MARIKA

-Blue rose and Eternal vow-

 

  Act. Ⅰ 海上レストラン 15

 

 

 

「これで、戦いは終わりだ」

 

誰しもが、目を疑った

つい先ほどまで、爆風で火を消し飛ばすほどの蹴りをしていたゼフが、あのギンに抑え込まれていたのだ

そして、その頭には銃口が突きつけられていた

 

「そうだ!撃て!!“赫足のゼフ”を、そいつさえ殺せばレストランはおれ達のものだ!!」

 

クリークの勝ち誇った様な声が木霊する

だが、レウリア達にはその声は届いていなかった

むしろ、今目の前で起きている現実が信じられなかった

 

いや、信じたくなかった

 

仮にもサンジの飯を食って泣いていたギンが

クリークから逃がそうとしてくれたギンが……

 

今、ゼフという人質を取って脅しを掛けて来ているなんて……

 

「ギンさん…」

 

レウリアは、もう一度 現実を確認する様にそのアイスブルーの瞳を瞬かせた

 

いや、おかしくない

普通に考えたらこうなっていてもおかしくないのだ

 

信じたくないと思う、自分達の方がおかしい

 

曲がりにもギンはクリーク海賊団の一味

それだけではない

ギンの立場は、そこら辺の下っ端とは違う

もっと、別の―――――

 

「ギン!!!」

 

ルフィが我慢ならないと言う風に叫んだ

今にも襲い掛からんとする

 

「ちょ…ちょっと、ルフィ!駄目よ!!」

 

ぎょっとして、それを慌てて止めたのは他ならぬレウリアだった

今、迂闊に動けはゼフの命が危ない

ルフィを行かせるわけにはいかなかった

それをルフィも分かっているからか、ギリッと奥歯を噛み締めるとギンを睨みつけた

 

サンジは黙ったままじっとギンを見ていた

レウリアも、どう動くべきか考えつつギンとゼフを見る

 

ギンの表情は読めなかった

顔が見えない

 

その時、ギンの声が響いた

 

「過去にどれだけスゴかった男でも、こうなっちゃただのコック。頭を撃ち抜くのも簡単だ」

 

そう言って、トリガーに手を掛ける

ざわりと、周りがざわめいた

 

「あンの野郎、オーナーの義足(あし)を!!」

 

「畜生ォ!!」

 

「オーナー!!」

 

パティやカネル 他のコック達の声が響く

だが、誰も動く事が出来なかった

 

ゼフの義足(あし)はギンによって折られていた

足を無くしたゼフは、成す術もなくギンに押さえつけられたのだろう

 

「卑怯だぞ!てめぇ!!」

 

ルフィが叫ぶが、やはりサンジは動かなかった

瞬き一つせずに、じっとギンを睨みつける

 

「この男を助けたいだろう?サンジさん。 頼む、大人しくこの船を降りてくれ。……おれは、アンタを殺したくねェんだ」

 

え………?

 

まさかのギンからの提示に、レウリアが大きくそのアイスブルーの瞳を見開いた

 

どういうこと?

その為に、オーナーさんを人質に取ったというの?

 

サンジを生かす為に?

 

その言葉に驚いたのはレウリアだけではなかった

海賊達も、信じられない言葉を聞いた様に大きく目を見開いた

 

だが、サンジは違った

ゆっくりと息を吐くと、煙草を口に添える

 

「……船を降りろ?」

 

そう言って、小さく息を吐いた

 

 

「―――――やなこった」

 

 

「………っ!?」

 

サンジから出た否定の言葉に、ギンが信じられないものを見た様に動揺の色を見せた

 

「バ…バカ野郎、サンジ!!」

 

「挑発すんじゃねェ!!オーナーが………!!」

 

コック達が慌てふためいた様に叫ぶ

だが、サンジは引かなかった

 

「なんてマヌケな姿だよ、クシジジイ。そんなじゃ、戦うコック共に示しがつかねェろ」

 

サンジの言葉に、ゼフはフンッと鼻を鳴らした

 

「フン……チビナスにァ、何も言われたかねェな」

 

