MARIKA

-Blue rose and Eternal vow-

 

  Act. Ⅰ 海上レストラン 18

 

 

 

サンジは“それ”を見た瞬間、頭が真っ白になった

持っていた包丁がガランと音と立てて落ちていく

そして、そのままがっくり…と膝を付いた

 

震える手で“それ”掴む

ジャラジャラと音を立てて、サンジの手から零れ落ちた

 

食べ物だと思っていた

これで、空腹を満たせると思った

 

 

なのに――――

 

 

“そこ“にあったのは、宝石の散りばめられた指輪やネックレス

黄金のナイフに、金貨の山

 

誰しもが、喉から手が出る程欲しがるような、宝の山だった

 

「船が見えるまで、接触はナシだと言った筈だぞ……」

 

「なんで……?」

 

『そこの袋、お前の取り分だ』

 

食糧だと思った

 

『当たり前だ、おれは大人なんだ。胃袋のデカさが違う』

 

「全部……宝だ………!!」

 

『分かてやるだけ寛大だと思え、妙な憐みは期待するなよ』

 

「全部、宝だぞ!?」

 

食糧では無かった

全て 全て宝だった

 

ゼフは、振り返る事無く小さく息を吐いた

 

「……金はあるのに……食えねェってのも可笑しな話だな…」

 

サンジは手の中の宝を眺めながら震える声で呟いた

 

「おい……袋いっぱい全部…宝だぞ……」

 

「……………」

 

ゼフは何も答えなかった

 

 

はぁ……はぁ……

 

息が酷く大きく聴こえる

食糧だと思っていた物はすべて宝だった

食糧などひとつも入っていなかった

 

 

はぁ……はぁ……

 

ひとつも……

 

サンジはたまらずゼフに掴みかかった

 

「何だよコレ!どういう事だよ一体!!食糧は!?お前、今日まで何も食わなかったのかよ!!?おれより胃袋デカいんじゃなかったのかよ!!おい!なんとか言え――――っ!!?」

 

サンジが、ゼフに掴みかかって振り返らそうと前に出た時だった

 

「!!?」

 

“それ”を見た瞬間、サンジはへなへなっとその場にへたり込んだ

 

”赫足のゼフ“

あの“偉大なる航路”を航海して帰って来た男

誰もが恐れる程の足技を持ち、その右足が相手の血で赤く染まる事から付いた通り名―――

だが――――

 

「どうしたんだよ、その足……」

 

そこには、ゼフの右足は無かった

止血の様に縛られた右ひざの下の先には何も無かったのだ

 

一瞬、脳裏に蘇る風景

 

挟まれたゼフの右足

絡ませる錨と、飛びと散る血しぶき

 

あ……

あの時……

 

自分を助けに来てくれる 人影―――……

 

「夢じゃ…なかったのか………」

 

夢だと思っていた

敵であるはずのゼフが助けに来るなど

ある筈ないと思っていた

なのに――――………

 

 

夢では なかった

 

 

「おれを助ける為……それ………」

 

そこまで言った瞬間、サンジの目に涙が浮かんだ

 

「食糧は……おれにくれたのが全部だったのか……!!?」

 

「そうだ…」

 

「その足無かったら、もうお前海賊やれねえじゃねえかよ!!」

 

「そうだな……」

 

「なんでだよ………」

 

ボロボロと涙が零れた

 

敵なのに

相手は海賊なのに

 

こいつさえいなければ、こんな目に合わなかったのに

 

 

なのに……

 

「余計な事すんなよ!おれはお前のこと殺す気だったんだぞ!!?おれは、お前なんかに優しくされるおぼえはねえぞ!!!」

 

全部全部、ゼフのせいなのに…

それなのに……

 

涙が止まらない

溢れてあふれて止まらない

 

「……何でだよ…何でだ!!!」

 

サンジの叫びに、ゼフは静かに前を見据えた

 

「お前が…お前がおれと同じ夢を持ってたからだ」

 

「……………!!」

 


その言葉に、サンジはハッとした

 

「オールブルー……」

 

 

『お!おれはいつか……!!!オールブルーを見つけるんだ………っ!!!!』

 

 

ザァ…と風が吹いた気がした

 

「けど……そんなもん無いってお前の仲間も……!!」

 

「あるさ、時期が来たら“偉大なる航路(グランドライン)”を目指せ。オールブルーはきっとあそこにある」

 

ゼフはまっすく見据えたまま、その瞳はどこまでも真髄だった

 

「おれはこの通り、もう海賊はやれねェが…今度は、お前が行って見つければいい」

 

