CRYSTAL GATE

  -The Goddess of Light-

 

 

 第二夜 ルシとマギ 18

 

 

「―――――……!?」

 

ドサッと、白瑛は両手を兵に押さえつけられて呂斎の前に引きずり出された

その喉元には、剣を突きつけられて身動きすら封じられた

 

自分の前に足を付いている白瑛を見て、呂斎は、満足気に笑みを浮かべた

 

「貴女が、“ジンの金属器”に溜めておいた魔力を使い切れば…“ジンの金属器”もその魔力の恩恵を受ける“ジンの眷属器”も何も出来なくなる…無力ですなァ~~攻略者殿!!」

 

そう言って笑いながら、白瑛を蹴り飛ばした

 

「ぐっ……」

 

腹を蹴られ、白瑛がうめき声を上げる

ちらりと横を見ると、血だらけで倒れている青舜の姿もあった

 

白瑛は、歯を食いしばりながら呂斎を睨みつけた

 

誤算だった

まさか、我が軍の兵士達がこれほど大人数呂斎に従っていたとは……

あそこで、伏兵を見抜けなかったのは、白瑛の落ち度だ

それぐらい、大多数が、呂斎に従うなど思わなかったのだ

 

傷だらけに痛めつけられた身体が軋む様に痛みだす

こんな所で…死ぬわけにはいかないのに……っ

そうとも知らない呂斎はにやりと笑みを浮かべ

 

「安心なさい、白瑛殿。直ぐに殺して差し上げますよ。本国にいる貴女の大事な弟・練 白龍もね!」

 

「……………っ」

 

その言葉を聴いた瞬間、カッと頭に血が昇る

 

 

 

「貴様ぁ!!」

 

 

 

そう思った瞬間、白瑛は兵の手を渾身の力で振りほどくと、傍の兵の剣を奪い取り一気に呂斎に斬りかかった

 

 

 

  ガキィィィン!!!

 

 

 

剣と剣がぶつかり合い、ギリリッと呂斎を追い込むかのように白瑛が剣戟を繰り出してくる

白瑛の渾身の一撃に、呂斎はギリッと奥歯を噛みしめて

 

「いいでしょう!私も貴女も武人。どちらが将軍に相応しいか刃で決しましょうぞ!!」

 

「望むところだ!!」

 

一騎打ちなら勝算はあった

少なくとも、白瑛の剣の技は呂斎を上を行く

間違いなく、勝てる!

 

 

その時だった

 

 

ドシュ……

 

 

「……………!?」

 

 

瞬間、左肩に激痛が走った

 

だが、それが何かと悟る前に、今度は右肩にドシュ…という音と共に激痛が走る

そして、右足、左足

次々と、痛みが走り 矢で射られたのだと気付くのに数分を要した

 

痛みで視界が霞む

意識が遠のきそうになる

 

そう思うのと、白瑛の手からカランと剣が零れ落ち

身体が崩れ落ちるのは、同時だった

 

瞬間、ぷっと呂斎が吹き出した

そして、白瑛を馬鹿にする様に大笑いしだしたのだ

 

 

「ギャハハハハハ!!信じやがった!!馬鹿女、貴様はなぶり殺しだよ!!」

 

 

――――――……っ

 

身体が動かない

呂斎を打ちのめしたのに、殴られ、矢で射られた身体がいう事を聞いてくれない

手を上げる事すら出来ない

 

「くっ……」

 

最早、これまでか……っ!!

 

 

「何が、第一皇女だ…っ!、貴様なンぞ……」

 

 

ギラッと呂斎が剣を振り上げる

グイッと、兵に身体を押さえつけられたまま、髪を引っ張り上げられる

 

「…………っ」

 

なんとか最後の力を振り絞って抵抗しようとするが、最早数人がかりで押さえつけられて、顔も上げられない

そのまま頭を下に向けさせられる

 

 

 

 

「お前なんぞ、ちっぽけな存在よォ!!!!」

 

 

 

 

白瑛の首めがけて剣が振り下ろされる―――――……!

 

 

 

無念……!!!

 

 

 

そう思って、ぎゅっと目を閉じた瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 「灼熱の双掌(ハルハール・インフイガール)!!」

 

 

 

 

 

 

 

ドガアアアアアアン!!!