「何がチビナスだ クソ野郎!!いつまでも、ガキ扱いすんじゃねェ!!!」

 

ゼフの言葉に反発する様に、サンジが叫んだ

それを見たコック達は益々真っ青になって頭を抱えた

 

「サンジの野郎、この期に及んで……!!」

 

「まさか、オーナーを見捨てる気じゃねェだろうな…!?」

 

その時だった

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギン、その(ピストル) おれに向けろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

サンジからの言葉に、その場の全員がどよめきだした

 

「サンジさん!? 何言って……っ!!」

 

「お前、バカか!死ぬぞ!!!?」

 

レウリアとルフィも慌てた様にそう叫ぶが、サンジが何でもない事の様に「まァな」とだけ答えた

 

その答えに、ゼフが俄かに反応する

 

だが、衝撃が一番大きかったのはギンだった

 

「…………!?サンジさん……!!何で……っ!!」

 

ここまで言って、そう振られるとは思っていなかったのだろう

少なくとも、こうすればサンジは船を降りてくれる――――そう思っていた

 

だが、サンジの答えはまるで逆方向だった

降りるのではなく、自分に銃を向けろと言うのだ

 

「ちょっ……ちょっと待って! だったら ギンさん、私にを向けて!! 私が、代わりになるわ!だ から――――」

 

「リア!? お前まで何言って…!?」

 

ルフィが止めるのもきかずにレウリアは前に出た

いや、出ようとしたが―――

 

「駄目です、リアさん」

 

サンジがスッとレウリアの前に出て止めた

サンジからの制止の言葉にレウリアが抗議の声を上げる

 

「止めないで! サンジさんに、身代わりになるとか馬鹿な事真似させられる訳ないでしょう!? サンジさんがなるぐらいなら、私がなるわ!!」

 

「駄目です」

 

「止めないでと言っているでしょう!! さぁ、ギンさん私にを向けなさい!! その代り、オーナーさんは今すぐ解放して!!」

 

「リアさん!!」

 

サンジの制止も聞かずに、レウリアはギンの目の前まで躍り出た

まさかの、レウリアからの言葉にギンが驚いた様にわなわなと震えだす

 

「なんで、あんたまで……っ」

 

ギンには理解出来なかった

ゼフに向けた銃を自分に向けろと言うサンジも

そのサンジの代わりに、なるというレウリアも

どうしても、理解出来なかった

 

どうして……

なんでなんだ……!!

 

サンジ達が船を降りればすべてが解決するというのに

ゼフの命も

サンジ達の命も

すべて、助かるというのに―――――

 

 

どうして、降りてくれないんだ……!!?

 

 

カチカチと、銃を持つ手が震えだす

 

レウリアが目の前にいる

あの“翔風“と謳われた凄腕の女将校が目の前に――――

彼女を討てば名が上がる

海賊ならば、誰しもが思うことだ

 

だが、今のギンにはそんな感情微塵も浮かんでこなかった

 

ただ、目の前の現実が受け入れがた過ぎて信じられなかった

 

「リアさん!!」

 

その時だった

サンジがレウリアの腕を引いたかと思うと、そのままその背に庇った

 

「ちょ……サンジさん、放して!!」

 

「放せません。 怪我でもしたらどうするんですか!!」

 

「それは、サンジさんも同じでしょう!!」

 

レウリアには見ていられなかった

ギンの気持ちも、サンジの気持ちも理解したくなかった

理解すれば、納得せざるを得なくなる

納得したくなかった

 

目の前でそうやって死んでいくものを何人も見た

誰かを犠牲にして生きた命に、未来(さき)は無い

 

 

それを知っているから――――

 

 

サンジに身代わりなどさせられなかった

 

「どうした、ギン? 早くおれに向けろ」

 

「ギンさん! 銃を向けなさい!!」

 

2人からの言葉に、ギンが戸惑いの色を示した時だった

 

 

「――――そんなに死にたきゃ……殺してやるぜ――イブシ銀にな!!」

 

 

それは突然だった

後ろから、パールがゆらりと立ち上がると、その口元ににやりと笑みを浮かべた

 

「“動くなよ(・・・・)” オーナーの頭を吹き飛ばされたくなかったらな……!!」

 

「……………!!」

 

ギンの表情がぎょっとした様に青くなる

 

 

「超天然 パ~~~~~~~ル!!!」

 

 

瞬間、パールが飛び上がったかと思うと――――

 

 

「!」

 

 

 

 

 

 

 

「―――――プレゼントッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っ!!!」

 

ゴキィ……!!!

