CRYSTAL GATE

  -The Goddess of Light-

 

 

 第三夜 ファナリス 9

 

 

 

「…………炎…?」

 

エリスティアには、今自分に何が起きたのか理解出来ていなかった

つい先ほどまで煌帝国よりも遙か南東のデリンマーとバルバッドを繋ぐ街道で奴隷狩りに合い、砦に捕まっていた筈だ

その筈なのに――――

 

何故、ここに紅炎がいるのか

一体、自分の身に何が起きたのか…

 

何ひとつ分からなかった

 

エリスティアが、大きなアクアマリンの瞳を瞬きもせずじっと紅炎を見ていると、ふと紅炎は口元に笑みを浮かべ

 

「どうした? エリス」

 

そう優しく微笑みかけると、そっとエリスティアの赤みを帯びた頬に触れた

ひやりと紅炎の手の感触が、素肌に感じた瞬間

 

ああ…本物だわ……

 

そう思うと、何故か心がほっとした

不覚にもそう思ってしまった

 

「炎…私………」

 

エリスティアがそう口を開こうとした瞬間、紅炎がくすっとやはり口元に笑みを浮かべ

 

「俺的にはこの眺めはなかなか良いがな……誘っているのか?」

 

「え……?」

 

一瞬、間抜けにも”何を…?“などと思ってしまった

そこで、はたっと我に返る

 

そうだわ…私……

 

あの時、身体を洗って来いと奴隷商人に言われて湯殿に連れて行かれたのだ

そして、従わない訳にもいかず、衣を脱いで――――……

 

衣を脱いで???

 

「……………」

 

恐る恐る自分の姿が映っている横の大鏡を見る

そこに映っていたのは……

あられもない姿で紅炎の上に乗っている自分の姿だった

 

「あ…あ…い、………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさかの姿に、エリスティアが大声で叫んだのは言うまでもない

咄嗟に近場にあった毛布を引っ手繰って後退る

 

が―――――……

 

それを紅炎が許すはずもなく

あっという間に、その手に絡め取られるとそのままぐいっと腰を引き寄せられた

 

「きゃっ……!」

 

突然の紅炎の行動に、エリスティアが反動で紅炎の胸に倒れ掛かる

どさっという音と共に、倒れ込んだ瞬間

紅炎の厚い胸板の感触がエリスティアの肌に直に触れ、知らずに頬が高揚していくのが分かった

 

「あ、ああ、あの…離し……っ」

 

慌てて口を開こうとした瞬間、ふいに紅炎の手がエリスティアの腰から胸の下の方へと動いた

 

「………んっ」

 

ぴくんっと、エリスティアの口から甘い声が洩れる

それで気分を良くしたのか、紅炎はエリスティアの美しいストロベリーブロンドの髪に口付けを落とすと

 

「俺も男だ。 そんな声を出されたらお前を抱いてしまいたい衝動を押さえられなくなるぞ?」

 

紅炎のその台詞に、エリスティアの顔が真っ赤になる

 

「炎が変な事をするから……っ!!」

 

「ほぅ…? 俺のせいだというのか? こんな姿で現れておきながら」

 

そう言って、紅炎が更にエリスティアの髪に口付けた

エリスティア本人は、益々恥ずかしくなり俯きながら

 

「こ…これは、不可抗力で……っ」

 

そうだ

この姿は不可抗力なのだ

決して、自分から進んでこの様な姿になった訳ではない

 

第一、 先程まで砦にいた筈の自分が何故――――

 

ここまで考えて、はたっと我に返る

 

「炎……? ここはどこなの?」

 

そうだ

ここは一体どこなのか

それとも、自分は夢でも見ているのだろうか…

 

「ん?」

 

エリスティアの唐突な質問に紅炎は静かに笑みを浮かべると、優しく彼女の髪を撫でながら

 

「ここは、俺の部屋だな」

 

「俺の部屋って……」

 

俺の部屋?

言われてみれば、以前通された煌帝国にある禁城の紅炎の部屋の造りとそっくり――――

 

え………

 

そっくり?

禁城の紅炎の部屋と?

