CRYSTAL GATE

  -The Goddess of Light-

 

 

 第三夜 ファナリス 13

 

 

 

「兄上…開けられるのか結構ですが、一言返事を待ってからにして頂けると助かるのですが…」

 

有無を言わさず開けた先にいたのは…

ぼさぼさの頭を一応結い上げた風の飄々とした優男だった

 

「そういうな、紅明」

 

そう言いながら紅炎はそのまま室に入ると、椅子に座った

そして、エリスティアを手招きする

 

正直、エリスティアは困った

挨拶すらまともにしていないのに、入室するなど気が引けたのだ

 

エリスティアが扉の前で躊躇っていると

紅明と呼ばれた男は、小さく溜息を洩らしながら

 

「どうぞ、気にせずお入りください。 貴女の事は兄王様よりよく伺っていますから」

 

「え……?」

 

伺っている……?

それは一体どういう……

 

紅明の言葉にエリスティアが混乱していると、見かねた紅炎が立ち上がりエリスティアの傍までやってきた

 

「どうした? エリス」

 

「あ…えっと……」

 

どう答えて良いのか分からず、ちらりと紅明の方を見る

それで気付いたのか、紅炎はくっと喉の奥で笑って

 

「安心しろ。 これが俺の弟だ」

 

「……これって…」

 

そんな言い方はないのではないだろうかと思うも、当の本人はさして気にした様子もなく

 

「こうしてお話するのは初めてですね。 お初にお目に掛かります、練 紅明と申します」

 

そう言って、ゆっくりと頭を下げた

それを見て、エリスティアも慌てて頭を下げる

 

「ご丁寧にありがとうございます。 エリスティアです」

 

そう挨拶すると、紅明はすっと手を椅子の方に向けて

 

「どうぞお掛け下さい」

 

「……………」

 

そう勧められたが、やはり少し躊躇われた

仮にも相手は一国の皇子なのだ

その人が立っているのに、自分が座るというのがどうにも気が進まない

 

だが、そんなエリスティアの気持ちを無視するかの様に

ふいに ぐいっと紅炎がエリスティアの腰を掻き抱いた

 

「ちょっ……!」

 

流石のエリスティアもこれには抗議の声を上げそうになったが…

紅炎はさほど気にした様子もなく、そのままエリスティアを伴って先程の椅子に腰かけた

ここまで連れて来られて立ちっぱなしと言う訳にもいかず…

渋々椅子に座る

 

すると紅明がなにやらごそごそとし出しだした

紅明の行動の意図が読めず、エリスティアが首を傾げる

 

そもそも、何故ここに来たのか

エリスティアは、転送魔法の術者に会いに来た筈だ

そして、紅炎は弟がその術者だという

つまりは……

 

「ね、ねぇ…炎…」

 

エリスティアが小声で紅炎に話し掛ける

紅炎が「ん?」と声を洩らして耳を傾けてきた

 

「もしかして……紅明様が術者…なの?」

 

エリスティアの自信なさそうなその言葉に、紅炎は一度だけその柘榴石の瞳を瞬かせると

 

「ああ」 と、答えた

 

「…………………」

 

術者……?

この世界に3人しかいない筈の転送魔法の4人目の使い手……?

この人が………

 

人は見かけで判断してはいけない

いけないのは分かっているが――――……

 

とても、紅明がそんなに凄い大魔法使いだとは思えなかった

 

おかしい―――――………

おかしな話だ

 

転送魔法には膨大な魔力(マゴイ)を使う

ヤムライハはあの魔法都市・マグノシュタットで天才とまで言われた魔導士だ

そして、レームのシェヘラザードはこの世界に3人しかいないマギの1人……

もう1人は―――――大渓谷の番人

 

3人が3人とも特殊は存在だ

 

加えて、別の次元でルフを感じ取れるこの世界唯一の”ルシ”であるエリスティア

 

全てが全て、“普通とは異なる存在”なのだ

なのに、この紅明からはその様な気配は感じ取れない

感じ取れないが――――……

 

気の…せい……?

 

紅炎程ではないにしろ、この紅明の周りのルフがざわめいている気がする……

まさ…か……

 

煌帝国には複数存在すると聞いている

それが誰かなのかまでは知らないが……

だが、そう考えると納得いく

 

「炎……紅明様ってもしかして――――……」

 

エリスティアがそこまで言葉を発した時だった

 

「あーありました、ありました」

 

突然何かを探していた紅明が声を上げた

はっとして声のした方を見ると、紅明が何か箱のような物を持ってやってきた

 

「お待たせいたしました。 ご所望の品はこちらでしょう?」

 

そう言って紅明が見せたのは、一対の腕輪だった

 

「これ――――……」

 

そう――――その気配は、まさしく迷宮道具(ダンジョンアイテム)そのものだった

はっとして、紅炎を見る

 

紅炎はすっと箱に手を伸ばすと、その腕輪を取った

じっと見た後、もう一つを取りエリスティアに渡す

 

