CRYSTAL GATE

  -The Goddess of Light-

 

 

 第三夜 ファナリス 6

 

 

 

ごくりと、エリスティアは息を飲んだ

じめり…とした空間に緊張が走る

 

ガチャガチャと扉の錠を開ける音が、嫌な位耳に響いてくる

数秒も経たない内に、ギィ…と音がしてゆっくりと扉が開いた

 

「こっちですよ、ファティマ―さん」

 

野太い声が聴こえたかと思うと、眼帯をした横に大きな男が姿を現した

 

瞬間、コツリ…コツリ…とヒールの音が地下に響き渡る

はっとして顔を上げると、そこには似つかわしくない銀のざんばら髪の男が立っていた

 

ファティマ―と呼ばれたその男は、怪訝そうにあたりを見渡すと、面倒くさそうに溜息を付いた

 

「あ~相変わらず嫌な場所…じめっとして、薄暗くて…私、こういうとこ嫌いなのよね」

 

そう言って、肩に掛かった髪を払うと、目の前のエリスティア達をじっと見渡した

掴まっている人たちは、怪訝そうにその様子を伺っていた

 

その時だった、エリスティア達が世話になっている商隊(キャラバン)長が声を荒げる様に叫んだ

 

「おい! 俺達をどうしようってんだ!! 大体、お前は何者だ!!」

 

「……っ、隊長さん…!」

 

エリスティアが慌てて止めようとするが、商隊(キャラバン)長は止まらなかった

キッとファティマ―を睨みつけると、鎖を嵌められた手を前に付き出した

 

「さっさと、この錠を外しやがれ!! 俺達の仲間も解放しろ!!」

 

そう言って、その手でファティマ―に食って掛かると、彼の胸ぐらをつかみ上げた

 

「……………っ」

 

エリスティアが声にならない悲鳴を上げた

 

駄目よ…あの男は……っ!!

 

全身の肌が粟立つ

危険だと 周りのルフ達が囁く

 

あの男に関わってはいけない!!

 

何故かはわからない

分からないが、頭の中の警報が鳴り響く

 

ファティマ―が一瞬、卑しい者を見る様な冷めた目で自分の胸ぐらを掴んでいる商隊(キャラバン)長を見た

だが、商隊(キャラバン)長も引かなかった

 

錠さえなければ、殴りかかってたと言わんばかりにファティマーを睨みつけていた

 

止めなくては…

そう思うのに、身体がいう事を聞かない

恐怖? 萎縮? いや違う

これは―――――………

 

 

ルフが囁く

 

「逃げて」 「逃げて」 と

「ここに居てはいけない――――」 と

 

正直な所、エリスティア一人なら逃げられた

転移方陣を使えば、この場は逃げられる

 

だが―――――……

 

辺りを見渡した

お世話になった商隊(キャラバン)の皆、商隊(キャラバン)長、アラジン

そして、見ず知らずの掴まっている人達――――……

 

エリスティアの封じてある魔力(マゴイ)で、ここの人間全員を運ぶのはとうてい無理な話だった

 

その時だった、はぁーとファティマーが呆れにも似た溜息を洩らした

そして、勢いよく自分の胸ぐらを掴んでいた商隊(キャラバン)長の腕を掴むと、ぐいっと捻り上げた

 

「ぐあ…っ!」

 

錠が絡まって腕が締め上げられた商隊(キャラバン)長が顔をしかめる

 

「あんた達は立場ってものを分かって無い様ね…」

 

そう言って、ぽいっとゴミを捨てる様にその腕を放った

どさっと商隊(キャラバン)長が投げ飛ばされてこちらに返ってくる

 

「隊長さん……っ」

 

エリスティアが慌てて駆け寄った

 

「なんつー馬鹿力だ、あの女みてぇな面した野郎は……」

 

商隊(キャラバン長は、捻り上げられた腕をさすりながら、そう吐き捨てた

 

「隊長さん、無茶は……」

 

「そうだよ、おじさん。危ないよ」

 

エリスティアの言葉に、アラジンもそう同意する様に頷いた

その時だった、ファティマーがまた溜息をついた

 

「まったく、商売モノに傷を付けたら価値が下がるのよね…無駄な抵抗する様だったら致し方ないけど…」

 

「商売物だとぉ?」

 

