CRYSTAL GATE

  -The Goddess of Light-

 

 

 第二夜 ルシとマギ 13

 

 

 

「え……炎……」

 

そこに、居る筈のない紅炎の姿を見て、思わずエリスティアは息を飲んだ

どうしてというよりも、何よりも“見られた”

 

それが、真っ先に頭に中に浮んだ

 

ど、どうしよう

 

流石に今のを問い詰められたらいい訳が出来ない

紅炎は複数迷宮攻略者だ

きっと、彼の瞳にはルフは見えている

 

そのルフを操る様に何処かへ飛ばしていたなど――――

 

普通の人間には出来ない芸当だ

それこそ、”マギ“や”ルシ“もしくは、高位の魔術師でなければ無理な話である

そこを追及されたら、逃れられない

 

エリスティアは、戸惑った様に視線を泳がすと、一歩後ろへ下がった

瞬間、何かにつまずき、体制がぐらりと傾く

 

「きゃっ……」

 

「エリス!」

 

倒れる―――――

そう思った瞬間、紅炎の逞しい腕が伸びてきたかと思うと、あっという間にエリスティアを抱きとめた

 

何とか、倒れるのを免れてほっと、エリスティアは息を吐いた

 

「あ、ありがとう…炎……」

 

「……いや」

 

その時だった、不意に紅炎がエリスティアの腕を掴んだかと思うと、袖をまくり上げた

ぎょっとしたのは、エリスティアだ

 

「………あの、……炎?」

 

続けざまに、顎を掴んで横を向けさせられる

まるで、何かを確かめる様に―――――

 

一瞬、紅炎の行動の意図が読めなかったが

足に手が伸びた瞬間、はっと気付いた

 

瞬間、慌ててエリスティアが口を開く

 

「あ、あの、何処もなんともないから……っ」

 

怪我を見てくれているのだと分かり、エリスティアがそう口にすると、紅炎は一瞬だけ大きくその柘榴石の瞳を瞬かせた後、ほっとした様に柔らかく微笑んだ

 

「………そうか」

 

「………………っ」

 

その瞳が余りにも優しげだった為、エリスティアの心臓が大きく跳ねた

瞬間、かぁ…と、ほのかに頬が桜色に染まっていく

 

なんだか顔上げているのが恥ずかしくなり、思わず俯いてしまう

 

やだ……こんな事で赤くなるなんて……

 

何も知らない少女じゃあるまいし

一体、自分は何をしているのだろうと、思ってしまう

 

でも、それぐらい紅炎に微笑まれると、心臓が早鐘に様に鳴り響くのだ

 

「エリス?」

 

様子のおかしいエリスティアを心配する様に、紅炎が名を呼んだ

 

「あ…………」

 

そのまま、エリスティアの反応をまたずについっと顎を持ち上げられる

瞬間、紅炎の綺麗な柘榴石の瞳と目が合った

 

「……どうした?」

 

「あ…う、ううん…なんでも………」

 

「ない――――」と言おうとした瞬間、ふわりと抱きしめられた

驚いたのは、エリスティアだ

 

「あ、あの……っ、炎っ!!」

 

慌てて逃れようと、身体をよじる

だが、腰をがっちり掴まれていて、びくともしない

それどころか、更に強く抱きしめられた

 

普通ではないその様子に、エリスティアが首を傾げる

 

「炎……?」

 

エリスティアがそう呼ぶと、紅炎がぴくりと肩を震わせた

 

「……お前は、俺の前から消える事は無いな…?」

 

「え………?」

 

一瞬、何を問われているのか分からず、エリスティアが戸惑いの色を見せる

 

なに……?

 

”消える“とはどういう事を指しているのだろうか

 

だが――――

どういう意味にせよ、エリスティアには“消えない”とは言えなかった

 

私は、いずれはこの国を出る身

そうすれば、炎とはもう――――――

 

だが、それをここで告げてしまうのは何だが酷な気がして、言い出せなかった

いつかは言わなければいけない事だと分かってはいるが、今は言ってはいけない気がした

 

エリスティアは、そっと紅炎の背に手を回すと小さな声で

 

「今、私はここにいるわ…それじゃぁ、駄目かしら……?」

 

その言葉に、紅炎「ああ…」と小さく頷くと、そっとエリスティアの髪に口付けた

 

「今はそれでいい―――――」

 

 

 

“今は”

 

 

 

その言葉が、引っかかるがそれ以上追及しては、もう二度と戻れない領域に踏み込んでしまいそうな気がして、聞く事は出来なかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、教えてよ。”マギ“ってなんだい?僕は、自分が何者かを探している途中なんだ!!」

 

「…………………」

 

ババは一度だけその瞳を瞬かせた後

 