「これは? …迷宮道具(ダンジョンアイテム)…よね?」

 

渡される意味が分からないエリスティアが首を傾げると

紅炎は自身の腕にその腕輪をはめ

 

「これはお前に渡した指輪と同じ加工が施されている道具(アイテム)だ」

 

「同じ加工…って……」

 

言われてはっと右手の指輪と渡された腕輪を見る

つまり、この腕輪も転送魔法が練り込まれている道具(アイテム)と言う事になる

 

「まさか…これを作ったのが紅明様…なの…?」

 

「正確には我が国の研究機関が…と言った方が正しいでしょう」

 

「研究機関?」

 

耳慣れない言葉に、エリスティアが眉を寄せる

が、それ以上は言う気はないのか…

 

「残念ですが、これ以上はいくら兄上の寵姫殿といえどもお教えする訳にはいきませんので、ご容赦ください」

 

「そう――――……」

 

ばっさり追及する事を切られてしまったが…

これはもしかして凄く大事な事なのではないだろうか…?

 

あの魔法都市・マグノシュタットですら解明出来ていない“転送魔法”を

煌帝国は既に解明している……?

 

それはとてつもなく恐ろしい事の様な気がした

 

「それで、守備はどうなのだ?」

 

「はい、昨夜言われた通り座標を合わせておきましたので、いつでも飛べますよ」

 

紅明のその答えに、紅炎は満足そうに頷いた

 

「だそうだぞ、エリス。 囚われていたとかいう砦に戻りたいのだろう?」

 

「え……!? も、戻れるの!!?」

 

特に紅炎は紅明に何も説明していない

だが、既に全て手配済みの様だった

 

でも今はそんなことどうでもいい

早く戻らなければ、アラジンやお世話になった商隊(キャラバン)の皆を助けられない

 

エリスティアは身を乗り出すと、紅炎に懇願する様に求めた

 

「どうやって!? どうやって戻るの!!?」

 

この時、エリスティアは焦っていたのかもしれない

後になって考えれば分かる答えだった

だが、早く戻らなければと言う衝動がエリスティアを焦らせた

 

エリスティアに迫られる形となって、気分を良くしたのか

紅炎は、にやりとその口に笑みを浮かべると

 

「エリス…いいのか? 俺にそんな簡単に“お願い”しても。 この代償は高くつくかもしれぬぞ?」

 

挑発する様にそう囁く紅炎に、エリスティアはお構いなしに

 

「そんなもの、後で幾らでも払ってあげるわよ!! お願いだから早く――――」

 

その時だった、不意に紅炎に腰を引き寄せられたかと思うとあっという間に唇を塞がれた

 

「ちょっ……んっ…え、ん、何を―――――」

 

すると紅炎はくすっと笑みを浮かべ

 

「先払いだ。 良いだろう今すぐ連れて行ってやる。 紅明!」

 

紅炎がそう叫んだ瞬間、紅明は「はいはい、分かりましたよ」と言ってばさりと羽扇を紅炎とエリスティアの2人に向けた

 

その瞬間、それは起きた

パァッと足元が光ったかと思うと、八芒星が現れたのだ

 

その八芒星には見覚えがあった

この紋様、感じる魔力(マゴイ)

それは間違いなく、エリスティアを煌帝国へ飛ばしたそれそのものだった

 

「あ………」

 

エリスティアが声を発しようとした瞬間、八芒星から眩いまでの光が放ち―――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……無事、飛べたようですね」

 

紅明はそう言って小さく溜息を付いた

その視線の先には――――誰の姿も無かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モルジアナ! モルジアナ!!!」

 

朝の静かな宿内にライラの声が響き渡った

その声は切羽詰まった様な、焦りのある声だった

 

「ライラ!」

 

奥の方からサアサが翔って来た

ライラがサアサの存在に気付き、慌てて駆け寄る

 

「やっぱり何処にもいない!!」

 

探せるところは全部探した

だが、昨夜までいた筈のモルジアナの姿が見当たらないのだ

 

「もしかして…1人でバルバッドへ…っ!!?」

 

「でも…っ! 途中には盗賊団のアジトがあるんじゃ……っ!!」

 

サアサが顔を青ざめて叫んだ

 

そうなのだ

デリンマーからバルバッドへ続く道には今、盗賊団のアジトがあって通り抜ける事が出来ない

それを1人で行くなど…危険すぎるのだ

 

ギリッとライラは奥歯を噛み締めた

 

「くそっ…!! 助けに行かねぇと!!!」

 

そう叫ぶなり、ライラは踵を返して駆け出した

「ライラ!!」と、後ろでサアサが叫ぶが、ライラは止まらなかった

 

早く助けに行かなければ…っ

少しなら剣に覚えがある

忌まわしい過去の産物だが、役に立つなら何にだって使ってやる

今、この商隊(キャラバン)で動ける人物で戦えるのは自分ぐらいだ

自分が行かなければ―――――――――っ

 

その時だった

 

「待て! ライラ!!」

 

