CRYSTAL GATE

  -The Goddess of Light-

 

 

 第二夜 ルシとマギ 17

 

 

 

―――――平原

 

白瑛と、青舜は駐屯地に戻る為に、馬を歩かせていた

 

黄牙の一族

 

なんと、誇り高き一族なのだろうか

その一族を傘下に収められたことは、きっとこの煌帝国の礎の一つとなる

そんな気がした

 

「これから、この地の平和を守らねばなりません」

 

「はい、姫様」

 

だが……

 

ババの闇討ちに、奴隷狩り

それらを指示した者が煌帝国の兵士の中にいる

それは紛れもない事実だった

 

もし、それらが無ければ彼らとあんな風に争わなくても済んだはずである

その“誰か”を突き止めなければならない

 

「そして、戻ったら片付けなければならない事があります」

 

だが、白瑛の中では答えは殆ど出ていた

 

こんな事をする人物

それは―――――

 

その時だった

目の前に、突然煌帝国の軍旗がはためいたかと思った瞬間――――

 

「!?」

 

駐屯地に居る筈の軍が、目の前に迫って来ていたのだ

ずらりと全軍とも思える数が、白瑛の前に立ちふさがった

それを指揮しているのは――――

 

「何をするつもり!!呂斎!!」

 

それを指揮していたのは、あの呂斎だった

呂斎は、にやりと笑みを浮かべ

 

「何って、姫様…戦争ですよ」

 

戦争ですって…!?

何を馬鹿な事を

 

白瑛は大きく手をかざすと叫んだ

 

「兵を引きなさい!!黄牙の村は交渉により、傘下に収めました!!」

 

白瑛のその言葉に、呂斎はにやにやと笑みを浮かべたまま

 

「ハッ!黄牙の一族は、期待外れの腰抜けでしたなァ…奴隷狩りされ、長老を闇討ちされたにも関わらず、唯々諾々と交渉に応じてしまうとは…」

 

その言葉に、白瑛がギリッと歯を噛み締めた

手綱を持つ手に力が篭る

 

「やはり、貴方だったのね…呂斎」

 

ババを闇討ちしたのも、奴隷狩りをしたのも

全てこの男の指示だったのだ

 

元々、呂斎は好戦的だった

最初から、黄牙の村を殲滅すべきだと言い続けたのも呂斎だった

 

それは、白瑛も警戒していた事だった

だが、呂斎が裏で動いていた事に気付けなかったのは、白瑛の落ち度だった

 

黄牙の一族の話を聞いた時、真っ先に呂斎の顔が浮かんだ

それは、今までの彼を見ていれば当然の事だった

 

いつかは動く

そうは思ていたが――――

 

やはり、全軍の指揮権を呂斎に一時的にでも預けたのは間違いだったのだ

もう、放ってはおけない―――――

 

白瑛は、すっと静かに胸元の扇に触れた

いざとなれば――――

 

そうとも知らない呂斎はにやりと笑みを浮かべて、さも当然の様に

 

「そうですよ。 ですが、私の筋書きは本来こうでした…“異民族の村へ向かった姫は、哀れにも惨殺されてしまう”…“残された呂斎は、姫の仇討ちに全軍を率いて黄牙の村を滅ぼす”…とね」

 

その言葉に、白瑛はフッと乾いた笑みを浮かべた

 

「……さぁ、どうなのかしらね…呂斎。 千人長の貴方ごときが全軍の指揮を? 一体、何故そんな分不相応な事を考えてしまったのかしら…」

 

白瑛のその言葉と態度に、呂斎がわなわなと震えだした

そして、吐き捨てる様に

 

「お前さえ来なければ、本来は私が抜擢される筈だったのだ!!この征西部隊の将にな!」

 

そして、手を高らかに上げると叫んだ

 

「この部隊は私直属の部下…くたばれ、このクソ女!!!」

 

ザッ!

バシュ!バシュン!!!

 

瞬間、呂斎の後ろの弓兵が白瑛に向かって無数の矢を放ってきた

だが、白瑛は動じなかった

 

フッと微かにその口元に笑みを浮かべると、微動だにもしなかった

瞬間――――放たれた無数の矢が白瑛の目の前で止まったのだ

 

「!?」

 

ぎょっとしたのは、呂斎だった

だが、白瑛は持っていた扇をかざしただけだった

 

それだけだ

それだけで、あれだけの矢が空中で止まってしまったのだ

 

ふわりと、白瑛の周りに風が吹いた

白瑛が扇を振りかざした瞬間、突風ともいえる風が吹き荒れ、矢を全て弾き返したのだ

 

その風は、呂斎の方にまで襲ってきて矢が跳ね返って来る

 

「怪しげな術を使いをって……っ!! “迷宮(ダンジョン)攻略者”め、今は驕るがよい!!」

 

ギリッと奥歯を噛み締めると、呂斎は力の限り叫んだ

 

「構わず討ち取れ!!討ち取れば、名誉と恩賞を与えるぞ!!」

 