「ええよォ。では、1つお主に昔話をしてやろう」

 

「昔話?」

 

「そう、黄牙の村に残る不思議な伝説さ。それはな、こんなお話しじゃよ……」

 

 

そう言って、ババはゆっくりと語り始めた

 

 

 

 

そのむかし

遙か太古の昔

 

この世にまだ、「国」が無かった頃

人々は、世界の脅威に立ち向かう術を持たず、苦しんでいたという

 

しかし、そこに一人のふしぎな青年が現れたのだ

 

彼は、魔法の杖で天災を打ち消しました

そして、おどろき感謝する人々に告げたのです

 

『人間よ、国を作りなさい。か弱い者たちは、団結し支え合わねば生きられん。さすれば、平穏な毎日はおとずれよう』

 

人々がうなずき、同意すると、青年はまた杖を一振りした

 

すると………

地中から、大きな大きな塔が現れました

 

青年は言いました

 

『王を目指す者よ、この中に入りなさい。待ち受ける試練を乗り越えれば王たる力を得られよう…』

 

沢山の人々が塔へ入って行き、やがて、一人の少年が帰ってきました

たくさんの財宝と、ふしぎな力をたずさえて

 

少年は、王となり大きな国を築き、人々に平穏な日々が訪れました

 

人々は、自らを安住へと導いてくれた“不思議な青年”を尊敬を込めてこう呼んでいたそうです……

 

 

    “マギ”と……

 

 

 

 

 

「“マギ”………」

 

アラジンは、息を飲んだ

 

「そう、それが“マギ“……そして、その時作られた大きな国こそ、我らが祖国、大黄牙帝国と言われておるんじゃ……」

 

そう言って、ババはにっこり微笑んだ

 

「………そっか、それが“マギ“かぁ……」

 

なんだか、分かった様な 分からなかった様な、不思議な感覚だった

あまりにも、途方もない話過ぎてアラジンには“それがマギ”と呼ばれるものだと、理解するには少し難し過ぎた

 

アラジンは、膝を抱えると小さく蹲った

 

結局の所、自分が何なのか、“マギ”とはなんなのか

分からないままだった

 

その時だった、ふとババが口を開いた

 

「……ときに、アラジン。お主は自分が何者かと言ったが…今は、“ババの子供“である、”アラジン“じゃよ」

 

「…え………」

 

一瞬、アラジンは何を言われているのか分からなかった

ババの唐突な言葉に、大きく目を見開く

 

だが、構わずババは続けた

 

「友だちはおらんのか?」

 

その言葉に、アラジンは今度こそきちんと反応した

小さく首を横に振り、笑みを作る

 

「ううん、いるよ…ウーゴくんと、アリババくん。後、エリスおねえさん!」

 

その言葉に、ババがこくりと頷く様に笑みを浮かべて

 

「ならばお主は、“ウーゴとアリババとエリスの友だち”のアラジンじゃろ?」

 

「……あ………」

 

言われて、アラジンはまだ理解出来ないという風に、目を瞬かせた

すると、ババはほっほっほと笑みを浮かべて

 

「おかしいのォ~ババは、お主が何者かこんなに知っておったよ?」

 

「…………………」

 

ババの子で

“ウーゴくん”と、アリババとエリスティアの友だちの“アラジン”

 

それが、今の僕…でいいんだ……

 

そう思った瞬間、次第にアラジンの顔に笑みが浮かんできた

 

嬉しいと

そう感じる心が、アラジンの中に生まれてきた

 

アラジンは、満面の笑みを浮かべると大きく頷いた

 

 

「うん!ありがとう、おばあちゃん!」

 

 

それでいいんだ

そう思ったら、自然と前を向いて歩けそうな気がした

 

僕は僕

おばあちゃんの子供で、ウーゴくんとアリババくんとエリスおねえさんの友だちの僕

 

 

それでいいんだ

 

 

自分が何者何かと不安に思うことはない

そう思うだけで、不思議と自信が湧いてくるような気がした

 

「あのね、おばあちゃん」

 

すくっと立ち上がると、アラジンは真っ直ぐにババを見据えて

 

「僕は、さっき煌帝国のお姫様に会って殺し合わない約束をしたんだ」

 

その言葉に、ババが大きく目を見開く

 

「だから、おばあちゃんが心配しているような戦争は起こらないよ。大丈夫」

 

「………!?お主は…本当に、一体……?」

 

その時だった

アラジンが遠くの方を指さし

 

「ホラ!みんなが、帰って来た」

 

そう指差した方角に、砂ほこりと馬の蹄の男が聴こえてきた

そして、そこにいたのは―――

 

 

 

「ババ様―――――!全員、無事、です!敵も、一人も殺さず助け出しました!!」

 

 

 