そこまで言った瞬間、ゼフの身体がぐらりと倒れた

そのまま、ばたんっとその場に倒れこむ

 

「お、おい!!ジジイ、死ぬな!!」

 

サンジが慌てて駆け寄る

 

「勝手な事して………勝手に死ぬなよ!!!」

 

ピクリと微かに、ゼフの瞳が開く

 

「……海は、広くて……残酷だなァ……この海を…この海の広さを呪って死んでいった奴らは……どのくらいいるんだろうなァ……」

 

「!?」

 

「今までものが食えないこういう危機はには何度も遭ってきたが…その度に思う。海のど真ん中にレストランでもあったらなァってよ」

 

「レストラン……?」

 

「ああ…そうだ。ここから生きて出られたら、おれの最後の生きがいにレストランをブッ建てようと思ってた。今の海賊時代に、そんな店やれるのはおれぐらいのもんだ」

 

サンジは大きく目を見開いた

 

海のど真ん中にレストラン

それは、どんなに素晴らしい事だろう

 

自分達みたいな人たちに腹いっぱい食わせてやる事ができる

 

「……よし!おれもそれ手伝うよ!!だから、死ぬな!!」

 

サンジの言葉に、ゼフが鼻で笑った

 

「……ッハ!てめェみてェな貧弱なチビナスにゃムリだ………」

 

「強くだってなるさ!!だから……」

 

また、ボロボロと涙が零れた

 

「死ぬなァ……」

 

死んでほしくない

生きていて欲しい……

 

その時だった、遠くの方で帆船の通る波の音が聴こえた

サンジはハッとして水平線の向こうを見た

 

そこには―――……

 

 

「船だ……」

 

船だった……

 

 

 

 

「…………、…………、…………お―――――い!! 助けてくれ――――!!」

 

 

サンジは叫んだ

 

 

 

「ジジイを…くそジジイを助けてくれ―――――!!!!」

 

 

 

顔がぐしゃぐしゃになるぐらい泣き叫んだ

 

大きく手を振って、力の限り叫んだ

 

 

自分はいい

ゼフだけでも何としても助けて欲しかった

 

 

だから、サンジは叫んだ

叫んで、叫んで、叫んだのだった

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

「……クシジジイは、てめェの足の代わりにおれを生かしてくれた……」

 

サンジが、ガンッとヒレを叩きながらよろよろと立ち上がる

 

「サンジさん……」

 

誰しもが、サンジの言葉を聴いて、信じられない事の様に目を見開いた

いつも、喧嘩ばかりしていた

いつも、言い争っては殴られていた

 

そのサンジがゼフに助けられたのだという

 

レウリアがサンジの言葉に、そのアイスブルーの瞳を一度だけ瞬かせた

 

何かあるとは思っていた

サンジのギンに対する態度

敵だと分かっていても、クリークに食事を与えた

その後に、何が起こるか想像付いていても…だ

 

それが、こんな……

 

「レストランは渡さねェ、クソジジイも殺させねェ……」

 

サンジは、ぐいっと口元の血を拭った

 

 

 

 

 

 

「おれだって……おれだって死ぬぐらいの事しねェと、クソジジイに恩返し出来ねェんだよ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

「……………っ」

 

サンジの言葉に、レウリアは息を飲んだ

 

サンジは死ぬ気だ

あんなに、フラフラなのにまだ立ち上がろうとする

 

「サンジさ……ん、お願い立たないで…」

 

もう、いっぱいいっぱいな筈だ

立っているのも辛いだろう

止めたいのに…さっき受けたパールのダメージが大きすぎて身体が言う事を利かない

 

だが、サンジはそのままレウリアを抱き上げると、傍に座らせ小さく笑みを浮かべた

 

「すみません、リアさん。これだけは、譲れないんです」

 

そう言って、くいっとネクタイを直すとパールの方を見た

 

駄目だ……

 

レウリアは思った

 

いくら、レウリアが止めた所で、彼は何度でも立ち上がるだろう

レウリアはまだいい

自分の周りには常にネフェルティが、風の防御壁を張っているので多少のダメージは軽減出来る

だからこそ、自分の身を盾にする事を厭わない

少なくとも、レウリアが間に入る事でその者へのダメージも軽減出来る

 

だが、サンジは違う

直接、パールの攻撃のダメージが入っている筈だ

あの攻撃から察するに、軽くアバラが何本もいっている筈である

 

それなのに………

 

「サンジ!!余計なマネするな。チビナスに庇われる程おれは落ちぶれちゃいねェよ!!」

 

今は、ゼフの憎まれ口もサンジにとっては心地よいものだった

くっと笑みを浮かべると

 

