MARIKA

-Blue rose and Eternal vow-

 

  Act. Ⅰ 海上レストラン 17

 

 

 

突然、大津波がクック海賊船にぶち当たった

瞬間、海賊船がオービット号にぶつかる

 

「!?」

 

気付いた時にはもう遅かった

ぶつかった衝撃で波が一気にオービット号の甲板に押し寄せてきたのだった

 

「サンジ!!!」

 

その波は瞬く間に甲板をサンジごと飲み込んだ

 

「うわあああ!!!」

 

サンジの身体は一気に浮きあげられたかと思うと、船の外へ投げ出された

 

「―――――っ!!!」

 

「サンジぃぃぃぃ!!!!!」

 

死にたくねェ………っ!!

 

そのままサンジは嵐の海の中へ呑みこまれたのだ

その時だった

 

ゼフは「ちっ」と舌打ちをしたかと思うと、突然駆け出した

そしてそのまま高く飛び上がると、その足で思いっきりオービット号のマストを蹴り飛ばした

マストがギシギシと音を立ててサンジの落ちた方へと倒れていく

 

「クソガキが…!」

 

ゼフは、マストを支えに掴んだままそのまま海へと自身も飛び込んだのだ

 

「船長!!」

 

「どうして、そんなガキ一匹……っ!!!」

 

海賊達には理解出来なかった

今の今まで「殺してしまえ」と言っていた子供1人助ける為に、ゼフは嵐の中海へ飛び込んだのだ

 

今までこんな事一度も無かった

なのに、あの子供に何がゼフをそこまでさせたのか、海賊達には理解出来なかった

 

その時だった

大津波がクック海賊船と、オービット号を飲み込む様に襲ってきたのだった

 

 

 

 

 

「うわああああああああああああ」

 

 

 

 

 

海賊達は、船員たちはそのまま海の中へと飲まれていった

 

 

 

 

ゼフは、マストを支柱に海中へと潜って行った

目の前であの子供が沈んで行っている

 

自分でもどうかしていると思った

普段なら、絶対に助けに行く事などしなかっただろう

だが……

 

 

 

『お!おれはいつか……!!!オールブルーを見つけるんだ………っ!!!!』

 

 

 

あの子供の声が頭から離れない

 

“オールブルー”

 

あの子供も、それを夢見ていた

だからなのか

放ってはおけなかった

 

助けたいと 思った

 

なんとかそこまで泳いで行こうと手を動かしていた時だった

ゴボボボオと海上の方が騒がしくなったかと思うと、ドーン!という音と供に、船の残骸が一気に押し寄せてきた

 

ゼフが大きく目を見開いた

 

 

ビシャアアアンと雷が海面を走る音が聴こえる

 

ああ…船は沈んだのか…と、静かに思った

あの嵐だ

もしかしたら、誰も助からなかったかもしれない

 

酒瓶や船の破片、舵

色々な物が、音もなく沈んでいく

 

ビシャアアアア!と、また海面を雷が走った

ゼフが、状況が収まるまでその場を動けなかった

 

船の破片が身体に圧し掛かり、ゼフの動きを封じていたのだ

 

だが、こうしている間にもどんどんサンジは深い底へ沈んで居ていた

 

早く助けなければ……死んでしまう

それに、これ以上長引けばゼフ自身も助からない

 

ゼフは、何とか破片を押しのけると再びサンジの元へ行こうとした

が――――……

 

「………っ!?」

 

ぐんっと、何かに足を引っ張られた

ハッとしてそれを見ると―――右足が船と船の瓦礫の間に挟まっていて身動きが取れなくなっていたのだ

何度引っ張っても、がっちり挟まってびくりともしない

そうこうしている内にサンジはどんどん沈んでいく

 

もう、時間が無かった

 

早くしなければ……!!

