CRYSTAL GATE

  -The Goddess of Light-

 

 

 第二夜 ルシとマギ 14

 

 

 

  シュッ…

 

      ドスッ………!

 

 

それは、一瞬の出来事だった

突如背中に激痛が走り、視界がぶれるのと、身体が重くなるのは同時だった

“自分”が“射られた”と、認識するまでに数分を要した

 

視界が霞む……

身体が思う様に動かない……

 

ドサッ…と、身体が草原に倒れた時、ババは遠くの方でドルジ達の笑い声を聞いた様な気がした

 

ワシは……

こんな所で倒れる訳には――――……

 

そう思うのに、身体がいう事をきかない

もう、腕も足も動かす事が叶わず、視界すらぼやけてくる

 

まだ、ひ孫もやしゃごも見ていない

みなと共に、ワシも生き抜いてゆかねばならない……

 

身体が動かない

 

 トーヤやドルジ達の元に戻らなければ―――――………

 

 

意識が遠のく

 

 

 皆と、共に――――………

 

 

そのまま、ババの意識は深い闇の中へと沈んでいったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリスティアは、部屋に戻るなり静かに息を吐いた

あの後、紅炎は「また明日迎えに来る――――」

そう言って、帰って行った

 

結局、彼が何をしに来たのか分からないままだった

それに、エリスティアがルフを操る所を見ていたにも関わらず、その事に付いて追及してこなかった

 

どういう事なの……?

 

追及されなくて、ほっとする反面

あの場面を見ていたにも関わらず、追及がまったくないというのも、不気味だった

 

まるで、紅炎の中ではそれが当たり前の様だった

エリスティアが出来ても、なんらおかしい事はない――――

 

そうとも、取れた

 

だが、実際の所、普通に考えればそれはあり得ない

何故なら、紅炎はエリスティアがルシである事を知らない筈だ

 

なのに―――――……

 

それとも、気付いている……?

 

そこまで考えて、エリスティアは小さくかぶりを振った

 

そんな筈ないわ――――……

知っていたなら、最初に言ってくる筈だもの

 

だが、紅炎は言ってこなかった

それは、知らないという事に他ならない

 

第一、 知っていたとしたら何処でというのが疑問になる

それとも、あのチーシャンの領主すら知っていたぐらいだ、紅炎なら知っていてもおかしくないのかもしれない

 

なら、知っているなら何故何も言ってこないの……?

 

紅炎にとって、“ルシ”とはそこまで魅力的なものではないのだろうか……

考えても、答えなど分からなかった

 

エリスティアは、小さく息を吐くと寝台に寝そべった

 

それに――――……

 

先程の、紅炎は何だか様子がおかしかった

何かあったのだろうか……?

 

あの時の、紅炎の言葉が脳裏を過ぎる

 

 

『……お前は、俺の前から消える事は無いな…?』

 

 

消えるとはどういう意味だろうか……?

まるで、過去に何か消えた様な――――……

 

本当なら、あの場で「消えない」と答えるべきだったのかもしれない

だが、エリスティアにはどうしてもそう答えられなかった

 

私は、いずれシンドリアに帰るのよ……

いつまでも、ここにはいない―――――……

 

シンドバッドも心配しているし、一刻も早く戻りたいのが本音だ

だが、お世話になった蘭朱にまだ、恩返しが出来ていないし

第一、 迷宮(ダンジョン)で離れ離れになってしまったアラジンとアリババも気になる

 

どちらにせよ、直ぐにはシンドリアに帰れないのが現状だった

エリスティアは、ぎゅっと手を握り締めた

 

早く、戻りたい……

戻って、シンに触れて安心したい――――……

 

 

このままここにいては、きっと紅炎にも惹かれてしまう自分を押さえられなくなってしまう

 

違う

私は、シンが一番なのよ……

 

私は、シンドリア国 国王・シンドバッド王の“ルシ” エリスティア・H・アジーズ

 

シンドバッドを第一に考え、シンドバッドの為に存在する――――

それ以上でも、以下でもない

 

だから、たとえルフが惹かれようとも、紅炎に惹かれてはならない

ならないのよ―――――……

 

エリスティアは、もう一度、ぎゅっと拳を握りしめた

 

大丈夫

私は、間違っていない

 

我が主は、シンドバッド王ただ一人

他の主など必要ない

 

彼のルフに惹かれて、そしてなによりも彼自身に惹かれて、彼を契約者として選んだ

今更、新たな契約者となり得る存在が現れたとしても、それは覆らない

 

すべては、ルフの導き

 

先にシンドバッドに会ったのも、後に紅炎に会ったのも

すべては、ルフの導きだ

 

でも、どうして―――――……

どうして、運命は今更 新たな契約者となり得る存在と引き合わせたのだろうか

 

私にどうしろというの―――――……

 

考えども、答えなど見つからなかった

 

エリスティアが、この煌帝国に飛ばされたのがルフの導きなら

紅炎と出逢ったのも、必然だったというのだろうか

 

 

シンドバッドと同じく、出逢うべくして出逢った

もし、そうなのだとしたら―――――……?