 

慌てて辺りを見渡す

 

そっくり所の話ではない

まさしく、そのままだった

 

まさか……

 

「もしかして、ここは煌帝国…なの……?」

 

そんな筈…と思う

しかし、現実もし仮にもここが紅炎の部屋だとすると自分は煌帝国にいるという事になる

だが、あり得ない話だった

 

デリンマーから、煌帝国までどれ程距離があるというのだ

そんな、一瞬で移動できる筈が――――……

 

そこまで考えて、エリスティアはある事に気がついた

 

待って……

 

ヤムライハや、エリスティアが使える転移魔法

もし、この魔法が発動していたとしたら…?

 

不可能…ではない

 

だが、ここにヤムライハはいないし

エリスティア自身も使っていない

 

そもそも、あの時出現した八芒星の魔方陣はヤムライハのものでも、エリスティアのものでもなかった

もっと別の他の魔力(マゴイ)を感じた

 

では、誰のものだ?

可能性があるとするならば――――……

 

「炎……? 私に何か魔法掛けている…の?」

 

エリスティアのその言葉に、紅炎は ふと微かに笑みを浮かべ

 

「エリス……やはりお前は聡い女だな。 そういうお前だからこそ俺は欲しいと思ったのだ」

 

「じゃぁ……」

 

「だが正確には”掛けている”ではなく、”渡している”だ」

 

「え……」

 

言われてはっとする

紅炎から贈られた物は一つしかない

 

あの指輪……っ

 

思わず、エリスティアは左の小指にはめられている柘榴石の指輪を見た

それを見て、紅炎はまた微かにその口元に笑みを浮かべた

 

「それは、他人の魔力(マゴイ)や魔法を保存しておける石なのだ」

 

「保存……」

 

その石には思い当たるものがあった

シンドバッドがエリスティアを守る為に持たせている制御装置

あれは、その類と同じ品だった

7つ全ての装飾の石にシンドバッドの7人のジンの力が込められている

それにより、強固な制御装置として機能しているのだ

 

つまり

この紅炎から贈られた石にも同じような効果があるという事だろう

 

だが、ここである疑問が浮かんだ

現在、転移魔法程の特殊な魔法を使えるのは、ヤムライハとレームのマギと言われているシェヘラザード そして、エリスティア以外はいない筈だ

もしかしたら、あの人も使えるかもしれないが……

 

それ以外となると、もう限られた人物になる

果たして、煌帝国…それも紅炎の近くに転移魔法を使える人物がいただろうか……?

考えども、答えなど浮かんでこなかった

 

「炎……この国に、転移魔法を使える人がいる……?」

 

そう尋ねると、紅炎は微かに笑みを浮かべた

 

「!」

 

その反応で十分だった

いるのだ この国に!

 

瞬間、エリスティアは身を乗り出した

思わず、失礼なのも忘れ 紅炎の襟元を掴むと食って掛かる様に

 

「あ、会わせて!!」

 

そう言って叫んだ

 

一瞬、紅炎が驚いた様にその柘榴石の瞳を瞬かせる

だが、それはほんの一瞬だった

すぐさま元の余裕のある表情に変わる

 

「ふ…俺以外の男に会いたい…か。 少々焼けるな」

 

冗談めかしてそういう紅炎に、今度こそエリスティアは本気で怒った

 

「冗談を言っている場合ではないのよ!! 急がないと――――っ」

 

そうだ

自分はこんな所にいる場合じゃない

 

急いで砦に戻らなくては―――――

もし、自分が逃げたと思われればアラジン達の命が危ない

 

一刻も早く戻らなければならないのだ

 

だが、紅炎は一度だけその柘榴石の瞳を瞬かせた後

 

「エリス――――そんなあられもない姿で迫られても、お前を抱きたくなるだけだがな」

 

そう言って、冗談めかした

言われて、はっと自分が大変失礼な事をしている事に気付き慌てて手を離す

瞬間、はらりと身体を隠していた筈の毛布がはだけた

 

「…………っ」

 

エリスティアは真っ赤になりながら慌ててはだけた毛布を手繰り寄せる

目の前を見ると、紅炎がその口元に笑みを浮かべてこちらを見ていた

 

見られた……っ

完全に、見られたわ……っ!!