 

 

 

声が聴こえたかと思った瞬間、崖の上の兵士達めがけて炎の熱が一直線に降り注いだのだ

けたたましい音と共に、兵達が一層される

 

驚いたのは、呂斎だけではなかった

白瑛も、事態が呑み込めず大きく目を見開いた

 

兵達が居た崖は、溶岩の様に熱で溶け、いたる所が土と火でどろどろになっている

誰一人、そこには立っていなかった

 

そして、その中に青い巨人がいたのだ

呂斎や白瑛よりも何十倍も大きなその青い巨人は――――紛れもなく“ジン”だった

 

何故、ジンがここに……?

 

元来、ジンを出現させられる程の魔力(マゴイ)を人は有していない

故に、ジンの実体化は迷宮(ダンジョン)内でしか見る事が出来ないのだ

 

 

――――例外を除いて

 

 

そして、その青いジンにはあの少年が――――アラジンが乗っていた

 

少年……?

 

白瑛は、信じられないものを見た様な目でアラジンを見た

 

今のは、この少年がやったというのか……?

あの熱魔法も、少年の力だというのか……?

 

 

彼は、一体――――……

 

 

そう思ったのは、白瑛だけではなかったらしく、呂斎も信じられないものを見る様なめでその青いジンを見た

 

瞬間、その巨大な青いジンが大きく手を振りかざしたかと思うと

 

 

 

 

 

ド――――――ン!!

 

 

 

 

 

 

「ぐあ………っ!!!」

 

その振り上げられた巨大な手が思いっきり呂斎を吹き飛ばしたのだ

呂斎は叫び声を上げる間もなく、身体が変な方向に曲がる程の勢いで遠くに吹き飛ばされる

それを見ていた周りの兵達は、一斉に「ひぃ…!」と声を上げて腰を抜かす様に尻を付いた

 

白瑛は、それをただただ信じられないものを見たかの様に、茫然と眺める事しか出来なかった

 

あれだけいた煌帝国の兵士達も、跡形もなく消え失せ

残ったのは、炎に焼かれた崖と煌帝国の軍旗だけだった

 

 

「……………」

 

 

白瑛が唖然としていると、ピイイイイとルフがざわめき始めた

ハッとして顔を上げると、

 

青いジンはゆっくりと白瑛に近づくとそのまま、アラジンの笛の中に消えて行った

そして、そこに立っていたのはアラジン一人だけだった

 

 

アラジンの周りに目に見える程のルフが集まっている

白瑛は、初めて見るその無数のルフに目を疑った

 

「少年……君は一体……」

 

ザァ…と風が吹いた

ルフがピイイイと鳴きはじめる

 

 

「僕かい?僕は……」

 

 

あの時のババの声がアラジンの脳裏に蘇る

 

 

  『そう、アラジン。お主は―――………』

 

 

ぐっと、持つ杖に力が篭る

もう、迷わない

 

僕は……

 

 

 

「僕は、”マギ“さ」

 

 

 

「“マギ”………!!」

 

その時だった

白瑛の扇の八芒星が光り輝いた

 

「………!? 扇が……」

 

みると、扇全体が光っている

するとアラジンがその扇を指さした

 

「おねえさん、ちょっとそれ僕に触らせてくれないかい?」

 

「え……」

 

白瑛がその扇を前に出すと、アラジンはそっと扇の八芒星に触れた

瞬間、それは起きた

 

 

眩い光が辺り一帯を包み込んだかと思った刹那、扇から青い巨大な女性型のジンが姿を現したのだ

 

それを見ていた兵士達が腰を抜かしてへたり込む

青舜も信じられないものを見る様に、その様子に息を飲んだ

 

 

『ご機嫌いかが、みなさん…ワタシはパイモン。狂愛と混沌よりソロモンに作られしジンよ。主は、女王…練 白瑛!!』

 

 

パイモンと名乗ったジンは、辺りを見渡しながら

 

『にしても、ワタシを実体化させる程の魔力は何処から?台風でも来たの?白瑛ちゃん……あら』

 

そこで、白瑛の横にいるアラジンに気付き、パイモンは一度だけその瞳を瞬かせた

 

 

『“マギ”じゃない!』

 

 

瞬間、アラジンの持つ笛の八芒星が光り出し方と思うと、突然“ウーゴくん”が姿を現した

それを見たパイモンは嬉しそうに

 

『あらまあ!またまた珍しいお方に会えたわ!今日は一体、何なのかしら!?』

 

そう言うなり、ツンッとパイモンが“ウーゴくん”の胸を両手で突いた

瞬間、“ウーゴくん”真っ赤になり、待ったの姿勢を取る

 