 

 

 

私は―――――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄牙の民の、賑わいは尚も続いていた

 

ふと、一人の青年が辺りをきょろきょろしながら

 

「アレ、ババ様は?」

 

「知らん、トーヤ達が探しに行ったぞ?」

 

青年の言葉に、ドルジが笑いながらそう答えた

 

一方―――――

 

ババを探しに来た、トーヤとアラジンはババが向かったであろう草原の方を歩きながら探していた

 

「おばあちゃーん、どこー?」

 

アラジンが呼び掛けるが、返事はない

トーヤが、くすっと笑みを浮かべながら

 

「おばあちゃん、誰かが呼びに来るのを待っているかもね」

 

「フフ、そうだね」

 

そんな会話を繰り返しながら、楽しげに歩いて行く

その時だった

 

前方に、奇妙な塊を発見した

 

思わず、二人して顔を見合す

おそるおそる近づいてい見るとそれは――――………

 

 

 

 

 

 

  「キャ―――――ッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

突然聴こえてきたトーヤの叫び声に、ドルジ達はハッとした

慌てて、トーヤ達が向かった方へ翔っていく

 

「トーヤ!!!」

 

そこで見たものは―――――……

 

「ドルジっ!!おばあちゃんが―――――!!!!」

 

背中を射られて血を吐いて動かなくなったババの姿だったのだ

 

「ババ様!!」

 

「酷い血、この矢は一体誰が………!?」

 

ドルジ達が駆け寄った時には、既にババの意識はなかった

背中から血がドクドクと流れ、瀕死の重傷だった

 

黄牙の皆にどよめきが走る

 

だが、ドルジだけは違った

ババの背に射られた矢を見た瞬間、顔色を変えた

 

その矢には、見覚えがあった

あの時、トーヤ達が攫われた時

あの時に、射られた矢

それと同じ矢羽をしていたのだ

 

 

それは、まぎれもなく煌帝国の矢だった

 

 

「まさか、あいつらが!?何処だ!!?」

 

辺りを見回すが、見晴らしの良い草原に、煌帝国の兵士の姿は見当たらなかった

 

「ババ様はまだ生きてる!!早く、村で手当てを!揺らさずに運んぶんだ!!」

 

「あ、ああ!」

 

その時だった、アラジンがピィ―――――と笛を吹いて“ウーゴくん”を出現させるのと、魔法とターバンを広げるのは同時だった

 

「僕が運ぶ!!飛べ!!魔法のターバン!!」

 

アラジンは、素早くババを魔法のターバンに乗せると、”ウーゴくん“で村に向かって全力疾走した

ババが苦しそうに、魔法のターバンの上で血を吐き出す

 

それが痛々しくて、とても見ていられなかった

 

一刻も早く治療をしなければ、ババは死んでしまう

それだけは、絶対に嫌だった

 

アラジンは全力で走った

走って、走って走った

 

ただ、ババを助けたい一心で

 

 

 

死なないで…おばあちゃん…………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――― 一方、煌帝国・駐屯地

 

明け方、駐屯地内は、騒然としていた

見張りの兵が白瑛の元に傷だらけの姿で運び込まれてきたのだ

 

「それは、本当ですか!?」

 

差し出されたそれを見た瞬間、白瑛はガタンと思わず立ち上がった

 

白瑛の前に差し出されたのは血だらけの一本の矢だった

それを持って来た兵が、頭を下げると

 

「はい、警備中に黄牙一族の急襲を受けた模様です」

 

「そんな…一体、何故……」

 

白瑛には、黄牙が自軍を急襲する理由がどうしても思いつかなかった

彼らが、戦いたがっている様には見えなかったからだ

 

だが、それを見た呂斎は違った

黄牙の矢をバキッとへし折ると

 

「だから、申し上げたでしょう!彼らは野蛮な異民族。話し合いなど無意味だと!最早、交渉など不要!一思いに殲滅すべきです!!」

 

だが、白瑛は首を縦には振らなかった

 

「……いいえ、私はあくまでも話し合うべきだと思います……。黄牙の村へ向かいます。本当に我が軍に矢を放ったのか、確かめなければなりません」

 

「な……っ」

 

白瑛の決断に、呂斎は言葉を失った

この姫は、こうまでされて未だに交渉などと甘い事を言っているのか…

 

呂斎には理解しがたい事だった

 

だが、白瑛はそんな呂斎を無視する様に青舜を連れると天幕を出ようとした

瞬間、呂斎がバンッと机を大きく叩いた

 

 

「勝手は許しませんぞ!!!」

 

 

白瑛が、その動きを止め呂斎を見る

呂斎は、まるで白瑛を見下すかのように

 

 

「貴女は、姫君とは言え前皇帝の娘。今の貴女の将軍の地位は、現皇帝陛下のご慈悲で与えられたもの」

 

「……………」

 

 