 

エリスティアが羞恥のあまりその顔を更に赤くさせた

 

その表情が紅炎を煽ったのか……

不意に伸びてきた紅炎の手が、エリスティアの腰を絡め取った

 

「あっ……」

 

そのままぐいっと引き寄せられる

 

あっという間に、その手に絡め取られると 口付けできそうなぐらい紅炎の顔が近くにあった

美しい彼の柘榴石の瞳と目が合う

肌が直に触れて、鼓動が速くなる

 

知らず、エリスティアの顔が赤みを帯びていった

 

「え、炎…はな、し……」

 

「嫌だと…言ったら?」

 

くすりとその口元に笑みを浮かべ紅炎がそう言う

その表情が余りにも美し過ぎて、エリスティアはますます顔を赤らめた

 

「あのっ……ほ、本当に…こんなことしている場合ではなくて……」

 

しどろもどろになりながら、何とかその言葉を絞り出す

 

本当は心臓がバクバク煩い位鳴り響いて、恥ずかしさのあまり思わずこの場から逃げ出したい気持ちで一杯だった

 

だが、転移魔法の術者を知っているのは紅炎だけだ

ここで逃げる訳にはいかなかった

 

一刻も早くその人の元に連れて行ってもらわなければ――――……

 

不意に紅炎の手がエリスティアの美しいストロベリーブロンドの髪をすくった

その髪にまるで愛おしいものに触れるかの様に口付ける

 

どきん……

 

と、エリスティアの心の臓が大きく鳴り響いた

 

「え、炎……?」

 

エリスティアが、一度だけそのアクアマリンの瞳を瞬かせた後、小さな声でそう口にした

すると、紅炎がゆっくりと顔を上げエリスティアをじっと見つめてきた

 

「……………っ」

 

ただ見られているだけだ

見られているだけなのに、エリスティアは頬が徐々に熱くなっていくのが分かった

 

「あ、あの……」

 

溜まらずそう声を洩らした時、すっと紅炎の手がエリスティアの頬に触れた

 

「エリス――――……」

 

そう甘く囁かれる

ひやりと、紅炎の手の感触がエリスティアの感覚を更に敏感にさせた

 

「あ……っ」

 

つぅ…と、微かに頬を撫でる様に動いた紅炎の手に、エリスティアが甘い声を洩らす

ぞくぞくと背筋になんとも言えない感覚が走る

 

駄目…このまま流されては……っ

 

そう思うのに、身体が 思考が 言う事を聞かない

まるで、足の先から頭のてっぺんまで、身体の全てが―――感覚が――――

紅炎に支配されている様な錯覚に陥る

 

「え…ん………っ や……あっ…」

 

なんとかそう声を絞り出す

だが、それは逆効果だったのか

その声に気分を良くしたのか、紅炎はそのままその手をエリスティアの首に後ろに回すと自身の方へと引き寄せた

 

「あ、待っ……んっ」

 

そのままあっという間に唇を塞がれる

抵抗する余裕などなかった

 

ちゅっと甘く触れられ、ぴくんっとエリスティアの肩が震える

 

「ん……あ………」

 

何度か、触れるだけの口付けをされ、徐々に思考が麻痺しだす

それを知ってか知らずか、紅炎は微かに口元に笑みを浮かべると

 

「エリス、口を開け。 俺を見ろ」

 

「え―――――」

 

頭が朦朧とする

そう言われた瞬間、身体が紅炎に支配でもされているかの様に自然と紅炎を見た

瞬間――――

 

「んん……っ あ……」

 

口付けが変わった

まるで開いた口を塞ぐかのように、一層深くなったのだ

それと呼応する様に、ぐいっと更に腰を引き寄せられる

 

流石のエリスティアもそれには反応した

 

「え、炎……待っ………ん……」

 

何とか、「待って」と言おうとするが、それは言葉にはならなかった

それどころか、更に深く深く口付られる

 

角度を変え、何度も何度も交わされる内に

エリスティアの思考が麻痺しだす

 

頭が真っ白になって何も考えられない

 

「エリス――――……」

 

甘くその名を呼ばれる度に、感覚という感覚が失われていく様だった

 

瞬間、ぐらりと身体が傾き

どさっという音と共に、寝台の上に倒れ込んだ

最初とは逆に今度は押し倒される形になる

 

が、紅炎は口付けをやめてはくれなかった

 

むさぼる様な激しい口付けは、何度も何度も交わされ

エリスティアはもう、自分がどうなっているのかすら理解出来なかった

 

溜まらず、紅炎の衣を握り締める

その反応が、更に紅炎を加速させた

 

「エリス……」

 

「え、ん……あ、………はぁ……んん」

 

吐息だけが部屋中に響き渡った

 

駄目だと

頭の片隅で囁くのに、抵抗出来ない

全身が麻痺した様に動かない

 

このままでは…私――――………

 

そう思った時だった

ふと、紅炎が微かにその口元に笑みを浮かべ

 

「このまま俺の物になるか…? エリス―――」

 

「え………」

 

一瞬、何を問われているのは理解出来なかった

 

俺のも…の………?