その言葉に従う様に、オオオオオオ!!!という雄叫びと共に兵達が一斉に白瑛に向かって駆け出した

 

 

瞬間―――――

 

 

「眷属器、双月剣!!」

 

 

青舜が白瑛の前に躍り出ると、その眷属の証である眷属器を抜いた

その瞬間、二振りの剣から突風が吹き荒れる

 

「わああああ!!」

 

突然の突風に、兵達の動きが止まる

青舜はヒュンッと双月剣を振りかざすと

 

「如何いたしましょう、姫様」

 

「時間を稼いで下さい。この程度の兵力なら残りの魔力(マゴイ)で蹴散らせます!!」

 

「了解!!」

 

青舜が、一気に兵達に攻撃を仕掛ける

 

白瑛が扇を構えた瞬間、扇に宿る八芒星が光り輝いた

瞬間、白瑛の周りに風が吹き荒れはじめる

 

 

 

 

「狂愛と混沌の精霊よ、汝に命ず…わが身を覆え、わが身に宿り、わが身を大いなる魔人と化せ…パイモン!!!」

 

 

 

瞬間、それは起きた

白瑛の纏う姿が一変したかと思うと、その身にジンの恩恵を纏わせたのだ――――全身魔装だ

 

ゴオオオオオ!と、白瑛の周りに突風と竜巻が吹き荒れる

白瑛はゆっくりと呂斎に一歩近づきながら

 

 

 

 

 「逆賊、呂斎。 煌帝国第一皇女 練 白瑛が…刑に処す!! —————覚悟せよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――黄牙の村

 

村ではババの葬儀が、静かに行われていた

一人一人、小さな白い花をババに添えていく

 

「おばあちゃん…おやすみなさい」

 

トーヤがそう涙ぐみながらそっと、白い花をババの胸元に置いた

そして、ドルジもそっと花を置いて行く

 

一人、また一人と、ババに声を掛けながら花を添えて行った

 

その様子をアラジンは遠くの方から眺めていた

 

「ウーゴくん…ここに来て、いろんな事があったね……」

 

そう言って、笛をぎゅっと握りしめた

 

「僕はこの村に来てよかったよ…。自分の事がやっとわかってきた様な…そんな気がするんだ」

 

そういうアラジンの目には涙の痕が残っていた

 

マギの事

家族の事

そして、“かなしい“という事

 

 

色々な事を、この村で教わった

 

 

「あの時、君が言ってた通りだね……」

 

 

“ウーゴくん”が言っていた言葉を思い出す

 

 

『いずれ時が来れば―――――』

 

 

本当にそうだった

偶然なんてない

あるのは必然だけ

 

この村にアラジンが飛ばされてきたのも、すべてはルフの導き

この“出会い“をする為に、自分を知る為に、僕はここに―――――

 

その時だった

 

 

    ピイイイイイイ

 

 

突然、笛の八芒星が光りだしたかと思うと、何処からかルフの鳴き声が聴こえてきた

ハッとして、東の方を見る

 

「なんだろう……?」

 

ルフ達が呼んでいる

そんな気がしたのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピイイイイイイイ

 

 

ルフの鳴き声にエリスティアはハッと顔を上げた

まただわ……

 

ルフ達がざわめいている

 

だが、先程とは違う

もっと、切羽詰まった様な感じだった

 

ルフが語りかけてくる

 

“急いで”“急いで”と

 

何……

それは、西の方角から語りかけて来ていた

瞬間、傍にいた紅炎の金属器の八芒星が3つとも光り輝いた

 

「これは――――」

 

紅炎も何かを感じたのか、その一つの剣を持つとその剣に宿る八芒星を見た

 

「ジンがざわめいている……?」

 

剣に宿るは、紅炎が16歳の時に攻略したアシュタロスだ

そのアシュタロスの剣の八芒星がいっそう光り輝きだ

 

  “ルシよ……”

 

「…………!」

 

瞬間、エリスティアの頭にアシュタロスとおぼしき声が聴こえてきた

 

え……何……?

 

こんな事初めてだ

 

シンドバッドのジンでさえ、こういう風にエリスティアに語りかける事などした事なかった

だが、紅炎のジンとおぼしきアシュタロスは、構う事なく語りかけてきた

 

 

  “西の地にてパイモンが出現しております……急ぎ、紅炎様にご帰還をお伝えください”

 

 

帰還…? 城にという事?