 

という音と共に、パールの放った盾の突起部分がサンジの顔面に直撃した

 

「サンジさん!!!」

 

そのまま、サンジがレウリアの横を通り過ぎバラティエのエントランスホールの柵まで吹き飛ぶ

瞬間―――――

 

「お前もだ―――女ァ!!」

 

そう叫ぶな否や、パールの炎の粒でがレウリアめがけて放たれた

 

「…………っ!」

 

一瞬、避けようとする

が……

 

パールの言葉が脳裏を過ぎった

 

 

 

『“動くなよ” オーナーの頭を吹き飛ばされたくなかったらな……!!』

 

 

 

避ければ、ギンが引き金を引くのを許す事になる

それだけではない

レウリアの真後ろにはゼフとギンがいた

 

今、避ければ二人に当たる

 

そう思った瞬間、レウリアは避けなかった

 

「…………っ!」

 

否、避ける訳にはいかなかった

瞬間、パールの粒が一斉に襲い掛かって来た

 

「―――――――!!!」

 

避ける事も、防ぐ事も出来ず、レウリアはその粒を真正面から食らってしまった

レウリアの身体が、衝撃に耐えかねてエントランス側へ吹き飛ぶ

 

 

 

「リア!!」

 

 

 

ルフィの声が聴こえた気がした

だが、レウリアはそれどころではなかった

 

ネフェルティが常に張ってくれている防壁で直撃は免れたが、避けなかったリスクは大きい

数多の粒がレウリアの身体に傷をつけていった

 

ぶつかる――――――!!

 

そう思った時だった

 

「リアさん!!」

 

サンジがそう叫ぶな否や、レウリア庇う様に何とか力を振り絞って飛び出すとそのまま二人して壁に激突した

 

「―――――うっ!!」

 

流石に、立て続けに二度も食らえば、骨がやられてもおかしくない

だが、それはレウリアも一緒だった

一発とは言え食らえば、レウリアの身体では耐えられない

 

「リアさん……ぶじ、ですか?」

 

サンジの問いに、答える事も出来ずレウリアは咽る様に咳き込んだ

 

「サンジ! リア! お前ら、なんで避けねェんだよ!!!」

 

ルフィが、いてもたってもいられないように叫んだ

サンジはげほ…っと咳き込みながら、その腕にレウリアを抱きとめ、小さく息を吐いた

 

「……そこのクソ下っ端が、引き金引いちまうだろ」

 

サンジのその言葉に、ギンが息を飲んだ

 

 

「な、何でだ!! この店捨てりゃぁ全員命は助かるんだぜ!!? 簡単だろう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この店は、そのジジイの宝だ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………っ!」

 

ギンがもう一度息を飲む

 

「サンジ!?」

 

「サンジの奴、オーナーが嫌いだったんじゃねェのか!?」

 

サンジから出たその言葉は、コック達には信じられなかった

だが、サンジにはどうでもよかった

 

「おれは、クソジジイから何もかも取り上げちまった男だ」

 

 

あの時――――

誰も居ない無人島

断崖絶壁の岩壁

助けの来ない 飢えていくだけの――――

 

 

「力も」

 

あの海で、あの場所で

 

「夢も」

 

コック達が信じられないものを見る様に目を見開く

サンジはゆっくりとレウリアを抱えたまま立ち上がる

そして――――

 

「だから、おれはもう―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソジジイには、何も失ってほしくねェんだよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼフが、驚いた様に目を見開いた

「サンジさん……」

 

レウリアが微かに、サンジのスーツを掴む

その時だった

 

 

 

「サンジ、危ねェ!!!」

 

 

 

 

「パ~~~~~~~~ル」

 

 

「!」

 

瞬間、後ろからパールが両手を大きく広げたかと思うと――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クロ―――――ズッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィン!!!

