

ルフィの拳は、見事なまでにクリークの顔面にヒットしたのだ

今まで無敗を掲げていた首領(ドン)・クリーク

 

 

一度も、膝を付く所すら見た事のなかったクリークが……

 

 

「うわあああああああ!!!」

 

首領(ドン)・クリークが…吹っ飛ばされたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「何なんだ、あいつは!?」

 

「剣山ごと、殴りやがった…っ!!?」

 

海賊達に一気にどよめきが走る

 

「何て事を…何なんだあいつは…!!」

 

「今の今まで、首領(ドン)が膝を付く所すら見た事ねェのに……!!」

 

「顔面ブッ飛ばしやがった…しかも剣山マントの上から!!」

 

ルフィは、ゆくりと肩に刺さっていた槍に手を伸ばした

ボタボタ…と血が流れ落ちる

 

「ここはおれの…墓場か……」

 

ぐいっと、槍の抜き取ると投げ捨てた

 

「お前の墓場か……」

 

そして、脇、足とどんどん抜いて行く

 

「おれの墓場か……!!」

 

そして最後の槍を引っこ抜くと、そのまま遠くへ投げ捨てた

 

「はぁ…はぁ………」

 

抜き去ったその槍には、生々しいほどルフィの血が付いていた

 

「こんなもので……たかが槍と針のマントくらいで、おれの墓場って決めるな……!! ここは、おれの死に場所じゃねェ!!!

 

誰もが言葉を失った

それぐらい、ルフィはめちゃくちゃだった

 

サンジは息を呑んだ

 

「無茶苦茶だぜ…あの野郎…」

 

サンジの言葉に、ゼフが一度だけサンジを見る

そして、微かに笑みを浮かべた

 

「たまにいるんだ。標的を決めたら死ぬまで戦う事を止めねェバカが……」

 

「死ぬまで、戦う事を……?」

 

「ああいうのを敵に回すと厄介なモンだぜ……」

 

「………………」

 

「この勝負、勝つにせよ、負けるにせよ。おれはああいう奴が好きだがね……」

 

「………………」

 

サンジは、じっとルフィを見た

ルフィは、ただ静かにそこに立っていたのだった――――……

 

その時だった

 

「ちょっとぉ~アタシのクリークちゃん誘惑してるのは誰?」

 

突然、何処からともなく謎のドスのきいた男の声が聴こえてきた

レウリアとサンジがハッとして、崩れたガレオン船の先を見た

 

ふわり…と、ここまで噎せ返る程の薔薇の香水の匂いが漂ってくる

そして、コツリ…と音がしたかと思うと、そこから人影が現れた

 

そこには、サンジも目をハートマークにしそうなほどの美女が立っていたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、クリーク戦突入です

が…その前に、変なの来ましたww

 

何処で出してやろうと思ってましたが…

ここで出て来たよ 変なのが…

誰ですかね? 

 

2013/09/14