そこに居たのは、トーヤ達を助け出した、ドルジ達の姿だったのだ

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

「あの時……」

 

トーヤの事で、頭が真っ白になり

今にも敵兵を斬り殺しそうになった時―――――

 

「ババ様の言葉を思い出したんだ。“敵兵を殺せば戦争にになる”そうしたら、みんなで暮らせはしない…そんなの、嫌だったから……それに―――――」

 

あの瞬間、不思議な感覚に囚われた

 

温かい様な、大きな手で包み込まれる様な不思議な感覚――――

あれは、一体なんだったのか……

 

瞬間、アラジンははっとした

ドルジの回りに宿る、ルフ達に

 

そう、彼らの回りに無数の白いルフ達がピイピイと鳴きながら飛んでいたのだ

 

そっか…君たちも止めてくれたんだね……

そう思うと、自然と笑みが浮かんできた

 

「だから………」

 

そう言って、ドルジとトーヤが互いを見合わせる

瞬間――――

 

「立派じゃぞ、ドルジ!」

 

「いてぇよ、ババ様!」

 

そう言って、バシイッとババがドルジの尻を叩いた

その様子に、周りからどっと笑いが溢れだす

 

それからババは、一度だけ目を瞬かせた後

 

「我々は、帝国に降ろう」

 

はっと、ドルジ達がババを見る

だが、ババは真っ直ぐにドルジ達を見据え

 

「一族の誇りを守る戦で……数えきれぬ同胞が死んだ。どんな理由であれ、戦を起こせば人は死ぬ…我々が守るべきものはなんだ?国か?誇りか?いや、違う!!」

 

 

 

 

「それは、我々の命じゃ!!何があっても戦争してはいかん!!一族全員で今を生き抜く為の心の戦をせよ!!」

 

 

 

 

 

「「「「…………っ!!はいっ!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ…あったかいねぇ!」

 

皆で、火を囲って談話する

幸せな、幸せなひと時――――

 

アラジンも、“家族”として、みなと一緒にその輪に入っていた

 

「トーヤ、これ……」

 

ドルジが、拾ったトーヤの髪飾りを彼女に渡す

それは、トーヤにとって大事なものだった

 

トーヤは嬉しそうに顔を綻ばせると

 

「ありがとう、ドルジ」

 

「いや……」

 

照れた様にそう言うドルジに、トーヤがそっと寄り掛かる

瞬間、ドキーンとドルジの心臓が飛び出さんばかりに跳ねた

 

「ドルジ、助けてくれてありがとう…かっこよかったよ…」

 

「………………っ」

 

ドクドクドクドク

と、ドルジの心臓がはち切れんばかりに鳴り響く目の前で、ババがにたりと笑みを浮かべて一言

 

「男になれよ、ドルジ」

 

「か、顔がやらしいぞ、ババ様!!」

 

あまりにも、にたり顔で言ってくるババに思わずドルジが顔を真っ赤にして攻撃するが――――

そこば、ババ

すかさず、華麗に避けると

 

「とっとと、ワシのひ孫をこさえんかいドルジ」

 

そう言って、ホッホッホと笑いながら、更に避けていく

その様子を見ていた、皆がまたどっと笑い出した

 

一通り、攻撃を避けきるとババはするりと皆の間をぬって、一人草原へと向かった

 

遠くで、ドルジが「どこへ行くんだよ!」と声を上げてくる

その声に、答える様にババは大きな声で

 

「便所じゃ、便所!少しは、一人にしとくれ!」

 

そう答えると、またドルジをネタにどっと皆から笑いが出た

その様子を遠くから眺めながらババは静かに、その場を後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

草原を歩きながら、ババは静かに空を眺めた

 

ワシは…何を迷っておったんじゃろう……

 

国を作り、覇権を争うのは、過去の皇帝たちの使命だったのじゃ

今のワシの役目は、ただ、ただ、家族を生かす事……

 

そうじゃ

ワシの愛しい子供らの、ひ孫、やしゃごの顔を見るまでは…

みなと共に、ワシも生き抜いてゆかねばのう……

 

 

そう、皆と共に―――――……

 

 

  シュッ…

 

      ドスッ………!

 

 

 

    みなと――――共に―――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おばあちゃん…まだかなぁ………」

 

そう言いながら、アラジンは幸せそうに微笑んだ

 

大好きな、ババが戻るのを今か今かと待ちながら―――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああああ…ついに、ババ様が…Σ(´д`ノ)ノ

しかし、音だけで分かるかな?(笑)

 

とりあえず、原作とアニメ見てて突っ込みが…

アラジン…白瑛と会ったの昨日ちゃうよ?さっきじゃん!!

と、思ったのは私だけでは無い筈!! 

 

2013/12/17