 

パイモンというのは、ジンの一つだ

だが、誰のジンなのかエリスティアは知らない

 

しかし、そのジンが出現したとなると…

西で何かが起こっているという証拠だ

 

紅炎ならば知っているのだろうか……

ちらりと、紅炎をみる

 

だが、これを紅炎に伝える事は即ち、“ルシ”であると公言する様なものである

でも―――――

 

もし、緊急事態ならば、そんな事に構っている場合ではなかった

 

エリスティアはごくりと息を飲み紅炎を見た

そして、意を決して

 

「あの、炎…!貴方のジンが――――」

 

紅炎はそれですべてを悟ったのか、突然ザッと立ち上がると、エリスティアの手を掴んだ

 

「え……?」

 

突然、捕まれた理由が分からず、エリスティアがそのアクアマリンの瞳を瞬かせる

だが、紅炎はお構いなしにそのままエリスティアの腰を自身に引き寄せると

 

「来い!! 炎隷!!」

 

そう叫んだ瞬間だった、赤毛の馬が紅炎に向かって翔って来た

いつも、紅炎が乗っている馬だ

 

すると、傍に来た炎隷を一度だけ撫でると、そのままエリスティアを炎隷に乗せた

 

「あ、あの…!?」

 

意味が分からず、エリスティアが困惑の色を示す

だが、紅炎はお構いに自身も炎隷にまたがると

 

「…城へ戻る。エリス、しっかり捕まっていろ」

 

「え!?」

 

そのまま手綱をぐいっと引っ張ると炎隷が嘶いだ

そして、エリスティアを乗せたまま、一気に森を駆け抜けていったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――平原

 

事態は、混迷を来していた

呂斎の兵達は、白瑛の起こした風で攻撃もままならず、むしろ打ちのめされていくばかりだ

青舜の双月剣も凄まじかった

剣風とも呼べる程の、風が剣から巻き上げられていく

 

 

「呂斎殿!!あんな化け物、討ち取る事は出来ません!!このままでは、我が軍は壊滅してしまいます!!!」

 

 

だが、呂斎は余裕の笑みを浮かべていた

 

「案ずるな、ただの風だ。それに彼らが壊滅したとて我々の優位は揺らがん…そうだろう?」

 

「え…ええ……」

 

呂斎の言葉に、副官の一人が頷くが、俄かには信じがたい言葉だった

だが、呂斎には兵の犠牲など些細な事だったのだ

 

「それに、“迷宮(ダンジョン)攻略者”の能力には、致命的な弱点(・・)がある」

 

そう言って、呂斎はにやりと笑みを浮かべると、後方に控えていた弓兵部隊に向かって叫んだ

 

「矢を放て」

 

「味方に当たります!!」

 

副官のその言葉に、呂斎はフッと笑みを浮かべた

 

「案ずるな、当たりはせん。矢を放て!!」

 

瞬間、一斉に弓兵部隊から白瑛めがけて一斉に矢が放たれた

驚いたのは、その傍にいた呂斎の兵達だった

このままでは自分達に当たるのは明白だった

誰しもが、ぎょっとして目を瞑った

 

 

瞬間―――――

 

 

「くっ……!!」

 

白瑛が、長扇の槍を思いっきり振りかざした

瞬間、ゴウッ!と風が巻き上がり、兵士達に向かって来ていた矢を打ち払う

 

だが、攻撃はそれだけでは収まらなかった

更に矢が兵達に向かって放たれてくる

 

白瑛は、その矢も風で当たらぬように打ち払うと、ギリッと奥歯を噛み締めた

 

 

「このままでは、魔力(マゴイ)がもたない……っ!!」

 

 

魔力(マゴイ)が切れれば、魔装も解ける

それは、この風も、青舜の眷属器も力を失ってしまう事を示していた

 

 

呂斎はそれを狙っているのだ

 

 

「青舜!!!」

 

 

白瑛が叫んだ

青舜は「はい!」と答えると、サッと白瑛の元に駆け寄った

 

白瑛は、青舜が自分の後ろに下がったのを確認すると

サッと、長扇の槍を構えた

 

 

「一気にかたを付けます!!」

 

 

そう叫ぶな否や、青舜を連れたまま一気に風の竜巻となって上空に飛び上がった

 

そして、槍を構えると

 

 

 

 

 

 

 「竜風旋(マグル・アルハザード)!!!」

 

 

 

 

 

 

瞬間、それは起きた

 

豪風ともいえるほどの、竜巻が呂斎達に襲い掛かったのだ

その竜巻は、瞬く間に呂斎達を飲みこむと、辺り一帯を無人と化してしまったのだった

 

風がやみ、白瑛と青舜がゆっくりと地に降りてくる

瞬間、白瑛の魔装が限界を超え解けていった

 

がくりと、力なく崩れ落ちる白瑛を青舜が支える様に肩を持った

 

「姫様…!」

 

だが、白瑛はキッと呂斎が居た筈の場所を見渡しながら

 

「呂斎を…っ!敵の数は減らした…!呂斎を捕えよ!!」

 

その時だった

 

「何の数を減らしたンですかな?」

 

聴こえる筈のない声が、崖の上から聴こえてきたのだ

ハッとして、白瑛が声のした方を見るとそこには―――――……

 

 

「…………!!?」

 

 

にやりと無傷で笑みを浮かべる呂斎と

その後ろに控え、煌帝国の軍旗を掲げ弓を構える無数の騎馬兵達の姿があったのだった――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白瑛の魔装シーンです

アニメの方にしましたww

 

ちなみに、技名の漢字は私が勝手にあてたものです あしからず

だって…本誌でこの技、出てないんですものー

 

夢主の方は、城に連れて行かれるみたいですよー

ささ、次へどうぞww 

 

2014/01/20