 

その時だった、目の前を錨が揺れていた

 

「―――――っ」

 

ゼフは意を決した様に錨を引っ張りその鎖で自身の右足を縛ると、刃の部分を目の前の瓦礫に突き刺す

そして――――

 

ギイ ドオオオオオン

 

    ジャララララララ 

 

         ガシャ――――――ン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンジは、今にも意識が遠くなりそうな中で、誰かが近づいてくるのを見た気がした

遠くで、誰かが—————………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザ―――ン

  ザ―――――ン

 

 

波の音が聴こえる

頬を風が撫でる感触――――

 

「…………あ」

 

ふと、サンジは目を覚ました

目の前に広がる青い空

聴こえる波の音

 

 

ここは……

 

 

「気が付いたか、チビナス……運の強ェ野郎だ」

 

「!」

 

突然降ってきた声に、サンジはぎょっとして起き上がった

 

この声は、忘れる筈もない

 

「か……かいぞっ、いて!!いででっ!!」

 


「海賊!」と叫ぼうとした瞬間、腹部に激痛が走った

声をまともに発するだけで痛みが走る

 

その様子を聴いていたゼフは「ふん」と鼻息を荒くした

 

「動ける訳ねェだろうが。誰の蹴りを食らったと思ってるんだ」

 

「………っ、船は!」

 

サンジは腹部が痛いのを堪えながら叫んだ

サンジの声に、ゼフは振り返る事無く

 

「さァな、あの荒れようだ。全滅しててもおかしくねェ」

 

「……………っ」

 

その言葉に、サンジはギリッと奥歯を噛み締めた

誰のせいだ!!

 

そう叫んでやりたいのを、必死に我慢する

 

「ただ…ウチの船は間違いなく潰れたな。残骸みりゃ分かる 死体がねェのはせめてもの気休めだがな」

 

「!」

 

言われて、サンジは辺りを見渡した

見れば、船の残骸がいたる所に散らばている

 

「嵐があったのは2日前。ここに打ち上げられたのはおれとお前だけだ。木の実もねェ、動物もいねェ、海には魚ぐらいいるだろうが、岩は波にえぐられて一度降りたら帰って来れねェ様な“ねずみ返し”になってやがる 泣けてくるだろ」

 

「へっ!全部、お前のせいだからな!!ぶっ殺してやる!!!」

 

そうだ、全部この海賊が来たのがいけないのだ

海賊さえこなければ、あんな事にはならなかった

嵐だってきっと、避けられてた

 

全部、全部 この男のせいだ

 

だが、ゼフはどうでもよさ気に背を向けたまま「ふん」とまた鼻を鳴らした

 

「吠えてろ。どのみち助けを待つしか道はねェ!運がよけりゃ明日にでも助かる。悪けりゃ、いつか干からびた白骨になるだけだ」

 

「は、白骨……!?」

 

骨になる姿を想像して、サンジが真っ青になった

冗談では無かった

 

「そこの袋、お前の取り分だ」

 

言われてサンジはハッとした

横には、大きな袋が置かれていた

 

「運よく打ち上げられた食糧、普通に食って5日分って所か、せいぜい頭を使って食うんだな。 お互い、コックでよかったな」

 

食糧…おれの…

 

そこまで考えて、目の前に見えたゼフの横のとてつもない大きな袋を見て愕然とした

まさか、あれは全部ゼフのだと言うのだろうか

 

「待てよ!お前の方が全然多いじゃねェか!!3倍はある!!」

 

わなわなと震える手でサンジは叫んだ

だが、ゼフはさも当然の様に

 

「当たり前だ、おれは大人なんだ。胃袋のデカさが違う」

 

そう言って、ギロリと鋭い視線だけをサンジに向けた

それは、海賊の目だった

 

「分かてやるだけ寛大だと思え、妙な憐みは期待するなよ」

 

「…………っ!くそジジイ!!」

 

サンジはギリッと奥歯を噛みしめてゼフを睨みつけた

今のサンジにはそれが精一杯の抵抗だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕日が海を赤く照らしていた