商隊(キャラバン)長の言葉に、ファティマ―はくっと喉の奥で笑った

 

「あら~、まだ分からないの? あんた達は私に売られる“奴隷“なのよ」

 

 

 

 

「“奴隷”!!?」

 

 

 

 

ざわりと、部屋の中で掴まっている人達がざわめいた

 

その様子に満足する様にファティマーがにやりとその赤い唇に笑みを浮かべた

 

あ……

 

一瞬、脳裏に過ぎる

馬車に岩を落とされる間際に視た、笑みを浮かべる赤い唇――――……

 

あれは、この男だったのだ

 

では、やはりあの男は……

出来る事ならば、関わり合いになりたくない

盗賊やゴロツキなどよりもタチの悪い、最も忌むべき人種――――

 

 

 

―――――“奴隷商人”

 

 

 

 

この男が――――……

 

ファティマ―を見る

だが、その視線に気付いた様子もなくファティマ―は懐から一対の装飾品を取り出した

 

「あ………っ」

 

それは……!!

 

それは、シンドバッドから贈られた、大切なエリスティアの髪飾りと耳飾りだった

 

そうとは知らないファティマ―はそれを乱暴に取り扱うかのように、チラつかせると

 

「これの持ち主を探してるのよねー心当たりのある者は?」

 

「……………っ」

 

思わず、エリスティアが身を乗り出す

だが、すかさずアラジンと商隊(キャラバン)長が止めに入った

 

「駄目だよ、エリスおねえさん!」

 

「そうだエリス、名乗り出たら最後どっかの金持ちの愛玩道具にされちまうぞ!!」

 

ひそひそと、小声でそう言いながら、エリスティアを止める

だが、エリスティアが「でも……っ」と声を洩らした

 

あれは…あの品は、あの日シンがくれた大事な―――――……っ

 

ふと、それに気付いたファティマ―がこちらを見た

そして、一度だけその瞳を瞬かせた後、こちらに近づいて来た

 

瞬間、エリスティアを隠す様にアラジンと商隊(キャラバン)長が前に出る

それを見た、ファティマーは怪訝そうに顔をしかめると

 

「あんた達に用はないのよ。私は後ろのお嬢ちゃんに用があるの」

 

そう言って、どんっとアラジンを突き飛ばした

 

「てめぇ! アラジンになにしやが――――……ぐあぁ!!」

 

商隊(キャラバン)長がそう叫ぶ瞬間、ファティマ―が隊長の腹を思いっきり蹴り飛ばした

 

「ごほ…ごほっ……!」

 

叫んでいた矢先に腹を蹴られ、呼吸が出来なくなる

 

「隊長さん! アラジンっ―――――――あっ!」

 

エリスティアが慌てて2人の元へ駆け寄ろうとした瞬間――――ぬっと伸びてきた手が、彼女の手首を掴んだ

そして、そのままぐいっと引っ張られる

 

「いっ………」

 

ぎりっと捻り上げられるかの様に引っ張り上げられて、思わず顔が歪む

だが、ファティマーは気にも留めずにエリスティアの顎に手をやると、自身の方に無理矢理向かせた

 

「ふぅ~ん……」

 

「……………っ」

 

目の前にあのギラギラした黒い眼がこちらを見ている

ごくりと、エリスティアは息を飲んだ

 

すると、ファティマ―はあの耳飾りと髪飾りをエリスティアの前に付き出した

 

「これ、あんたの?」

 

「………それ、は……」

 

頷いてはいけない

危機本能がそう囁く

 

でも…でも、あれは………

 

はっきりとしないエリスティアに苛付いたのか、ファティマーその顔を一層歪めると

ぐっと、彼女を持つ手に力を込めて捻り上げた

 

「っ…………あぅ!」

 

更に高く捻り上げられて、エリスティアが顔を歪ます

 

「や、やめておくれよ! おじさん!!」

 

それを見たアラジンが、どんっとファティマ―に飛び掛かった

だが、所詮子供の身体

ファティマ―に敵う筈もなく―――――

 

「煩いわね! このガキが!!」

 

ばしんっ! と空いている手で、アラジンを叩き倒した

瞬間、アラジンの小さな身体が後方へ吹き飛ぶ

 

「アラジン!!」

 