 

…………

…………………

………………………

 

 

 

え…?

 

「………………」

 

 

 

え!?

 

 

 

 

その時の反応は、今までにない位変だったかもしれない

瞬間的に思考が覚醒する

 

ようやく言われる意味を理解したのか

エリスティアの顔がゆでタコの様に真っ赤に染まって行く

そして、全力で否定する様にぶんぶんと顔を横に振った

 

その反応を見た瞬間、一度だけ紅炎がその柘榴石の瞳を瞬かせた後、声を上げて笑い出した

 

「な……っ」

 

まさかの紅炎の反応に、エリスティアが更に顔を真っ赤にさせる

 

「な、なによ! 笑う事ないでしょ!!」

 

思わず、そう怒鳴ってしまった

それを見た紅炎は、くつくつと笑いながら

 

「いや、ここまでやって断った女はエリス、お前が初めてだ」

 

そう言って、まだ面白いものを見たかの様に笑っていた

なんだか、それが面白くなかったのか

エリスティアが、むぅっと頬を膨らませる

 

なによ…“初めて”って事は、今まで何度同じ手を使ってきたのよ…他の女に

 

そう考えると、なんだかとても腹ただしかった

 

エリスティアのその反応を見て、紅炎がにやりと笑みを浮かべた

そして、そっとエリスティアの髪に触れる

 

「なんだ、他の女に焼いているのか? お前も、可愛い所があるのだな」

 

そう言って、その髪に口付ける

 

だが、エリスティアはますますむっとして

 

「や、焼いていません!!」

 

そう叫んだ

だが、それは逆効果だった

これでは、紅炎の言葉を肯定しているも同じだ

 

なんだか、紅炎の手のひらで転がされている様で納得いかない

 

エリスティアが、本格的にむすっとしだすと 紅炎はその口元に微かに笑みを浮かべ

そっと、耳打ちする様に

 

「安心しろ。 本気で愛した女はエリス―――お前だけだ」

 

「………っ」

 

耳に掛かる温かい吐息と甘い言葉に、かっとエリスティアの頬が赤くなる

 

「な、なな……なに―――を……言って……っ」

 

恥ずかしさのあまり、上手く言葉にならない

真っ赤になりながら、口をぱくぱくさせる

 

その姿が紅炎の何かツボにはまったのか、またくつくつと笑い始めた

それが面白くなかったのか、エリスティアは顔を真っ赤にさせたままむっとして 紅炎をどんっと叩いた

 

「もう! 炎の馬鹿!! 笑い過ぎよ!!」

 

エリスティアがそう怒鳴ると、紅炎はゆっくりと目を細め エリスティアの頭をぽんぽんと撫でた

優しげな瞳で頭を撫でられ、怒っていた筈なのに何だか恥ずかしくなる

エリスティアが頬を朱に染めた時だった

 

「話してみろ」

 

「え……?」

 

不意に投げかけられた言葉に、エリスティアが首を傾げる

だが、紅炎はゆったりと背もたれに身体を預けると手招きをした

 

「…………?」

 

招かれるままに近づいてみるとそこに座る様に促された

 

「あの……?」

 

意味が分からず、そう口を開きかけた瞬間

 

「これまでの経緯だ」

 

「…………!? 聞いて…くれる…の?」

 

まさか、紅炎からそう振られるとは思わなかったのか、エリスティアがはっと顔を上げた

 

「話によっては、会わせてやってもいい。 転移魔法の術者にな」

 

「! 本当!?」

 

瞬間、がばっとエリスティアが身を乗り出した

エリスティアのその反応に、紅炎は微かにその柘榴石の瞳を細めたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何だこの回www

単に、紅炎といちゃこらして終わった気がするww

注:これはシンドバッド夢です

 

最後の最後でやっと、本筋に戻れたわww

もー紅炎様、自由すぎ!!

 

指輪の謎解きは次回!

そして…転移魔法+煌帝国といえば…あの人の登場でーすo(^▽^)o

 

2015/03/29