サンジはじっと岩場に座ったまま水平線をじっと見つめていた

 

『お前ェは、反対側の海を見張れ。船が見えたらすぐに知らせろ。それまでは、一切の接触はナシだ。無駄なエネルギーだからな。幸運を祈る』

 

ゼフはそう言っていた

だが、サンジはその言葉に従う気はなかった

 

何故、あんなやつの言いなりにならなければならないのか

 

「ふん!あのくそジジイ!船見つけたって絶対教えてやるもんか!」

 

サンジは、袋の中の食糧を並べると、何があるかチェックした

思ったよりも色々ある

 

「大丈夫、食料は5日分もあるんだし!2日もありゃ、船の1隻や2隻必ず通るさ!」

 

だが、万が一という事もある

そこで、サンジは食料を20日分に分ける事にした

流石に、20日もあれば絶対船は通る筈だ

 

「大丈夫!必ず助かるんだ!簡単だ!!」

 

そう―――大丈夫だ

絶対に、助かる

 

その時は、そう思っていた

 

それから、毎日サンジは日が暮れると印を付けいった

1本目の印が岩に刻まれる

 

「今日は来なかったな……」

 

でも、大丈夫だ

後、2~3日の辛抱だ

その筈だ

 

そうして、また1本印が刻まれた

 

「死にたくねェよ……」

 

また1本 また1本

そうして、5日か過ぎた頃

 

その日は酷い嵐だった

海に投げ出されたあの日を思い出して、嫌な気分になる日だった

 

「雨で、これじゃ船がよくみえない……」

 

打ち上げられた船の破片で雨宿り用に屋根を作ると、サンジはその中で小さく丸くなって座った

 

「船…通らねェかな……」

 

そう呟いた時だった

 

「あ!」

 

遠くの方に、1隻の船が航行していた

 

船だ…!

 

サンジは思わず駆け出した

そして、力の限り叫ぶ

 

「おーい!おおーい!!!」

 

だが、雨と雷の音で声が届かない

 

「そうだ!火だ!火を起こして信号を…!!」

 

そう思って、集めてきた破片に石を擦り合わせて火を起こそうとする

だが、木が湿っていて上手く火が起こせなかった

 

そうこうしている内に、船がどんどん遠ざかっていく

 

「待ってくれ……!行かないでくれ……っ!!おれがここにいるんだよ!!」

 

叫べども、声が届かない

届いてくれない

 

 

「待ってくれェ!!!行かないでくれェ!!!助けてくれえええ!!!!」

 

 

サンジは声がかれる程に叫んだ

力の限り叫んだ

 

だが、雨と雷が邪魔をして声が届かない

そして、そん船はサンジに気付く事なく、そのまま行ってしまったのだ

 

 

「ち……畜生ォ!!!!」

 

 

届かなかった

どんなに叫んでも、届かなかった

 

 

届かなかったのだ―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

岩に刻まれた線が25本を超えた

 

「最後のパン……カビ生えてら……」

 

ぎゅるるるるるるると嫌な位、腹の虫が鳴った

サンジの持つ手にはカビまみれのパンが一切れ

 

もう、それしか食料は残っていなかった

サンジは虚ろな目でぼんやりと水平線を眺めながら、そのカビの生えたパンをかじった

 

頭がぼんやりする

意識も朦朧とする

 

憎らしい位、水平線は穏やかだった

 

『あーあ、勿体ねェなぁ、こんなに残してくれちゃって』

 

そう言って、客の残り物を食べていた同じ厨房のコック達

 

『みんなやめろよ、客の残りモンなんて!!味悪そうな食材もさっき捨てといたぞ』

 

そう言って、まだ食べられる残り物を平気でゴミ箱に捨てていた自分

 

『お前もどうだい、ん?』

 

『いらねェよ!』

 

あの時、捨てた食材はどれくらいの量あったのだろう

あの時、捨てなければ今もここにあったのだろうか

 