それから、何かを話す様にパイモンに身振り手振りで語りだした

パイモンは、“ウーゴくん”を突きながら、ふむふむと頷いている

 

まただった

アモンの時もそうだった

“ウーゴくん”は、一体何をジン達と話しているのだろうか

 

 

一通り話を聞き終えると、パイモンはシュルルルと白瑛に近づいた

 

 

『なるほど、事情は分かったわ。世界で異変が起こっている様ね、でも――――……』

 

 

そのまま白瑛を抱き込む様に絡まると、パイモンはくすりと笑みを浮かべた

 

『そんなの関係ないわ。 ワタシはワタシが王の器と惚れ込んだ白瑛ちゃんを、王にすべく力を貸すだけ。 その為に、ワタシは作られたのだから……』

 

初めて聞く言葉に、アラジンは大きく目を見開いた

 

「王の器…?」

 

それは一体どういう事だろうか……

 

「パイモンさん、詳しく教えてよ。僕は“マギ”なんだよね? “マギ”ってなんだい? 僕はこれから一体何をすべきなんだい?」

 

アラジンの言葉に、ぎょっとしたのは他ならぬパイモンだった

パイモンは、大きく目を見開き

 

『おお“マギ”よ、ソロモン王にルフから作られたワタシ達が貴方に指図するなど絶対に許されません。貴方を導けるのは大いなる“ルフ”の意思だけなのです』

 

やはり、アモンの時と同様パイモンを言葉を濁らせた

その答えにアラジンは小さく息を吐き

 

「そうかい…“マギ”が王の選定者ってとこまでは聞いたのだけど…」

 

アラジンのその言葉に、パイモンはほっとした様に笑みを浮かべた

 

『なあんだ、もう分かっているじゃない。そうよ。王の選定こそが”マギ“の使命…そこに居る白瑛ちゃんだって…王の器として煌帝国の”マギ“に選ばれたのだから』

 

「え……」

 

今、パイモンは何と言っただろうか

“煌帝国のマギ”……?

 

え……

 

 

「え……!?“マギ”って僕の他にもいるのかい…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――煌帝国・禁城

 

「極東なみならず、北西中原の制覇も順調との事、お喜び申し上げます。皇帝陛下」

 

男が、目の前に座る男―――現・煌帝国 皇帝 練 紅徳に頭を垂れた

 

男は、頭からすっぽりと布を被っており、表情は見えない

だが、皇帝である紅徳への忠誠の証に様に、膝を折り手を合わせた

 

「畏れながら、西南の小国領も征服の好機かと…内乱の起きているバルバッドへ手を回しておきました」

 

男のその言葉に、紅徳は小さく頷くと

 

「よしよし、それに“迷宮(ダンジョン)攻略者”とやらも増やし、兵力増強も進めよ…“神官”の力でな……」

 

そこまで言って、紅徳はふとある事に気付いた

その神官の姿が見当たらないのだ

 

「ぬう?その“神官”の姿が見えぬが」

 

その言葉に、男が「はは…」と深く頭を下げた

 

またか、あいつ…

勝手をするなと何度言えばわかるのだ…

 

そう思いながら、男は謁見を終わらすと、足早に禁城の庭園に向かった

 

「神官殿…何処におわすか、神官殿!いや、“マギ”よ!」

 

瞬間、しゃくりと林檎を齧る音が庭園に響き渡った

ふと、そちらを見ると廊下の上の屋根に胡坐を掻いた様に座りながら林檎を齧る青年の姿があった

 

男は小さく息を吐きながら

 

「皇帝陛下の拝謁を怠るな。怒りに触れるぞ」

 

男がそういうと、マギと呼ばれた青年は指を齧りながら

 

「だってよー俺、あの豚野郎気にくわねーもん」

 

そう言いながら、屋根から軽々と降りるとそのまま廊下を歩き始めた

男が溜息を洩らしながらその青年に付いて行く

 

「俺はもっと…見込みのある奴を知ってるけどなー」

 

そう言いながら目的の人物を見つけると、にやりと笑みを浮かべた

 

「おーいたいた!白龍!!」

 

そう言って叫んだ先には、片目にやけどの跡のある若い青年が槍の鍛錬をしていた

白龍と呼ばれた青年は、片手で汗を拭うとマギの青年を見た

だが、マギの青年は気にした様子もなく、白龍の肩を抱く

 

「何用か、神官殿。鍛錬の邪魔です」

 

白龍が怪訝そうにそう言うが、やはり青年は気にした様子はなく

 

「お前が皇帝になっちまえばいいんだよ!パーと力を手に入れてさ!」

 