エリスティアが叫ぶ

だが、吹き飛ばされたからと言って大人しくしているアラジンでは無かった

今度は、勢いよくエリスティアを掴むファティマ―の手に齧りついたのだ

 

「いったぁ!!」

 

ファティマ―が思わず声を上げる

 

「エリス、おねえひゃんを…はなせぇ!!」

 

がじがじと、腕を噛みながらそう言うアラジンを見た瞬間、ファティマ―がギリッと歯を軋みあげた

 

「こ…の、…クソガキがぁ!!!!」

 

切れた様にそう叫ぶと、今度は思いっきりアラジンの腹を蹴り上げたのだ

何度も、何度も――――……

 

「……っつああ!!!」

 

 

 

 

 

 

「—————やめてぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、エリスティアが懇願する様に叫んだ

 

「アラジン!!」

 

蹴り飛ばされて咳き込むアラジンに、商隊(キャラバン)の仲間が駆け寄ってくる

それを見たエリスティアは、そのアクアマリンの瞳に涙を浮かべてキッとファティマーを睨んだ

 

「あんな小さな子に、何てことをするのよ!!!」

 

エリスティアがそう抗議するが、ファティマ―は気に止めた様子もなく

しらっとしたまま

 

「あら、最初に攻撃してきたのはあっちじゃない。これは正当防衛よ。ましてや、奴隷の分際でこの私に盾突こうなんて――――」

 

「奴隷ではありません!! 貴方と同じ人間です!!!」

 

そう叫んだ瞬間、ファティマ―がぷっと吹き出した

 

「あははははは! 同じ人間…? あんた達と私が?」

 

刹那、エリスティアの腕を持っていたファティマ―手に思いっきり力を込められた

 

「いっ……つぅ……っ」

 

ギリリと、更に捻り上げられ、エリスティアが顔を更に歪ます

それを見たファティマ―はくっと喉の奥て笑って

 

「お嬢ちゃん、勘違いはしない方が身の為よ。 あんた達“奴隷”は“物”なの。 そして、私の“商品”。あんた達は売られて、そこで死ぬまで働くのよ。 ―――足枷をしたままね。 間違ってもあんた達と、“人間“の私が同じだなんて考えない事よ」

 

それだけ言うと、突然エリスティアの腕を引っ張り出した

そして、そのまま扉に向かって歩き出す

 

「ちょっ……離して…っ! 離して下さい!!!」

 

抵抗する様にエリスティアが声を荒げるが、向こうは全く聞き耳を持つ気はないようだ

なんとか、必死に掴まれている腕を外そうともがくが、何処にそんな力があるのかびくともしない

 

「エリス!!」

 

「エリスおねえさん!!」

 

商隊(キャラバン)長と、アラジンがファティマ―に襲い掛かろうとする

瞬間、あの眼帯の男が間に割って入ると、2人をいとも簡単に殴り飛ばした

 

「ありがと、頭領さん」

 

ファティマ―が礼を言うと、眼帯の男は「どうってことありませんよ」と答えた

 

だが、アラジンと商隊(キャラバン)長へのダメージはファティマ―の時の比では無かった

二人とも、蹴られた腹を押さえて蹲っている

 

「アラジン…! 隊長さん……っ!!」

 

今すぐ駆け寄りたいのにこの手を振り払う事すら出来ない

もがけばもがくほど、強く掴まれ、逃げる事すら叶わない

 

「どうします? この2人」

 

眼帯の男が、ファティマ―に尋ねた

すると、ファティマ―は「んー」と少し考え

 

「ああ、そうだわ。 丁度アレのエサが切れてたわよね?」

 

「ああ、砂漠ハイエナですか?」

 

「そ、それで処分しちゃって」

 

 

え―――――……

 

 

この男は今、何と言っただろうか……

 

“ショブン”……?