突然、ライラの前に商隊(キャラバン)長が立ちふさがった

だが、ライラは止まらなかった

 

「何で止めるんだ!! 仲間が危険な目に合ってるかもしれないんだぞ!!?」

 

そこまで言った瞬間、ライラは息を飲んだ

何かに気付き、大きく目を見開く

 

「………?」

 

商隊(キャラバン)長がライラの異変に気づき、眉を寄せる

そして、その視線の先を確認する様に後ろを振り返った

そこにいたのは――――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピチャーン……

 

水の音が牢の中に響いく…

ふと、モルジアナは目を覚ました

 

「……………」

 

一瞬、ここは…? と思うが、今 自分は奴隷商人に捕まっているのだという事を思い出す

辺りを見渡しても冷たい石畳の牢と柵が視界に入るだけだった

 

ふと、自分の胸元ですやすやと寝ているであろうナージャに視線が映る

知らずモルジアナの顔に笑みが浮かぶ

ナージャの頭を撫でようと手を伸ばした時だった

 

「……?」

 

ナージャの様子がおかしいのだ

辛そうに息をしながら顔を赤くしている

 

はっとして、慌てて彼女の額に手を当てた

 

「……っ、すごい熱」

 

モルジアナは慌てて起き上がると、牢の柵に手を掛けた

 

 

「どなかた! どなたか来て下さい!!!」

 

「んあ?」

 

牢の見張りをしていた盗賊が、モルジアナの叫び声に眠そうな眼をこすった

 

「なんだぁ?」

 

不審に思った盗賊が様子を見る様に柵の方を見た

だが、決して近づこうとはしなかった

 

しかし、そんな事をどうでも良かった

一刻も早く医者に見せないと…このままではナージャが死んでしまうかもしれない

そんな恐怖に駆られて、モルジアナは必死に呼びかけた

 

それから、少ししてからだろか…

部下を引き連れたファティマーが姿を現した

 

ファティマーは、ナージャの口を開かせると小さく溜息を洩らした

 

「あ~あ、下の根まで腫らして…これはもうダメね」

 

え……

 

モルジアナは一瞬、ファティマーが何を言っているのか理解出来なかった

 

ダメ…?

ダメって…なにが……?

 

「でも、丁度良かった! 砂漠ハイエナのエサが切れてたのよ」

 

「!?」

 

な、に……?

 

この男は何を言っているのか…

エサが切れているのと、ナージャの病気と何の関係が―――――

 

「……………」

 

放心しているモルジアナを見て、ファティマーは何か思いついたかの様ににやりと笑みを浮かべたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラガラガラガラガラ

 

強固な檻の扉が開かれると同時に、4つの赤い目を持つハイエナが何十頭と姿を現した

吠えながら一目散に吊るされているナージャの足元に集まってくる

 

その赤い目は、まるで飢えた獣の目だった

 

その真上にロープ一本で吊るされたナージャが、ガタガタと震えて涙を流す

 

「……………!!?」

 

モルジアナは目の前で繰り広げられる光景に言葉を失った様に目を見開いた

それを見てファティマーはにやりと笑みを浮かべると

 

持っているロープをちらつかせ

 

「うちはね価値の低い奴隷の手当てはしないの。 だって、薬代が勿体ないじゃない? フフフ」

 

何?

何を言っているの? この男は……

 

「だからね、そういう奴隷は“エサ”にするのよ…いい機会だから、貴女もよ~く見てないさい…“奴隷”がどういうものかを…ね」

 

そう言ってにやりと笑みを浮かべた瞬間

その手に持っていたロープの力を緩めた

刹那、ナージャを支えていたロープがガクンッと下がる

 

「――――――っ」

 

ナージャが声にならない悲鳴を上げた

 

ガウッと4つの赤めのハイエナがナージャの足めがけて牙をむく

 

 

 

 

「――――――っ!!

 

    やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

 

 

 

モルジアナの声が塔の広場に木霊する

と同時に、拘束から逃れようと必死にもがいた

足枷をガンッ!ガンッ!と地に何度も何度も打ち付ける

 

「……外れないわよ。 その足枷は特別製だもの」

 

ふんっとファティマーは勝ち誇った様に呟いた

 

それでも、モルジアナはもがいた

何度も何度も足枷を地に叩きつける

けれど―――――…

 

 

外れない……っ

 

絶対に助けるって約束したのにっ!!

 

 

 

『私が絶対になんとかしますから』

 

 

約束――――したのに……っ

 

 

 『鎖を外そうとしたな? モルジアナ…』

 

 

 

 『無理だ無理。 お前の鎖はず~~~っと一生―――……』

 

 

 

 

     外れない―――――っ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ――――絶対に外す事はできないんだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナージャ危うし!!

モルさんは果たして助けられるのかwww←原作通り助けるよww

 

その前に、夢主何処で出てくるのかねぇ~(笑)

てか、あれ? 紅炎は…???( ̄ー ̄)ニヤリッ

 

2016/03/08