「……………」

 

「“迷宮(ダンジョン)攻略”に行くべきだぜ。お前の姉上の練 白瑛みてーにな……」

 

白龍がマギの青年を睨みつけると、バシッとその手を振り払った

だが、青年は気にした様子もなくただにやにやと笑っていたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は、その神官と呼ばれる“マギ”に呼ばれて、迷宮(ダンジョン)に誘われたのです」

 

俄かには信じられない事だった

アラジン以外の”マギ“が存在する

 

”マギ“は一人ではないというのだ

 

「僕の他にも”マギ“がいる……?」

 

 

『そうよ、王の選定こそ”マギ“の使命。 貴方は今まで王を選んだ事はないの? ワタシが迷宮で白瑛ちゃんと契約した様に』

 

 

パイモンの言葉に、アラジンは「あ…」と何かを思い出した

 

ジンとの契約……それは――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にこれ、貰っていいの?」

 

市が立ち並ぶ中、旅立つアラジンの手にはババの忘れ形見の杖があった

 

アラジンのその言葉に、ドルジ達が頷く

 

「いいんだ。ババ様もきっと喜ぶよ」

 

ドルジのその言葉に、アラジンがアラジンが嬉しそうに「うん!」と答えた

その答えに、ドルジやトーヤ達も頷く

 

すると、青年の一人が黄牙の剣を差し出してきた

 

「武器も持って行けよ!」

 

青年のその言葉に、呆れた様にドルジが溜息を付いた

 

「バカ、アラジンには必要ねーよ」

 

何気なくそう言ったドルジだったが、アラジンはその剣を見た瞬間ある男の事を思い出した

第七迷宮で出逢った言葉を発せない奴隷の大男

 

「おにいさん! ゴルタスって人の事を知ってるかい!?」

 

アラジンのその言葉に、ドルジ達が顔を見渡す

アラジンは、意を決した様にゴルタスの結末を話した

その話を聞いたドルジは「そんな事があったのか…」と神妙な顔で呟いた

 

「ゴルタスは、黄牙によくある名前なんだ。きっとそいつも俺達の家族さ」

 

やっぱり……

ゴルタスは黄牙の一族だったのだ…

 

「魂の弔いをしておくよ」

 

ドルジの言葉にアラジンは「そっか…」と悲しげに答えた

 

「偶然とはいえ、最後を見届けてくれてありがとな」

 

ドルジのその言葉に、アラジンは小さく首を振った

 

「ううん、偶然じゃないよ」

 

そう言って、ぎゅっと杖を握り締めた

あの時の”ウーゴくん”の言葉が脳裏を過ぎる

 

 

『君は、外に出る時が来たようだ…』

『アラジン憶えているか?自分が何者か分からないと泣いていた事を――――』

『思いのまま旅をすれば、きっと見つかるよ。君の生まれた意味がね』

『沢山の人と出会い、自分を見つけていく…そう言う風に君は導かれているのだから―――――』

 

 

本当に、君が言ってた通りだね…ウーゴくん

 

その時だった

 

 

「出発するぞ――――!!」

 

 

アラジンを乗せた馬車が、出発の合図を出した

 

その声に、ドルジやトーヤが気づき、アラジンに声を掛けてくる

 

「アラジン、またな!」

 

「元気でね」

 

その言葉に、頷く様にアラジンも笑みを浮かべながら

 

「また会おう!黄牙のみんな!!」

 

「「ああ!」」

 

ルフが流れていく

アラジンは馬車に揺られながら、空を見つめた

 

あの第七迷宮での出来事が”王を選ぶ”という事だったんだ――――………

 

アリババに会う事で何か変わるかもしれない

もしかしたら、変わらないかもしれない……けれど

 

 

 

アリババくん

 

 

 

会いたいから、会いに行く!

思うままに進む事で、アラジンが知りたかった事がどんどんわかって止まらなかった

 

 

知りたい

 

 

もっともっと、僕が何者であるのかを……

 

 

だから、アリババくん

僕は、君に会いに行くよ!!

 

 

 

 

 

アラジンに倒された逆賊・呂斎一派は捕えられた

 

 

その後、黄牙の村は煌帝国の支配下に収まったが、白瑛直属の兵達の指揮の元、新たな生き方へ逞しく踏み出していたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついに、アラジン編終了ー

やっと終わったー黄牙編

 

次は、夢主編がっつりはいりまーす

 

※今回は、名前変改無いよ すません…

 

2014/01/20