 

パールの盾を付けた両手がサイドからサンジの頭めがけて撃ち放たれたのだ

 

「ぐあ………っ!!」

 

脳天に突き刺すような痛みと、頭が割れそうなほどの痛みが同時に襲ってくる

意識が、一瞬にして吹き飛びそうになる

 

「…………っ!! あ………!!」

 

ぐらりと、サンジの身体が揺れた

 

「サンジ!!!」

 

コック達の声が微かに響いた気がした

 

「サンジさん!」

 

レウリアの声も聴こえた気がした

だが、意識が遠くなりよく聞こえない

 

 

脳裏に浮かぶ

 

嵐の中目の前に突然現れた

にやりと勝ち誇った様に笑う

 

『オールブルー?』

 

『ああ!伝説の海さ!!どこかにあるんだ、かならず!』

 

幼かったあの時、あの瞬間

 

おれは―――――

 

 

ドサッと、サンジがバラティエの甲板に倒れ込んだ

 

「サンジさん!!!」

 

レウリアが、慌ててサンジに駆け寄った

サンジの意識はもう殆ど無かった

 

「そんな……っ」

 

レウリアの言葉に、ルフィがギリリッと歯を噛み締めた

ギンもパールの非道さに、息を飲んだ

 

だが、パールはにやりと口元に笑みを浮かべると、サンジの血の付いた両の手の盾をパーンッと鳴らした

 

「おれには、何の関係もねェ話だ……」

 

そう言ってくっと喉の奥で笑うと

 

「サービスパ~~~~~~~ル!!!!」

 

 

そう叫ぶな否や、空高く飛び上がった

 

「飛んだぁ!!」

 

コック達が、これから予想出来るであろう最悪の事態に慌てだす

それは、ルフィにも分かった

 

「卑怯だぞ、ギン!!!」

 

銃口がゼフに向けられている限り、サンジは手が出せないし、避けられない

 

ルフィは怒りを露わにして叫んだ

ギンが、ぷるぷると震えだす

 

「これが、おれ達の戦い方なんだ!! 悪ィのはあんた達だぞ!! 船さえ渡せばおれ達の目的は達成させるのに…っ!!

 

仕方なかった

これしか、方法が無かったのだ

こういうやり方でしか、知らないのだ

 

その時だった

 

 

「イブシギ~~~~~~~ン!!!」

 

 

空高く飛び上がっていたパールが急降下しだした

それも、頭のパール部分を頂点にして

 

 

「避けろ!!サンジ!!!」

 

 

コック達が叫ぶ

 

だが、サンジには避けられない理由があった

今だ銃口はゼフに向けられている

避ける訳にはいかない

 

 

「…………っ!」

 

 

その時だった

レウリアが、サンジを庇う様に覆いかぶさったのだ

 

「!?」

 

それに驚いたのは他ならぬサンジだった

 

「リアさ……っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———————プレゼント!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオン!!!!

 

 

 

「あああああ……っ!!」

 

「うあ………っ!!」

 

パールの頭は、サンジを庇ったレウリアごと二人に直撃した

高低差のある場所からの急降下の攻撃に、身体中の骨がミシミシと悲鳴を上げる

 

「……………っ」

 

「くっそォ……!!」

 

コック達の嘆き声が聴こえる

 

「リアさ…ん……なん、て…無茶……」

 

微かに途切れそうな意識の中レウリアが、笑った気がした

 

「ハァーッハッハッハッハッハ!!!てっぺき!!!」

 

パールが勝ち誇った様に笑っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オールブルー?』

 

『ああ、知らねェの?伝説の海の名前だよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンジとの絡みが多く感じるのは、多分気のせいですww

というか、今は仕方ないなーサンジの話だし

 

うちの夢主は(どれでも大概)、基本庇っちゃう子ですので

自分が背負おうとするんですよねー何故か皆

苦手な方はすみません……

 

次回は、サンジの回想になるが…

1話で終わるのかね…???

 

2013/07/03