 

今、“処分”と言ったか――――……

 

 

この男の言っている意味が理解出来なかった

 

砂漠ハイエナのエサ…

処分って……

 

この男は何を言っているのだろうか……

 

“人間“を”動物“のエサにするなんて、そんな非常識な事――――

 

はっと前を見ると、眼帯の男とその仲間とおぼしき男達が数人、気を失っているアラジンと商隊(キャラバン)長を運ぼうとしていた

 

『それで処分しちゃって』

 

ファティマ―の言葉が脳裏をよぎる

 

 

 

 

 

 

「だ……駄目! やめさせてぇぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

エリスティアは今までにない位声を大にして叫んだ

空いている手でファティマ―に掴みかかると、キッと睨みつけた

 

「今すぐ止めさせて!!! 貴方なら止められるのでしょう!? こんな馬鹿な事―――――」

 

「だったら、あんたは私と来るのね」

 

「――――――っ」

 

出された交換条件に、エリスティアがそのアクアマリンの瞳を大きく見開く

 

「あんたが、一緒に来るならあの2人の命は助けてあげる。 でも、もし断るなら――――」

 

ファティマ―がちらりと部屋の中の捕まっている人達を見渡した

 

「ここにいる奴隷全員、順番に砂漠ハイエナのエサにしてあげるわ」

 

「なっ………!」

 

ざわりと、辺りがざわめいた

 

ここに居る人を、全員……?

 

泣きだす人もいる

 

「……………っ」

 

心臓が、どくどくと脈打つ

血液が逆流しているんじゃないかというくらい、身体の奥が熱い

 

私が抵抗すれば――――ここの人達が………

 

目の前がぐらりと揺れた

 

「だ、め…だよ…エリス、おね、え、さん………」

 

気を失ったままアラジンがそう呟いた

 

「アラジン……」

 

駄目……

このままでは、皆殺されてしまう

そんなの……そんなの―――――……

 

付いて行けば、どうなるか分からない

でも―――――……

 

選択の余地などなかった

 

「どうするの? 来るの? 来ないの?」

 

ファティマ―の最終告知とも言える言葉が降っている

 

「………………」

 

声が震える

恐い………

 

で、も――――……

 

 

 

「いき…ます………」

 

 

 

 

そう答える以外、今のエリスティアには選択肢が無かった――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――え?」

 

モルジアナは、その言葉に大きく赤い目を見開いた

 

「バルバッドへは行かないんですか!?」

 

モルジアナのその言葉に、商隊(キャラバン)長は難しそうに顔を顰めた

そして、一枚の地図を取り出すとある一点を指した

 

「う…ん、バルバッドへの一本道に盗賊団が住みついてしまったんだ。我々はバルバッド経由で故郷の国へ帰る予定だったが…別ルートを行くことにした」

 

それだけ言うと、商隊(キャラバン)長はゆっくりと顔を上げた

 

「モルジアナは、故郷へ帰る為にバルバッドを目指しているんだったな?」

 

「はい…バルバッドからしか船が出ていなくて……」

 

その言葉に、商隊(キャラバン)長は少し考え

 

「他にルートは無いのかね? 故郷は何処なんだ?」

 

「……………」

 

モルジアナはその言葉に答える事が出来なかった

 

言えなかった

『暗黒大陸』が故郷だと言えば、奴隷だった事がばれてしまう

そうすれば、商隊(キャラバン)の皆に気を遣わせてしまう事になる

 

だらか、どうしても言えなかった

黙りこくるモルジアナを見て、商隊(キャラバン)長は、小さく笑みを浮かべた

 

「まぁ、いいさ。 その盗賊団なんだが…相当凶暴らしくてな、私の友人の商隊(キャラバン)もヒドイ目にあったらしいんだよ…。 北東の草原から砂漠越えしてきた、屈強な奴らなんだが…襲われて隊員を何人か失てしまったらしい」

 

「………………」

 

「だから諦めておくれ。 あの道は通れないんだよ」

 

「………………」

 

凶悪な盗賊団

でも……

 

ぐっと、モルジアナは拳を握りしめた

 

「でも、もし………」

 

「ん?」

 

「もし、誰かがその盗賊団を倒せたら……道は通れるようになりますよね?」

 

「ああ、誰かが倒せたらなぁ…でも、無理な話だよ」

 

「………………」

 

 

誰かが倒せば―――――………

 

モルジアナがぐっと拳を握りしめた

 

それなら—————………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ご無沙汰です(-_-;)

とりあえず、盗賊団編はモルさん視点もあるけど

夢主視点でもお送りいたしまーす(≧▽≦) 

 

誰だよwwww

前々回、夢主とアラジンはお休みとか言ってたのwww

 

2014/11/19