「余計なマネしやがったのはどっちだよ。その右足さえ失ってなきゃ、こんな奴らにナメられる事は無かった筈だぜ!!」

 

そう言うが、最早サンジはフラフラだった

 

「あの野郎、フラフラじゃねェか……!!」

 

「オーナーのあの足は、どうやらサンジの為に失ったものらしな」

 

「……じゃぁ、あいつがずっとこの店にいたのは…オーナーに恩返しする為だったのか……!!」

 

「ケンカばっかりしてるあの2人に、そんな因縁があったとは……」

 

コック達も、パティもカルネも、信じられない事の様にごくりと息を飲んだ

 

ただ、ルフィだけがじっと何も言わずに見ていた

 

「……なぜ…なぜ、立ち上がるんだよ…サンジさん……!!!」

 

ギンは、どうして……!と、言わずにはいられなかった

ゼフを大切に思うなら、それこそこの店を開け渡せばいいのに

そう思うのに、サンジはそうはしなかった

 

サンジはニッと笑みを浮かべると―――

 

 

 

 

「一時でも長く ここがレストランで在るために」

 

 

 

 

すべては、ゼフの そしてゼフの宝であるこのレストランを守る為に―――……

 

その言葉に、誰しもが己の耳を疑った

 

「あ……!!あの野郎、死ぬ気かよ!!」

 

「サンジ!!!」

 

パティ達が叫ぶ

 

「クソガキが……!」

 

「……………!!」

 

ゼフもギンも、ギリッと奥歯を噛み締めた

レウリアも、何も出来ない己の無力さに唇を噛み締めた

ただ、ルフィだけが違った

わなわなと震えだすと、ギリリと拳を握りしめた

 

だが、パールは面白いものを見たかのように高笑いしだした

 

 

「ハ――――ッハッハッハッハ!!こりゃまた、イブシ銀な台詞だね!!だが、このレストランはもう店じまいさ!!」

 

「………………」

 

 

「これからは、海賊船に成り代わるのさ!!ダメ押しパ~~~~~~ル――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プレゼント―――――――――ッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強烈なパールの盾の付い腕が放たれた

 

 

 

ガコン!!!!!

 

 

 

「―――――っ!!!」

 

 

サンジは避ける事も、受け流す事もしなかった

そのまま、真正面からその攻撃を食らって吹き飛ばされる

 

 

「サンジさん!!」

 

 

レウリアの声が響いた

瞬間、サンジの身体がふわっと浮き、バラティエの柵への直撃は免れる

が、それでも最初の攻撃は思いっきり入っており、サンジへのダメージは軽減しきれなかった

 

「ネフェルティ!!」

 

レウリアが何かを仕掛けようとした時だった、パールにやりと笑みを浮かべ

 

「おお―――と、手ェ出してもいいんだぜ!?ジジイが死んでもいいんならな…!!」

 

「………………っ!」

 

パールの言葉に、レウリアがギリッと奥歯を噛み締める

 

「リアさん、いいんです。手ェ出さないで下さい」

 

「だけど……っ」

 

「お願いします!」

 

サンジがちらりとギンとゼフを見る

ゼフの頭には、相変わらずギンの銃が突きつけられていた

 

「……………っ」

 

レウリアが悔し気にぐっと拳を握るのと、ルフィがギリッと奥歯を噛み締めるのは同時だった

瞬間―――――

 

 

「……………っ!!!んぬうぅぅ~~~~~~~~~~っ!!!」

 

 

突然ルフィが叫びだしたかと思うと、その足をぐいーんと空高く伸ばし上げた

ぎょとしたのは、サンジだ

 

ルフィの明らかな攻撃態勢に慌てて止めに入る

 

「バカよせ!!こいつらに手ェ出すな!!」

 

だが、ルフィは止まらなかった

 

「ルフィ!?まさか……!!」

 

「何する気だ!?あの野郎!!」

 

「!?」

 

レウリアの声と、パティやカルネ達の声が重なるのは同時だった

 

ルフィは、止める言葉も一切聞かずにずっとずっと遠くの空まで足を延ばした瞬間―――――……

 

 

 

「ゴムゴムの――――!!!」

 

 

そのままその足を思いっきり

 

 

 

 

 

      「――――――戦斧(オノ)!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

振り下ろしたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっと、サンジの過去編終わった…!

結局、まるっと2.5話ぐらい使ったな…(-_-;)

まぁ、私にしては短い方か…???

 

とりあえず、やっとパールが退場させられそうなのと、

やっと、ルフィが動かせますww

 

2013/07/22