ポタ……

 ポタ……

 

気が付くと、サンジは涙を流していた

 

今ならわかる

皆が何故“勿体ない”と言っていたのか

“海のコック”とはどういうものなのか

 

あれだけ捨てていた食材があれば、どれだけ助かっただろう

あの時、捨てなければ……

 

海で食糧を確保するのはどれほど大切な事なのか……

それなのに、自分は簡単に捨てていた

 

自分は、なんと愚かな事をしていたのだろう

皆が正しかった

 

自分の行為は間違っていた

それを、こんな状況になるまで気付けないなんて――――……

 

ボロボロと涙か溢れ出てくる

ぎゅるるるるるるるる

お腹の虫がまた鳴った

 

サンジはごしごしとパンを持つ手で涙を吹いた

瞬間――――

 

ボロッと、サンジの手から最後のパンが転げ落ちた

 

「あ!」

 

慌てて掴もうとするが、パンはそのまま転げ落ちる様に海へと落ちていったのだ

 

「……さいご、の、パン……」

 

結局、それを掴む事は叶わなかった

 

それから、また月日が経った

 

30日目が経過し

50日目が経過し

70日目が経過する頃には、もうサンジの意識はほとんど正気を保てていなかった

 

髪はバサバサになり、頬は完全に痩せこけ、腕も足もガリガリになっていた

 

「………あのクソジジイは、もう…死んだ…かな?」

 

サンジは、何とか力を振り絞って這いつくばりながら反対側の岩場の様子を覗き見た

 

そこには、背を向けて座ったままのゼフの姿があった

 

「あ……あいつ、まだ生きてる……」

 

そこまで呟いて、ゼフの後ろにある大きな袋に目がいった

それは、ゼフは自分の取り分だと言って取って行った食糧だった

 

「食糧があんなに……!!あんなに、食い物がある……っ!!!」

 

サンジが狂気じみた様に、顔に笑みを浮かべた

そして、持っていた包丁をスッと抜き出す

 

「……何が何でも奪ってやる……!もともと、全部あいつが悪いんだ…っ。おれは生きたいんだ」

 

サンジは、口元に笑みを浮かべると、そっと背後から岩場に隠れつつゼフに近づいた

 

奪ってやる……

あいつから、奪ってやる……!!

 

そう思って、ゼフに近づいた

その時だった

 

「何しに来たチビナス……!船が見えたのか?」

 

サンジは、はぁはぁ…と息をした後キッとゼフを睨みつけた

そして、包丁を向ける

 

「お前の食糧を奪いに来たんだ!殺せるもんなら、殺してみろよ…!どうせ、おれはこれ以上食えなきゃ死んじまうんだからな…っ」

 

「……………」

 

ゼフは何も答えなかった

 

サンジは、ぜぇぜぇと息をしながら全力で食糧の入った袋に向かって走り出した

 

「こんなにたくさん、お前だけ……!」

 

そう言って、包丁を袋に突き付ける

これで、食い物にありつける

食べられる!!

 

そう思っていた

そう思っていたのに――――

 

 

「え…………」

 

 

 

ガラガラガラガラ

      ガシャン

 

 

 

「…………………」

 

サンジは“それ”を見た瞬間、頭が真っ白になった

 

持っていた包丁がガランと音と立てて落ちていく

そして、そのままがっくり…と膝を付いた

 

食べ物だと思っていた

これで、空腹を満たせると思ってた

 

 

なのに――――

 

 

出てきた物は、食糧ではなかった

食糧など、一つもなかった

 

 

あったのは、輝くばかりの宝石や金貨ばかりだった

 

 

            全部、全部、宝だった――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ……?

サンジ過去編終わらなかったよΣ(゚Д゚)

すません…ちょっと足りなかったです

次回では、間違いなく終わりますけどねー

 

とりあえず、今回は名前変換ないです(そりゃそうだww)

すません… 

 

2013/07/15