ぴくりと、微かに白瑛の眉が動いた

だが、呂斎はそれに気づきながらも、まるで見下すかのように

 

「そして、私は陛下より貴女の監視(・・)を任されている。これ以上将軍の勝手な行動は見逃せませンぞ……」

 

だが、白瑛は一歩も退かなかった

真っ直ぐに、呂斎を見据え

 

「わかりました。……ならば、貴方の監視すべき将軍(・・・・・・・)としてではなく、私個人(・・・)として交渉に向かいます」

 

その言葉に、呂斎は呆れた様に溜息を付いた

 

「白瑛殿」

 

だが、やはり白瑛は一歩も退かなかった

そのまま踵を返すと

 

「……私の父は、侵略した国の敗残兵に暗殺され……いえ、復讐されました。武力による一時の支配はいずれ大きな復讐を招く…真に人の心をつかむもの…それは、武力ではなく崇高な理想と志のはずよ!」

 

「………………」

 

白瑛の言葉に、呂斎はハッと息を吐いた

 

「ならば、最早止めませんが…留守中の軍の指揮権は、どうなさいます?私が一時的に預かる…それで、よいですかな?」

 

「…………………」

 

 

白瑛は呂斎を睨んだ

それから、小さく息を吐いた後

 

 

「やむを得ません。いきますよ、青舜」

 

 

「はっ!」

 

 

それだけ言うと、白瑛はバサッと天幕のそとへ青舜をともなって出て行った

 

 

その後ろで、呂斎がニヤリ…と笑みを浮かべた事には気付かずに―――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――朝

 

「エリス、エリス!!」

 

エリスティアがいつもの薬の準備をしていた時、バタバタと蘭朱が部屋に翔って来た

ただならない、蘭朱の様子に一瞬 蘭朱の母の容体が悪化したのかと思い、息を飲む

 

だが――――――

 

「今日も来た――――――!」

 

「え?」

 

来た?

 

一瞬、何が……?

と首を傾げた瞬間、突如蘭朱の後ろから声が聴こえてきた

 

「エリス」

 

「え……炎!?」

 

そこには、いつの間にか紅炎が居たのだ

ぎょっとしたのは蘭朱だけではない、エリスティアもだ

 

エリスティアは慌てて、身に付けている衣を見た

まだ、夜着を着たままでショールを羽織っているだけだ

 

慌ててショールで夜着を隠すと、後ろを向いた

 

「ど、どうして炎がここまで――――」

 

「入ってきているのか」と、問う前に、紅炎は蘭朱を押しのけるとそのまま室内に入って来た

ぎょっとしたのは、ほかならぬエリスティアだった

 

慌てて紅炎が近づくのを手で制すと

 

「き、着替えるから早く出て行って!!」

 

その言葉に、一瞬紅炎がその柘榴石の瞳を瞬かせた

そして、何事も無かったかのように

 

「……その姿なら、昨夜も見たが…?」

 

そう言って、ぐいっとエリスティアを自分の方を向かせる

力で敵わないエリスティアが半強制的に紅炎の方に向けさせられてしまう

 

だが、昨夜と今(朝)では、状況が違う

エリスティアは顔を真っ赤にして、尚もショールで夜着を隠した

 

「き、着替えたいの……だから――――」

 

「…俺は気にせん」

 

「私が気にするの!!」

 

すると、紅炎はエリスティアのストロベリーブロンドの髪をひと房すくうと

 

「……俺は、どんな姿お前でも愛しいと思うが」

 

そう言って、その髪に口付けた

それを見ていた、蘭朱が「キャー」と奇声を発したのは言うまでもない

 

された本人は、顔を真っ赤にさせて口をぱくぱくさせていた

それを見た紅炎は、ふっと笑みを浮かべ

 

「……初めて出逢った時と同じ反応だな」

 

 

 

 

 

「~~~~~~~っ、いいから出て行って!!」

 

 

 

 

 

 

もう、頭がパニックになりそうになりながら、エリスティアはぐいっと紅炎と蘭朱を部屋の外に押しやっ

そのまま思いっきりバタンッ!と扉を閉める

 

そして、その場にずるずるとへたり込んだ

恥ずかしさで、顔から火が出そうだ

 

確かに、昨夜も夜着姿は見られているが、あの時とは状況が違う

朝の、しかも寝起きの姿を見られるなんて……っ

 

シン以外に、この姿をさらすなんて……

私の、馬鹿……!

 

何故、先に着替えなかったのか

それが、今となっては悔やまれる

 

シンドバッドとは共に寝ていたのもあり、夜着姿など見られ慣れているが…

他の人は、違う

 

見られた恥ずかしさで一杯だった

 

それも、よりにもよって炎だなんて……っ

 

 

一番、見られたくない相手に見られたショックで、とても直ぐには立ち直れそうにはなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅炎、乱入www

着替える前は、ヤメテ――――――!!!(笑)

 

一方、アラジンの方はどんどん凄い事になってきてます

のほほん、のんびり夢主サイドとは大違いだなww

 

2013/12/24